ポスター報告07

金在根(目白大学 人間福祉学科)
韓国の障害者運動における障害者団体の現状と課題
報告要旨

韓国の障害者運動は2000年前後から本格化し、日本の障害者運動の影響を受けつつも、独自の展開を見せていると言える。特に、障害者権利に関する法制定や脱施設化の推進など、制度的な変化が進む一方で、運動内部では障害者団体間の連帯や政府との対話の難しさが課題としてみられる。また、社会的認知度の低さなども持続的な運動を阻む要因と考えている。本研究では、韓国の主要障害者団体の現状や運動を分析し、日本の障害者運動の方向性と国際連携の可能性を探る。

報告原稿

1.背景と目的

韓国では2021年に「障害者脱施設化ロードマップ」が策定され、さらに2025年2月には「障害者の地域社会自立及び住居転換支援に関する法律」が国会で可決され、2027年3月からの施行が予定されている。これにより、脱施設政策の制度化が国レベルで進展している。一方、日本では制度整備が依然として限定的であり、障害者の地域移行も進んでいない。両国の違いの背景には、市民社会における障害者団体の運動の在り方が深く関係していると考えられる。本研究の目的は、韓国の障害者団体の現状と課題を明らかにすることで、障害者運動が政策形成に与える影響を具体的に把握し、日本における今後の障害者政策の推進に示唆を得ることである。

2.方法

2025年2月18日から19日にかけて、韓国の障害者支援団体に対する現地調査を実施した。対象は「仁川市障害者住宅転換支援センター」「韓国障害者開発院」「アニアの家(脱施設支援施設)」「韓国障碍人団体総連盟」であり、各団体の代表・職員に対して半構造化インタビューを行った。主に、運動方針、政策への関与、組織構造、他団体との関係性などを聞き取った。

3.倫理的配慮

本研究は、障害学会「倫理綱領」に則り、研究協力者の尊厳、権利、プライバシーを尊重しながら実施した。調査対象者には、研究の目的・方法・使用範囲について事前に十分な説明を行い、自発的な参加の同意を口頭で得た。インタビューの内容については、本人が特定されないよう匿名化を行い、発言や属性が特定されないよう配慮した。

4.結果と考察

韓国の障害者運動は1980年代の民主化運動と連動して発展し、数多くの障害者団体が形成されてきた。現在、地方の会員団体を除いても固有の性格を持つ団体が35以上存在し、運動の立場や政策へのアプローチの違いにより、穏健派、現実派、急進派の3つに整理できる。穏健派に分類されるのが「韓国障碍人団体総連盟」である。行政との協働を重視し、法制度の改善に取り組んできた同団体は、全国の地域団体を束ね、政策提言、人材育成、研修など多岐にわたる活動を展開している。1990年代以降、障害者の法的地位向上に大きな役割を果たしてきた。そして、「韓国障碍人団体総連合会」は現実派と位置づけられ、障害種別ごとの当事者団体が中心となって構成されている。主に福祉サービスの改善や制度改革を訴え、現実的な政策対応を求めて活動している。最後に、「全国障碍人差別撤廃連帯」は急進派と言える。地下鉄での直接行動やマニフェストの要求提出など、強いメッセージ性を伴う運動を展開し、障害者差別禁止法の制定や脱施設化推進に多大な影響を及ぼしている。社会的正義と当事者性を前面に押し出す姿勢が特徴である。
これらに加え、分類が難しい団体として、自立生活センター(ILセンター)の全国組織がある。運動に対する考え方の違いなどから「韓国障碍人自立生活センター協議会」「韓国障碍人自立生活センター総連合会」の2つが対立的に存在していたが、2019年に「韓国障碍人自立生活センター総連盟」という3つ目の連合体が存在している。2000年代初期には急進的なアプローチで重度障害者の地域生活支援を行っていたが、現在は制度運用の現実を踏まえ、穏健派や現実派的な性格を併せ持つように見える。
また、2007年に設立された「イルムセンター」は、複数の障害者団体が入居する複合施設であり、政策連携や情報共有の場として機能している。国会議事堂に隣接する立地条件から、政治との接点を持ちやすく、運動の可視化と影響力強化の拠点となっている。物理的な近接性が団体間の共同行動や迅速な情報交換を可能にしている点も注目される。
しかし、こうした多様な団体の存在は韓国の運動の強みである一方、課題も内包している。1つ目は、似た性格の団体が複数存在することで、運動の連携が分散し、政策提言の力が弱まる可能性がある。団体間での戦略調整が十分でない場合、連携不足や対立を招くことも考えられる。実際、脱施設化をめぐっては、当事者団体は「施設廃止」を積極的に訴える一方、親を主体とする団体では、「脱施設」より地域のインフラの構築を優先すべきという脱施設の運動に消極的な声が根強く、運動方針の共有が困難な状況が見られる。2つ目は、都市部と地方の財政格差が深刻であり、活動の継続性や影響力に違いが生じている。たとえば全国に250か所以上存在するILセンターのうち、中央政府からの安定的な支援を受けているのは62か所に過ぎず、地方の無所属のセンターは財政的に脆弱な状態にある。3つ目は、行政との関係性にも団体ごとの差がある。制度と協調する団体は、予算や制度設計への関与に強みを持つが、運動性や市民的連帯が希薄になる懸念もある。一方で、行政に対して批判的な団体は、社会的注目を集めやすいが、制度的反映には時間を要する場合がある。

5.結論

韓国では、障害者団体が多様な役割を分担しつつ、制度変革に寄与してきた。その中で、物理的・制度的なインフラ整備(例:イルムセンター)や、団体間の連携が政策実現に大きく貢献してきたと言える。今後は、団体間の役割分担と連携の深化、地域格差の是正、持続可能な財政基盤の確立が課題である。
日本においても、制度化を進めるには障害者団体の多様性を尊重しつつ、共通の目標に向けた協働体制の構築が不可欠である。韓国の事例は、障害者運動が政策形成に果たしうる役割を示すものであり、他国の施策展開に対しても重要な示唆を与える。

《参考文献》
・保健福祉部障碍人政策局『脱施設障碍人地域社会自立支援ロードマップ』2021年