宮崎 康支(関西学院大学客員研究員)、松岡 克尚(関西学院大学)、原 順子(元四天王寺大学)
インペアメント文化の諸相 ―インタビュー調査をもとに
報告要旨
インペアメントのある身体が環境との交互作用により紡ぎ出す生存戦略(インペアメント文化)についての理論的整理を行なった上で、その実相を明らかにすべく、11名の障害者に対してインタビュー調査を行った。その結果、インペアメント種別毎に障害者の生活上の工夫が浮かび上がった。さらに質的調査分析ツールを用いて、種別を越えた共通パターンの抽出を試みた。本報告はJSPS科研費(22K01998)から助成を受けた。
報告原稿
1.研究の背景と目的
「障害の社会モデル」はディスアビリティに注目することで、「できなくさせる社会」の変革を目指す視点を提供した一方で、身体機能制約としてのインペアメントへの関心が希薄化し、障害者の持つ豊かな生の世界を明らかにする点ではむしろ壁になったという批判があることは承知の通りである。その批判に応え、インペアメントへの再注目を促す研究が展開されてきたがその1つに、インペアメントの持つ身体が環境との交互作用によって織りなす生存戦略を「インペアメント文化」と称し、分析する試みがある(松岡 2018)。この場合、インペアメントそれ自体を問うているのではなく、それを有する身体と社会の関わりに見出せる「豊かさ」が関心の対象になる。
本報告は、インペアメント文化理論の精緻化を踏まえた上で、様々なインペアメントが生成する「文化」の実相についてインタビュー調査をもとに抽出し、その理論的体系化を図ることを目的とする。
2.研究方法
本研究はインタビュー(半構造化面接)による定性的研究である。報告者のうち2名ないし3名が合計11名の障害者(肢体不自由2名、視覚障害2名、聴覚障害2名、精神障害2名、発達障害3名)に、個別の対面ないしテレビ会議システムZOOMによるインタビューを行った。期間は2024年3月22日から2025年3月7日までであった。各インタビューに要した時間は平均約60分である。この文字起こしデータを、2段階に分けて分析した。第一段階は、各インタビュイーの発言におけるインペアメント文化要素の抽出である。これによって、インペアメント種別ごとの文化的要素を明らかにした。この際、各インタビューにおいて1名の分析者がインペアメント文化要素をマーキングした。第二段階においては、11名のインタビューデータを質的分析ツール(MAXQDA)において統合的に分析し、各インペアメント種別に通底する文化的要素を抽出した。
3.結果
精神障害と発達障害については、インペアメント自体とインペアメント文化が同一の表現に混在し、両者の区別が困難な個所も見られた。身体障害者はインペアメントを持った身体によって社会生活を送るべく工夫しているのに対し、精神障害と発達障害には、インペアメント自体に対応する工夫をとることが結果として社会生活への適用に繋がる傾向が見られた。
また、視覚障害と聴覚障害については、インペアメントが先天的なものか、中途であるかによって、文化の諸相に相違が現れることが示唆された。このように、インペアメントの特性、すなわち身体的な差異が、インペアメント文化のありように影響を与えていることは明確であった。一方で、インペアメント種別にかかわらず、インペアメント文化の社会への啓発に関する質問に対しては、個々の濃淡はあるもののその必要性を指摘する回答が目立った。
4.考察
上述したインタビュー調査の結果を踏まえ、インペアメント文化の表出には二つのタイプ(類型)が存在する可能性が示唆された。
4-1. タイプA
精神障害や一部の発達障害の場合に顕著であるが、主に脳機能上のインペアメント(やその治療、リハビリテーション)から生じる苦痛や制約を回避、ないし軽減するための工夫として編み出されたものと解釈できる。このタイプは、こうしたいわば「インペアメントを補綴」する試みが波及的に社会への適応行為につながるという意味では、間接的な生存戦略といえるだろう。
4-2. タイプB
インペアメントを持つ身体をそのままで、あるいは何らかの補助具や自助具ないし介助者などによって「補綴」を受けながら、バリアのある社会生活への適応を図っていく中で形成された生存戦略であり、インペアメント文化の本来的な定義に合致するタイプである。このタイプは、身体障害のインペアメント文化に典型的に見られる
5. 結論
生存戦略としてのインペアメント文化は、上記の通り、大きく2つのタイプに分けることができ、かつインペアメント種別によってタイプごとの顕在度に差が見いだせた。かつ社会へのインペアメント文化の専門職や一般社会への啓発については、概ねその必要性が共通して見出せた。障害者が自らの身体性を踏まえて生存戦略を柔軟に生成し、もって社会生活に活用している様子は、社会モデルによって描かれた様々な社会的バリアに対する障害者の身体性に立脚しながらの抵抗と生存として位置づけることができるかもしれない。その点に、インペアメント文化論を、社会的バリア解消を重視する社会モデルの拡張の中に組み込んでいける可能性を見出せるのではないかと考える。
倫理的配慮
本研究は「障害学会倫理綱領」を遵守して実施した。研究の遂行にあたり、関西学院大学「人を対象とする行動学系研究」(2023-65)と、四天王寺大学「多機関共同研究実施」(IBU2023倫第35号)の承認を得ている。COIは存在しない。本報告はJSPS科研費22K01998から助成を受けた。
参考文献
松岡克尚, 2018, 「インペアメント文化のとらえ方とその可視化: 障害文化, 障害者文化との比較を通して」『Human Welfare』 10(1): 79-91.