ポスター報告16

大川公佳(筑波技術大学 障害者高等教育研究支援センター)
ろう学校高等部の自立活動における「障害認識」実践の変遷と現状―文献調査とアンケート調査を通して―
報告要旨

本報告は、ろう学校高等部における「障害認識」実践の変遷と現状を、ろう学校教員による実践報告や教材集の文献調査、および関東・関西のろう学校教員へのアンケート調査を通じて明らかにしたものである。障害認識が登場した1990年代以降、その内容が社会的理解から自己理解へと変化してきたことや、インクルーシブ教育の進展に伴う生徒数の減少や多様化を受け、従来の集団指導に基づいた実践の継続が困難になりつつある現状が示唆された。

報告原稿
  1. 背景と目的

聴覚障害教育分野では1990年代より「障害認識」という用語・概念が登場し、研究から実践まで様々な場で用いられてきた。理論面では上農(2003)による障害認識論が知られ、実践面では自立活動の時間における取り組みの一つとして、各地の特別支援学校(聴覚障害)(以下、ろう学校)で展開されている。自立活動の時間とは、特別支援学校の教育課程において特別に設けられた指導領域であり、時間割に組み込まれている。
ろう学校における「障害認識」実践について、小田(2004)は「障害についての理解と対処を含む、聴覚障害児の積極的な社会参加と適切な自己像の形成を目指す本人および関わり手の認識的営み」と定義している。しかし、こうした教育実践に関する調査研究は2001年、2004年の国立特殊教育総合研究所(当時)による報告書をピークに減少し、現在は全日本聾教育研究大会(以下、全日聾研)の自立活動分科会における報告が中心である。「障害認識」が登場してから約30年経過し、各校で多様な実践が行われてきたが、それらの内容や変化について整理した研究は少ない。以上をふまえ、本報告では、ろう学校高等部における「障害認識」実践の変遷と現状を明らかにすることを目的とする。

  1. 方法

2.1. 文献調査
第1回~第57回(1967~2023年度)の全日聾研における発表題目のうち、「障害認識」「自己認識」「社会認識」を含む題目を抽出・整理した。また、この実践報告やろう学校が作成した教材集、教員の手引書を参考に、ろう学校、とりわけ高等部では障害認識に関してどのようなことが目指され、どのような実践が行われてきたのかを確認した。

2.2. アンケート調査
2024年6~8月、関東と関西の公立ろう学校21校のうち高等部において自立活動、特に障害認識の指導経験をもつ教員6名(各校1名、計6校)を対象にアンケート調査を実施した。アンケートでは、調査協力者と赴任校の基本情報、高等部の自立活動の時間における障害認識に関する実践内容などを尋ねた。調査の実施にあたり、筑波技術大学研究倫理委員会の承認を得ている。

  1. 結果

3.1. 文献調査
全日聾研において初めて「障害認識」という用語が登場したのは1989年である。1990年代は、自立活動の前身である養護・訓練の中で「障害認識」の他に「障害の自己認識」「障害の受容」「障害自覚」などの言葉も用いられ、聴覚障害の理解、福祉制度、聴覚障害者の歴史・生活・社会参加、手話、コミュニケーション、進路などが主な内容であった。2000年代以降は「自己認識(理解)」「相互理解(他者理解)」に焦点を当てる報告が行われるようになり、近年では「障害認識」よりも「自己理解」や「デフフッド」に関する報告の数が上回っていた。具体的な内容としては、上記の内容に加えて成人聴覚障害者との交流会(ロールモデル)、自分の障害を知り他者に説明する力の育成(セルフアドボカシー)、言語的文化的少数者としてのろう者を中心に置いた教育活動(デフフッド)が見られた。

3.2. アンケート調査
関東と関西に位置する調査協力校6校の高等部の生徒数は、2校を除き1学年あたり10人以下であった。自立活動の時間は、6校とも週1時間の集団指導を基本としていた。障害認識に関する実践内容は、「自分のきこえ」「セルフアドボカシー」「福祉制度・福祉サービス」「情報保障・合理的配慮」「聴覚障害のある先輩の講演・交流(ロールモデル)」「聴覚障害者の歴史」が挙がった。これは文献調査の結果と概ね一致している。一方、時間割の制約により、総合的な探究の時間と統合して2時間連続で実施する学校や、逆に帯自立(毎朝10分×5日)への移行を検討する学校も見られた。

  1. 考察

本調査から、ろう学校における障害認識の実践は、時代とともに「障害とその社会的意味を知ること」から「自分自身を知ること」へと軸足を移していることが明らかとなった。この変化は、聴覚障害者を取り巻く社会の変化(差別の禁止、合理的配慮の提供、言語としての手話という認識の普及など)と連動していると考えられる。一方で、聴覚障害児の肯定的な自己像や障害観の形成と、その結果としての社会参加が最終的な目標にあるという点においては、障害認識の用語が登場した1990年代から一貫していた。
また、学習指導要領で規定されているような「個別対応」ではなく集団指導を基本としている点について、他の障害種の特別支援学校と異なったろう学校特有の指導形態であるといえよう(この点について、「個別の指導計画」に対する教員の態度から論じた文献として金澤(2013)がある)。しかし近年、インクルーシブ教育の進展に伴いろう学校の在籍者数が減少し、重複障害を有する子どもが増加している。生徒数の減少や多様化により、従来の集団指導に基づいた「障害認識」の実践を継続させることが困難になっている可能性がある。
今後の「障害認識」実践には、自立活動の時間にとどまらず、多様な生徒に応じた柔軟なプログラム開発が求められるだろう。

  1. 備考
    本研究は、報告者が筑波技術大学大学院に提出した修士論文の一部を再構成したものであり、開示すべき利益相反関連事項はない。