坂野久美
人とのつながりに着目した地域移行支援 ―ぴあサポーターの関わりを通して―
報告要旨
地域移行とは、単に住まいを施設や病院から移すことではなく、障害者が市民として、自ら選んだ住まいで安心して自分らしい暮らしを実現することである。2012年から障害者の一般相談支援を行う事業所が、地域移行希望者に対し直接施設・病院に出向き、その意向確認や移行プログラムを作成し、地域への同行支援などを行う仕組みが導入されているが、その実効性についての報告は多くはない。
本研究では、筋ジストロフィー病棟(独立行政法人国立病院機構)の入院患者に対し、ぴあサポーターが直接出向き支援を行うことの実効性について、インタビューデータを基に分析し考察した。
入院患者にとってぴあサポーターの関わりは、同種の体験を知り、地域移行後の生活を描くことにつながる。また信頼できる他者との情報共有は、行動への意思決定の助けとなる。人とのつながりには、2者間の直接的な人間関係のほか相手への主体的評価が伴い、目的に関する情報を共有できる関係が重要である。
報告概要
人とのつながりに着目した地域移行支援
―ぴあサポーターの関わりを通して―
坂野 久美(岐阜医療科学大学 / 立命館大学先端総合学術研究科)
1.はじめに
地域移行とは、単に住まいを施設や病院から移すことではなく、障害者が市民として、自ら選んだ住まいで安心して自分らしい暮らしを実現することである。2012年から障害者の一般相談支援を行う事業所が、地域移行希望者に対し直接施設・病院に出向き、その意向確認や移行プログラムを作成し、地域への同行支援などを行う仕組みが導入されている。相談支援事業所には、ぴあサポーターと称される当事者が所属し、実際に筋ジストロフィー病棟(独立行政法人国立病院機構)の入院患者に対し、地域移行支援にあたっている。しかし、その実効性についての報告は多くはない。
そこで、筋ジストロフィー病棟から地域移行した患者や地域移行にかかわったぴあサポーターに対して行ったインタビューデータをもとに、ぴあサポーターが直接出向き支援を行うことの実効性について分析し考察した。
2.目的
本研究の目的は、筋ジストロフィー病棟(独立行政法人国立病院機構)の入院患者に対し、ぴあサポーターが直接出向き支援を行うことの実効性について、インタビューデータを基に分析し考察することである。ぴあサポーターの支援の実効性が明らかになることで、円滑な地域移行支援の一助となると考える。
3.方法
研究対象者の抽出および研究協力については,自立生活センター職員により研究対象者の紹介を依頼し,研究対象者に研究の趣旨を文書と口頭で説明し同意を得た。面接場所は,プライバシーが確保でき,対象者が負担にならない場所を対象者本人に選択を依頼した。
インタビューガイド(地域移行を選択したきっかけ,地域移行に関する相談や情報の入手方法,地域移行に至るまでの経緯,苦労したこと)を用いて半構造化面接を行った。対象者には自由に語ってもらい,その語りに共感しながらインタビューを進めた。後日内容の補足確認として再度インタビューを行った。インタビューの内容は,研究対象者の了解を得てICレコーダーに録音,文字化した。
1)研究対象
・筋ジストロフィー病棟から地域移行した患者1名(A氏)77分
・地域移行にかかわったぴあサポーター2名(B氏、C氏)61分
2)分析方法
筋ジストロフィー病棟から地域移行した患者2名と、地域移行にかかわったぴあサポーターに対して行ったインタビューデータをもとに、核となる場面を抽出し分析した。
4.倫理的配慮
調査の実施前に,対象者に対して調査の趣旨,内容や目的について文書と口頭で説明し,協力の撤回,離脱が可能であり,その場合も不利益を被らないこと,データの適正な扱いと厳重な保管・破棄の方法,公開予定の媒体等の明示,個人への調査結果のフィードバックについて説明した。インタビューの内容については,文字化後に対象者に内容を開示し確認を得るとともに,匿名表記についても希望を確認し,同意書への記名により本研究協力の承諾を得た。 (人を対象とする倫理審査番号:衣笠-人-2017-21)。
