マラウイ共和国の初等・中等学校におけるインクルーシブ教育の実践
―地域の障害者運動家が与える影響―
日下部美佳(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科博士課程)
■キーワード: インクルーシブ教育、マラウイ、障害者運動家、ロールモデル
■報告要旨
1.はじめに
障害者は、世界の全人口の15%と言われており、その80%が途上国で生活し、その大半が最貧困層である(UNDP 2018)。学校教育の機会提供は貧困からの脱却の鍵とされているが、サブサハラ・アフリカ(以下、アフリカ)において、大多数の障害児が依然として不就学の状況である(Filmer 2008)。
2006年に国連で採択された「障害者の権利に関する条約」の第24条では、障害児者が非障害児者と地域で共に学ぶ仕組みとして「インクルーシブ教育システム」と「合理的配慮」という概念が導入された。Booth(1999, p.164)によれば、インクルーシブ教育1とは、「学習者の参加を増やし、近隣の主流な学習センターのカリキュラム、文化、コミュニティからの排除を減らすプロセス」と述べている。したがって、インクルーシブ教育は、社会参加を増やすために、教育システム、価値観、カリキュラム、教育法、態度など、マクロ・ミクロレベルでの全体的な変化が必要であり、障害児に対する差別を減らし、自尊心を高めることに貢献するとされる(Miles & Singal 2010)。
障害学分野におけるインクルーシブ教育の先行研究では、障害児者の声を重視することは、障害児者を取りまく社会的障壁(差別や物理・情報アクセスの制限等)が軽減に繋がり(Vlachou & Papananou 2015)、障害者運動家が学校教育の現場に参画することで、「障害児者の合理的配慮の調整に関する代弁者」としてインクルーシブ教育の実践に影響を与えることが指摘されている(Stubbs 2008)。しかし、障害児の声や障害者運動家がアフリカのインクルーシブ教育研究で取り上げられることは少ない。その理由として、地域の障害者運動家や障害児者の取り組みを着目せずにインクルーシブ教育における教員や学校の役割を議論する傾向にある。その結果、アフリカの障害者運動家や障害児者の視点によるインクルーシブ教育実践の事例分析は少なく、障害者運動家の参画の有無が、インクルーシブ教育の実践にどのような影響を与えているかは明らかではない。
本研究の対象国である南部アフリカのマラウイ共和国(以下、マラウイ)は、アフリカ南東部に位置する内陸国で、人口の約8割が農村部に居住している。社会経済的には、貧困は都市部よりも農村部でより多く見られ(NSO 2012)、マラウイの人口の約70%以上が国際的な貧困ライン以下で生活している(UNDP 2016)。
マラウイ政府は2017年にインクルーシブ教育の国家戦略を策定し、初等や中等学校においてインクルーシブ教育を導入しているが、インクルーシブ教育の実践を見る現地調査では教員の実践に着目する研究が殆どであり(川口2016)、障害者運動家や障害児者の視点や取り組みを踏まえた分析がなされていない。
そのため、本研究では、マラウイの障害者運動家や障害のある生徒がインクルーシブ教育の実践にどのような影響を与えているかを明らかにすることを目的とする。
2. マラウイにおけるインクルーシブ教育の概況
(1)障害者の概況とインクルーシブ教育の導入
マラウイの2008年の国勢調査では、障害者人口は約3.8%と推定され(NSO, 2010)、機能障害種別では、①見ることに困難がある人は26.5%、②歩行に困難がある人は22%、③その他は29%、④聞くことに困難がある人は16.4%、⑤話すことに困難がある人は6.1%となっている。障害率は、富裕層と比較して最貧困層で高くなっており(Mitra et al. 2013)、その背景に、障害児者は様々な障壁により教育から排除されることが挙げられている(Lynch et al. 2014)。
2016年のマラウイの教育統計(MoEST 2016)によると、初等教育では、全就学者数の約2.4%が障害のある生徒となっている。機能障害別では、学習障害(42.6%)、次いで弱視(22.7%)、難聴(22.0%)、肢体不自由(9.1%)、ろう(3.1%)、全盲(0.4%)となっている。中等教育では、総生徒数の約1.5%が障害のある生徒であり、そのうち約46%が弱視で、20%以上が難聴である。
マラウイ政府は2009年に障害者権利条約に批准しており、2012年の障害法(Disability Act)では、障害のある子どもの教育を受ける権利を促進し、インクルーシブな教育システムの実施の保障を明記している(Chilemba 2014)。また教育分野の施策として、国家インクルーシブ教育戦略(National Inclusive Education Strategy:NIES) (2017)が策定された。
(2)学校教育制度と障害児教育の変遷
マラウイの教育制度は、初等教育(Standard 1-8)を8年間、中等教育(Form 1-4)を4年間、そして大学レベルの教育を4年間という「8-4-4」の構造になっている(World Bank 2010)。初等教育の終了時に実施するPSLCE(Primary School Leaving Certificate Examination)の成績に基づいて、公立の中等学校への入学が決定される。初等教育は無償であるが、中等学校は学費の支払いがあり入学定員は限られており、初等教育から中等教育への移行率は35%程度に留まっている(MoEST 2016)。
マラウイの障害児教育は、1950年代に宣教師による視覚障害児の教育から始まり、その後、聴覚障害児の学校が設立された(Phiri, 2015)。また1968年に、カトリック教会のもと、聴覚障害や視覚障害など特別支援教育の専門性を持った特別支援教員の養成を目的として、モントフォート特別支援教育カレッジが設立された(Itimu & Kopetz 2008)。インクルーシブ教育は、2002年にドナーやNGOの支援を受けて、コミュニティ・ベース・リハビリテーション(CBR)プログラムの中で開始されたが(Eggen et al. 2009)、対象地域は限られていた(Munthali 2011)。政府は、2005年に教育省内に特別支援局を設立し、特別支援教員の養成を強化した。初等教育では8つの特別支援学校(盲学校3校、ろう学校5校)に加え(Artiles et al. 2015)、政府は、普通学校に併設する特別支援学級(以下、リソース・センター)を用いて、障害児の地域の普通学校への「統合」を促進した。その結果、初等学校では100か所、中等学校では22か所においてリソース・センターが設置された(Munthali 2011)。
また、初等教育では、①特別支援教員が常駐する普通学校の特別支援学級(リソース・センター)での支援と、②特別支援教員が普通学校を巡回し、1 人の教員が最大で15 校を担当する方法(巡回教育型)がある。中等教育では、障害のある子供たちに対するアファーマティブ・アクションが導入され、PSLCEの合格点を満たせば、中等学校への入学が許可される(Banks et al. 2015)。これらの生徒は、政府によってリソース・センターと特別支援教員が配置されている指定の普通学校で学ぶこととなる。政府はリソース・センターが、インクルーシブ教育のモデルとなり、普通学校においてもインクルーシブ教育が効果的に実施されることを目指している(MoEST, 2017)。
