障害者権利条約審査:中華民国(台湾)独自のモデル――新型コロナウイルス蔓延とペロシ訪台の下で

高 雅郁(Eunice Ya-Yu KAO)

2022年8月6日土曜日の午後、37℃という真夏の気温の下、台北市信義区の「台北世界貿易センター」のエアコンが効いた部屋に約60人が集まった。これは中華民国(台湾)政府(以下、台湾政府と表記する)が主催した、障害者権利条約(以下、CRPDとする)の2回目の審査の総括所見(勧告)を発表のための記者会見だった。林萬億氏(リン・ワンイー/行政院政務委員[注1])が政府の代表者として登壇した。他に、台湾政府の招聘を受けて、国際審査委員として長瀬修氏(国際審査委員会委員長/日本籍)、金亨植氏(キム・ヒュンシック/韓国出身・オーストラリア在住)、Janet Meagher A.M.氏(ジャネット・マアー・A.M./オーストラリア籍)の3人が現地で、また、Diane Richler C.M.氏(ダイアン・リッチラーC.M./カナダ籍)、Oliver Lewis氏(オリバー・ルイス/英国籍)の2人がリモートで登壇した。そのうち、長瀬氏とリッチラー氏は1回目の審査に引き続き、2回目の審査委員も引き受けてくださった。

【写真1:記者会見での、国際審査委員の3人と政府代表者の林氏との写真。左側からマアー氏、林氏、長瀬氏、金氏。手持ちの看板は総括所見をイメージしている。現地にいた3人の委員は、そこにサインを求められた。上には中文と英文で、総括所見と書いてある。(写真提供:E-think会社)】

台湾では、『身心障礙者権利公約施行法(障害者権利条約国内施行法)』が2014年8月1日に立法院(国会に相当)を通過した。その時、CRPDの本体は、同時に通過しなかった。その後、2016年4月22日にCRPDの本体が立法院で追加承認され、同年5月16日に馬英九総統(当時)が批准した。しかし、台湾は国際的に特殊な地位にあり、国連の会員としての加入に障壁があるため、批准書を国連事務総長に受領されるには困難がある。そこで解決方法として、2017年5月17日に蔡英文総統が頒布し、台湾国内での効力発生日は2014年12月3日に遡って定められた。台湾にとっては、施行法が条約本体より先に通過した異例ともなった(廖 2017)。
CRPD第35条により、国が自国内で効力を生じてから2年以内に国連に履行報告書を提出し、その後、4年ごとに履行報告と審査を受ける義務がある。しかし、台湾の場合は、国連報告ができないため、国際審査委員を招聘し、独自の審査体制を作った。2017年10月末には、1回目の審査のために5人の国際委員[注2]が台湾まで足を運んでくださった。2回目の審査は2021年に行う予定だったが、新型コロナウイルス蔓延により延期された。その後もコロナ終息の兆しが見えないため、2回目の審査は「外交的バブル」の下で行うことになった。「外交的バブル」とは、特別な理由で台湾政府の中央流行疫情指揮センター(CDC)の承認をもらい台湾に入国する人は、隔離や自粛の期間をおかずに、滞在期間中2日間ごとにPCR検査を受けて、会場と宿泊地に同伴されて移動する、予定地以外のところに自由に移動できない制限である。そして、会場にいる間も、バブル以外の人と一定の距離を保持する規定がある。台湾現地の3人の委員とLeanne Craze A.M.氏(マアー氏のアシスタント)、私(長瀬委員長のアシスタント)の5人は、審査期間中、「外交的バブル」の規定に沿って動いていた。

◆審査の前
審査の対象となるのは国である。審査前の2020年12月に、台湾政府は国家報告を公布した。審査延期の影響もあり、その後国家報告の英訳を2021年8月に公布した。国家報告に対して、市民社会(障害者団体を含め)のパラレルレポートが出され、2021年6月に掲載された。委員たちは国家報告とパラレルレポートの英訳版を読んで、2022年3月に事前質問事項(list of issues)[注3]を提出し、同年6月末に政府と市民社会から回答をもらった。委員は、審査前に、合わせて17部の報告と事前質問事項の回答を読んだことになる。

◆建設的対話
審査のスケジュールは、三日間の公開の建設的対話の後、二日間で総括所見を作成し、最後に記者会見をおこなうというものであった。
審査委員会と市民社会、政府との建設的対話は、2022年8月1-3日に条文ごとに分けて、ハイブリット方式で行われた。初日は第1条から第11条、2日目は第12条から22条、3日目は第23条から33条と条文の順に沿って進めた。毎日、市民社会との対話を先に行い、その後政府との質疑応答をした。今回は、新型コロナ対策の配慮等により、入場者数が前回より厳しく、市民社会はパラレルレポート或いは事前質問事項に回答した団体に限り、一団体から3名まで(介助者を含まない)、事前の申し込みの上で参加できるという入場制限があった。会場は、普段は展覧会場として使われている「TaiNEX台北南港展覧館」であった。
今回の審査に参加した市民社会の中には、老舗の障害関連の団体や人権に関する団体もあったが新設の当事者団体もあり、参加団体の多様性が増したように見えた。さらに、建設的対話で発言した代表者は、障害のある当事者が前回より増えていた。その中には、身体不自由者や聾者、脳性麻痺者のほか、社会心理的に配慮が必要な方、知的のある青年、そして、障害のある児童の発言もあった。

【写真2:審査のときの檀上の様子。左側からはマアー氏、Craze氏、長瀬委員長、筆者、金氏。新型コロナ対策として、席の間にクリア板が設置された。全員が掛けている黒いマスクは、主催者が配布した今回のCRPD審査のシンボルマークが付いている不織布マスクである。(写真提供:E-think会社)】

また、リモート参加の審査委員がいるため、ネットの安定性に加えて、時差も今回の審査で直面しなければならない挑戦であった。台湾時間で午前9時にスタートの時間は、カナダにいるリッチラー氏にとっては夜中9時であり、英国にいるルイス氏にとっては午前2時であった。二人の委員には、昼夜転倒とともにでもありながら、会場の状況を把握しにくいという苦労も多少あった。そして、委員の間での即時の議論や意見交換をするツールも極めて重要になった。
さらに、建設的対話は、三日間では時間が足りず、市民社会や政府側が委員の質問に即時に回答できない場合は、翌日、書面回答の英訳を審査委員会に送る方法で回答した。

【写真3:審査委員の目線から見た会場の様子。前にスクリーンがあって、リモート参加のリッチラー氏(左側)とルイス氏(右側)が写されていた。そして、「外交的バブル」の規定で、審査委員と会場の参加者との間が赤線で仕切られ、距離が置かれた。写真の左側は市民社会の席で、真ん中と右側は政府各部門の代表者の席である。写真を撮ったときは、委員と政府との質疑応答のセッションであったが、一部の市民社会の代表者も会場に残っていた。(撮影:高雅郁)】

◆新設された国家人権委員会(NHRC)
 CRPDの第33条では、批准国に独立の機関を設置し、自国にCRPDの履行状況について監視することを規定している。1991年「バリ原則」の後、多くの国が国家レベルの独立人権監視機関を設置している。台湾では、「国家人権委員会(National Human Rights Commission, Taiwan)」[注4]を設置する提議が1997年から始まり、2020年8月にようやく設置された。これは、他の人権条約だけでなく、1回目のCRPD審査後に、当時の総括所見の勧告の産物とも言えるだろう。現在は委員長と副委員長と、8名の人権委員の10人体制で構成されている。副委員長の王榮璋氏(ワン・ジョンザン)[注5]は、ポリオの人で、障害者運動と長期に渡る関わりを持ち、立法委員の経歴もあった。今回の審査で、NHRCは独自の報告書と事前質問事項への回答を提出した。
しかし、この新設された機関は、「独立」と自称してはいるものの、監察院に所属していて、委員長は監察院長が兼任し、委員も監察委員が兼任している。監察院とは、最高の国家監察機関である。主な役割は公務員や国家機関の不正行為や怠慢行為などを調査し、糾正や弾劾、糾挙を行う。そして、各国家機関の財政状況と年度予算などの会計監査し、審議権を行使する。監察委員は総統が立候補者を提案し、立法院の同意を得た上で、総統が任命する。6年間の任期で再任が可能である。最初の国家人権委員は、第6期の監察委員とともに就任した。国家人権委員と監察委員の役割をどのように分けていくか、それとも補完的な役割を持つのか、曖昧な状態である。
また、NHRCはCRPDの国の履行状況の監視機関を目指しているが、CRPD国内施行法ができた時点でNHRCはまだ設立されておらず、NHRCは法的にはこの権限がない。そして現時点で、NHRCには、CRPDに関する専任職員がいない。NHRCは、どの程度の組織の機能を発揮できるか、障害者人権に関する支援や救済措置にどのように貢献するか、これから注目すべきだろう。 

