ポスター報告04

正木遥香(流通経済大学)・岩田直子(沖縄国際大学)・平直子(西南学院大学)・田口康明(鹿児島県立短期大学)・廣野俊輔(同志社大学)・星野秀治(旭川市立大学)・堀正嗣(熊本学園大学)・橋本眞奈美(熊本学園大学)・頼尊恒信(滋賀県立大学非常勤/真宗大谷派 聞稱寺)・片山祥子(熊本学園大学大学院)
「転機」に関わる語りに着目した地方における障害者運動に関する研究
報告要旨

本報告は、九州・沖縄地方における障害者運動のリーダー9名の語りから、障害者運動へかかわるプロセスを分析し、障害者運動を捉える枠組みを再検討することを目的とする。分析の結果、障害者運動へかかわる際の「転機」についての語りは、構造は共通しているものの、意味づけ方が個々人で大きく異なっていることが明らかになった。したがって、障害者運動へのかかわりを段階論として把握しようとすると、実態を捉え損なう可能性があるといえる。
(※本研究はJSPS科研費JP24K05411、JP24K05461の助成を受けたものである)

報告原稿

1.研究目的

本研究グループは、これまで、九州・沖縄地方における障害者運動のリーダーにインタビューを行い、地方における障害者運動へ主体的に参加するための条件について検討を行ってきた。具体的には、障害者運動へ関与するに至った経緯と、関与の度合いについて聞き取りを行い、運動を主導するまでのプロセスの分析を行った。その結果、すべての調査協力者に次のような共通項があることが明らかになった。第一に、自分と同じような立場にいる当事者の活動を知る経験を有していたこと、第二に、さまざまな被差別体験を見たり経験したりしていること、第三に、抑圧からの解放や役割意識を自覚する経験をしたこと、第四に、複数のコミュニティに身を置きながら運動へ取り組んでいたということである。この結果からは、運動へ主体的に取り組むにあたっては、他者との相互作用がその中核をなしていることがわかるが、具体的にどのようなかかわりが重要なのかという点には、十分に踏み込めていない。そこで、本研究では、障害者運動のリーダーが自身と他者との関係性をどのように解釈しているのかに着目し、障害者運動を捉える枠組みを再検討することを目指した。

2.研究方法

今回は、九州・沖縄地方の障害者運動のリーダー9名を対象にインタビュー調査を行い、先述の運動へ関与するまでのプロセスを、彼/彼女らがどのように意味づけているのかについて検討を行うこととした。特に、本人が明確に「転機」とみなしている出来事が何なのか、そして、その出来事を「転機」たらしめた要因がどこにあるのかを、「語り」の構造に着目して分析することとした。「転機」に着目したのは、先述のこれまでの研究の蓄積から、運動へどのように関わるかという問いが、他者とどのように関わるかという視座と切り離せないものと考えたためである。
分析にあたっては、個々のインタビューデータを意味内容の類似性に着目して切片化を行い、コード名を作成した。その後、作成したコード間にどのようなストーリー構造が含まれるのかに着目し、これらの構造を比較するという手順で行った。

3.研究結果

すべての調査協力者が経験したもののうち、特に被差別経験については、語り方の力点が異なっていることが明らかになった。不当な扱いであると気付いたきっかけとして、最も多いのは自分自身がそうした扱いを受けたケースだったが、この場合、「自分自身のしたいことに対して制約が課せられること」に触れ、その内実として、「自分の能力に対して期待がかけられない」というものもあれば、「こうあるべきという像を押し付けられる」というものが挙げられた。また、単に他者からの扱いだけではなく、「他者の手を借りなければ生きられないため、不当な扱いを受けても耐えるしかない構造があった」と、社会構造について言及する語りも見られた。それ以外のケースとしては、「健常の他者から指摘されて気付いた」もの、「他の障害者がそうした扱いを受けているのを見た」ものもあった。また、被差別経験として、多くの人は行動や人生選択に関わるものを挙げていたが、「見た目」について挙げる語りも見られた。
これらの被差別経験は、運動でどのようなことを重視するのかという「語り」とも強い関連をもっていた。たとえば、「自分の能力に期待がかけられない」というエピソードに触れた調査協力者は、「同じ障害をある仲間の活動を見て、自分でもできる」と思った経験が「転機」となり、「仲間を大切にすること」を運動の軸としていた。また、「こうあるべきという像を押し付けられる」ことに対しては「実際の障害者の状況を知ってもらう」、「構造的な問題」に対しては「利害関係などの現実的な問題を考慮しながら活動を行う」という戦略につながっていた。
また、特に重要な「転機」として、他者との出会いが挙げられていたが、「そのままの自分でいいと肯定されること」「励まされたこと」のように、自身が受け取ったものについて触れる「語り」と、「相手へ好意をもったこと」「楽しかったこと」といった自分自身の感情について触れる「語り」の双方が、どの調査協力者にも見られたことが特徴的であった。

4.考察

運動へのかかわりを決定づけるにあたって、「被差別経験」は非常に大きなファクターであった。ただし、単に自分が受けた経験としてではなく、社会構造の問題として捉えられるようになるには、自己肯定感と、他者のために何かをしたいという感覚の双方が必要だと考えられる。
今回の分析からは、「被差別経験」といっても、その内実は非常に多様であることが明らかになった。したがって、運動へ方向づける他者の働きかけもまた、この多様な「被差別経験」のありようによって異なる解釈がなされると思われる。
以上のことから、障害者運動を分析するにあたっては、かかわりの度合いを段階論として把握するのではなく、経験の意味づけを問いながら検討を行う必要があると考えられる。

付記:本研究は沖縄国際大学の倫理審査を受けて実施している。

謝辞:本研究は、JSPS科研費JP24K05411、JP24K05461の助成を受けている。