ポスター報告19

堀 智久(名寄市立大学)
すべての子どもの多様な教育的ニーズに応える仕組み――ロンドン・ニューハムのプライマリースクールの実践から
報告要旨

2015年SENDコード・オブ・プラクティスでは、教師は、SENのある子どものみならず、教室内にいるすべての子どもの教育に対して責任をもたなければならないことが明記されている。ここですべての子どもとは、多様な社会的背景をもつ、あるいは多様な能力や特性をもつ、文字通りすべての子どもである。本報告では、ロンドン・ニューハムのプライマリースクールの実践から、学校全体で共有されている子どもの多様な教育的ニーズに応える仕組みを明らかにする。

報告原稿

1 研究目的

2015年SENDコード・オブ・プラクティスでは、教師は、SENのある子どもを含め、教室にいるすべての子どもの教育に対して責任をもたなければならないことが明記されている。とはいえ、教室には、SENのある子どものみならず、それこそ恵まれない子ども、EALの子どもなど、多様な教育的ニーズをもつ子どもがいるはずである。

そこで本報告では、ロンドン・ニューハムのプライマリースクールの実践から、いかにして教室にいるすべての子どもの多様な教育的ニーズに応えることができるのか、学校全体で共有されている子どもの多様な教育的ニーズに応える仕組みを明らかにする。

2 研究方法

本研究では、学校の報告書やポリシーなどの資料、またニューハムに所在するプライマリースクールでのフィールドワークによって得られたデータをもとに、いかにして学校全体としてインクルーシブ教育の取り組みが行われているのかを検討している。フィールドワークでは、インクルージョンマネージャーやSENCOをはじめとする学校スタッフへのインタビューおよび授業観察を実施している。なお、本研究の遂行にあたっては、リーズ大学の倫理委員会の審査を受け、承認を得ている(AREA 21-159)。

3 研究結果

3.1 質の高い授業

2015年SENDコード・オブ・プラクティスでは、「質の高い授業(High Quality Teaching)」の考え方が示されている。具体的には、「質の高い授業」とSENのある子どもへの対応との関係性について、次のような記述が見られる。

個々の子どものために差別化された「質の高い授業」は、SENのある(あるいはその可能性のある)子どもに対する対応の第一歩である。(Code of Practice, 6.37)

普段から「質の高い授業」がクラス全体で受けられるようになれば、……支援を必要とする子どもが減る可能性が高い。(同上、6.15)

SENのある子どもへの対応を行う以前の段階として、普段から教師が「質の高い授業」の提供を行うこと重要であると考えられている。この点は、恵まれない子どもやEALの子どもなどでも同様であり、子どもの多様な教育的ニーズを満たすためには、専門的な介入やリソースの投入を考える前に、まずは普遍的なレベルで多様な子どもを包摂できるアプローチが求められている。

3.2 支援の三層構造

すべての子ども(All)に対して、効果的な指導方法および学習活動による「質の高い授業」が提供される。この「質の高い授業」の提供にもかかわらず、学習に遅れの見られる一部の子ども(Some)には、追加的な支援を行うなどの個別的な調整が行われる。さらに、EHCプランをもつなど、ごくわずかの子ども(Few)に対しては、異なる指導方法および学習活動によるさらなる個別的な調整が施される。

3.3 指導の戦略やテクニック、教材等の形式知化

子どもの教育的ニーズに応じた差別化のための指導の戦略やテクニック、また教材などが、ツールキットと呼ばれる文書にまとめられている。具体的には、障害のある子ども、学習に遅れの見られる子ども、優秀な子ども(More Able)、EALの子どもなど、多様な教育的ニーズに応じるためのツールキットが用意されている。

たとえば、下位20%ツールキットに記載されているのは、誰にとってもわかりやすい授業をするための戦略やテクニックなどである。この点で、下位20%ツールキットは、ベテランの教師がもっているような、長年の指導経験のなかで培われた言語化しにくい感覚的な知識(暗黙知)を意識的に言語化し、マニュアルのような明示された知識(形式知)として提示したものである。

3.4 方針や手続き・サポートプラン・学習状況の共有、ラーニングウォーク

2015年SENDコード・オブ・プラクティスでは、SENのある子どもに対して適切な教育が行われることは学校全体の責任であることが明記されている。これを実現可能にする仕組みとして、①SENのある子どもをどのように受け入れるか、その方針や手続きを示したSEN情報レポート、②子どものサポートプランや学習状況を一元的に管理するクラウドアプリ、③クラス担任をはじめとする学校スタッフの教育実践を学校全体で常時チェックするラーニングウォークなどがある。

4 当日の報告に向けて

当日の報告では、こうしたニューハムのプライマリースクールに見られる子どもの多様な教育的ニーズに応える仕組みを整理することから、学校全体でインクルーシブ教育に取り組むための示唆を得たい。