◆ペロシ・ATM・入所施設・双子
 世界にも注目された、米国下院議長Nancy Patricia Pelosi氏(ナンシー・パトリシア・ペロシ)の台湾訪問は、CRPD審査の2日目の深夜であった。今回のCRPD審査の数日前の7月下旬には、攻撃された場合に備えた軍事演習が、国民を巻き込んで例年通り行われた。ペロシ氏訪台の噂が広まってから、極短期間の台湾滞在とその後、中華人民共和国は、いつもより反発を強めて、台湾を封じ込める軍事的な演習が強化した。台湾海峡の情勢は、緊張が高まり、戦争が「一触即発」の状態の下で審査が続けられた。初日の建設的対話であったCRPD第11条の、リスク状況及び人道上の緊急事態に関する措置については、戦争の人為災害を身近にリアルに感じられた。
マスメディアがペロシブームやそれに伴う多くの国内のサイバー攻撃(幸い、審査中のインターネットと中継は安定していた)を報道していた中に、私は特にある報道が気になった。それは、ある人が目の不自由な人を偽装し、保険金詐欺事件を見破られたことである。それが発見された理由は、なぜ視覚障害者なのにATMを使えたのか、なぜ視覚障害者なのに一人で買い物ができたのか、というものである。詐欺事件が見破られたことは良いことである。しかし、CRPD審査での政府の答弁を聞きながら、特にこの事件と報道に関して、審査チームの一員でも台湾国民でもある私は、台湾社会、特に警察とマスメディアに、障害の認識がまだまだ足りておらず、環境の整備もまだ十分でないと示されたことを皮肉に感じた。
また、皮肉にも驚いたことがあった。前回の審査の総括所見でも勧告を受けた、第19条の「地域移行」に関して、台湾は逆方向に進んでいるように見えた。台湾の入所施設の発展の歴史において欧米のような千人程度の大型施設が作られておらず、政府が地域移行に向けて努力していると政府は主張したが、市民社会からは新設の入所施設が増えているし、今後も増えていくだろうという情報があった。さらに、地域での自立生活を支える予算は、主に宝くじの利益から出ていて、財源が不安定であることも、今回の審査で委員たちが懸念した点であった。
ところで、今回の審査で、市民社会の多様性が増えたことを前述した。その理由の一つは、双子や多胎児・者家庭を支える団体が加わったことである。多胎児・者の一人、或いは複数名ともに障害をもつ場合について、現在、多胎児・者に関する統計データがなく、その家庭に対するサポートが足りないとの訴えがあった。この団体の問題提起に応じて、審査委員は、総括所見で特にこの点に言及した。

◆死刑、「善終」と介護殺人事件への特赦請願運動
もう一つ新たに参加した団体は、社会心理的に配慮が必要な人たちの当事者団体である。「社会心理的に配慮が必要」という言い方は、(精神や知的)障害手帳を持っていないけれど、支援や配慮が必要である人を広汎に含むための表現である。台湾では、支援やサービスを利用するために、障害手帳の有無が基本的な判断基準となる。しかし、グレーゾーンの人や、障害のアセスメントを受けなかった人は支援が必要だとしても、利用できない。この当事者団体が特に気にしていることは、精神療養施設と矯正機関では、社会心理的に配慮が必要な人にあまり配慮をしてないことである。この点について、『精神衛生法』の改正に向けて深刻な問題点を訴えた。知的障害のある青年の発言でも、矯正機関内にいる知的障害のある人への対応に懸念が表明された。また、初回の審査後に、社会心理的に配慮が必要な人の二人の死刑が執行されたこと(2018年と2020年に各1件)も、今回の審査で市民社会が強く訴えたことであった。
生命権に関する第10条に関して、死刑の懸念以外に、長瀬委員長は、特に「善終(良い死)」に言及した。台湾では、『病人自主権利法』[注6]が、難病にかかっていた当時の立法委員の推進で、2015年12月に立法院を通過し、2019年1月に実施、2021年1月に修正された。これは、患者中心の死における医療的治療に関する自己決定についてのアジアで初めての法律だと主張された。第1条の目的には、「患者の医療的な自己決定権を尊重し、良い死の権利を守り、医療関係者と患者との良い関係を推進するために、本法を制定した」と書かれている。「安楽死」と「緩和医療」とは違い、患者の「自己決定」だと推進者たちと台湾政府は、強調した。しかし、医療的治療の終止の理由の中には、重い障害や難病にかかっていることも含まれている。社会的制限が多く遭遇されている障害者にとって真の「自己決定」と言えるのかを、審査委員会では強く懸念した。また、事前の医療的計画を患者が撤回、変更できると法に書かれてはいるが、撤回、変更についての詳細には不明である。審査委員会は、このことも憂慮していた。

【写真4:初日の審査をハイブリットで視聴した画面である。画面は、4つの部分に分けられ、左上には会場の壇上の様子が映されている。真中の長瀬委員長は、第10条生命権についての政府との質疑応答の際に、「善終」(good death)と書いてある紙を挙げた。右上には、リモート参加のリッチラー氏とルイス氏、右下には手話通訳者の画面が映されていた。左側は中文の文字通訳が出ている(スクリーンショット:高雅郁)】
 
ある父親が2020年に50年間に介護していた脳性麻痺の娘を殺した。その後、父親は、自殺したが、未遂に終わった。家族の証言によると、この父親は娘をとても愛していた。しかし、脳性麻痺の娘は生きているのが辛そうに見えたし、母親も病気にかかっているし、父親もうつ病に罹患している。二審の裁判長は、この事例に「社会から忘れられた人」とコメント付けた。今回のCRPD審査の数日後に、最高裁判所でこの79歳の父親に刑期2年6ヶ月間の判決が言い渡された。判決後の8月16日から、父親への特赦請願運動が行われた。主催者は立法委員のオフィスで勤めている脳性麻痺の女性とその立法委員だった。二日間で千人以上の賛同者がいた。賛同する団体の多くは、脳性麻痺に関する団体であった。賛同の意見の中には、CRPDを実現しようという提唱があった一方で、この父親は可哀そう、脳性麻痺患者の家庭は可哀そう、政府は脳性麻痺患者に支援サービスをもっと作ろうといったものや、脳性麻痺患者が安置される入所施設をもっと作ろうといったものがあった。基本にあるはずの脳性麻痺患者の生命権は一切言及されなかった。この請願運動に出席・賛同した脳性麻痺の当事者は本当に賛同したのか、私は大いに疑問を持っている。
こういう社会的な雰囲気の下に、『病人自主権利法』の実施においては、多数者の「善終」を守るか、少数者の「(良い?)死」を推進するか、どちらになるだろう。

◆118点の総括所見:CRPDは「障害者の権利」ではなく「人権」についてである
  台湾における第2回CRPDの審査は、8月6日の記者会見で終わった。審査委員会が118点の総括所見を提出した。各条文に関する勧告を含めて、全体として次の6つの課題を取り上げた。

① 人権視点に切り替えること
② 平等と差別しないための努力向上
③ 障害のある当事者の参画のための柔軟性
④ 地域で暮らす政策と支援の完備
⑤ 社会心理的に配慮が必要な方への対策改善
⑥ 政府各部門の間の協調と連携の必要

 「台湾は人権立国だ」とよく言われる。ペロシ氏とその後訪台した米国や日本の議員たちも台湾の民主化と人権立国としての台湾を支えるために訪台したという。確かに台湾は、アジアや世界の他の地域と比較して先進している部分もある。しかし台湾が「人権観点」という点で進んでいるか、今回のCRPDの審査は、鏡のようによく映し出しただろう。審査委員のマアー氏[注7]が今回の審査で台湾社会に贈った言葉は、「これは障害者の権利ではなく、『人権』に関することだ」というものだ。
ペロシ氏訪台の夜、この世界的な影響力を持つ人物と最も近い距離にいたとき、審査委員会がペロシ氏とともに蔡英文総統とCRPDや人権について対談する夢を見た。
審査は終わったが、118点の総括所見への実践はこれからだ。4年後、台湾独自のモデルは台湾社会にどのように変えていくのか。障害者である前に、一人ひとりが「人間」として扱われることを期待している。
最後にこのエッセイの場を借りて、新型コロナウイルスにかかるリスクと強権の威迫している時勢に、審査任務を引受けた5人の審査委員に最高の敬意を払う。

(日本語の校正をしてくださった伊東香純氏に感謝する。)

[注]
1、中華民国(台湾)の中央政府機関は孫文の「五権分立」思想に沿って、行政院、立法院、司法院、考試院、監察院の五つに分かれている。行政院は国の最高行政機関であり、日本の内閣と各省庁を併せたものに相当する。院に行政院長(首相に相当)と副院長、現在は8名の政務委員(無任所大臣に相当)、正副秘書長、各部会の部長(大臣に相当)により構成される。林氏の専門は社会福祉、元は国立台湾大学の教授である。2006年5月からの一年間、1回目の政務委員に務め、2016年5月から2回目を務め今に至る。
2、1回目の審査は2017年10月30日-11月3日に行った。国際審査委員会は長瀬修氏(委員長)、ダイアン・リッチラー氏、Adolf Ratzka氏(アドルフ・ラツカ/ドイツ出身・スウェーデン在住)、Michael Ashley Stein氏(マイケル・スタイン/米国籍)とDiane Kingston氏(ダイアン・キングストン/英國籍)の5人で構成された。筆者は、当時も長瀬委員長のアシスタントとして審査チームの一員になった。
3、中華民国(台湾)第2回報告に関する事前質問事項は以下のリンクを参照
 http://www.arsvi.com/2020/20220323crpd.htm 
4、NHRCの詳細はこちらを参照 https://nhrc.cy.gov.tw/en-US 
5、王榮璋氏のプロフィールhttps://nhrc.cy.gov.tw/en-US/about/member/detail?id=7b169946-634a-4159-9d24-35501c1ac5c0 
6、『病人自主権利法』の英訳版は以下のリンクを参照 
https://law.moj.gov.tw/ENG/LawClass/LawAll.aspx?pcode=L0020189 
7、マアー氏の個人紹介は下記のリンクを参照
  https://finalreport.rcvmhs.vic.gov.au/personal-stories-and-case-studies/janet-meagher-am/ 
  マアー氏の著書は日本語に訳されており、書名は『コンシューマーの視点による本物のパートナーシップとは何か?――精神保健福祉のキーコンセプト』である。
http://www.arsvi.com/b2010/1512mj.htm  
  
