中山 忠政(弘前大学 教育学部)
わが国の「合理的配慮」は、評価されているのか? ~総括所見(2022年9月)の分析~
報告要旨
締約国報告(2016年6月)と、2つのパラレルレポート(日本弁護士連合会・日本障害フォーラム)において、「合理的配慮」の記載があった箇所を検討することによって、総括所見(2022年9月)において、わが国になされた「合理的配慮」に対する評価が、どのようなものであったかを明らかにした。
報告原稿
(目的)
総括所見(2022年9月)において、「reasonable accommodation」の用語が、21ヵ所用いられている。前報(中山,2023)においては、第24条(教育)と他の条文に対する懸念・勧告を比較し、合理的配慮の「一般援助化」とされるものは、52パラグラフの(c)の言及以外にはみられなかったことを報告した。一方、「Ⅱ Positive aspects(肯定的な側面)」(4~6パラグラフ)については対象としていなかった。
そこで、本報告では、総括所見(2022)全体において、わが国の「合理的配慮」がどのように捉えられているのか、その評価を明らかにする。
(方法)
総括所見(2022年9月)における「合理的配慮」について、締約国報告(2016年6月)と2つのパラレルレポート(2019年)を含めて、その評価を検討する。
(結果)
総括所見(英語正文)には、Ⅱ(Positive aspects)に3カ所、Ⅲ(Principal areas of concern and recommendations)に18カ所(第1-4条(1)、第5条(3)、第7条(1)、第11・16・18条(各2)、第24条(3)、第25条(2)、第27条(1)第30条(1))の18ヵ所、の計21カ所において、「reasonable accommodation」(合理的配慮)が用いられていた。
Ⅱ(肯定的な側面)においては、9つの立法措置が示され、それらについて「notes with appreciation」(外務省仮訳:評価する)とされていた(5パラグラフ)。その中の2つ((b)差別解消法とその改正と(i)雇用促進法とその改正)が、合理的配慮の義務化をしたものとされていた。続く、6パラグラフにおいては、7つの取られた措置が示され、「welcomes」(歓迎する)とされていた。その一つが、「合理的配慮指針」であり、この指針(2015年)は、雇用促進法にもとづいて雇用主が講ずべき措置を定めたものであった。Ⅱ(肯定的な側面)における言及は、「合理的配慮」が含まれた法律と指針についてのものであった。
Ⅲ(懸念と勧告)においては、「合理的配慮」について18ヵ所の言及がみられ、「合理的配慮の否定が、差別形態の一つとして認識されていない」(13パラフラフ)との指摘以外は、その不足や合理的配慮を含む措置等がとられるように求めるものであった。
ⅡとⅢのいずれにおける指摘は、合理的配慮そのものへの指摘でなく、「合理的配慮」が(問題なく)あることを前提とし、それを含んでいるとされる法律等の制定に対する評価と、その不足についてのものであった。
しかしながら、わが国の法律には、「合理的配慮」の文言は存在せず、その定義の規定もない。一般的意見6号は、「“Reasonable accommodation”is a single term」とされているにも関わらず、障害者基本法第4条第2項は、「社会的障壁の除去は、(中略)、その実施について必要かつ合理的な配慮がされなければならない」と規定されており、これが、わが国で「合理的配慮」とされるものとなっている。
さて、第1回締約国報告(2016年6月)には、和文のものに6つ、英文のものに14個、「合理的配慮」が用いられていた。両者の差(8つ)は、「合理的な(・)配慮」とされるものであった。和文における「合理的配慮」と「合理的な配慮」は、英語正文においては、いずれも「reasonable accommodation」と和訳されており、権利委員会に、和文における使い分けの意図(「合理的配慮」は、いわゆるとされるものであり、「な」は規定上のもの)は伝わるものではなかった。
パラレルレポートについてである。日本弁護士連合会によるもの(2019年1月)には、28ヵ所(第5条(7)、第11条(2)、第13条(4)、第24条(14)、第29条(1))にみられた。司法手続きやその利用において(第5・13条)や熊本地震(2016年4月)において(第13条)、提供がなされなかったこと、民間事業者による提供が義務づけられていないことなどが半数であった。残りの半数は、第24条(教育)に関するものであり、分離を含む「特別支援教育」において、「合理的配慮」を行っているとの運用を非難し、これを「詭弁である」とまで言い切るなどしていた。
日本障害フォーラム(JDF)によるもの(2019年6月)では、112箇所(うち条文に関するものは105箇所)にのぼった。第1-4条(5)、第5条(25)、第7条(3)、第8条(4)、第11条(5)、第13条(4)、第18条(5)、第24条(34)、第27条(12)、第29条(2)、第30条(1)、第32条(5)であった。各条文にわたり、合理的配慮の提供や不提供、その確保や充実を求めるものであったが、第24条(教育)における指摘の数が群を抜いていた。
(考察)
締約国報告(2016年)においては、障害者基本法などに「合理的配慮」が規定されたことが報告されていたが、あくまでも「必要かつ合理的な配慮」と規定されるものであった。英語正文においては、いずれもが「reasonable accommodation」と表記され、和文において「使い分け」がなされていることは伝わらないものであった。
パラレルレポート(2019年)においては、合理的配慮を「単なるなる支援」として理解し、ひたすらにその不足を指摘するものであり、わが国における「合理的配慮」のあり方を問題として捉えるものではなかった。
そのため、総括所見(2022年)においても、「その否定が、差別として認識されていない」との指摘がなされたもの以外は、合理的配慮の不足や合理的配慮を含む措置が取られるように締約国に求めるものとなった。
なお、日本弁護士連合のパラレルレポートにおいては、第24条(教育)に関しては、合理的配慮の運用について強い指摘をなしていたが、他の箇所においては、そのような指摘はなく、全体として、合理的配慮の規定のあり方を含め問題とせず、その不足等を指摘することに終始するものであった。
次回の締約国報告(第2~4回分)は、2028年2月までの提出が求められている。パラレルレポートを提出する団体等においては、まず、合理的配慮と「支援・援助」との違いを理解した上で、わが国における「合理的配慮」とされているものへの問題意識を持つことが重要なように思われた。
(Tadamasa NAKAYAMA)