嶋田 仁美
障害福祉分野におけるデジタル技術の活用動向
報告要旨
近年、障害福祉分野においてもICTやAIなどのデジタル技術の活用が進みつつあり、その意義や影響について多様な視点から論じられている。本研究では、文献調査を通じて、当該分野における技術活用の動向や関連する課題を多角的に整理し、今後の検討に資する基礎的知見の把握を目指す。
報告原稿
1.はじめに
昨今、情報通信技術(以下、ICT)の発展は人々の生活に変化をもたらしている。この技術の発展は、障害のある人々の生活においても、自立促進や社会参加の可能性を高めるものとして期待されており、実際に活用事例も多数報告されている。一方で、個別の障害や特定の技術に関する活用事例の報告は散見されるものの、障害者の生活全般を俯瞰し、その活用状況を体系的に分析した研究は依然として少ない。そのため、本報告では、障害者の生活におけるICTの活用事例を網羅的に分析することで、その活用領域と効果を明らかにするとともに、普及を阻む課題を抽出する。本報告の成果が、今後の効果的なICT開発や支援策の立案に貢献することを目指す。
2.目的と方法
本報告は、過去の活用事例から、障害者の生活全般における、ICTの活用領域/効果/課題を整理することを目的とする。また、方法においては、以下のように文献の検索、および選定、分析を行った。
▪️文献検索方法
使用データベース:CiNii Research
検索対象の資料:論文(本文リンクあり)
検索キーワード(検索式):
障害者 AND ICT
障害者 AND AI
障害者 AND IoT
最終検索日:
2025年7月19日
▪️文献の選定
検索された文献においては、以下のような除外基準を設けテーマから外れるものを除外し、分析対象とする文献を絞り込んだ。
除外基準:
– ICT/AI/IoTの活用がタイトルや抄録に明記されていない
– 目次のみが記載された文献など、具体的なICTの活用内容が記載されていない文献
– ICT活用の対象が、障害者、およびその家族や支援者でないもの
▪️文献の分析
分析対象とした文献を精読し、要約表を作成する。観点としては、「障害種別」、「活用主体」(例:障害のある本人、家族、支援者)、「活用詳細」、「活用における課題」である。これらを列とした要約表の作成を通して、文献内容を統合していく。
3.結果
3.1.文献検索結果
前述の方法で文献を検索し、除外基準によって文献を絞り込み、以下の139件を分析対象とした。
障害者 AND ICT: 99件
障害者 AND AI: 34件
障害者 AND IoT: 6件
計 139件
これらの文献の内容を前述の方法で分析し、障害種別、ICTが障害者の生活の中でどのように活用されているか(3.2)、また活用における課題は何か(3.3)を分析した。
3.2.ICTの活用領域
ICTは、障害者の生活を支援するツールとして、多岐にわたる領域で活用されている。
①地域生活およびコミュニケーション支援
画面読み上げソフトウェアや音声認識、視線入力、タブレット端末などを通じたコミュニケーション支援が挙げられる。これにより、視覚、聴覚、発話、知的・発達など、様々な障害特性に応じた意思疎通や情報アクセスが可能となっている。また、IoT技術による見守りやAIスピーカーによる家電操作は日常生活の自立度を高めている。
②学習支援の強化
視覚障害者向けのプログラミング教材や、読み書きに困難のある児童への音声化支援など、個々のニーズに応じた教育をICTによって実現している例がある。特にタブレット端末は、直感的な操作性とカスタマイズ性から、障害種別を問わず有効な学習ツールとなっている。高等教育においても、ICTを用いた合理的配慮が障害のある学生の権利を保障している。
③就労支援
テレワークの推進が移動に困難のある障害者の雇用機会を大きく拡大している。また、特例子会社などではICT導入による業務効率化も進んでおり、障害者の職域拡大に貢献している。
④医療・リハビリテーション分野
オンライン診療や遠隔でのリハビリ指導、また遠隔精神保健の事例が報告されており、ICTの活用で、地理的・身体的な制約を持つ人に対して支援を広げている。また、電子カルテの普及は、視覚障害のある医療従事者の業務効率を向上させる。
⑤芸術文化・余暇活動
音楽情報処理システムなどが障害を持つ人々の創作・鑑賞活動への参加を促している。
3.3.ICTの活用における課題
①技術的な課題
画面読み上げソフトウェアにおいてカバーできるコンテンツに限界があることなど、コミュニケーション支援に用いられるICT技術の表現力については未だ発展の余地がある。また、障害当事者にとってICT機器の操作習得が困難な場合や、OSアップデートで従来の支援技術が使えなくなるといった互換性の問題もある。さらに、学校や家庭におけるネットワーク環境や、福祉施設でのICT機器の整備不足も課題である。
②人材・教育に関する課題
障害特性とICTの両方を理解した支援者の不足が指摘される。教員や支援職員のスキル向上が急務であると同時に、当事者自身のICTリテラシーにも差があり、学習機会が都市部に集中するなど地域間格差も生まれている。
③制度・政策に関する課題
行政の助成が単年度で終了し、事業の継続性が確保しにくい問題がある。また、日本の支援制度が専用品中心に設計されてきたため、汎用的なICT機器が福祉用具として給付対象になりにくいなど、実態に即していない側面も見られる。
④心理的・社会的な課題
ICT利用によって障害が周囲に知られることへの抵抗感やプライバシーの問題、利用できる層とできない層との「デジタルデバイド」の拡大が懸念される。支援者側がリスクを過度に恐れて利用を制限してしまうケースや、テレワークが人間関係の希薄化や孤立を招く可能性も指摘されている。
4.まとめ
ICTは、障害者のあらゆる生活場面において、社会的な障壁を乗り越えるための具体的な解決策を提示し、社会参加を促進している。しかし、その恩恵をすべての障害者が享受するには課題があり、技術、人材、制度など多角的にICTの活用を後押しする必要がある。産官学、そして当事者自身が連携し、誰もがICTの恩恵を受けられるインクルーシブな社会の実現を目指し、継続的に取り組んでいくことが求められる。