[参考文献]
廖福特,2017,「第一章 歷史發展及權利內涵」孫迺翊・廖福特(編)『身心障礙者權利公約』台北:台灣新世紀文教基金會。

[関連リンク]
・中華民国(台湾)と障害者権利条約 http://www.arsvi.com/d/undc-twn.htm 
・中華民国(台湾)2回目の障害者権利条約審査の総括所見(英語原文と中文仮訳)
https://crpd.sfaa.gov.tw/BulletinCtrl?func=getBulletin&p=b_2&c=D&bulletinId=1696

日本とザンビアの「アクセシビリティ」に関するオンライン会合について―DPI日本会議、ザンビア障害者機関、ザンビア障害者連盟の繋がり―

 日下部 美佳 
(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科、
アフリカ地域研究専攻一貫制博士課程)

未曽有の新型コロナウィルス感染症の拡大により、人の移動が制限される一方で、私たちはオンライン化が世界を繋ぐことを改めて認識した。今回のエッセイでは、2022年7月7日の七夕の日に「アクセシビリティ」という共通のテーマが架け橋となって、日本とザンビアの障害者関連団体との出会いの場となったオンライン会合について記録に残したいと思う。

1.「アクセシビリティ」をテーマに国を越えて
2020年3月末にコロナ禍のザンビアから筆者が日本に緊急一時退避した後、2022年3月に同国の首都ルサカに再渡航するまで、2年の歳月が過ぎた。再渡航後、ザンビアの障害者関連の政策立案や調整、そしてサービスの実施を担うザンビア障害者機関(Zambia Agency for Persons with Disabilities、以下ZAPD)に勤務するムレンガ・ジェーンさんと2年ぶりの再会を果たした。相変わらずの弾けるような笑顔だった。
ジェーンさんとは、コロナ禍であっても、WhatsApp(Lineに似たコミュニケーションアプリ)で連絡を取り合い、繋がりを深めてきた。WhatsAppを通した数多くのやり取りの中で、東京2020パラリンピックの話をきっかけに日本のアクセシビリティが話題になった際には、特定非営利活動法人DPI(障害者インターナショナル)日本会議のアクセシビリティ改善にかかる活動の写真や記事を英訳して情報を提供することもあった。2年ぶりの再会に喜んで一息ついたころ、アクセシビリティ監査員で障害当事者のジェーンさんから「日本の交通機関のアクセシビリティの改善に関する写真を共有してくれたのを覚えている?ザンビアの物理的アクセシビリティは、より一層の改善が必要な状況なの。日本のアクセシビリティがどのように改善したのか色々と学びたいのだけれど、オンラインで勉強会を開催できないかしら。」との相談があった。ジェーンさんに共有した記事は、「8月3日(月)第2回『新幹線実証実験報告』」(DPI日本会議, 2020)であったが、彼女はこの記事から日本の知見を学びたいと思い、彼女なりにザンビアにおいて日本の知見が活かせないかとアイディアを温めていたのだ。
早速、DPI日本会議で国際協力分野において長年ご活躍され、JICA課題別研修「アフリカ障害者リーダーの育成研修」の実施など、アフリカの障害と開発の実践に尽力されている中西由起子さんにメールを送ったところ、DPIの総会で忙しい時期にも関わらず好意的に受け止めていただき、オンライン会合の実施に向けた準備が始まった。

2.ザンビアの障害者を取り巻く概況
ザンビアはアフリカ南部の内陸国であり、熱帯性気候(涼しい乾季、暑い乾季、暑い雨季の季節)の国である。(写真1参照)

写真1: 涼しい乾季のルサカ市内の居住地の様子(撮影者:筆者)

(写真1の説明:コンパウンドと呼ばれる低所得者層の居住地の様子。道路は未舗装で、生活排水が道に流れ出ている。)

人口は約1,892万人で(The World Bank, 2021)、73の民族がいる。言語は英語が公用語であるが、その他に主要民族の言語(ベンバ語、ニャンジャ語、トンガ語など)がある。1964年の独立以来、民族間の対立による内戦もなく、“One Zambia One Nation (一つのザンビア、一つの国家)”というスローガンのもと、政治的な安定を維持していることが特徴的である。ザンビアの経済は、主に鉱業、農業、建設業部門によって牽引されており、2021年の一人当たり国民総所得(GNI)1,040米ドルである (ibid.)。
「ザンビア共和国の憲法第266条」及び「障害者法」おいて、障害の定義とは「恒常的な身体的、精神的、知的、または感覚的な機能障害の単独、または社会的もしくは環境的な障壁と相まって、他者と対等で完全かつ効果的に社会に参加する能力を妨げる」ことを意味する。2010年に実施された国勢調査では、障害者は全人口の2%であり、機能障害種別で見ると肢体不自由者が32.7%と最も多く、次いで視覚障害者(弱視)が24.8%と続いている(CSO, 2012, p71, p72)。しかし、ザンビアの障害当事者団体の関係者から聞き取りをした際に、国勢調査の調査票は世帯主が記入するため、世帯主が障害者を家庭内に隠し、障害者を報告しないケースがあるという指摘があった。障害者個人への調査を実施した2015年の「ザンビア全国障害者調査」(標本調査)では、ザンビアの障害者は人口の7.7%と推定している(CSO&MCDSS, 2018, p39)。
ザンビアは2010年に障害者権利条約に批准し、2012年には障害者権利条約の国内化を目指す「障害者法」を制定した。障害者法第5条「障害者の権利の保護と促進」第5項「アクセシビリティとモビリティ」の第40号「アクセシビリティ」には、省庁は公共設備や公共交通機関のアクセシビリティ確保、また情報アクセシビリティの確保等について適切な措置を講じることが記載されている。また、2015年には「障害に関する国家政策」を制定し、「2030年までに障害者が生活の基盤となる機会均等を享受する」というビジョンを掲げ、政策目標と措置が示されている。
先行研究では、ザンビアでの障害は、伝統的に親族からの妬みや怒りから発生する呪いや魔術等と障害が結び付けられており(Mwale & Chita, 2016, p60)、障害者は地域の人々から差別を受ける傾向がある(UN, 2016, p8)。加えて物理的・情報アクセシビリティなどの課題に直面している。国連が2016年に作成したザンビアの障害者の権利に関する特別報告者レポートによると、物理的アクセシビリティに関しては、ザンビア基準局(Zambia Bureau of Standards: ZABS) (注1)による国家アクセシビリティ基準(注2)が設定されているにもかかわらず、多くの公共及び民間の建築物はバリアフリー化されていないことが言及されている(ibid., p10)。また、ZAPDによるアクセシビリティ・ニーズ・アセスメントの実施や、アクセシビリティ監査員の訓練の必要性が強調されている(ibid.)。首都ルサカの公共建築物における障害者のアクセシビリティとモビリティの調査を行ったChiluba&Njapawu(2019, p60, p61)は、アクセシビリティに関する法律を実施する際の課題として、政府の計画や予算配分における優先順位の低さやコスト上の問題、また障害に対する否定的な認識と障害者代表者の不在、とりわけ政策立案者と実施者を含む関係者間で障害者のアクセシビリティとモビリティに関する理解度にギャップがあることを指摘している。

3.オンライン会合の内容
このように、ザンビアの文化や障害者を取り巻く生活環境は、日本と異なるものの、日本社会での事例やDPI日本会議で国際協力分野の活動から学ぶために、「アクセシビリティの改善」を共通テーマとして、第一回目のオンライン会合が始まった。以下が議事次第である。

日時:2022年7月7日(木)日本時間:17:00-18:00 (ザンビア時間:10:00-11:00)