3. 調査の対象と方法
(1)調査対象
マラウイ共和国の中部に位置する首都リロングウェとムチンジ県、南部のゾンバ県を調査地として、同地区の初等学校6校と中等学校2校を対象に、2017年6月6日から25日までの約3週間のフィールド調査を実施した(詳細は表1.学校別調査概要表のとおり)。本調査では質的ケーススタディの手法を採用し、マラウイで導入されたインクルーシブ教育プログラムを「ケース」とした。またサンプリング方法としては、意図的サンプリングを採用した(Patton 1990)。
(すべての表を含むワードファイルをダウンロードする)
(2)データ収集方法と分析方法
インタビュー(半構造化インタビュー、ライフストーリー・インタビュー)と参与観察(教室での授業、家庭訪問、教員研修への参加)によってデータを収集した。インタビュー対象者は計44名で、内訳は、障害のある生徒8名、障害のある成人6名、障害のない生徒3名、障害のある生徒の家族や親族4名、障害者団体や国際NGO関係者2名、政府関係者6名、教員13名、その他2名である(詳細は表2.のインタビュー対象者の概要表と、表2-1から2-6の対象者の個票のとおり)。
参与観察は、2回の授業と、4回の家庭訪問、1回のインクルーシブ教育の教員研修の観察を行った。本研究ではテーマ分析法を用いていており、質的データはテーマ別に分析した(Stake 1995)。
(3)倫理的配慮
本研究はリーズ大学大学院倫理委員会の承認を得て行い、参加者からインフォームド・コンセントを得た。すべてのデータは、参加者の匿名性と守秘性を確保した。
4.調査結果
(1) 「インクルーシブ教育」の解釈
教員を含むほとんどの参加者は、インクルーシブ教育とは、「障害のある子どもたちが自分の地域の普通学校に参加する機会を増やすこと」であると認識していた。その中でも、障害のある生徒(DS2、DS3、DS4、DS6、DS7、DS8)は、学校生活で最も重要なことの一つは、仲間との社会的交流(例:一緒に登校する、一緒にサッカーをする)であると主張していた。また障害者運動家(DA6)は次のように述べている。
「CWD(障がいのある子ども)にとって、社会的結束力を高めることは重要である。CWDは他の人(障害のない子ども)と一緒に遊び、家や(地域)コミュニティで友情を育むことができる。彼らは地域の子供たちと家で一緒に遊ぶことに慣れており、これは、学校でも同じである。マラウイの社会では社会的結束力が強いので、障害児の親と非障害児の親は交流することが重要であり、インクルーシブ教育は一方通行のアプローチではない。」
他方で、学校関係者の中には、障害のある生徒の「場」の参加のみに焦点を置いた統合教育(integration)として理解している者もいた。また、国際的なドナーからの資金援助を受けてインクルーシブ教育プロジェクトに取り組んでいるNGO関係者(DPO1、INGO1)の中には、新しい特別学校を建設するよりも、地域の普通学校でインクルーシブ教育を実践する方が高い費用対効果が得られる側面を注視し、「場」の提供の議論に終始する者もいた。
全体として多くの参加者が、インクルーシブ教育を障害児の参加拡大や学習者間の社会的結束力の育成と強調していたが、障害者運動家は障害児の親と非障害児の親の交流を含む関係性の構築や、障害のある生徒は(地域)コミュニティでの友情を重視しており、インクルーシブ教育を学校内や学習者間の取組みを超えて、多様な関係性の中で捉えていることが認識できた。
(2)学校現場におけるインクルーシブ教育の推進する取り組みとそれを阻む障壁
① 障害児に対する否定的な態度
参加者は、障害児やその家族に対する否定的な態度が、マラウイにおけるインクルーシブ教育を妨げる主な障壁になっていると報告した。ある特別支援教員のST(LD)4は、通常学級の教員が一部の障害児を「厄介者」として扱い、学校への通学を禁じたりすることがあると述べた。
参与観察を行った初等学校教員対象のインクルーシブ教育研修においては、障害者運動家(DA6)がインクルーシブ教育のアドバイザーとして参加していた。DA6は、英語と現地語(チチェワ語)の両方で障害児者に対する蔑視的で否定的な語彙について説明し、それらの語彙は学校などで使用するべきではないと強調して指導していたが、教員の隠れた価値観や態度を変えることは容易ではないことを述べていた。
「マラウイの教員の障害児者に対する態度の変容は見られておらず、彼らの否定的な態度はまだ変わっていない。(…)私たちは、さまざまなアプローチやその他の要因に基づいて、これらの否定的な態度を批判して変える必要がある。実際は肯定的な態度を示す教員もいるが、それらは哀れみに基づくものであり、慈善的なアプローチから来ていると言える。」
障害のある生徒からは、非障害の生徒からの差別やいじめの経験の語りもあった。視覚障害のあるDS7は、初等教育を繰り返し留年しているため、毎年度、新しい通常学級で新しい仲間と一緒に学ぶ中で、いじめがあったため、リソース・ルームの特別支援教員にその都度相談して解決した経験を述べている。
「新しいクラスメート、特に男の子は、私が弱視であることを理由に私を馬鹿にする。私はよく先生に報告して、その男の子たちを叱ってもらった。新しい学級でクラスメート(障害のない仲間)との間に問題が生じた場合、リソース・ルームに行くことで、専門の先生に相談することができた。」
聴覚障害のあるDS5は、初等教育のろう学校を卒業後、中等教育では普通学校で学んでおり、健聴の仲間との関係性について悩んでいた。
「私が初等教育のろう学校で学んでいたときは、皆お互いに手話でコミュニケーションをとることができて、たくさんの友達がいた。しかし今は友達が少ない。彼ら(健聴の仲間)の多くは手話を知らないし、友好的ではない。」
マラウイでは、特別支援教育の教員になるために、モントフォート特別支援カレッジの3つの専攻分野(聴覚障害、視覚障害、学習障害)のうち、1つの専攻分野のみ選択である。一方で卒業後は、学校にいるさまざまな障害のある子どもたちの教育をほぼ一人でカバーしなければならないため、障害のある生徒は教師から十分な支援を受けることが出来ない状況である。このような状況において、ある特別支援教員(ST(HI)5)は、障害のない学生を介したピア・チュートリングやピア・サポートを行う取り組みを行っている。障害のある学生と障害のない学生は、ピア・チューターやピア・サポーター間での友情には満足しているとコメントがあったが、他方、障害のない生徒(NS2)はピア・チュートリングにおける困難を以下のように述べている。
「私は手話に興味を持ち、彼らの友人になりたいと思い、学校での手話通訳に応募した。手話通訳の先輩や耳の聞こえない友人たちが、新しい手話を教えてくれた。ただ、授業内に数学に関する新しい内容を手話で説明するのは、私自身、数学が苦手なのでとても大変。新しい内容を自分で理解しないと、授業の内容を正しく解釈して手話で説明することができない。」
