金井明日香(東京大学大学院教育学研究科)
障害のある子どもが進路を形成する過程についての考察
報告要旨
現在は大学全入時代であるといわれ、高校卒業者の約6割が高等教育機関に進学する。にもかかわらず、特別支援学校高等部卒業者の進路については、卒業者の大学進学者数・進学率は減少し、反対に就職率は増加する状況にある。なぜこのような状況が生じているのか、筆者が現在行っている質的調査のデータを用いて分析する。
報告原稿
- はじめに
本報告では、障害のある子どもがどのように進路を形成していくのか、という問題関心のもと、大学進学に至るまでの進路形成過程の一端を明らかにする。
- 調査の方法
障害があり、かつ大学に進学した経験のある現役学生・元学生を対象とし、スノーボールサンプリングによって対象者を集めた。データ収集については、彼らの幼少期から大学進学に至るまでの過程を詳しく聞き取る、半構造化インタビューを実施した。調査に当たっては、事前に東京大学の倫理審査機関である東京大学ライフサイエンス研究倫理支援室の承認を得ている。また対象者に研究目的・内容について伝え、お互いに納得した状態で文書による同意を得て、データ収集を開始した。
- 分析方法
複線径路・等至性モデル(TEM)を用いてインタビューデータの分析を行う。この方法は、個人が経験した時間の流れをとらえ、様々な概念を用いて分析を進めていくものである。本報告では、「歴史的・文化的・社会的に埋め込まれた時空の制約によって、ある定常状態に等しく(Equi)辿りつく(final)ポイント」(p.3)である等至点(EFP)を「大学に進学する」と設定した。サンプル数については、「1・4・9の法則」(安田・サトウ 2012)を参考にした。これは、「研究の対象者数は、1人、4±1人、9±2人、16±3人、25±4人という具合で、異なる質を生み出しうる」(p.6)という経験則である。本報告では3人(4-1人)分のデータを扱うため、対象者の経験の多様性を描くことが可能になる。
- 結果
障害がある子どもたちが大学進学に至る径路は多様であるが、全員に共通する要素として「障害が障壁になる瞬間」を経験しており、これ乗り越えることで大学への進学が可能になっていたということが挙げられる。また、そのような経験を乗り越える契機は、保護者や教員とのかかわりの中で見いだされていた。このことから、障害がある子どもの進路形成については、身近な大人からの声掛け等のかかわりが重要な役割を果たしている。
- 今後の課題
今回のインタビューは、大学に入学した経験がある対象者が、自らの経験を回顧的に語ったものである。同時に、現在進行形で進路選択や様々な障壁を経験しているであろう生徒たちがどのようなことを感じていて、何を語るのかということを調査する必要もある。今後は特別支援学校高等部の内部で何が起こっているのか、生徒はどのようなことを経験しているのかということを明らかにしなければならない。
参考文献
安田裕子・サトウタツヤ 2012. 『TEM でわかる人生の径路―質的研究の新展開』誠信書房.