ポスター報告18

木口 恵美子(鶴見大学短期大学部)
知的障害を持つ若者の高等学校卒業後の学びの現状と課題
報告要旨

現在行われている18歳以上の知的障害者の学習を広く「学び」として捉え、障害者権利条約24条を踏まえて、学校教育法による教育制度か、それ以外の生涯学習か、更にその学びがインクルーシブか特別支援かという4つの領域に整理し検討を行った。福祉制度による特別支援の学びの実践が増えている一方で、教育制度によるインクルーシブな取り組みの議論は、教育・福祉の本質を問うものとして、ようやく端緒についたばかりである。

報告原稿

1.研究の目的

近年、知的障害を持つ若者の高等学校卒業後の学びに関して教育と福祉の双方から関心が高まっている。その背景として、2014年に日本が批准をした国連障害者権利条約第24条が、「障害者を包容するあらゆる段階の教育制度及び生涯学習を確保する」ことを締約国に求めていることや、2022年に国連障害者権利委員会から日本政府に出された総括所見に、インクルーシブ教育の推進と分離教育の中止が示されたこと、2024年の障害者差別解消法の改正で、すべての大学で合理的配慮の提供が法的義務化されたことなどが考えられる。
障害者福祉の歴史を見ると、1978年に就学免除・就学猶予が原則廃止され、翌年、特別支援学校(旧 養護学校)の義務化により全員就学が実現した一方で、普通学校への入学が難しくなったことや、高等部卒業後の行き場がない等の問題も大きくなった。卒業後は施設入所か在宅生活しかなかった中で、1970年頃から家族や関係者が無認可で作業所を作り、日中活動や地域生活を支え、それらが現在の障害者総合支援法の生活介護、就労継続支援事業所、地域活動センター等につながってきた経緯がある。これまで、18歳以上の知的障害者は、就労若しくは福祉的就労を通して賃金を得て社会参加することに価値がおかれ、進学という選択肢は無いに等しかったと言えるだろう。障害者福祉の研究においても、知的障害者の就労や社会参加については長年の研究の蓄積がある。
しかし福祉施設現場では、知的障害を持つ若者の進路選択が限定的であることや、賃金を重視した活動になること等へのジレンマがある中で、近年、福祉制度を活用した学びの実践が行われるなど、新たな取り組みが見られるようになった。そこで本研究では、主に知的障害を持つ若者の、特別支援学校高等部や高等学校卒業後の学びの現状を整理し、あわせて課題を検討することを目的とする。

2.研究の方法

本研究では、18歳以上の知的障害者の学習を広く「学び」として捉え、障害者権利条約24条を踏まえて、学校教育法に基づくものを教育制度とし、それ以外を生涯学習とする。更にその学びがインクルーシブか特別支援かという視点で捉える。
研究の方法は主に文献研究で、書籍、実践報告、論文、会報、資料集、新聞、団体の機関紙やホームページ等を用いる。

3.倫理的配慮

障害学会の倫理綱領に基づき配慮した。

4.研 究 結 果

  • 教育制度×特別支援
    学校教育法に基づく特別支援学校の専攻科がある。国立大学法人1校の他、私立特別支援学校連合会所属の14校中10校が知的障害を対象としている。学校法人と社会福祉法人が一体的に運営されている団体もある。
  • 生涯学習×特別支援
    福祉制度を活用した学びの場が近年増えている。福祉制度として自立・生活訓練事業と就労移行支援事業の組み合わせや、地域生活支援事業に位置づいている。フリースクールを母体とする団体もあり、運営主体は社会福祉法人、NPO法人、株式会社など多様である。社会教育として、公民館等で行われる青年学級等もある。
  • 教育制度×インクルーシブ
    学校教育法に基づく大学等への進学が想定される。一般社団法人全国障害学生支援センターが2023年に行った調査によれば、回答のあった368校中、36校に77名の何らかの知的障害をもつ学生が在籍している。2024年の日本特別ニーズ教育学会第30回研究大会シンポジウムで「当事者の視点から探る知的障害者の『学び』の本質と知的障害教育の課題」をテーマに、大学で学んだ障害当事者がゲストスピーカーで登壇するなど、現状への問題提起がなされた。
  • 生涯学習×インクルーシブ
    大学の公開講座、市民活動への参加、習い事等が考えられる。大学の正規学生としてではないが、大学で授業を受けるプログラムを持ち、正規の学生との交流にも取り組む大学がある。

5.考 察

知的障害を持つ若者の高等教育の保障は教育と福祉の双方にとって、本質を問う課題であり、高等学校卒業後も学び続けたいというニーズに対して、福祉制度を用いて対応しようとする取り組みが創出されてきたことは、青年期の学びへのニーズに対応するための福祉と教育の越境として前向きに捉えることも可能であろう。しかしそこにとどまらず、インクルーシブな教育制度や生涯学習の充実と、その延長線上に市民としての社会参加が目指されることを、福祉と教育等が共に理解して進めていくことが重要な課題だと考える。