学校現場においてインクルーシブ教育推進の取組みはされているものの、依然としてそれを阻む障壁や障害児に対する否定的な態度は根強く残っている。
② 障害者運動家の働きかけとロールモデルとしての役割
ほとんどの参加者は、学校内外のアクセスしにくい施設が障壁になっていると指摘していた。ある特別支援教員(ST(HI)5)は以下のように述べている。
「衛生設備を含めたアクセス可能な学校施設は、特に女子にとって特に重要である。車いすを使っている生徒は、いつも友達2人に頼み、段差のあるトイレに連れて行ってもらっている状況。マラウイの多くの学校では、教室、寮、衛生設備が障害者に全くフレンドリーではない。」
国際的なドナーによって学校内に建設された学校施設は、障害フレンドリーを謳うものであったが、トイレにたどり着くまでに段差があり、かつ実際に肢体不自由の生徒が使用する車いすの横幅よりも狭く、またトイレ内も配慮されていないため、結局車いすを使っている生徒は友達2人に頼み、トイレまで連れて行ってもらう状況は変わらないという事例があった。他方、障害者運動家(DA6)を含む障害者団体からの協力があり、地元の資源を活用して低コストで建設された施設は、通路から教室までのスロープが設置され、トイレ内も手すりが配置されているなど、障害のある生徒が使用可能な学校設備となっていた(詳細は表3.学校施設別の特徴と写真を参照)。また障害者運動家が関わった学校では、追加のトイレの建設が行われており、それらの費用は国際ドナーからの資金提供からではなく、障害者運動家が関わったことで地域や学校関係者、親の意識が変わり、地域の人々の寄付やPTAの会費から資金を集めて建設されているとのことだった。
障害者運動家がインクルーシブ教育の実践現場に参画することは、関係者による障害児者に対する否定的な態度や偏見を改めさせ、かつ物理的アクセシビリティを改善するに留まらず、障害のある生徒の自尊心を高め、学習へのモチベーションを維持するために非常に重要であることが指摘されている(EHRC, 2015)。視覚障害のある職業訓練校の学生(DA1)は、以下のように述べている。
「障害者運動家でもあり、教育省に勤める高官は、全盲の方(=MO1)。彼は中等教育の普通学校で教鞭をとった経験があり、障害者団体の役員としても活躍していた。ラジオ番組で彼の名前と活動を知って以来、彼は私のロールモデルとなり、将来はこうなりたいと思うようになった」。
障害者運動家の存在は障害のある生徒の自尊心を高め、彼ら・彼女らのロールモデルとなることで、障害のある生徒の人生における希望の光となる側面が期待できる。
5.考察
インクルーシブ教育の実践に際し、障害者運動家の関与によって以下の影響があることが考察できた。
① 障害当事者としての価値や視点の提供
障害のある生徒と障害のない生徒の親同士の交流促進や、現地の事情を把握したうえで、現地で代替可能な資源を活用した具体的な改善、また障害や障害者に対する現地語での否定的な語彙使用の指摘や適切な語彙の提示など、障害者運動家からはインクルーシブ教育の実施に関する実践的な問題提起がなされた。そのようなコメントや視点は、特別支援を担当する教員からは見られなかった。むしろ、当事者ゆえのコメントや視点であることを踏まえると、インクルーシブ教育を実践するうえで、障害者運動家には障害のある生徒の声を代弁する機能を持っている。障害のない生徒や教員、関係者への啓発活動を通して、関係者間の対話を通じた現地で持続可能なインクルーシブ教育の実践は、新たなインクルーシブな地域社会をつくる試みのプロセスの一環と捉えることが出来るのではないだろうか。障害者運動家が関与して、現地の資源を活用して建設された低コストでかつ障害児者のニーズに沿った学校施設の改修・建設の事例は、新たなインクルーシブな地域社会をつくる試みともいえる。
現地の障害者運動家が関与する場合と関与しない場合では、明確な違いが観察できたが、一方で、現地の障害者運動家を一括りにして議論をすることは、インクルーシブ教育の持つ多様な側面を見落とすこととなる。今後は、障害者運動家が関与するインクルーシブ教育の実践事例の内容や特性に着目し、障害者運動家自身の考えや経験がインクルーシブ教育の実践にどのような影響を及ぼすのかも分析する必要がある。また現地の障害者運動家が、アフリカ域内や先進国の障害者運動家との交流や実践を通して、現地のインクルーシブ教育実践にどのような影響を及ぼすのか、時間の経過や個人の変化を踏まえたうえで、今後考察する必要がある。
② ポジティブなロールモデルの提示
障害者運動家がインクルーシブ教育の実践現場に参画することで、障害児者に対する意識の変容がみられ、かつ物理的アクセシビリティを改善する効果があることが分かったが、これらは障害のある生徒や障害のない生徒の「現状」の改善の側面が強い。アフリカのインクルーシブ教育の研究では、障壁を取り除いた先にある、障害のある生徒「個人」の目標や希望をどのように実現することが出来るかは議論が深められていない。また、ロールモデルとなる障害者運動家と障害のある生徒間の相互作用を通して、インクルーシブな地域社会をつくるプロセスとしてインクルーシブ教育をとらえることが出来るのか、今後さらなる分析をする必要がある。
【参考文献】
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注
1 原則として、インクルーシブ教育という概念の対象には、障害児だけでなく、すべての脆弱性の子どもが包含されている。しかし、本研究では、障害のある子どもや「特別な教育的ニーズを持つ」と分類された子どもへのインクルーシブ教育に焦点を当てる。
■質疑応答
※報告掲載次第、9月25日まで、本報告に対する質疑応答をここで行ないます。質問・意見ある人は2021jsds@gmail.comまでメールしてください。
①どの報告に対する質問か。
②氏名。所属等をここに記す場合はそちらも。
を記載してください。
報告者に知らせます→報告者は応答してください。いただいたものをここに貼りつけていきます(ただしハラスメントに相当すると判断される意見や質問は掲載しないことがあります)。
※質疑は基本障害学会の会員によるものとします。学会入会手続き中の人は可能です。
非常に興味深いテーマです。ご報告、大変ありがとうございます。
以下、質問です。
1.副題にある「地域の障害者活動家」の姿が今一つ、報告からは把握しづらい印象を持ちました。それは、「障害者運動家の働きかけとロールモデルとしての役割」の例でも、「障害者運動家でもあり、教育省に勤める高官は、全盲の方(=MO1)彼は中等教育の普通学校で教鞭をとった経験があり、障害者団体の役員としても活躍していた。ラジオ番組で彼の名前と活動を知って以来、彼は私のロールモデルとなり、将来はこうなりたいと思うようになった」とあるように、地域ではなく、メディアを通じた出会いだったためです。またロールモデルとしての位置づけも障害者活動家よりも、障害者として政府「高官」という位置づけが強いかもしれないと読みました。この二点について、いかがでしょうか。
2.「手話通訳士」と「手話通訳者」両方の記述がありますが、これは前者は資格があり、後者は資格がないということでしょうか。
