大橋一輝(立命館大学)
知的障害のある人との「ともにある関係性」――余暇活動の場における「非専門家」に着目して
報告要旨
本報告は、知的障害者の余暇活動に参加する大学生ボランティアの視点から、知的障害者と支援者との固定的な関係性を再考するものである。本報告が対象とする「社会参加の推進」を目的に運営される余暇活動には、大学生や障害者家族、援助専門職者が参加する。このうち油絵制作に携わる大学生は、余暇活動の目的から逸脱し、知的障害者との何気ない関わりをただ楽しむ。支援の「非専門家」の大学生と知的障害者との相互行為を通して、従来の支援者役割が揺らぐ契機を論じる。
報告原稿
1.問題の所在
現代日本において知的障害者は、自由時間である「余暇」を家庭内で過ごすことが多く、他者との関係性が限定される状況にある(郷間・藤川・所 2007、丸山 2016)。それに対して近年では社会包摂の一環として、知的障害者を対象としたオープンカレッジや創造性を育む多様なワークショップが実施されている(東京藝術大学 2022、津田 2023)。このように、知的障害者と支援者との間で生まれる関わりは、福祉施設や学校で働く従来の援助専門職者に加えて、障害者アートに携わる美術関係者を含む専門家へと広がりつつある。だが、知的障害者の地域移行が進む今日では、専門知識を有する特定の支援者だけでなく、支援に関する専門知識をもたない健常者と知的障害者との関係性について検討する必要がある。
そこで本報告では、NPO法人M(以下、M 会)とボランティア部 H(以下、サークル H)が共同で実施する知的障害者の余暇活動を事例に、知的障害者と支援の「非専門家」の大学生ボランティアがどのような関係性を築いているのかを、支援者の視点から論じる。
2.調査対象と調査方法
2002年に「作業所づくり準備会」として結成されたM会は、2007年に法人格を取得し、活動方針を作業所づくりから余暇支援へと転換させる。M会が発足した1年後の2003年、M会に参加する知的障害のある子の親の働きかけによって結成されたのが、サークルHである。サークルHには、地方公立大学に通う大学生が参加する。M会には知的障害のある子をもつ障害者家族のほか、元特別支援学校教員や油絵の指導をおこなう芸術大学教員などの援助専門職者が所属している。
調査方法は、参与観察と半構造化インタビューである。筆者は2021年10月より活動に参加し、毎月の定例活動として実施される油絵と茶道の活動をフィールドノートに記述している。本報告では、フィールドノートの記述と半構造化インタビューのデータを参照する。なお、本調査の実施は、所属機関の「人を対象とする研究倫理審査」の承認を受けている(受付番号:ERHSS-2025-38)。
3.「普通の大学生」を求める声
2000年代には、障害者自立支援法で明記された「児童デイサービス」をはじめ、親が知的障害のある子を一時的に預ける仕組みが整備される。そこで、知的障害のある子を持つ親でありM会の理事長であるA氏が新たな問題とみなしたのが、「親子関係」である。では、「親子活動」を主軸とするM会の参加者は、サークルHの存在意義をどの点に見出すのか。
重度の知的障害のある子の母のB氏によると、活動見学の際には、知的障害者と「普通の大学生」が楽しそうに活動している様子に衝撃を受けたという。また、C氏は知的障害のある自身の子に対して、福祉大学の学生が熱心な関わりを持とうとする一方で、サークルHの大学生は適度な距離感で関わろうとしていると述べている。C氏は、以前に参加していた福祉系大学の学生が参加する余暇活動と比べて、サークルHに参加する大学生が「ぬるめ」の関わりをしている点に意義を見出す。このサークルHに所属している大学生は、援助専門職者や障害者家族が参加する活動において、知的障害者との関わりをただ楽しもうとする。
4.あけすけな関わり
定例活動は毎月実施され、「油絵制作」と「茶道」がおこなわれている。これらの活動の目的は、元特別支援学校教員のD氏が決めている。「茶道」は作法が決まっている活動として、知的障害者が礼儀作法を身につけるための場とされる。「油絵制作」は、「参加者の“自由に”“思いのまま”」取り組むことがねらいとされる。この2つの活動は、知的障害者と大学生が1対1のペアとなって実施される。ただし、知的障害者は、活動に対して意欲的に参加するとは限らない。それに対して、障害者家族や援助専門職者は、活動への参加を促す。サークルHの大学生も同様の行動をとる。だが、その際に知的障害者と大学生との間でみられるのは、対障害者家族や援助専門職者とは異なる、あけすけな態度や馴れあいである。知的障害者と学生主体の相互行為には、特定の目的にはとらわれない関わりがみられる。
5.考察と結論
本報告では、支援に関する専門知識を持たない「非専門家」と知的障害者との関わりの様相を検討した。M 会の参加者はサークルHに所属する大学生には、専門知識をもたない「普通の大学生」として活動に参加することを期待していた。一方、サークルHの大学生は、意図しない場面で生じる知的障害者との関わりをただ楽しむ。支援の「非専門家」である大学生は、専門性を持たないがゆえに、知的障害者との関係性において「ケアする/される」や「歓待する/される」といった固定的な関係性を流動化させる可能性をもつ。だが、大学生ボランティアと知的障害者との関わりには、トラブルも生じる。こうした発話が難しい知的障害者と専門知識をもたない支援者との間で築かれる関わりの内実を解明することは、今後の課題となる。
参考文献
郷間英世・藤川聡・所久雄,2007,「知的障害者の余暇活動についての調査研究――通所授産施設に就職している人を中心に」『奈良教育大学紀要』(56)1:67-70.
丸山啓史,2016,「知的障害者の余暇をめぐる状況と論点」『障害者問題研究』(44)3:2-9.
東京藝術大学Diversity on the Artsプロジェクト編,2022,『ケアとアートの教室』左右社.