    • 紹介 中西由起子(DPI日本会議 副議長)
    • 開会挨拶 ニコラス・ゴマ(ZAPD 局長)
    • 日本の発表「日本におけるアクセス:日本における障害者運動によるアクセシビリティの改善」 報告者:宮本泰輔(DPIアジア太平洋事務局、 (株)ディーディーコンサルティング会社 代表)
    • ザンビアの発表「ザンビアにおけるアクセシビリティ」
    • 報告者:ジャスティン・バカリ (ザンビア障害者連盟 会長)、カトンゴ・ムタンバ(ザンビア障害
      者連盟 プログラムマネージャー)
    • 南アフリカの発表「南アフリカにおけるアクセシビリティの改善」
    • 報告者:降幡博亮(DPI日本会議 プロジェクトオフィサー)
    • 閉会挨拶 ニコラス・ゴマ(ZAPD 局長)
  • まず初めに、中西氏によるDPI日本会議の概要説明と発表者の紹介等も含む開会の言葉の後、ZAPD局長のゴマ氏からは、ZAPDの概要と併せてザンビア側関係者の紹介や、会合開催への感謝の辞が述べられるなど、参加者の間で笑顔が生まれる温かい雰囲気の中で会合が始まった。その後、日本の障害者運動に長年参画しているDPIアジア太平洋事務局の宮本氏からは、日本の障害者運動を通じた公共交通機関や建物のバリアフリー化の実践や、当事者参画による法整備について発表があった。宮本氏は35年前の日本の写真を提示しながら、当時は日本の経済が発展していた時期にもかかわらず、公共交通機関の改札口からプラットフォームまでの間にエレベーターがなく、人々が車椅子を担いで階段を昇降しており、障害者などの人々への国や政府の対応は遅れていたことを指摘した。その後の日本では、全国的な障害者運動を通して当事者たちが声を上げ、またマスメディアや政治家も巻き込んだ戦略的な政策立案や活動によって、日本のアクセシビリティの現状や活動の成果があったことが言及された。ザンビアからの参加者は、このプレゼンテーションに刺激を受け、「アクセシビリティ改善に向けた全国的な規模の障害者運動をやってみよう」との発言もあった。
    ザンビア側からの発表では、ザンビア障害者連盟(Zambia Federation of Disability Organisations、以下ZAFOD)の会長のバカリ氏が冒頭の挨拶をした後、プログラムマネージャーのムタンバ氏から、ZAFODの紹介とザンビアのアクセシビリティの現状と成果について報告があった。(写真2参照)
  • 写真2. オンライン会合の様子(撮影者:筆者)
    (写真2の説明:ZAPDの会議室を使用したオンライン会合の様子)

    ZAFODは15の障害者団体が加盟する全国的な連合体であり、アドボカシー活動を通じて、ザンビアの障害者の権利を促進している。ZAFODの活動としては、障害の啓発、また障害者団体の組織力の強化を行っている。また様々な障害者を取り巻く課題に関する調査や研究を行っている。アクセシビリティに関する発表では、事例に沿って、ザンビアの官公庁はエレベーターの設置が少なく、トイレもバリアフリー仕様でないことが指摘された。(写真3,4参照)。

    写真3:ルサカ市内にある官公庁のトイレの写真(撮影者:カトンゴ・ムタンバ、ZAFOD)
    (写真3の説明:女性用トイレの入口までには6段の段差がある)

    写真4:ルサカ市内にある官公庁のトイレ内の写真(撮影者:カトンゴ・ムタンバ、ZAFOD)
    (写真4の説明: トイレの出入口が狭く、トイレ内に手すりはない)

    またZAFODからは、ルサカ市内の道路は排水溝に蓋がないため視覚障害者が転落する危険性や、アクセシブルでない公共交通機関に加えて、バス等の交通機関職員に対する障害啓発が不足しているため、スタッフによる障害者の乗車介助のない状況が報告された(写真5と6参照)。

    写真5:ルサカ市内の道路の状況 (撮影者:カトンゴ・ムタンバ、ZAFOD)
    (写真5の説明:道路脇の排水溝に蓋はなく、誘導用ブロックや柵は設置されていない)

    写真6:公共交通機関のバスの乗降口 (撮影者:カトンゴ・ムタンバ、ZAFOD)
    (写真6の説明:ザンビアの公共交通機関の事例として、バスの乗車口には4段の段差があり、バリアフリー対応にはなっていない)

    ZAFODの関わったアクセシビリティ改善に関する成果の一例として、障害当事者の呼びかけによる物理アクセシビリティの改善の事例も報告された。ZAFODは、ルサカ市内のホテルで「パブリック・ダイアローグ・フォーラム」を開催した際に、フォーラムの開催前にはホテルの会場やトイレに段差があったが、障害当事者たちが働きかけた結果、24時間以内に会場やトイレ前にスロープが整備されるなど、当事者の声によってアクセシビリティの改善がなされ、バリアフリーでフォーラムが開催されたことが報告された。(写真7参照)

    写真7:ホテル内のトイレ入口前に整備されたスロープ (撮影者:カトンゴ・ムタンバ、ZAFOD)
    (写真7の説明:トイレ入口に整備されたスロープを使用する車いす利用の参加者と介助者)

    その後、降幡氏からは、南アフリカのハウテン州でDPI日本会議が実施中のJICA草の根パートナー型プロジェクト「障害者自立生活センターの拡大と持続的発展」(注3)の事業概要の説明と、アクセシビリティに関連する活動の成果報告があった。プロジェクトでは、日本から障害当事者のアクセシビリティ専門家の派遣や、ピアエデュケーターの育成により、住宅を改修して当事者の住居環境が改善された事例が共有された。また南アフリカでは、バスは人々の移動にとって重要であるが、アクセシブルなバスがないため人々の移動は制限されていた。そのため、車いすで乗車可能なリフト付きバンを日本から輸入し、地域のバス循環移送サービスの運用開始を目指すなど、当事者の参画や行政関係者との協働によって、アクセシビリティが改善している事例が紹介された。
    本会合の最後には、ZAFOD会長のバカリ氏から、DPI日本会議関係者に対して、「日本や南アフリカの成功事例をもとに、ザンビアにおいてもアクセシビリティ改善に関する活動を展開してほしい」との要望があった。またZAPD局長のゴマ氏からは、閉会の辞とともに、本オンライン会合は双方にとって大変実りが多く、障害者分野の知見やノウハウを共有できる貴重な機会であるため、今後も障害を取り巻く多様なテーマにてオンライン会合の継続を希望するとのコメントがあった。ゴマ氏の言葉通り、日本とザンビアのアクセシビリティ促進に関わる関係者が共鳴しあうなか、今後の更なる連携を確認し、会合は締め括られた(写真8参照)。

    写真8.オンラインでの集合写真(撮影者:DPI日本会議)

    4.今後の展望
    ザンビアなどアフリカの国々と日本は遠く離れているが、コロナ禍で促進されたオンラインでの繋がりにより、アフリカの人々の存在はより身近に感じることができるようになっている。国を越えた人との繋がりの中で、アフリカの貧困や経済の格差などの状況を知る一方で、私たちは障害を取り巻く社会的障壁や課題に共通点があることに気付くのである。
    2022年8月27日及び28日にチュニジアで開催される第8回アフリカ開発会議(The 8th Tokyo International Conference on African Development: TICAD8)では、 “Leave no one behind(誰一人取り残さない)”をスローガンとした持続可能な開発目標(SDGs)の実現を後押しすることが期待されている。 またその前後の期間には、オンライン上で「障害と開発」を含むサイドイベントが企画されている。SDGsの達成のために、日本とアフリカの国々の間を越境する障害者当事者団体間の更なる連携と、ドナーや政府の関与や支援が今まで以上に期待されているといえるのではないだろうか。

    (注1) ザンビア基準局(Zambia Bureau of Standards; ZABS)とは、商務貿易産業省傘下の法定機関であり、規格の開発や標準化・品質保証サービスを提供する役割を担っている。
    (注2) 2013年に策定された国家アクセシビリティ基準は、関連省庁や関係者内で周知されておらず、基準の検証もなされていない。ZAPDは、本基準に関するコンセプトペーパーを作成し、全国10州の障害当事者団体や自治体の担当課職員や建設業者等を対象としたアクセシビリティ監査員の育成と、国家アクセシビリティの基準の検証を行う迅速調査の実施に向けた企画書を作成したが、予算の不足により未実施となっている(日下部のフィールドワークでの聞き取りより)。
    (注3) DPI日本会議が実施している「障害者自立生活センターの拡大と持続的発展」プロジェクトの参照URL:https://www.dpi-japan.org/blog/tag/south-africa/

    <参考文献>
    Central Statistical Office, 2012, 2010 Census of Population and Housing: National Analytical Report.
    https://www.zamstats.gov.zm/download/5648/?v=5660
    (閲覧日:2022年7月12日)
    Central Statistical Office and Ministry of Community Development and Social Services, 2018, Zambia National Disability Survey 2015.
    https://www.unicef.org/zambia/media/1141/file/Zambia-disability-survey-2015.pdf
    (閲覧日:2022年7月12日)
    Chiluba, B, C., and Njapawu, W, G., 2019, Barriers of Persons with Physical Disability over Accessibility and Mobility to Public Buildings in Zambia. Indonesian Journal of Disability Studies (IJDS). 6(1): p53 – 63.
    href=”https://ijds.ub.ac.id/index.php/ijds/article/download/130/90/527″>https://ijds.ub.ac.id/index.php/ijds/article/download/130/90/527(閲覧日:2022年7月12日)
    DPI日本会議, 2020, 8月3日(月)第2回「新幹線実証実験報告」.
    https://www.dpi-japan.org/blog/workinggroup/traffic/%e7%ac%ac2%e5%9b%9e%e6%96%b0%e5%b9%b9%e7%b7%9a%e5%ae%9f%e8%a8%bc%e5%ae%9f%e9%a8%93%e5%a0%b1%e5%91%8a/
    (閲覧日:2022年7月20日)
    Mwale, N., and Chita, J., 2016. Religious pluralism and disability in Zambia: approaches and healing in selected Pentecostal churches. Studia Historiae Ecclesiasticae, 42(2), 53-71.
    The World Bank, 2021, DataBank, World Development Indicators.
    https://databank.worldbank.org/source/world-development-indicators
    (閲覧日:2022年7月31日)
    United Nations, 2016, Report of the Special Rapporteur on the rights of persons with disabilities on her visit to Zambia, A/HRC/34/58/Add.2.
    https://www.refworld.org/pdfid/58b00b5c21.pdf
    (閲覧日:2022年7月12日)