3.これはご研究の範囲を超えているかもしれないので、もしお分かりになれば教えてください。多くの国で障害者教育は教育省ではなく、社会省が担当していますが、「政府は、2005年に教育省内に特別支援局を設立」とあるように、マラウイの場合は、当初から教育省が障害者教育も担当したのでしょうか。
よろしくお願いします。
長瀬修
立命館大学
〈2021.9.16 報告者から〉
長瀬修様
ご質問いただき、誠にありがとうございます。
頂いた質問に対して、以下の通りインラインにて回答させていただきます。
>1.副題にある「地域の障害者活動家」の姿が今一つ、報告からは把握しづらい印象を持ちました。それは、「障害者運動家の働きかけとロールモデルとしての役割」の例でも、「障害者運動家でもあり、教育省に勤める高官は、全盲の方(=MO1)彼は中等教育の普通学校で教鞭をとった経験があり、障害者団体の役員としても活躍していた。ラジオ番組で彼の名前と活動を知って以来、彼は私のロールモデルとなり、将来はこうなりたいと思うようになった」とあるように、地域ではなく、メディアを通じた出会いだったためです。またロールモデルとしての位置づけも障害者活動家よりも、障害者として政府「高官」という位置づけが強いかもしれないと読みました。この二点について、いかがでしょうか。
回答→
ご指摘ありがとうございます。ご指摘のとおり、報告で挙げた例がロールモデルとしての役割の箇所でも把握しにくかったのはおっしゃる通りです。
今般のケースはメディアを通じた出会いとなりますが、インタビューを通して、彼(DA1に該当)が同じ全盲のMO1をロールモデルとして強調した理由は、(紙面が限られているので記載できませんでしたが)MO1が大学に進学して教員免許を取得し、普通学校で障害のない生徒たちに「歴史」の教科を教えた経験を持つキャリアや、その後政府の「高官」となっても障害者のための活動を続けている姿に憧れを持っているように感じました。
そのため、必ずしも障害者として政府「高官」という位置づけが彼自身のロールモデルとなったとは感じませんでした。
また今般、副題で「地域の障害者活動家」という表現を使用しましたが、「地域」という定義やカバーする領域に関して十分に検討せずに使用しておりました。
海外等で活躍する「国際的な障害者活動家」ではなく、マラウイ社会において活躍する障害者活動家の意味合いで「地域の障害者活動家」という表現を安易に使用してしまいました。
今後、実情に添った適切な表現を見つけ出すように致します。
加えて、ロールモデルとしての「位置づけ」については、同じコミュニティーや地域内の身近にいるロールモデルと、メディアを通じた出会ったロールモデルとの比較(違い)に関しても分析するとともに、「障害者活動家」よりもむしろ政府内の高い役職という面への憧れかどうかに関しても、上記の彼(DA1)が語るロールモデルの意味や認識を明確にすることで、分析する必要性があるように感じております。
同時に、私自身が今後の課題として捉えていることは、上記の彼(DA1)が、(例えメディアを通じた出会いであっても)MO1というロールモデルを持ったことによって、彼(DA1)自身の人生への向き合い方や社会に対する考えがどのように変化してきたのか、そのプロセスをより深く分析できればと思っております。聞き取りにおいて、彼(DA1)が「将来、自分は地域開発に関わり、障害のある子どもたちや障害のある人々を勇気づけ、自分でもできるんだから君もできるよ、というメッセージを障害のある子どもたちや人々に送りたい」と語っていました。学生である彼が、同じ境遇の人びとを勇気づけたいと思いはじめる、そのプロセスに着目することは、障害のある人という立場から障害者活動家へ変わってゆくきっかけやステップがあるのではないかと思っております。
>2.「手話通訳士」と「手話通訳者」両方の記述がありますが、これは前者は資格があり、後者は資格がないということでしょうか。
回答→
両者の違いに関して説明不足があり、大変失礼しました。
前者の「手話通訳士」については、海外のドナー(主にノルウェー)からの技術支援や資金協力を得て、ろう者の当事者団体が主催する「手話通訳士コース」を修了した者(qualified sign language interpreter)となります。これらの「手話通訳士」は、報酬面が十分でなく、無報酬やボランティアベースでの活動が多いようです。本調査では、別添表2-5のNo.10であるSLI1が該当しますが、彼は「職業として手話通訳で生計を立てるのは厳しい」と話していました。
他方、後者の「手話通訳者」は、聴覚障害児が進学する通常の中等学校(寮付)において、聴覚障害児教育専門の特別支援教員の指導のもと、聴覚障害児へのピア・サポートを行うために、手話を習得した生徒・クラスメート(聴者)を指しています。手話を習得した生徒の数は調査で訪問したH校では8名程度でしたが、日常的に手話を使用し、クラスメートである聴覚障害のある生徒と手話でコミュニケーションをとります。また、聴覚障害のある生徒が体調不良になった際には一緒に病院に同行して通訳を行い、学校の朝礼や授業などにおいても手話通訳を行っています。手話を習得した生徒(手話通訳者)は実質的にはピア・チューターの役割を担っており、これらは無報酬でボランティアベースの活動となります。
>3.これはご研究の範囲を超えているかもしれないので、もしお分かりになれば教えてください。多くの国で障害者教育は教育省ではなく、社会省が担当していますが、「政府は、2005年に教育省内に特別支援局を設立」とあるように、マラウイの場合は、当初から教育省が障害者教育も担当したのでしょうか。
回答→
まずはじめに一点訂正させていただきます。「政府は、2005年に教育省内に特別支援局を設立」の部分は、正式には「特別支援教育局を設立」です。大変失礼しました。なお2005年以前は、教育省内において特別支援教育ユニットがありましたが、特別支援教育のシステムを強化するために、2005年に特別支援教育局として省内で格上げした経緯があります。そのうえで、上記3の質問に以下の通り回答させていただきます。
まずマラウイの障害児者教育に関して、主に以下の4つの流れとアプローチに沿って歴史的に発展してきたと理解しております。
① 欧米からのカトリック教会などによるアプローチ
モントフォート特別支援教育養成校(特別支援教員の養成校)は、1950年代にオランダのカトリック教会の宣教師によって設立されました。歴史的にはマラウイの障害児の学習環境の整備は、海外のミッショナリー、つまり教会の宣教活動によって導入・展開されてきた経緯があります。モントフォート特別支援教育養成校は、現在においても、高等教育機関として、マラウイの初等および中等学校における特別支援教員の養成および現職教員研修等を行っています。
② 北欧の当事者団体等の支援による現地の当事者団体等を介したCBRのアプローチ
1980年代半ば以降、マラウイ政府がその傘下のマラウイ障害者評議会(MACOHA)を通じて、UNDPやILOからの資金・技術支援を受けてCBRプログラムを開始しています。そして、2004年以降、ノルウェー障害者協会(The Norwegian Association of Disabled :NAD)は、アドバイザーをマラウイの当時の社会開発・障害者庁に派遣し、マラウイ障害者評議会(MACOHA)と協力してインクルーシブ教育の強化を目的としたCBRプログラムを実施しており、地域レベルにおいて障害児の教育に関する啓発活動や教員に対するセミナー等が実施されてきました。また、マラウイ障害者評議会(MACOHA)は、障害児者への車椅子の提供等の支援も行っています。
