渥美公秀、石塚裕子
誰もが<助かる>避難所を目指して―AFN概念を背景に
報告要旨
本報告は、誰もが<助かる>避難所のあり方にについて、大阪府摂津市を中心に、多様な障害当事者の参画を得て、AFN(Access and Functional Needs)の概念を援用して、検討したものである。報告では、まず、アメリカの災害対応現場で活用されつつあるAFN概念に関する先行研究を整理して事例を紹介し、わが国における過去の避難所に関する経験知と対応させて集約する。次にそれらを踏まえて、筆者らが、大阪府摂津市および大阪市内で、多様な障害当事者の参画を得て検討した結果―避難所に求められる機能、それを可能にする仕様、新たな避難所を運営していくための指針―を報告する。最後に、得られた結果が、特定の人々が「助ける」ということと、特定の人々が「助けられる」こととを分断して、いずれかを偏重するのではなく、あらゆる人々が<助かる>という観点から考察し、今後の課題を展望する。
報告概要
誰もが〈助かる〉避難所を目指して―AFN概念を背景に
渥美公秀(大阪大学)・石塚裕子(東北福祉大学)
1.報告要旨
本報告は、誰もが<助かる>避難所のあり方にについて、大阪府摂津市を対象に、多様な障害当事者の参画を得て、AFN(Access and Functional Needs)の概念を援用して、新たな避難所のあり方を検討したものである。アメリカの災害対応現場で活用されつつあるAFN概念を踏まえて、日本の過去の避難所に関する経験知と対応させて集約する。次にそれらを踏まえて、多様な障害当事者の参画を得てワークショップを実施し―避難所に求められる機能、それを可能にする仕様、誰も排除しない避難所として運営していくための指針―を報告する。最後に、あらゆる人々が<助かる>という観点から考察し、今後の課題を展望する。
2.個々人のニーズではなく、「困りごと(Access &Functional Needs)」へ対応
災害時の個々人のニーズ
(Special Needs)対応
対象者が人口の49.99%(Kailes& Enders2007)
↓
災害時の「困りごと」に焦点をあてる
被災者全員が要支援者になる可能性があり、
Disabilityの「流動性」、「共通性」を踏まえて考える。
(例)災害時に眼鏡をなくす、ケガをして歩けなくなる
ここに表が1つあります。行に様々な属性、列に様々なお困りごとを書く表を提示し、困りごとに焦点を当てた考え方であることを示しています。
3.新たな避難所の考え方
【必要な機能】
ここに表が1つあります。個人、共用、コモンズに必要な機能を整理しています。ここにはそれぞれに必要な機能を列挙しました。
(1)個人
就寝スペース
(2)共用
トイレ(バリアフリートイレ、簡易型バリアフリートイレを複数)
シャワーブース
更衣室(2ケ所以上)
授乳室・乳幼児室
調理室
本部・救護コーナー
情報コーナー
電源コーナー
カームダウンルーム(小部屋を複数)
(3)コモンズ
食堂
多目的室(談話室・体操室等
【レイアウトの考え方】
レイアウトの基本は可能な限り、空間が把握しやすいようシンプルな構造、配置にすること。
広さ(サイズ)を表した図を描いています。
【設計基準(例)】就寝スペースと通路
就寝スペースは専用部が4㎡以上、通路等の共用部を含むと一人当たり6㎡~8㎡*を確保すること。ただし、介助者同伴、家族単位での利用を考慮して、フレキシブルに空間配分を行うこと。
【運用指針】
一人ひとりが自立した尊厳ある避難生活が過ごせる環境を整えるための指針とする。
(1)理念の共有:誰も排除しないことへの理解と徹底
(2)ADVOCATEの配置
(3)避難所で人災を起こさない
(4)避難所から次のステップへ移るための支援を行う
(5)多様な人が一緒に支援すること(要配慮者を優先するが、要配慮者だけに限定しない)
4.避難所での「困りごと(AFN)」と今後の課題
検討結果に共通するのは、誰もが自立した尊厳ある避難生活を送るために必要なことやものである。そして「多様な人が一緒に」に避難生活を送れる環境を整えることが求められる。避難所でのAFN(困りごと)を表に整理したが、様々な属性に共通する困りごとであることが理解できるであろう。今後の課題としては、①設計、建築プロセスに当事者参画の場をつくること、②アクセス経路も含めた総合的な検討の場をもうけること、③平時の利活用の検討の場や避難模擬訓練の実施、④地域住民と要配慮者など多様な人のコミュニケーション、⑤本指針のスパイラルアップである。
最後に表を1つ入れています。困りごと(AFN)を整理したものです。
避難所での主な配慮事項・箇所
ゆとり(広さ)がないと困る
就寝スペース,通路、トイレ,シャワールーム等
段差があると困る
エレベーター、スロープの整備
複雑な空間は困る
シンプルなレイアウトトイレ、本部の位置の工夫など
使いやすさ、安全面への配慮がないと困る
引き戸、手すり、床材などの工夫
電気がないと困る
電源の優先利用
視覚情報だけでは困る
音情報の提供
聴覚情報だけでは困る
文字、絵文字、図情報の提供
複雑な情報は困る
シンプルな情報提供やさしい日本語による情報提供
刺激が多いと困る
小部屋の確保、照明や音量への配慮
プライバシー、多様性への理解がないと困る
トイレ、更衣室、授乳室などの工夫