自由報告2-1

鈴木悠平(株式会社閒(かぶしきがいしゃあわい)/立命館大学大学院先端総合学術研究科)
視線入力ゲームを通した重度身体機能障害のある子どもと周囲の人たちのコミュニケーション支援と実証
報告要旨

重度の身体機能障害がある子どもたち(重症心身障害や医療的ケアニーズのある子どもを含む)が、ゲームを通して、楽しく成功体験を得ながら視線入力スキル(追視や注視)の向上や、他者(家族や療育者)とのコミュニケーションができる支援アプリケーション「EyeMoT」の活用事例を発表する。視線入力とゲームを組み合わせることで、1)重度の障害のある子どもたちの興味を引き付け、発信を引き出しやすくなること、2)視線の動きを可視化することで周囲の人も、その子が「わかっている」ことが「わかる」ようになり、関わりが変化すること、3)子ども本人の学習・社会参加の意欲・機会の増大、4)地域・世代・障害種別を越えたコミュニティの形成といった変化が多く生まれたことを示す。

報告原稿
  1. 背景と目的

脳性まひや脊髄性筋萎縮症(SMA)などにより、肢体不自由や発話困難といった重度の身体機能障害のある子どもたち(重症心身障害児を含む)は、表出手段が限られ、発信行動が乏しいゆえに、周囲が本人の意図を把握することの困難さを感じたり、本人も「できない」ことを学んで外界への働きかけが減る学習性無力感を獲得してしまったりなど (允宣 et al., 2021) 、他者とのコミュニケーション、学習、社会活動への参加など様々な場面での障害が生じやすい。伊藤史人らが開発した「EyeMoT」は、ゲームを通して、楽しく成功体験を得ながら視線入力スキル(追視や注視)の向上や、他者(家族や療育者)とのコミュニケーションができる重度障害児・者の支援アプリケーションである。風船割りやブロック崩しなど一人で遊びながら訓練できるゲームから、対戦塗り絵や玉入れなど対戦型のゲームまで、現在20種類近くのゲームがリリースされている。視線入力、スイッチ、マウス、キーボード等、ユーザーの身体機能に合わせて多様なインターフェースでの操作が可能であり、寝たきりの子どもや不随意運動が大きい子どもも利用できるのが特徴である。累計ダウンロード数は20万を超え、全国約1000校の特別支援学校の大半で導入されている。
障害のある子どもに対するゲームを通した支援は多くあるが(Beaumont et al., 2021、Saeedi et al., 2022など)、重度の障害のある子どもに関する研究は国内外共に少ない。本研究では、EyeMoTの利用が、重度の障害のある子どもの社会性や繋がりの獲得にどのような影響を与えるかを調査した。

  1. 方法

EyeMoTの利用を通した子どもたちの社会参加に着目してインタビュー調査を行った。参加者には事前にメール、電話等で研究趣旨と方法、謝礼や個人情報の取扱等について説明を行い、同意書を作成した。インタビューは半構造化面接形式で実施し、子どもの生育歴や障害、EyeMoT利用のきっかけ、EyeMoT以外に利用したことのあるコミュニケーション支援機器、子どものEyeMoT利用方法、EyeMoTの利用を通しての子どもと周囲の人たち(インタビュー協力者を含む家族や友達、支援者など)のコミュニケーション方法の変化、地域や学校、オンラインでの活動や交友関係の広がりを中心に質問した。

  1. 結果

開発者の伊藤の紹介を通して、在住地域、子どもの年齢、EyeMoTの利用方法、地域や学校とのかかわりが異なる5名にインタビューを実施した(表1)。

表1インタビュー対象者

回答者の立場EyeMoTユーザーの子ども・生徒について地域
保護者コルネリア・デ・ランゲ症候群 11歳東京
保護者低酸素脳症 9歳千葉
保護者脊髄性筋萎縮症Ⅰ型 18歳愛知
保護者ミトコンドリア病リー脳症 10歳島根
支援学校教員前任・現任2校の支援学校高等部生徒(約10名が利用)山形

EyeMoT利用前も、保護者や教員は、まばたき等の身体的サインの読み取りや、他のコミュニケーション支援機器を通して子どもとのコミュニケーションを試みてきた。既存の方法とEyeMoTとの違いとして、「子ども自らが能動的に表現・発信することができるようになった」、「回答者を含む周囲の人たちも本人の好きなこと・嫌なこと、やりたいことなどがより理解しやすくなった」など、より能動的、双方向的なコミュニケーションが可能になったことが語られた。
社会参加については、「障害のないきょうだいと障害のある子どもがEyeMoTで一緒に遊ぶようになった」、「通常学級と支援学級の交流授業でクラスメイトにEyeMoTの使い方を教えて、みんなで一緒に絵を描いた」、「療育センターの院内学級に所属しほとんど外に出られない最重度の生徒が、支援学校を卒業する先輩に向けて花束の絵を描いて贈った」、「社会福祉協議会のイベントに招かれて本人が視線入力やスイッチを使って講演をした」などの事例があった。

  1. 考察

重度の身体障害のある子どもの場合、一人ひとりの障害やニーズ、身体機能や利用方法、生活リズムや利用環境・利用時間の違いが非常に大きい。EyeMoTはわずかな視線の動きでも感知して視覚や音でのフィードバックを行うことができ、子どもの身体機能や好みに合わせたカスタマイズも可能である。視線入力とゲームを組み合わせることで、重度の障害のある子どもたちの興味を引き付けやすい、発信を引き出しやすくなること、視線の動きを可視化することで周囲の人も、その子が「わかっている」ことが「わかる」ようになり、関わりが変化することなど、重度障害児支援ツールとしてのEyeMoTの利点がインタビュー結果から示唆された。

参考文献

岩崎 允宣, 伊藤 史人, 縄手 雅彦, 奥井 大貴, 市川 誉, 重度障害児の“おもちゃ遊び”を可能にする視線入力アプリの開発, 日本デジタルゲーム学会 夏季研究発表大会 予稿集, 2021, 2021 巻, 2021 夏季研究発表大会, セッションID 4-1, p. 35-38

Beaumont R, Walker H, Weiss J, Sofronoff K. Randomized Controlled Trial of a Video Gaming-Based Social Skills Program for Children on the Autism Spectrum. J Autism Dev Disord. 2021 Oct;51(10):3637-3650. doi: 10.1007/s10803-020-04801-z. Epub 2021 Jan 3. PMID: 33389304; PMCID: PMC7778851.

Saeedi S, Bouraghi H, Seifpanahi MS, Ghazisaeedi M. Application of Digital Games for Speech Therapy in Children: A Systematic Review of Features and Challenges. J Healthc Eng. 2022 Apr 25;2022:4814945. doi: 10.1155/2022/4814945. PMID: 35509705; PMCID: PMC9061057.