③ 教育省による障害児教育の普及と特別支援教員の養成
教育省は、各地に特別支援学校を建設し、特別支援教員の養成に関してはモントフォート特別支援教育養成校と協力をしてきました。2000年以降、教育省は特に初等教育分野で地域の通常校に障害児が就学するインクルーシブなアプローチを進めています。また障害のある学生の就学をサポートする就学支援(特に中等教育における授業料免除や奨学金支給)等を行っていますが、財政の問題もあり、それらの支援は限られています。
また教育省は、障害児教育やインクルーシブ教育に関わる政策立案やカリキュラム策定、そして進級試験における合理的配慮にかかる調整や提供などを担当しています。
④ 地方自治体(District Assembly)の社会福祉オフィスによる支援
地方自治体内にも障害児者を支援するプログラムがあり、担当のスタッフが配置されています。障害児者への奨学金支援、障害児のケアや障害児を養育する家族の支援、社会保障としての現金給付(最貧困層の障害者世帯等への支援)や当事者団体の支援等を行っていますが、財政は限られている状況です。
以上、主に4つの流れに沿ってマラウイの障害児者教育は歴史的に発展してきたと理解していますが、ご質問の「当初から教育省が障害者教育も担当したのでしょうか(当初から障害者教育を担当したのはどの機関か団体か?)」に関しての回答は、学校教育に限定すれば、特に①モントフォート特別支援教育養成校と③教育省と言えると思います。また地域レベルにおける障害児者教育や障害者の職業訓練の側面では、②社会開発・障害者庁や当事者団体によるCBRや、④の地方自治体が果たした役割は大きいと思います。
なお、補足の情報となりますが、ライフストーリーの聞き取り調査を通して感じたことは、障害児者やその家族は、学校に就学するなかで特別支援教員の指導を受ける機会もあり(①モントフォート特別支援教育養成校)、またCBRプログラム(②)に関わったり、地方自治体(District Assembly)の社会福祉オフィス(④)を訪問したりするなど、様々な繋がりを持ちながら必要な資源等にアクセスしていることが伺えました。
また重度の障害を持つ子どもは、地域の学校で就学を断られてしまうため、学校教育のサービスを受けることが出来ない事例もありました。重度の障害を持つ子どもの母親(DA4)は、同じ境遇のある重度の障害を持つ子どもや家族が集まりともに遊んだり学んだりする居場所作りを進めており、その居場所として各コミュニティーにあるCommunity-Based Childcare Centre(通称CBCC。就学前教育等を行う小さな集会場)を活用していました。重度の障害を持つ子どもの母親(DA4)は当事者団体を設立しており、重度の障害を持つ子どもや家族が利用できる施設の建設を地方自治体に働きかける運動を展開していました。
以上、長くなりましたが、ご質問の回答とさせていただきます。
不十分な点やお気づきの点等ございましたら、お気軽にご連絡いただければ幸いです。
今後ともご指導のほど、何卒よろしくお願い申し上げます。
長瀬修(立命館大学)
詳細なご回答、大変ありがとうございます。
マラウイにおける障害者活動家のロールモデルとして思い浮かぶのは、インクルージョンインターナショナル副会長を務める Mark Mapemba 氏です。
知的障害者としてブランタイヤの市政にも携わってらっしゃいます。
インクルーシブ教育は数年以内に行われる予定のマラウイの障害者権利条約の初審査においても間違いなく取り上げられます。
https://tbinternet.ohchr.org/_layouts/15/TreatyBodyExternal/Countries.aspx?CountryCode=MWI&Lang=EN
上記に掲載されている List of Issues でも、下記に関する情報提供がマラウイ政府に対して求められています。
“The legal, policy and other measures taken to transform the education system into a high-quality, inclusive education system for all students with disabilities, including a time frame and adequate budgetary allocations“
なお、これは全くの余談ですが、私が青年海外協力隊でケニアにいた時に同じプロジェクトにいた専門家はマラウイのサリマで勤務していた際に誕生したお嬢さんに「さりま」と命名していたことを思い出します。
研究のご発展を祈ります。
〈2021.9.19 報告者から〉
長瀬修様
ご多用のところ、コメント頂きありがとうございます。
マラウイの障害者活動家のMark Mapemba氏の記事等を教えていただきありがとうございます。
知的障害者の権利擁護活動に関わる国際育成会連盟やマラウイ障害児親の会(PODCAM)との関わりを通じて、ブランタイヤ市の障害者担当の市議会議員として、本人活動(セルフ・アドボカシー)を含めてどのようなことを発信されていくのか、当方も学んでいければと思います。ありがとうございます。
また一方で、マラウイ、ガーナ、ザンビア等、当方が生活したこれらの国では、第一線で活動している障害者活動家の方は男性が多く、女性の障害者活動家がとても少ないように感じています。
マラウイやザンビアの障害のある女性は、男性と比較して学校教育の就学機会が様々な理由によって限られていることや、成人した後は家事や育児などの役割も担うなど、障害のある女性は障害者運動の活動に関わる機会(特に発言する機会等)が限定的であることが一因かとも感じております。
例えば、重度の知的障害のある子どもを養育しながら、夫と離別後に当事者団体を立ち上げた障害のある女性の運動家(活動家)へ聞き取りをした際に、マラウイ社会(マラウイ南部の村落部)において障害のある女性(特に障害のある子どもを育てる障害のある母親)は生計を立てるのが大変厳しい状況であり、そのような中で女性が活動や運動を始めることは、障害のある男性以上に大変であることを強調しておりました。
彼女は全国レベルやメディアに出る機会は少ないですが、彼女のような地域レベルで活動する女性の運動家(活動家)の取組からも学びを深めたいと思います。
長瀬様はケニアで青年海外協力隊として活動されていたのですね。
COVID-19禍でオンライン化が進みアフリカの人々とのコミュニケーションが取りやすくなる一方で、スマートフォンを持っていない人々とのデジタル格差も生まれてきているものの、SNSのWhatappやFacebookを活用して、アフリカ域内での障害者運動同士の情報共有や交換が活発に行われており、今後の協力の深化やネットワークの広がりは今後着目すべき点であるように感じております。
そのような動きが障害者運動やインクルーシブ教育の実践にどのような影響を及ぼすのかも含めて今後研究を進めていきたいと思っております。
引き続きご指導のほどよろしくお願い申し上げます。