『障害学研究』第19号 自由投稿論文の募集

学会誌『障害学研究』第19号(2023年9月刊行予定)の自由投稿論文を、下記の要領で募集いたしますので、ふるってご投稿ください。
なお、第19号の【エッセイ】の〆切は、エッセイ選者の「求めるエッセイ」とともに、11月中旬にあらためて正式にお知らせしますが、2023年1月末あたりを予定しています。

なお、第19号の【エッセイ】の〆切についてお詫びと訂正があります。当初予定を送れており申し訳ありませんが、エッセイ選者の「求めるエッセイ」とともに、1月中旬にあらためて正式にお知らせしますが、2023年3月末あたりを予定しています。

・本文末の「投稿規程」と「執筆要項」を熟読の上、ご投稿ください。
・図表を添付する際の形式や執筆フォームなど、よくご確認の上、ご投稿ください。

■分 量:20,000字以内 (詳しくは末尾の「執筆要項」を参照)
■締 切:2022年9月15日(木)
■送付先:yukara「あっと」akashi.co.jp
(送信の際は「あっと」を@に変えてください)

【担当者】 明石書店 辛島悠さん

【備考】
1.送付にあたっては、
1)原稿は添付ファイルとし、
2)メール本文には投稿者の氏名と所属、論文タイトルを記し、
3)メールの件名を、「障害学研究第19号 投稿論文」としてください。
受領しましたら、こちらから確認のメールをお送りいたします。万が一、送信後3日を経ても確認メールが届かない場合は、事故の可能性がありますので、恐れ入りますが、その旨を記した上、再度原稿をお送りください。

2.掲載にあたって、会員名簿にご登録のお名前とは別のお名前(ペンネーム等)をご使用になる場合は、そのペンネーム等に加えて、学会名簿にある名前を原稿に併記して、ご投稿ください(投稿資格の有無を確認する際に必要になります)。加えて、どちらの名前での掲載を希望するかも明記してください。

3.投稿後、査読(最大2回)をおこなって、掲載の可否を決定します。

4.論文投稿に不慣れな方は、研究論文執筆に関する一般的な留意点について、研究経験の豊富な人のアドバイスを受けたり、学術論文に関する一般的なルールを参考にしてください。

【問い合わせ先】
yukara「あっと」akashi.co.jp(送信の際は「あっと」を@に変えてください)

【担当者】
明石書店 辛島悠さん

障害学会・第10期編集委員会
委員長 堀田義太郎

◇ 『障害学研究』自由投稿論文・投稿規程:

『障害学研究』自由投稿論文・投稿規程

◇ 『障害学研究』自由投稿論文・執筆要項:

『障害学研究』自由投稿論文・執筆要項

30年前に戻って

田中恵美子 2022年3月14日

 障害学会国際委員会が発足し、理事として委員にさせていただいた。最初のエッセイを書くこの時期に、突然ウクライナに対するロシアの軍事侵攻が始まった。驚いている。戦争ってこんなに簡単に始まってしまうんだと思った。しかもNATOなんて、20世紀の枠組だと思ってきたのに、それが原因?
だが、そうではなかった。今回の戦争は冷戦後の30年間くすぶっていた、20世紀の枠組が再び姿を現したものだった。それに戦争は、私が気づこうとしていなかっただけで、いつも世界のどこかで起きていた。とはいえ、この緊迫した国際情勢の中で、今回の戦争について触れておくことが必要ではないかと思い、エッセイの内容は急遽変更した。

1. ウクライナに対する軍事攻撃の始まり
2022年2月24日未明、ロシアによるウクライナに対する軍事侵攻が始まり、首都キエフで爆音が響いた。戦場の様子はテレビやインターネットを通じて即時私たちのもとにも伝えられ、現実のものとは思えないような映像が次々と映し出された。最初ロシア軍の標的となったのは、軍事施設といわれたが、すぐさま戦禍は主要都市に及び、早い時点から原子力発電所への攻撃が始められた。プーチン大統領は、大企業幹部との会合で、「ほかの選択肢はなかった」と述べ、軍事侵攻を正当化し、国際社会に核戦争をほのめかすような発言も行った。
映像に映し出されるのは、難民として国境を超えようとする人々の列、女性と子どもであり、また彼女らと別れを惜しむ男性の姿もあった。18歳から60歳の男性は国外出国が禁止されたからだ。国家の非常事態に男性は兵士として国を守ることを義務付けられたのだ。人口350万人という首都キエフには現在も200万を超える市民が残っているという。
難民の列の中に障害者は見られなかった。多くの障害者は逃げることができず、自宅にとどまっているのではないだろうか。あるいはもともと市内には生活しておらず、施設にいて、そこにとどまっているのだろう。3月10日にヨーロッパ障害フォーラム、インクルージョンヨーロッパ、欧州障害者サービス事業者協議会によって開催された記者会見の趣旨文によると、ウクライナには270万人の障害者がおり、知的障害者は26万1千人と推定される。そして多くの障害者が置き去りにされているという。

2. 「障害者はいかにつくられるか」
2022年3月4日、障害学会は「ウクライナへのロシア連邦による侵攻と障害者の保護と安全に関する障害学会理事会声明」を発表した。以下に紹介する。

ウクライナへのロシア連邦による侵攻は国際法に違反し絶対に容認できません。この侵略行為は障害者を含むウクライナ国民に対して、深刻な被害をもたらしています。私たちはロシア連邦にウクライナからの無条件即時撤退を強く求めます。
障害者権利条約に至る世界の人権の促進と擁護の取り組みは、戦争がもたらした惨害への深刻な反省から始まりました。そうした悲劇を繰り返してはなりません。障害者権利条約は「平和で安全な状況が、特に武力紛争及び外国による占領の期間中における障害者の十分な保護に不可欠である」という認識の下に、「危険な状況(武力紛争、人道上の緊急事態及び自然災害の発生を含む。)において障害者の保護及び安全を確保するための全ての必要な措置をとる」ことを締約国に求めています。当事国そして周辺国、人道的支援に取り組んでくださっている機関を含め、すべての関係者に対して、この障害者権利条約の規定の遵守を緊急に要請します。
私たちは日本の東日本大震災において、障害者の死亡率が住民全体の死亡率よりも2倍以上に高かったという痛切な経験を持っています。その経験にも基づいて、平和の即時的確保と、この緊急事態における障害者の保護と安全確保を要請します。

戦争によって障害者に多くの被害が及ぶことが想定される中、このような声明をいち早くまとめ、理事声明として提示いただいたことに感謝したい。また私からはやはり戦禍の中で障害者が生み出されていること、そしてそれはのちに後遺症としても生み出し続けられることを伝えておきたい。
「障害者はいかにつくられるか」が1981年にシンガポールで開催されたDPI(障害者インターナショナル)の第一回大会のテーマであったと私に教えてくれたのは、その大会に日本代表として参加した近藤秀夫氏だった(注)。近藤氏は日本からこのテーマにあった議題として何を持っていくか考え、ベトナム戦争の特集番組で描き出された枯葉剤の使用の様子の映像を持っていくことにした。当時、ベトナム戦争に関する映像は、日本であってもアメリカの統制下にあり、自由に報道することができなかった。しかしその中でいわば放送事故のように映像を流してしまった報道番組があった。その映像を近藤はテレビ局まで押しかけ、何とか入手し、なけなしの金で編集して5分だけ8ミリビデオに落として持っていった。空港の検閲で没収されたが、何とか現地のスタッフの努力で取り戻し、会場で上映したそうだ。
「その時、初めて僕はそのフィルムを見た。それはもうぞっとするような…。家の玄関から障害者が這って出てくる。枯葉剤で歩けなくなった障害者が、みんな這って出てくる。ケアする者が何もないから。その(5分の)フィルムは強烈なところをとってあった」(近藤氏のインタビューから)。
上映後アメリカの参加者から、映像がアメリカを中傷するものだというクレームが来たが、近藤氏は、「障害者はいかにつくられるか」というテーマは戦争とリンクしている。戦争を問うためにこのフィルムを持ってきたんだと説明したら、納得したと述べていた。
爆破されたウクライナの町や逃げ惑う人たちの様子をテレビで見ながら、私は近藤氏の言葉を思い出していた。障害者はつくられる。戦争によって。解説者が、プーチンが核について触れていることも怖いが、化学兵器について何も言わないことも不気味だと述べていた。ゲリラ的に化学兵器を使用する可能性もあるのだという。そうなったら近藤氏が見たおぞましい映像がまた現実のものとなるのだ。早く戦争を何とか止めなくては。

