山下幸子(淑徳大学)

障害学会第21回大会 大会校企画(2024年9月14日)

障害学研究 20号『障害学の展開』合評会

◆評者
瀬山紀子(埼玉大学)、石島健太郎(東京都立大学)

◆障害学会20周年記念事業実行委員会出版事業WGから
岡部耕典(早稲田大学)、川島聡(放送大学)、山下幸子(淑徳大学)

【敬称略】

*本スライドは、山下幸子が作成しています。

(スライド2)
この企画の趣旨
障害学会は、障害学会20周年の節目の年に記念号として『障害学の展開』を刊行した。本誌では、理論・経験・政治と3部構成を立て、会員による全24章の論考を掲載している。
本誌の背景や構成の趣旨は、「はじめに」で記載している。そこで本誌出版事業WGを代表して山下は、「20年の変化をもとに、本誌をあらわすなら、障害についての批判的分析と改革へのアクションのための書」(p.5)であると記した。WGとしてその自負はありつつ、しかしその意図どおりになっているのか、障害学の現在を論じるにあたり本誌で扱い切れなかった論点もあるだろう。こうした点は読者の判断に委ねられると考えている。
そこで、会員の瀬山紀子さん・石島健太郎さんのおふたりから、本誌を読んでの感想や評価を自由にご発表いただき、議論をしたい。

(スライド3)
内容等についての検討、出版までの経緯
・ 2021年11月の障害学会理事会で、20周年記念事業実行委員会出版事業WG発足。WGメンバーは、岡部耕典氏、川島聡氏、高森明氏、山下幸子。
・2021年12月、WGメンバー、石川准会長、深田耕一郎事務局長(当時)で初回のミーティング。この時から、内容や出版費用、情報アクセシビリティ等について検討を始める。
これまでの『障害学研究』掲載論文、学会大会報告等の確認を行うとともに、本誌で扱うトピックの選出と執筆者(会員)の検討を進める。
・3部構成(第1部:障害の理論と研究、第2部:障害の経験、第3部:障害の政治)にすることでWGで話がまとまる。各部の章を、第1部は川島氏が、第2部は山下が、第3部は岡部氏がリーダーとなって考案(WGでの複数回の意見交換をふまえて)。
・2022年5月、全章の構成考案完了。6月、執筆依頼
・2023年2月、各部での構想発表会
・2024年3月、『障害学研究20 障害学の展開』刊行

(スライド4)
『障害学研究20 障害学の展開』の目的
日本の障害学研究が積み重ねてきた成果や到達点、今後の研究課題を、障害学会会員により論じることを目的としている。
『障害学研究20 障害学の展開』の構成
出典:山下幸子「障害学研究の現在と未来への課題を探求する」(https://book.asahi.com/jinbun/article/15251760)(2024.8.9.閲覧)
・理論・経験・政治の各部は関連しあっている。
・第1部「障害の理論と研究」では、障害学の理論・研究として、反優生と障害学、イギリスやアメリカでの障害学の動向、2006年採択の障害者権利条約に関係する国連での障害概念の議論を紹介し論じるほか、正義論と障害、インターセクショナリティ、ろう者学についての論考を掲載している。
・第2部「障害の経験」では、障害学が障害の経験を礎に展開してきたことをふまえ、さまざまな種類の障害の経験とともに、障害のある女性の経験、障害者を家族にもつ/障害者がつくる家族の経験を取り上げている。
・第3部「障害の政治」は、障害当事者運動や障害学の知見がどのように政策に関与してきたのかという点を取り上げる。日本において障害当事者が国の障害者政策に関与していくようになる一つの契機は、2006年の障害者権利条約制定だと言える。ただ、それ以前からも障害者が自らの望む暮らしを目指し、周囲の人や地方自治体に働きかけていく―そこで生じる対立に立ち向かったり調整したりする―政治を展開してきた。第3部ではその軌跡を論じている。

(スライド5)
障害学会20年、障害を取り巻く状況の変化
山下は、本誌「はじめに」で状況の変化を2点に絞って示した。
①日本の障害学会設立当初の社会モデルについての理解が、より批判的に検討を重ねられるようになったこと。
・第2章のタイトルにある「障害から始まるが、障害では終わらない」。これは、批判的障害学を論じたダン・グッドレイの言葉。
・インターセクショナリティを取り上げた論文を複数掲載。

②2006年、障害者権利条約の制定
・ただし、障害者権利条約ができたから刷新的に障害に関する制度・政策が動いたわけではない。
・これまでの障害当事者運動の活動が土台の一部となり、現在の障害者制度政策がある。

(スライド6)
障害学研究のさらなる進展のために
「20年の変化をもとに、本誌をあらわすなら、障害についての批判的分析と改革へのアクションのための書であるということができるだろう。もちろん、私たちWGが取り上げ切れなかった論点は多い。紙幅の関係などにより残念ながら依頼を断念せざるを得なかった方々もいる。本誌をお読みくださっている障害学会会員をはじめ皆様には、本誌をさらに補うべく、今後の『障害学研究』や学会大会での研究発表に励んでいただきたい。」
(「はじめに」p.5)