日本学術振興会特別研究員の伊東です。私は、最近アフリカの障害者について調査を始めたので、調査の仕方、提示の仕方を含めてたいへん勉強になりました。長瀬さんとのやりとりも興味深く拝読しました。関連して2点ご質問したいことがあります。
1.ご報告からは、障害者運動家の方がインクルーシブ教育の重要性を強く認識し、ご活動を進めていらっしゃることがわかりました。マラウイには、親の会もあるようですが、そちらではインクルーシブ教育に関してどのような主張をされているのでしょうか。「障害者運動家が関わったことで地域や学校関係者、親の意識が変わり」とあったので、もしかしたら親の会の主張は障害者運動家の方の主張とは異なるのではと思い、ご質問する次第です。
2.障害のある成人(DA1)が、全盲のMO1をロールモデルにしているということでした。ロールモデルについての他の語りがあれば、教えていただけたらうれしく存じます。ラジオを通じたロールモデルであれば、教育方法に関係なく出会えると思いますが、学校や職場の先生、先輩といったロールモデルは、インクルーシブな教育や職場があるかに大きく影響を受けると思います。今回のご報告は、運動家の影響を分析されているので、外在的なご質問になってしまうかと思いますが、ロールモデルとして障害のある人ない人や、その周りの人の生き方を変えていくという意味では、学校や職場の先生、先輩などが、どこかの運動団体に属していなくとも地域の運動家としての役割も果たすのではないかと思い、ご質問させていただきました。
〈2021.9.25 報告者から〉
伊東様
ご質問いただき誠にありがとうございます。以下インラインにて回答させていただきます。
>1. ご報告からは、障害者運動家の方がインクルーシブ教育の重要性を強く認識し、ご活動を進めていらっしゃることがわかりました。マラウイには、親の会もあるようですが、そちらではインクルーシブ教育に関してどのような主張をされているのでしょうか。「障害者運動家が関わったことで地域や学校関係者、親の意識が変わり」とあったので、もしかしたら親の会の主張は障害者運動家の方の主張とは異なるのではと思い、ご質問する次第です。
(回答)→マラウイで今回のフィールド調査は3週間と限られており、「親の会に所属しているメンバー」に直接話を伺う機会はなかったので、
「親の会」の組織としての主張と、障害者運動家の主張の差異については分析できていません。
聞き取りを通して「親の会」の組織としてのインクルーシブ教育に関しての意見を聞くことは出来ていませんが、以下の「親の会」のリンクから多少把握することが出来ます(Parents of Disabled Children Association of Malawi (PODCAM)は長瀬先生からもご紹介いただいた団体になります)。以下のリンクからの情報となりますが、「親の会」として、コミュニティ内での障害者に対する偏見の軽減や、障害のある子どもの就学の権利擁護、また家族の支援活動を精力的に展開されているようです。
【参考URL】
http://www.podcam.org/index.html
https://www.facebook.com/podcam2001/
今般の調査では、「親の会」のメンバーへの聞き取りは出来ませんでしたが、家庭訪問等を通して親を含む保護者へのインタビューは行っております。肢体不自由のある生徒(DS1)の車椅子を押して登下校を付き添う父親(FDS1)へのインタビューでは、「子どもにしっかりとした教育を受けさせたい。だから雨季に通学路が泥でぬかるんでしまい車椅子を押せないときは、子どもを背負って学校に連れていくときもある」と語っていました。一方で、肢体不自由のある生徒(DS6)で、両親を亡くし叔母が保護者となっているケースでは、伯母(FDS4)は「生活が苦しく、試験代や制服代もかかるので、学校に通学させるのは賛成ではないが、本人が通学したいから受けいれている」というコメントもありました。また、聴覚障害(ろう)の生徒(DS4)へのインタビューでは「親は自分の可能性を信じていない。父親が学費を支払うことを渋っているのが腹立たしい。」というコメントもありました。今後は「親の会」の団体メンバーへの聞き取りも行う予定ですが、同時に個々の親を含む保護者へのインタビューを重ねることで、インクルーシブ教育や障害のある子どもの教育方針に関する認識や意識の変化等を捉えることが出来ればと思います。その理由として、インクルーシブ教育のプロジェクトを開始した学校校長(HT3)やPTAの会長(HSC1)のインタビューでは、最初は障害のある子どもが同じ教室で授業を受けることについて不安がる親がいたとのことですが、障害当事者運動家が啓発活動を行いプロジェクトに関わることで、親を含む関係者の態度に変化があったという話がありました。今後は具体的にどのようなきっかけや働き掛けが影響を及ぼしたのか、参与観察等も通して分析できればと思っています。
>2. 障害のある成人(DA1)が、全盲のMO1をロールモデルにしているということでした。ロールモデルについての他の語りがあれば、教えていただけたらうれしく存じます。ラジオを通じたロールモデルであれば、教育方法に関係なく出会えると思いますが、学校や職場の先生、先輩といったロールモデルは、インクルーシブな教育や職場があるかに大きく影響を受けると思います。今回のご報告は、運動家の影響を分析されているので、外在的なご質問になってしまうかと思いますが、ロールモデルとして障害のある人ない人や、その周りの人の生き方を変えていくという意味では、学校や職場の先生、先輩などが、どこかの運動団体に属していなくとも地域の運動家としての役割も果たすのではないかと思い、ご質問させていただきました。
(回答)→他の方の語りについては、今般の調査に限定すると多くの事例を持ち合わせているわけではありませんが、現在学会誌の論文を執筆しておりますので、もし掲載された場合はその際にご紹介させていただければと思います。フィールド調査前は、当方の中で「運動家=ロールモデル」という意識を持っていなかったのですが、インタビューをした障害児者からのそのようなコメントがあり、運動家が果たす役割の一つとしてのロールモデルという考えを認識しました。ロールモデルとなる人が、障害のある人ない人、またはどこかの団体に属しているかいないか、運動家かどうか等の側面から検討を始めるのではなく、当事者がどのように意味づけているのかが重要であるように感じております。そして伊藤様のご指摘にあったように、 学校や職場の先生、先輩といったロールモデルは、インクルーシブな教育や職場があるかに大きく影響を受けるという考え方に同感です。
伊東様は精神障害者の方々のグローバルな運動についてご研究されているのですね。アフリカの精神障害者の方々の運動や現場レベルでの具体的な取り組みについてお話を伺える機会を心待ちにしております。引き続きよろしくお願いいたします。
森 壮也 ジェトロ・アジア経済研究所
マラウィについての興味深い報告、ありがとうございます。いくつか質問です。
1.マラウィの教育統計によれば、障害分類別で、初等教育では弱視性との割合が22.7%なのですが、これが中等教育では一気に46%と倍増します。これは弱視生徒がなんらかの理由で増えるということなのだと思いますが、弱視生徒の中等学校進学率が高いということなのでしょうか。難聴生徒の比率の方は22.0%から20%以上と若干減っているようですが、進学率が障害ごとにかなり違うということなのかどうかという質問です。