3. 市民の生活から
今回の出来事の起こりは1989年のベルリンの壁の崩壊、そして1991年のソビエト連邦の崩壊に端を発しているという。そのころのことを私はとてもよく覚えている。当時私はドイツ語を学ぶ学生であった。連日授業でドイツ語のニュースを聞き、映像をみて、また新聞を読んだ。そしてベルリンの壁が崩壊し、人々が歓喜の声を挙げている様子を目の当たりにした。つい9か月前までその壁を乗り越えて西に逃げようとした若者が射殺された、その場所で、人々は壁をハンマーで打ち壊していた。堂々と西に向かう人たちの姿が映し出され、こんな瞬間が、私が生きているうちにおこるのだと驚いたものだった。
1990年3月に私は初めてドイツを訪れた。その時、友人たちとベルリンを旅し、短い時間だったが旧東ドイツ側にも滞在した。確かまだ規制があったように思う。長い時間滞在しなかったという記憶がある。貧乏学生の貧乏旅行だ。食事はほんとに質素なものを食べながらの旅だった。東側に行ったとき、ちょうど夕方に駅の近くのお店でパンを買って、それを夜行列車の中で食べて夕食にしようと思って、確か1マルクで大きなパンを買ったと思う。とても安かったという記憶がある。だが、夜行列車で食べようと思ってもどうしても食べられなかった。空腹に耐えながらも、どうしてもそのパンを捨てるしかなかった。臭くて食べられなかったのである。腐っているのではない。小麦の質が悪すぎて臭くてどうしようもなかったのだ。それくらいひどい暮らしを東側の人たちはしてきたのだとその時実感した。そしてその生活を抜け出したいと思ったことも痛いほど分かった。壁一つ隔てた先にある生活とまるで違うのだ。
ウクライナがNATOに加盟したいというのは、あまりに無謀だと思った。ロシアと面したウクライナがNATOに加盟したいというのは、ロシアにとっては脅威だった。そこまでは理解できる。しかしウクライナの人々が自分たちの生活を変えたいという思い、西側の一員になりたいと思う気持ちは止められないだろう。ロシアの中でも声を上げる人たちがいる。かつてゴルバチョフは、「欧州共通の家」という構想を打ち出し、冷戦を終結へと向かわせた。西側に加担すると考えるのではなく、全ての人が自由と尊厳を持って生きられる社会にするという方向で考えていくことができないだろうか。プーチン大統領が指揮するこの戦争がどのような結末を迎えるのか、予測がつかない。最悪の結末になる前に、何とか市民の力を結集して、ロシアの内部から変革がおこってくれないだろうか。かつての東ドイツのように…多くの犠牲を出す前に。

追伸:このエッセーを書き終えた朝、ロシア国営テレビの生放送中に女性職員が反戦を訴えて「戦争をやめて」と書かれた紙をもってキャスターの後ろに映り、また「戦争をやめて」と叫んだという事実を知った。この女性は警察に拘束されているという。ロシア国民に立ち上がってほしいと思いつつ、彼女のような人が厳しい処罰を受けることを覚悟して動くことを扇動するような発言はできないと、心が重くなった。一体どうしたらこの惨事は終わるのだろう。

(注)近藤秀夫氏は1964年のパラリンピックに出場し、その後町田市役所勤務など、様々な経験があり、簡単には紹介ができない。季刊福祉労働166~170に連載。現在書籍化を行っている。

ウクライナへのロシア連邦による侵攻と障害者の保護と安全に関する障害学会理事会声明

2022年3月4日
障害学会理事会

 ウクライナへのロシア連邦による侵攻は国際法に違反し絶対に容認できません。この侵略行為は障害者を含むウクライナ国民に対して、深刻な被害をもたらしています。私たちはロシア連邦にウクライナからの無条件即時撤退を強く求めます。
障害者権利条約に至る世界の人権の促進と擁護の取り組みは、戦争がもたらした惨害への深刻な反省から始まりました。そうした悲劇を繰り返してはなりません。障害者権利条約は「平和で安全な状況が、特に武力紛争及び外国による占領の期間中における障害者の十分な保護に不可欠である」という認識の下に、「危険な状況(武力紛争、人道上の緊急事態及び自然災害の発生を含む。)において障害者の保護及び安全を確保するための全ての必要な措置をとる」ことを締約国に求めています。当事国そして周辺国、人道的支援に取り組んでくださっている機関を含め、すべての関係者に対して、この障害者権利条約の規定の遵守を緊急に要請します。
私たちは日本の東日本大震災において、障害者の死亡率が住民全体の死亡率よりも2倍以上に高かったという痛切な経験を持っています。その経験にも基づいて、平和の即時的確保と、この緊急事態における障害者の保護と安全確保を要請します。

Board of Directors of the Japan Society for Disability Studies

Statement on the Invasion of Ukraine by the Russian Federation and the Protection and Safety of Persons with Disabilities

March 4, 2022

We find the invasion of Ukraine by the Russian Federation to be a violation of international law and absolutely unacceptable. This aggression has caused serious harm to the Ukrainians, including persons with disabilities. We urge the Russian Federation to withdraw unconditionally and immediately from Ukraine.

The global efforts to promote and protect human rights that culminated in the Convention on the Rights of Persons with Disabilities (CRPD) started with serious reflection on the scourge of war. Such tragedies must not be repeated. The CRPD, ‘bearing in mind that conditions of peace and security… are indispensable for the full protection of persons with disabilities, in particular during armed conflicts and foreign occupation’, requires States Parties to ‘ensure the protection and safety of persons with disabilities in situations of risk, including situations of armed conflict, humanitarian emergencies and the occurrence of natural disasters.’ We urgently urge all stakeholders, including both parties, neighboring countries and agencies working on humanitarian assistance, to comply with the relevant provisions of the CRPD.

We remember very painfully that in the Great East Japan Earthquake, the death rate of persons with disabilities was twice that of the population as a whole. Based on that experience as well, we sincerely request the immediate assurance of peace as well as the protection and safety of persons with disabilities in this emergency situation.

(English version by Nagase Osamu and Mark Bookman, members of International Committee of JSDS)

Рада керівників товариства Японії з вивчення проблем інвалідності

Заява про російське вторгнення на Україну та захист і безпеку людей з інвалідністю

4 березня 2022 року

Ми вважаємо російське вторгнення на Україну грубим та неприпустимим порушенням міжнародного права. Ця агресія завдала страшних втрат українцям, у тому числі людям з інвалідністю. Ми закликаємо Російську Федерацію негайно та безумовно вивести війська з України.

Глобальні зусилля направлені на захист та забезпечення прав людини, в результаті яких було складено Конвенцію про права осіб з інвалідністю (CRPD), почалися з переосмислення принесеної війною біди. Такі трагедії не повинні повторюватися. CRPD, «з огляду на те, що мирні та безпечні умови існування… є невід’ємною частиною забезпечення захисту людей з інвалідністю, зокрема в умовах збройних конфліктів та іноземної окупації», потребує від країн-учасників «забезпечити захист та безпеку людей з інвалідністю в умовах ризику, включаючи збройні конфлікти, гуманітарні кризи та стихійні лиха». Ми терміново закликаємо усі причетні сторони, включаючи обидві сторони конфлікту, суміжні країни та агентства, що займаються гуманітарною допомогою, дотримуватись положень CRPD.

Ми болісно згадуємо, що за часів Великого токохуського землетрусу, смертність серед людей з інвалідністю була вдвічі вища за середню серед населення. Маючи цей досвід, ми закликаємо до негайного забезпечення миру та захисту і безпеки людей з інвалідністю у цій надзвичайній ситуації.
翻訳協力:トポリアンテティアーナ

日本障礙學會針對俄羅斯聯邦入侵烏克蘭暨保護障礙者安全之聲明

2022年3月4日

日本障礙學會理事會

對於俄羅斯聯邦侵略烏克蘭之違反國際法之情事,本會在此聲明,絕對無法容許此行為。此侵略行為對於烏克蘭國民、包含障礙者在內,已造成嚴重的傷害。本會強烈要求,俄羅斯聯邦應立即無條件地撤出烏克蘭國境。

包括「聯合國身心障礙者權利公約」在內、國際上各項致力於促進及擁護人權之活動,對於戰爭所導致的慘烈傷害,已有深刻地反省;戰爭所造成的悲劇,不容再重蹈覆轍。聯合國身心障礙者權利公約以「(各國)應致力於維持和平並安全的狀態,特別在武力紛爭及外國勢力佔領期間,應確保障礙者獲得充分的保護」為前提,要求各締約國「於危險狀況下(包括武裝衝突、人道緊急情況及自然災害時),國家應採取必要措施,確保障礙者獲得保護及確保安全。」包含當事國及鄰近周邊國家、進行人道救援的相關組織等,對於所有的相關人士,可依身心障礙者權利公約提出緊急要求。

日本在311東日本大地震的災害中,得到障礙者的死亡率相較於受災區全體住民的死亡率高出2倍以上的慘痛經驗,基於該經驗,我們要求即時確保和平,並在此緊急狀態下,必須確保與保護障礙者的安全。

(障礙學會國際委員會成員高雅郁譯)

Совет попечителей Японского общества по изучению проблем инвалидности

Заявление о вторжении Российской Федерации в Украину и защите и безопасности людей с инвалидностью

4 марта 2022 года

Мы считаем, что вторжение Российской Федерации в Украину является абсолютно неприемлемым нарушением международного права. Эта агрессия нанесла серьезный ущерб украинцам, включая людей с инвалидностью. Мы призываем РФ безоговорочно и немедленно вывести войска из Украины.