5.結果
A氏(B氏とは友人関係)
・ボランティアさんと一緒にBくんの友達のところに遊びに行き、筋ジスで24時間呼吸器を付けて24時間介護を受けているひとり暮らしの生活をみました。
・こんな自由な生活があることを知って、やっぱり病院にいるより退院したほうが楽しい
んじゃないと思い始めました。
・その後、退院の希望を主治医に伝えたけどヒラリとかわされ、病院からは、安全が保障できないという理由で外出時間や行動が制限されました。
・JCILに入ったBくんがJCILに相談してくれて、そこからようやく動き出しました。
病院からは「2時間以内に帰ってきてほしい」と言われ、けっこう精神的に落ちました。
・一番大変だったのは、何とか家に帰ってすぐに往診の先生に来てもらえる体制をBくんをとおしてJCILに作ってもらったことだと思います。
・現在僕はJCILで活動しています。今コロナでなかなか地域移行は難しい局面ではあるんですけど、地域移行、地域に出られたかたの地域定着支援とかをさせてもらってます。
「こんな生活ができるんだ」って、まだまだ知らない人が多いので広めていきたいです。
B氏
・昨年の12月からDさん(A氏と同病棟に入院する患者)の所に通いはじめて、4月に「自立したい」という電話がかかってきました。突然誰?みたいなそんな感じの出会いでした。
・僕たちが独り暮らしや自立という話をEさん(入院患者でB氏の友人)としているのを聞いていたみたいです。
C氏
・「じゃあ1回お話聞きにいかないと」となり、その前に手紙のやりとりをしました。
・お母さんは、はじめは本人の気持ちを尊重したい気持ちと、不安がものすごく強くて、「ほんまに大丈夫なんかな、やっぱり無理なんちゃうかな?」みたいな。電話で何回か話したり、1回か2回、JCILに来てもらって話したりとか。何か月かそれなりに不安っていうのはすごい訴えられて、そのたびに話しました。
・地域生活をしている人のおうちにも行きました。
・「24時間介助者がいるって言っても、なにかあったらどうするの?」ってまったくイメージできないって感じでした。
・お母さんはやっぱり不安を聞いてほしい、それがすごい強かったと思うんですよ、1人で抱え込んで、あれこれ考えてぐるぐるして、最後はなんかそれがしんどいっていうか。でも話を聞いて「けっこう重度やのに、できるんや」みたいな。
・Dさんとは電話で話すこともあったし、メッセンジャーで連絡取り合ってました。
B氏
・コロナになる前は筋ジス病棟へ面会に行ってました。
・でもこういう情報がDさんのところに届かなければ、たぶんDさんも筋ジス病棟を終の棲家やと思って、あきらめてはったんやろうなとも思って。
C氏
・ずっと出たいとは思ってるものの、どうしたらいいかわからない。結局何からどうしたらいいのか、わからない。あと「なんとなくネットにはのってて、みんなできてるけど、できる人だけができる。自分にはできないんじゃないか」みたいな。なんかちょっと遠い世界の話みたいに映ったりとかもするやろうし。
・今でもいろんな人を介して、「こういう人がいるよ、どうしたらいいかな?ちょっと手伝って」という相談を受けています。
6.考察
A氏は、B氏を介して地域生活を送る筋ジス患者を自分の目で見て、地域移行を決心した。JCILに入ったB氏の助けもあり困難にも対応することができた。
D氏は、B氏の友人のE氏を介して、ぴあサポーターのB氏とC氏につながることができた。また、電話やメッセンジャーで連絡を取り合い、地域移行を進めることができた。D氏の母親に対しては、実際にぴあサポーターがかかわることで不安を軽減させることができた。
筋ジス病棟で暮らす患者にとって、ぴあサポーターとのかかわりは、地域移行を進めるうえで重要な意味を成すと言える。
7.まとめ
入院患者にとってぴあサポーターの関わりは、同種の体験を知り、地域移行後の生活を描くことにつながる。また信頼できる他者との情報共有は、行動への意思決定の助けとなる。人とのつながりには、2者間の直接的な人間関係のほか相手への主体的評価が伴い、目的に関する情報を共有できる関係が重要である。