2.マラウィに特別支援教員養成のための大学があるというのは素晴らしいことだと思いますが、ここには当事者も入学できるのでしょうか。冒頭に掲げた権利条約でも当事者の教員が出てくることがひとつの鍵となっていたかと思います。
国によっては、障害当事者はそもそも教員になり得ない制度ができてしまっている国もあり、マラウィの場合にはどうなのか興味があります。
3.現地での参与観察等による調査での「インクルーシブ教育」については「障害のある子どもたちが自分の地域の普通学校に参加する機会を増やすこと」であるという認識が広く共有されていたのは良いことですが、それが可能になるように地域学校で必要な支援がこの子どもたちに提供されるべきであることについては理解されていたのでしょうか。そうでないとインクルージョンとして言われているものではなく、従来のインテグレーション教育になってしまいますので、そのあたりどのように理解されていたのか気になります。
4.学校の校友に手話通訳を依頼せざるを得ないような状況というのは、彼らに勉学以外のことを依頼することになり望ましいことではありませんが、マラウィでは学校がそのような募集をかけて、子どもに手話通訳をさせているのでしょうか。手話通訳というスキルが非常に高度な言語スキルであることが同国ではあまり理解されていないのではないでしょうか。
〈2021.9.25 報告者から〉
森様
JETROでのご研究がお忙しい中、多角的な視点からご質問やコメントをいただき感謝申し上げます。以下、インラインにて回答させていただきます。
>1.マラウィの教育統計によれば、障害分類別で、初等教育では弱視性との割合が22.7%なのですが、これが中等教育では一気に46%と倍増します。これは弱視生徒がなんらかの理由で増えるということなのだと思いますが、弱視生徒の中等学校進学率が高いということなのでしょうか。難聴生徒の比率の方は22.0%から20%以上と若干減っているようですが、進学率が障害ごとにかなり違うということなのかどうかという質問です。
(回答)→森先生のご指摘の通り、マラウイにおいては初等教育と中等教育を比較すると、進学率が障害種別ごとにかなり違うということが起きていると思います。その理由の一つとして、初等教育は無償であり義務教育である一方で、中等教育になると有償であり、基本的に学力による選抜制です(そのため、中等教育の修学機会は障害あるなしに関わらず全体的に限られており、初等教育から中等教育へ進学するtransition rateは約35%です)。その影響もあり、初等教育において機能障害別で最も多い学習障害のカテゴリーに入る生徒は、中等教育への進学が容易ではない状況となります。初等教育では、学習障害に次いで割合が多いのが弱視の多いため、その結果、学習障害に比べて弱視の生徒が中等教育における進学率が高くなると推測されます。また、弱視と並行して難聴の生徒の比率が伸びていない(=難聴の生徒の比率の方は初等では22.0%から中等では20%程度として若干減っている)背景として、弱視に比べて難聴の生徒の中等教育への進学率が高くないということも言えると思います。先ほど、中等教育では学力による選抜制と述べましたが、初等から中等への選抜試験となる国家試験(初等教育修了試験)時における、難聴の生徒へのサポート体制や合理的配慮等がどのように実施されているかが、国家試験の結果にも影響すると思います。今後は、その面に関する実情に関しても調査を進めたいと思います。
なお、マラウイのモントフォート特別支援教員養成校における「学習障害」とは、「Learning Difficulties: Anatomy and Physiology of the Nervous System, Physical and Health Impairments, Emotional and Behavioral Management, Specific Learning Disabilities, Intellectual Disabilities, Communication Difficulties, and Education of the Gifted and Talented.」です。
>2.マラウィに特別支援教員養成のための大学があるというのは素晴らしいことだと思いますが、ここには当事者も入学できるのでしょうか。冒頭に掲げた権利条約でも当事者の教員が出てくることがひとつの鍵となっていたかと思います。国によっては、障害当事者はそもそも教員になり得ない制度ができてしまっている国もあり、マラウィの場合にはどうなのか興味があります。
(回答)→原則として障害当事者の方も入学可能とのことです。
モントフォート特別支援教員養成校に関しては、フィールド調査でも訪問したのですが、同調査期間中にマラウイでは教員の給与未払いによるストライキが全国的に起こっている最中であり、モントフォート特別支援教員養成校のスタッフに十分にインタビューをすることが出来ませんでした。
今回、知人を通して確認したところ、学生の受け入れだけではなく、同大学としては障害を持つ講師を学術スタッフやサポートスタッフの一員としても採用する方針を持っているとのことでした。 ただし、重度の障害を持つ学生の受入れや講師の採用は、現状では容易ではないということでした。
確認できる高等教育のデータは限られていますが、マラウイの現状として、障害当事者は特別支援教員養成校だけではなく、教員養成大学にも進学しています。その理由として、マラウイには中等学校(通常学校)の教員養成大学が2校あり、ドマシ教員養成大学では学生763人中障害当事者は3名、②ナリクレ教員養成大学の障害当事者は376人中6名となっています。
今般のフィールド調査では、訪問した初等教育の通常学校(学校D)において、視覚障害(全盲)の女性の教員が特別支援学級にパートタイムで勤務しているという話もありました。残念ながらフィールド調査時に直接その先生にお会いすることはできませんでしたが、点字教材の準備やライフスキルを担当しているとのことでした。
また障害のある生徒への聞き取り調査(ライフストーリーの聞き取り)を行う中で、初等や中等教育段階で通常学校や特別支援学校において、視覚障害や聴覚障害のある教員に授業を教えてもらったという話がありましたので、今後はそれらの教員とも連絡を取って、これまでの活動や授業についても調査したいと思っています。
マラウイ大学を卒業したろう者の運動家(DA6)は「大学レベルにおいてもろう者の教員が働いているので、いずれは彼のように大学教員を志望している」というお話もありました。
ちなみにマラウイの初等教育レベルでの障害当事者の教員に関する調査として、川口先生の論文も参考になると思います。同論文では、初等教育レベルでは慢性的な教員不足が生じた時代に無資格の教員が雇用されることもあり、その時に視覚障害者の教員が含まれていた経緯が記述されています。
【参考文献】川口純. (2016). マラウイの 「無資格教員」 に関する一考察―誰が, なぜ, 雇用されていたのか―. アフリカ教育研究, 7, 105-117.