Глобальные усилия по продвижению и защите прав человека, кульминацией которых стала Конвенция о правах инвалидов (КПИ), начались с серьезных размышлений о бедствиях войны. Такие трагедии не должны повторяться. КПИ, “принимая во внимание, что обстановка мира и безопасности … является непременным условием для полной защиты инвалидов, в частности во время вооруженных конфликтов и иностранной оккупации”, требует от государств-участников “обеспечивать защиту и безопасность инвалидов в ситуациях риска, включая вооруженные конфликти, чрезвычайные гуманитарные ситуации и стихийные бедствия”. Мы настоятельно призываем все заинтересованные стороны, включая обе стороны, соседние страны и агентства, занимающиеся гуманитарной помощью, соблюдать соответствующие положения КПИ.

Мы с болью вспоминаем, что во время Великого восточно-японского землетрясения уровень смертности среди инвалидов был в два раза выше, чем среди населения в целом. Исходя из этого опыта, мы искренне просим немедленно обеспечить мир, а также защиту и безопасность людей с инвалидностью в этой чрезвычайной ситуации.

Переведено с помощью www.DeepL.com/Translator (бесплатная версия)

障害学会会則

第1章 総則
(名称)

第1条 本会は、障害学会(Japan Society for Disability Studies )と称する。

(目的)

第2条 本会は、障害を社会・文化の視点から研究する障害学(Disability Studies)の発展・普及と会員相互の研究上の連携・協力をはかることを目的とする。

(事務所)

第3条 本会の事務所は、別途理事会の定めるところに置く。

(事業)

第4条 本会は、第2条の目的を達成するため下記の事業を行なう。

1.研究大会ならびに研究会の開催
2.学会誌その他の刊行物の発行
3.共同研究の促進
4.内外における関連学会・研究団体との連絡
5.その他第2条の目的を達成するために必要な事業

第2章 会員
(入会)

第5条 本会の趣旨に賛同する者は、所定の様式にしたがい入会を申し出た上で理事会の承認を経ることで会員となることができる。

(会員の権利ならびに義務)

第6条 会員は、学会運営に参加するとともに、学会大会で発表し、学会誌に投稿し、学会誌・通信の配布を受けることができる。

第7条 会員は、別途定められた会費を納入しなければならない。

(退会)

第8条 会員は、事務局に書面で申し出ることにより退会することができる。

第9条 3年度分以上の会費を滞納した会員は、理事会の議決により退会したものとみなすことができる。

第3章 組織
(機関)

第10条 本会の事業に関する審議・執行のために次の機関をおく。

1.総会
2.理事会
3.各種委員会
4.事務局

(総会)

第11条 総会は、本会の運営について審議する最高意志決定機関であり、年1度定期的に開催される他、理事会の判断により必要に応じて招集することができる。また、全会員の3分の1からの要請があった場合、理事会は総会を開催しなければならない。

第12条 すべての会員は、総会において発言し議決を行う権利を有する。総会での議決は、出席会員の過半数の賛同をもって承認されるものとする。

(理事会)

第13条 理事会は、本会の活動の全般にわたる審議・執行のための機関であり、年1度定期的に開催される他、会長の招集により必要に応じて開催される。また、全理事の3分の1からの要請があった場合、これを開催しなければならない。

第14条 理事会での議決は、全理事の過半数の賛同をもって承認されるものとする。

(各種委員会)

第15条 理事会が認める場合、必要事項の審議と執行にあたる機関として、各種委員会をおくことができる。

第16条 各種委員会での議決は、それぞれの委員会を構成する全委員の過半数の賛同をもって承認されるものとする。

(事務局)

第17条 本会の会務の執行を補佐する機関として事務局を置く。

第4章 役員
(役員)

第18条 本会に次の役員をおく。

1.理事 15名以内
2.会長 1名
3.事務局長 1名
4.各種委員会の長ならびに委員 若干名
5.会計監査 3名以内

(役員の選出)

第19条 役員の選出は、次の規定によるものとする。

1.理事は、「障害学会理事選出規定」に基づいて選出する。
2.会長は、総会において理事の中から選出される。信任投票の場合、総会出席会員の過半数の信任をもってこれを承認する。3.事務局長は、総会において理事の中から選出される。信任投票の場合、総会出席会員の過半数の信任をもってこれを承認する。
4.各種委員会の長は、理事会において理事の中から選出される。信任投票の場合、全理事の過半数の信任をもってこれを承認する。
5.各種委員会の委員は、当該委員会の長が理事会と相談の上任命する。
6.会計監査は、総会において理事以外の会員の中から選出される。信任投票の場合、総会出席会員の過半数の信任をもってこれを承認する。

(役員の任期)

第20条 役員の任期は2年とする。ただし、学会大会の開催にかかわり設置された委員会の長ならびに委員に関しては当該大会の開催までを任期とする。いずれも原則として再任は妨げないが、会長については、連続しての再任は2期までとし、理事については、連続しての再任は4期までとする。

第5章 会計
(会計)

第21条 本会の経費は、会費および寄付金その他の収入をもって支弁する。支出は、総会が承認した予算にもとづいておこなう。

(会計年度)

第22条 本会の会計年度は、毎年4月1日より翌年3月31日までとする。

第6章 雑則
(細則)

第23条 本会則に関する細則を、理事会において別途定める。

(会則の改正)

第24条 本会則を改正するには、総会において出席会員の3分の2以上の承認を要するものとする。

付則

本会則は、2003年10月11日から施行される。

2006年6月3日改正。

2007年9月16日改正。

2012年10月27日改正。

2022年10月23日改正。

 

中国と”Nothing About Us Without Us” ――障害学国際セミナーへ

長瀬修 2022年1月20日

 ちょうど10年前になる。振り返れば、それは機会の窓が開いていた時期だったと言えるかもしれない。2012年だった。金子能宏さん(国立社会保障・人口問題研究所)から、中国人民大学で行われる障害者に関する国際会議で社会保障について報告してほしいと話があった。適任ではないと最初は辞退したが、有難いことに再度お誘いをいただき、結局は北京に足を運んだ。会議で驚いたのは、出席していた中国の障害者リーダーが圧倒的多数の研究者を前に”Nothing About Us Without Us"(私たち抜きで私たちのことを決めないで)を訴えていたことである。

(中国人民大学にて筆者と故金子能宏さん:右)

 私は、DPI(障害者インターナショナル)アジア太平洋ブロック議長を務められていた八代英太さんのスタッフをしていたことから1980年代後半から北京を訪問する機会があり、DPIのメンバーである中国障害者連合会(半官半民)との付き合いがあり友人もいる。しかし、熱気のこもった”Nothing About Us Without Us”を中国の障害者から耳にしたことはなかった。そのため人民大学で、骨形成不全やアルビノのリーダーが、障害者権利条約交渉時に何度も繰り返された、障害者自身の参加を強くアピールする言葉を口にするのを目にした時は非常に新鮮であり、衝撃だった。

 官制でない中国の障害者運動との出会いには心を動かされた。この2012年6月末の会議での出会いから中国通いが始まった。この会議以来3年で10回、足を運んだ。尖閣諸島をめぐる問題で日中間の関係が悪化したのは2012年の夏であり、8月には中国各地で激しい反日デモが行われ、それ以前から微妙だった日中関係は非常に緊張した時期だった。しかし、この間中国で不愉快な経験をすることはただの一度もなかった。逆に大歓迎された記憶がある。反日デモの翌年の2013年の8月に初めて武漢を訪問した時だった。市民社会や障害者組織が中心となった若手障害者の研修合宿だった。ボランティアをしていた何人もの若い女性や男性から一緒に写真に入ってほしいと頼まれたのである。これだけ「人気者」だったのは空前絶後である。武漢で同時に開かれた会議では、市民社会からインクルーシブ教育に関する武漢宣言が出されている。

(武漢の名所、黄鶴楼)

 

(武漢での会議場)

 こうした出会いから日中の障害学に関する交流が始まった。尖閣諸島をめぐる緊迫した雰囲気の中で、“Nothing About Us Without Us”を訴えていた中国のリーダーたちに日本に来てくれないかと打診したら躊躇なく即座に快諾をもらった。それが実現したのが年明けすぐの2013年1月である。東京大学経済学研究科の「社会的障害の社会理論・実証研究プロジェクト(REASE)」(松井彰彦代表)主催の公開研究会だった。同年11月にもやはりREASEが中心となって別の中国の障害者リーダーを日本に招聘し公開講座を開催した。その機会に立命館大生存学研究所(当時はセンター)が来日リーダーを京都に招き、研究会を開催した。2010年から毎年、日韓で交互に開催されていた障害学国際セミナー(Korea Japan Disability Studies Forum)があったので立岩真也さんと私は日中でもそうした新たな交流ができないかと京都で打診したが、政治的問題から難しいという返事だった。そこで、障害学国際セミナーを日韓から日韓中に拡大することとした。そして、2014年11月には、ソウルでの障害学国際セミナーに初めて中国グループが参加し、翌2015年には北京で障害学国際セミナーが初めて開催された。その時点で英文名称は現在の”East Asia Disability Studies Forum”へと変更した。そのため2016年から台湾グループが加わっても、英文の名称変更も必要なかった。

