高橋 眞琴(鳴門教育大学)
学習指導要領における「主体的」表現の変遷
報告要旨
近年の特別支援学校学習指導要領においては、「主体的」という語句が用いられている。「主体的」には、「自分の意志に基づいて」という意味合いが包含されていると考える。それでは、過去の障害種関係学校の学習指導要領において、「主体的」の語句が用いられている箇所は、どのような語句が用いられ、表現がされていたのか。本発表では、1960年代から現行までの障害種関係学校の学習指導要領について確認を行った内容を報告したい。
報告原稿
現行の文部科学省(2017,p.61)『特別支援学校小学部・中学部学習指導要領』では,第1章 総則 第2節小学部及び中学部における教育の基本と教育課程の役割の部分で,「2(1)基礎的・基本的な知識及び技能を確実に習得させ,これらを活用して課題を解決するために必要な思考力,判断力,表現力等を育むとともに,主体的に学習に取り組む態度を養い,個性を生かし多様な人々との協働を促す教育の充実に努めること。」と述べられている。文章内で表記されている「主体的」とは,『大辞林』(p.1209)によると「自分の意志・判断えによって行動するさま」となっている。それでは,過去の学習指導要領では,総則の教育課程の役割にあたる部分で,「主体的」という表現がいつごろから出現し,どのような表現がなされていたのであろうか。本研究では,過去の各障害種学校の学習指導要領,そのうち,特に,小学部・中学部の学習指導要領において,表現の変遷を確認した内容を報告する。
文部科学省(1971)『特殊教育諸学校小学部中学部学習指導要領』においては,盲学校小学部・中学部学習指導要領のp.3に,第1章 総則 第2 教育課程一般に,「1 学校においては,法令およびこの章以下に示すところに従い,児童または生徒の視覚障害の状態および心身の発達段階と特性ならびに地域や学校の実態をじゅうぶん考慮して,適切な教育課程を編成するものとする。」と述べられていた。聾学校については,p.27で,養護学校(肢体不自由)については,p.54で,養護学校(病弱教育)については,p.79で,養護学校(精神薄弱教育)では,p.107で,障害種別を入れ替えた形で,同様の表現がされていた。この学習指導要領の特徴は,「養護・訓練」が追加されたことである。「養護・訓練」の目標は,盲学校小学部・中学部学習指導要領では,p.21で「児童または生徒の心身の障害の状態を改善し,または克服するために必要な知識,技能,態度および習慣を養い,もって心身の調和的発達の基盤をつちかう。」であった。聾学校,養護学校(肢体不自由)(病弱教育)(精神薄弱教育)でも同一の表現となっていた。
文部科学省(1979,p.3)『盲学校,聾学校及び養護学校 小学部・中学部学習指導要領』では,第1章 総 則 第2 教育課程一般において,「1 学校においては,法令及びこの章以下に示すところに従い,児童又は生徒の人間として調和のとれた育成を目指し,その心身の障害の状態及び発達段階と特性並びに地域や学校の実態を十分考慮して,適切な教育課程を編成するものとする。」と述べられていた。この年は,養護学校義務制の実施が開始された年でもあった。
文部科学省(1989)『盲学校,聾学校及び養護学校 幼稚部教育要領 小学部・中学部学習指導要領 高等部学習指導要領』の『小学部・中学部学習指導要領』では,p.1の第1章 総則 第2節 教育課程の編成 第1 一般方針1では,前半部分は,文部科学省(1979,p.3)と同様の表現がされていたが,後半部分において「学校の教育活動を進めるに当たっては,自ら学ぶ意欲と社会の変化に主体的に対応できる能力の育成を図るとともに,基礎的・基本的な内容の指導を徹底し,個性を生かす教育の充実に努めなければならない。」と述べられていた。2つめの段落で,「自ら学ぶ意欲」や「主体的に対応できる能力」といった,学習者の意志を示す「主体的」につながる表現がされていた。昭和から平成に元号が変わった年でもあった。
文部科学省(1998)『盲学校,聾学校及び養護学校 小学部・中学部学習指導要領(平成11年3月)』の第1章 総則 第2節 教育課程の編成 第1一般方針では,「学校の教育活動を進めるに当たっては,各学校において,児童又は生徒に生きる力をはぐくむことを目指し,創意工夫を生かし特色ある教育活動を展開する中で,自ら学び自ら考える力の育成を図るとともに,基礎的・基本的な内容の確実な定着を図り,個性を生かす教育の充実に努めなければならない。」とされており,ここでも「生きる力」や「自ら学び自ら考える力」といった学習者の意志を示す「主体的」につながる表現がされていた。また,「養護・訓練」が「自立活動」へ名称変更となっていた。
文部科学省(2009)『特別支援学校幼稚部教育要領 小学部・中学部学習指導要領 高等部学習指導要領(平成21年3月告示』でのp.41『特別支援学校小学部・中学部学習指導要領』の第1章 総則 第1 一般方針では,「学校の教育活動を進めるに当たっては,各学校において,児童又は生徒に生きる力をはぐくむことを目指し,創意工夫を生かした特色ある教育活動を展開する中で,基礎的・基本的な知識及び技能を確実に習得させ,これらを活用して課題を解決するために必要な思考力,判断力,表現力その他の能力をはぐくむとともに,主体的に学習に取り組む態度を養い,個性を生かす教育の充実に努めなければならない。その際,児童又は生徒の発達の段階を考慮して,児童又は生徒の言語活動を充実するとともに,家庭との連携を図りながら,児童又は生徒の学習習慣が確立するよう配慮しなければならない。」と述べられていた。ここでは,「主体的」という表現が出現していた。特別支援教育実施後の学習指導要領であった。
参考文献
松村明・三省堂編修所編(2019)『大辞林』(第4販)
文部省(1971)『特殊教育諸学校小学部中学部学習指導要領』慶応通信
文部省(1979)『盲学校,聾学校及び養護学校 小学部・中学部学習指導要領』慶應通信
文部省(1989)『盲学校,聾学校及び養護学校 幼稚部教育要領 小学部・中学部学習指導要領 高等部学習指導要領』大蔵省印刷局
文部省(1998)『盲学校,聾学校及び養護学校 小学部・中学部学習指導要領(平成11年3月)』
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/cs/1320718.htm で閲覧可能(閲覧日:2025.7,31)
文部科学省(2009)『特別支援学校幼稚部教育要領 小学部・中学部学習指導要領 高等部学習指導要領(平成21年3月告示)』海文堂出版
文部科学省(2017)『特別支援学校幼稚部教育要領 小学部・中学部学習指導要領(平成29年3月告示)』海文堂出版