URL:https://ci.nii.ac.jp/naid/130008051268/
>3.現地での参与観察等による調査での「インクルーシブ教育」については「障害のある子どもたちが自分の地域の普通学校に参加する機会を増やすこと」であるという認識が広く共有されていたのは良いことですが、それが可能になるように地域学校で必要な支援がこの子どもたちに提供されるべきであることについては理解されていたのでしょうか。そうでないとインクルージョンとして言われているものではなく、従来のインテグレーション教育になってしまいますので、そのあたりどのように理解されていたのか気になります。
(回答)→フィールド調査で訪問した学校では、障害のある子どもたちに関する必要な支援や教材や教具が子供たちに提供されるべきであることについては、教員レベル、特に特別支援教員の間では広く理解されていました。聞き取りした全ての特別支援教員や通常学級の教員、また教頭や校長が、学校内外での支援を充実させるべきであるという考えは一致しているものの、教材の不足や学校教員も含めた人的資源の不足等、必要な支援の不足については政府の財政面も含めたサポート体制の弱さを指摘しておりました。
国際的な基準でいえば、マラウイは「統合教育」の段階とも言えるかと思います。
また学校Fの校長(HT4)は、現在のマラウイのインクルーシブ教育の実践は、教材も専門知識のある教員なども整っていないため、特別支援学校の方が国際NGOからの支援も潤沢で教材も特別支援教員もいるので、教育の質の面を考えると子どもにとっては特別支援学校がいいのではというお話もありました。
一方で、フィールド調査で訪問した学校の中には、通常校の一クラスの人数は120人を超える事例もあり、障害のあるなしに関わらず生徒の教材や机椅子などは慢性的に不足しており、青空の木の下で生徒が座って学習する「青空学級」の状況もありました。
そのような現状を踏まえると、インクルーシブ教育はこうあるべきという視点から離れて、現地の実情を考慮して展開するインクルーシブ教育とはどのようなものか、どのような実践が学校や教室で行われているのか、という視点で調査をすることの重要性も感じております。
>4.学校の校友に手話通訳を依頼せざるを得ないような状況というのは、彼らに勉学以外のことを依頼することになり望ましいことではありませんが、マラウィでは学校がそのような募集をかけて、子どもに手話通訳をさせているのでしょうか。手話通訳というスキルが非常に高度な言語スキルであることが同国ではあまり理解されていないのではないでしょうか。
(回答)→まず、このようなピア・チューターの取り組みが、マラウイ全国でなされているかどうかはフィールド調査で確認できていませんが、今般の調査で訪問した学校のうちの一校(学校H)における取組みを事例として紹介しているとご理解いただければと思います。
次に、「手話通訳というスキルが非常に高度な言語スキルであることが同国ではあまり理解されていないのではないでしょうか」に関する回答にはなりませんが、インタビュー調査を通して感じたこととして、ピア・チューターの仕組みを作った学校Hの教員(ST(HI)5)は、手話通訳が非常に高度な言語スキルであることは理解されたうえで、ピア・チューターの仕組みを作ったのではないかと推測しております。この特別支援教員には数回インタビューを行っていますが、彼女(ST(HI)5)の家族にろう者がおり、またその配偶者の方はマラウイでろう学校の設立に関わった方でした。個人的な所感となりますが、彼女はこれまでの経験を通して、学校や地域全体で手話という言語を学び、手話を介して子どもたちや子どもたちをとりまく人々が豊かな人間関係を構築し、よりインクルーシブな社会になってほしいという思いが含まれているように感じました。
この学校Hの教員(ST(HI)5)が考案したピア・チューターの仕組については、以下の通りです。
1年目は、障害のある生徒の日常の学習や生活をサポートするために、特別支援教員が聴者の生徒にボランティアの募集をかけます。そして、ボランティアに応募した者は、聴覚障害教育の教員(2名)が開催する手話を学ぶ学内研修に参加します。その後、トライアル期間中に障害のある生徒とボランティア応募者のマッチング(相性の確認も含む)を行います。特別支援教員(ST(HI)5)は、「障害のある生徒もない生徒も選ぶ権利があるのだから、先生が無理やり友達になるように仕向けることはできない」とコメントしています。トライアルの後、生徒各自は教員と面談を実施し、生徒双方が納得するとピア・チューターのメンバーとなります。また特別支援教員が関わる放課後の手話クラブなどを通して、手話のスキルのブラッシュアップもしておりました。
以上、ご質問への回答とさせていただきます。
引き続きご指導のほど何卒よろしくお願い申し上げます。
宇都宮大学 土橋喜人
考察の中で、健常児の同級生たちへの影響等については考察はされていないでしょうか?
インクルーシブ教育を行うことで、健常の子供たちによる障害を持った子供たちとの「慣れ」が、将来的にはインクルーシブな社会形成に役立つと思うのですが、そのあたりのご意見はいかがでしょうか?
「5.考察
インクルーシブ教育の実践に際し、障害者運動家の関与によって以下の影響があることが考察できた。」
〈2021.9.30 報告者から〉
土橋様
示唆に富むご質問をいただき、誠にありがとうございます。以下、インラインにて回答させていただきます。
>考察の中で、健常児の同級生たちへの影響等については考察はされていないでしょうか?インクルーシブ教育を行うことで、健常の子供たちによる障害を持った子供たちとの「慣れ」が、将来的にはインクルーシブな社会形成に役立つと思うのですが、そのあたりのご意見はいかがでしょうか?
(回答)→ご指摘ありがとうございます。土橋様のおっしゃる通り、障害のある子どもたちと障害のない子どもたちの間の「慣れ」はインクルーシブ教育において重要であると考えております。
また「場」を同じにするだけではなく、同時に学校や教員の創意工夫(働きかけ)が重要であり、学校生活を共に過ごし様々な経験を共にすることで、友人関係が徐々に醸成されるものではないかと考えております。
例えば、学校(H校)では、ろう者の生徒を受け入れた当初は、学校内や休み時間や寮内において、初等教育を特別支援学校で過ごしたろう者の生徒のグループと健聴者の生徒のグループに分かれてしまい、お互いに交流することは少なかったそうです。その後、ピア・チューターの取組みが導入され、手話ができる生徒と手話を教えるろう者の生徒の交流が増え、生徒たちによって新しい学校文化が醸成されていったと教員は話していました(H校のピア・チューターの取組みは、当方が森先生から頂いた質問事項4の回答をご参照ください)。聞き取り調査では、ピア・チューターの仕組を通して手話を学んだ生徒たち(NS2とNS3)にもインタビューをしたところ、彼女たちからは「ろう者の生徒と友達になりたいから」、「ろう者の生徒とコミュニケーションをとってみたいので手話を学ぼうと思った」といった理由でした。一方で、このような事例だと、手話ができる生徒と手話を教えるろう者の生徒に限定した関係の説明になってしまうと思います。
同じくH校インタビューを行ったろう者の男子生徒(DS4)は「初等教育のろう学校で学んでいた時は、皆、手話で交流ができたが、普通学校で手話ができる教師や生徒が限られるから・・・」と話していましたが、翌日もH校を訪問した際には、放課後に聴者の生徒とともに学校内のサッカー試合に出場しており、「場」を共有することで、自ずと生徒同士が様々な経験を共有していることも感じました。
土橋様のご指摘の通り、障害当事者が参画するインクルーシブ教育の実践において、障害のある生徒と障害のない生徒の「慣れ」の効果も注意深く分析していきたいと思います。
ご指摘ありがとうございました。
引き続きご指導のほど、よろしくお願いいたします。