 その間、障害学会大会(2014年11月:沖縄国際大学、岩田直子大会長)のプレ企画として、「シンポジウム 東アジアの障害学のネットワークに向けて」が2014年10月に沖縄国際大学で実現している。障害者権利条約の中国の初回審査(2012年9月)に共にパラレルレポートを提出した、ワンプラスワン障害者文化開発センターとイネーブル障害学研究所の代表を招くことができた。堀正嗣学会会長が出席されたこと、沖縄自立生活センター・イルカ訪問、そして平和学習に取り組んでいる沖縄の高校生がひめゆりの塔に案内してくださったのが特に印象に残っている。

 この時期の中国の障害分野の大きな動きは、2012年9月に実施された障害者権利条約の初回審査である。国際的にも注目度が高く、国際障害同盟は同年春に香港で、審査に向けたワークショップを開催している。その成果として前述の二つのパラレルレポートが提出された。初審査を受けての国内の対応について「竜頭蛇尾」という言葉を使う中国のリーダーがいるが、それだけ期待が大きかったことの裏返しかもしれない。

 10年前に北京で耳にした“Nothing About Us Without Us”を忘れたくはない。数か月後の尖閣の問題の沸騰を考えると、少し時期が違っていたら、この出会いはなかったかもしれない。振り返ってみると隔世の感がある。2012年11月に現政権が登場してから潮目は変わったことは明らかだ。障害者組織による若手障害者リーダーを対象とした研修合宿も2015年を最後としてそれ以降は開催されていない。日本に招いたリーダーが帰国後、警察に呼び出されたこともあった。2017年1月からは外国NGO規制法が施行されている。今年2022年夏に中国の第2回目の審査が予定されているが、中国の市民社会からのパラレルレポートは一本も提出されていない。しかし、現在も窓は完全には閉じられてはない。開いている部分がある。”Nothing About Us Without Us”を訴える中国の障害者の肉声が日本を含む東アジア、そして世界に届くチャンネルの一つとしても障害学国際セミナーはあるのかもしれない。

関連サイト:

「武漢―障害学国際セミナー、桜、水餃子」REDDY:エッセイ (u-tokyo.ac.jp)

 

 

障害学の風:国際委員会エッセイコーナー

 このエッセイコーナーでは、新たに設置された国際委員会のメンバーが障害学と国際的な交流や動きについて自由闊達に個人としての思いを学会員向けにつづります。

30年前に戻って
田中恵美子、2022年3月14日

中国と”Nothing About Us Without Us” ――障害学国際セミナーへ 
長瀬修、2022年1月20日

障害学会10期理事会・委員会体制

会長:石川准(静岡県立大学)
事務局長:深田耕一郎(女子栄養大学)
会計監査:木口恵美子(鶴見大学)・鈴木良(同志社大学)

◆研究企画委員会
岡部耕典(早稲田大学)
熊谷晋一郎(東京大学/委員長)
長瀬修(立命館大学)
鈴木良(同志社大学)
麦倉泰子(関東学院大学)

◆編集委員会
天田城介(中央大学)
堀田義太郎(東京理科大学/委員長)
矢吹康夫(立教大学)
石島健太郎(帝京大学)
市野川容孝(東京大学)
田中みわ子(東日本国際大学)

◆国際委員会
田中(長岡)恵美子(東京家政大学)
長瀬修(立命館大学/委員長)
伊東香純(日本学術振興会・中央大学)
高雅郁(立命館大学)
日下部美佳(京都大学)
後藤悠里(福山市立大学)
ミトー・アンヌ=リーズ(パリ・ディドロ大学)
ホワニシャン・アストギク(ロシア・アルメニア大学)

◆20周年記念事業実行委員会
・委員長 石川准(静岡県立大学)
・出版事業WG
岡部耕典(早稲田大学)
川島聡(岡山理科大学)
高森明(中央大学)
山下幸子(淑徳大学/リーダー)
・日米障害学会共同開催WG
長瀬修(立命館大学/リーダー)
田中(長岡)恵美子(東京家政大学)

◆第19回大会 大会長
廣野俊輔(同志社大学)

◆広報担当
立岩真也(立命館大学)
矢吹康夫(立教大学)

◆情報保障担当
高森明(中央大学)
田中(長岡)恵美子(東京家政大学)
廣野俊輔(同志社大学)
頼尊恒信(聞稱寺)

◆渉外担当
川島聡(岡山理科大学)

『障害学研究』第18号(2022年8月刊行予定)のエッセイ募集

学会誌『障害学研究』第18号(2022年8月刊行予定)のエッセイを、下記の要領で募集いたしますので、ふるってご投稿ください。

■ 分量:1200文字以上 10000文字以内(詳しくは末尾の審査規定を参照)
■ 締切:2022年2月28日
■ 送付先:yukara「あっと」akashi.co.jp
(送信の際は「あっと」を@に変えてください)

【担当者】 明石書店 辛島悠さん

【備考】
1.送付にあたっては、

1)原稿は添付ファイルとし、
2)メール本文には投稿者の氏名と所属、論文タイトルを記し、
3)メールの件名を、「障害学研究第18号 投稿論文」としてください。
受領しましたら、こちらから確認のメールをお送りいたします。万が一、送信後3日を経ても確認メールが届かない場合は、事故の可能性がありますので、恐れ入りますが、その旨を記した上、再度原稿をお送りください。

2.掲載にあたって、会員名簿にご登録のお名前とは別のお名前(ペンネーム等)をご使用になる場合は、そのペンネーム等に加えて、学会名簿にある名前を原稿に併記して、ご投稿ください(投稿資格の有無を確認する際に必要になります)。加えて、どちらの名前での掲載を希望するかも明記してください。

障害学会・第9期編集委員会
委員長 堀田義太郎

『障害学会』エッセイ審査規定

『障害学研究』エッセイ審査規程・投稿規程

18号 エッセイ選者・プロフィール・求めるエッセイを掲載します。

◇ 安積遊歩(あさか・ゆうほ)さん/ピアカウンセラー 著書に、『癒しのセクシートリップ』太郎次郎社、『多様性のレッスン』ミツイパブリッシングなど。

障害を持った人の存在が、社会の中で大切な人として認識され始めて、まだまだ歴史は浅い。人類の歴史から見れば、それは驚異的な短さです。日本においても、青い芝の会などの当事者の会の立ち上がりがその認識を作ってきました。さらに社会の中で、大切で対等な人となるために、この場を使って様々にあらゆる声を上げていきましょう。

◇ 石井政之(いしい・まさゆき)さん/文筆業、ユニークフェイス研究所代表。著書に、『顔面漂流記』かもがわ出版、『肉体不平等』(平凡社新書)など。

障害者・病者の体験を踏まえて、思ったこと、感じたことを気軽に書いてみてください。それがエッセイの出発点。そのあとに、社会との関係について考察して、書き加えてみる。その原稿を数日寝かせて、もう一度、書き直してみる。それで当事者にしか書けないエッセイができあがるはずです。自分だけの日記を、社会にむけて書き直している、という感覚で。楽しみにしています。

◇ 小泉浩子(こいずみ・ひろこ)さん/日本自立生活センター自立支援事業所管理者。京都市の24時間介護保障の実現に尽力。多くの自立障害者のサポートをするとともに、ALS、重度知的障害者の支援などにも関わる。共著書『障害者運動のバトンをつなぐ』生活書院

エッセイを書いてみること、
これって、これまでの自分と向き合うってことだよね、
これまでの自分と向き合うと、きっと、いろんな感情が沸いてくるんじゃないかなぁ。
その沸いてきた感情をそのまんま、飾らず書いてほしいです。きれいな言葉なんかでまとめちゃうと、もったいないよ。
悔しさ、悲しみ、怒り、喜び、そのまんま、文字にしたら、きっと、読み手の心に伝わります。届きます。ぐじゃぐじゃな心を読ませてください。

◇ 渡辺一史(わたなべ・かずふみ)さん/ノンフィクションライター。著書に、『こんな夜更けにバナナかよ』文春文庫、『なぜ人と人は支え合うのか』ちくまプリマー新書など。

エッセイなのですから、なるべく理屈は控えめに、誰にでもわかりやすい言葉で、また、「私」という視点を大切にした文章を書いてください。とりわけ、障害当事者の方々からの投稿に期待しています。常日頃、これだけは人にいえない、いってはならない、と思い込んでいるようなことにこそ、本当の書くべきテーマは眠っているものです。あまり難しいことは考えずに、日々の切実な思いを形式にとらわれず自由に書いてみてください。