青木慎太朗、安田真之
「当事者を支える人を、当事者が育てる」の現状 ――各都道府県の同行援護従業者養成研修指定要綱における当事者の位置づけを手掛かりとして――
報告要旨
視覚障害者の外出を公的に保障する福祉制度である同行援護に従事するためには、同行援護従業者(ガイドヘルパー)の資格取得が必要である。この資格を取得するためには、同行援護従業者養成研修の修了が必要であり、そのカリキュラム(科目名・各科目ごとの時間数(の最低ライン))は、厚生労働省が定めている。
これらを踏まえ、各都道府県は具体的な指定要綱を定め、研修事業者の指定を行う。したがって、研修事業者の指定要件や各科目の講師要件は、都道府県ごとに異なる。
そこで、各都道府県音に定める指定要綱を精査し、講師・助手の要件における視覚障害当事者の位置づけを中心として、同行援護従業者養成研修における当事者参画がどこまで想定されているのかをまとめる。
報告概要
「当事者を支える人を、当事者が育てる」の現状
――各都道府県の同行援護従業者養成研修指定要綱における当事者の位置づけを手掛かりとして――
青木慎太朗(大阪公立大学都市化学・防災研究センター)
安田真之(NPO法人ゆに)
視覚障碍者の外出を支援するための公的な福祉制度として、同行援護制度がある。同行援護の担い手は、一般的に「ガイドヘルパー」と呼ばれているが、このガイドヘルパーになるためには、同行援護従業者養成研修を修了する必要がある。
この、同行援護従業者養成研修は、各都道府県が要綱を定め、研修事業者(学校・スクールなど、呼び方は様々)を指定していて、指定を受けた研修事業者が開催する同行援護従業者養成研修を修了することで、同行援護に従事することが可能となる。
同行援護制度自体は、障害者総合支援法の自立支援給付に位置付けられているため、サービスの内容や報酬単価、ヘルパーの資格要件や養成研修のカリキュラム(科目ごとの時間数など)なども国が一律に決めているが、各研修における講師要件などは、各都道府県が要綱で定めているため、全国的にばらつきがある。
そこで、本研究では、視覚障碍者の外出を支援する同行援護従業者の養成研修において、視覚障害のある当事者の参画がどの程度想定されているのかを各都道府県の要綱を基に調査し、各都道府県が、視覚障碍者の研修への参画をどこまで想定しているのか(あるいは、いないのか)を整理した。
調査方法は、各都道府県が作成している要綱(要綱に付随する規定・基準等を含む。以下同じ)を、インターネットで公開されているものについてはインターネットから入手し、インターネットから情報を得ることができなかった都道府県については、当該都道府県の障害福祉担当課にメール送付または郵送を依頼して資料を入手した。養成研修の要綱自体は公文書であり、だれでも/いつでも、閲覧することができるものである。
なお、要綱に明記されていなくとも、各都道府県が内々に(非公開の)基準を設けている場合や、いわゆるケース・バイ・ケースの対応を行っている場合もあると推認されるため、要綱が各都道府県の状況すべてを反映しているとは限らないと考えられる。さらに、当事者の参画という視点で調査しているものの、「当事者だから質の高い研修ができる」「当事者ならだれでもよい」といった評価を与えるものではない。
全国47都道府県のうち、要綱の講師要件(助手を含む。以下同じ。)として視覚障害当事者を明記しているのは、神奈川県、静岡県、愛知県、京都府であった。科目別では、4府県すべてが「障害者の心理」の講師要件に当事者を明記しており、神奈川県についてはこれに加えて「障害・疾病の理解」の講師要件にも当事者を明記していた。
また、講師要件ではないものの、神奈川県と高知県では、実技演習において、静岡県は講義系科目も含めて、当事者の参加を推奨する旨、明記されていた。
また、講師要件に「視覚障害者移動支援従事者資質向上研修」(以下「資質向上研修」)を修了した者を明記しているのは、秋田県、山形県、茨城県、群馬県、埼玉県、東京都、新潟県、長野県、静岡県、奈良県、島根県、広島県、福岡県、長崎県、鹿児島県であった。資質向上研修は、社会福祉法人日本視覚障害者団体連合(以下「日視連」)が実施するもので、日視連から厚生労働省に届け出た上で実施しているものである。この研修には、視覚障害のない人を対象とした「一般の部」と、視覚障害のある人を対象とした「視覚障害当事者の部」とがある。この研修の目的は、「同行援護従業者の質を上げるためには、養成研修の質を上げなければならず、養成研修の質を上げるためには、研修事業者や講師の質を上げることが肝要である」との考えに基づき実施されている。したがって、視覚障害のない人が講師を担う場合の教え方(主に実技指導技術)と、当事者が講師を担う場合の役割(当事者の思いなどを受講者にどう伝えるか、並びに、当事者が実技指導にかかわる場合の教え方など)を扱う研修である。
資質向上研修の修了者を講師要件としている都道府県において、資質向上研修修了者には当事者が含まれていることがどこまで認識されているかまでは不明である。しかし、「視覚障害当事者の部の修了者はダメだ」と言えば、それは明確な障害者差別に当たるし、「視覚障害当事者の部があることを知らなかった」という主張も、この資質向上研修の要綱が毎年インターネットでも公開されていること、厚生労働省が認めた上で各都道府県宛に通知を出している研修であることなどからすれば、資質向上研修修了者を講師要件に含めていることをもって、当事者の参画を想定しているものと同視しても差し支えないものと思料される。ただ、本研究では、念のため、当事者の参画を講師要件として明記されているものとは分離することとした。
本研究の主眼は、養成研修への当事者参画について調べることであった。ただ、その研究の途上、障害学的視座から見たとき、懸念材料が散見された。それは、医師、看護師、保健師など、医療系専門職や、臨床心理士などの心理系専門職、社会福祉士や介護福祉士等の福祉系専門職を講師要件としているところが多かった点である。むろん、こうした専門職が視覚障害者の外出環境について知らないと決めつけられるものではないが、医学モデル的な講義内容に傾倒することが懸念される。現在主に使用されているテキスト(『同行援護従業者養成研修テキスト(第4版)』(中央法規))でも、眼球の構造などの医学的視点に紙幅が割かれ、また、障害者の心理に至っては、「ある程度年齢を過ぎて障害を負った場合、多くの人は『自殺』を考える」といった記載があるなど、視覚障害者の支援について初めて学ぶ人に誤解や偏見を与えかねない点は重大な懸念材料であるし、テキスト全体を通して、社会モデルの視点が見られない点も、障害学の観点からは問題であると言わざるを得ない。
同行援護は、2011年10月からスタートした制度で、養成研修のカリキュラム自体も制度創設当初から変わっていないが、2025年4月から、新カリキュラムに代わることが厚生労働省から公表されている。カリキュラムの変更により、新しいカリキュラムに準拠したテキストが執筆され、また、各都道府県の要綱についても、刷新されることが期待される。しかし、この期待は、必ずしもプラスの、当事者参画型に結び付くという保証はない。これまで以上に医学モデルが強調され、社会モデルが反映されないカリキュラム・要綱・講師要件・テキストにならぬことを願い、また、主張してゆかなければならないだろう。