中山忠政
わが国では、インクルーシブ教育が、大きく「進展」しているのか?~建設的対話における、わが国の回答の検討~
報告要旨
2022年8月、ジュネーブの国連本部で行われた、障害者権利条約の履行状況についての対面審査(「建設的対話」と言われる)において、わが国からは、「健常児と同じ場で学ぶ障害児が大きく増え、インクルーシブ教育も大きく進展した」などの発言がなされた。一方、「学校基本調査(2023年度)」の速報値(2023年8月)によると、小・中学校の在学者が過去最少となる中で、特別支援学校の在学者数は、過去最多(151,358人)となった。また、特別支援学校の在学者数は、一貫して増加し続けており、当然ながら「分離率」も上昇の一途にある。「分離率」の急激な上昇が続く中で、インクルーシブ教育が「大きく進展している」という発言は、そもそも、何を根拠としたものなのか、また、どのようなやりとりの中で生じたものなのか、検討した。
報告概要
わが国では、インクルーシブ教育が、大きく「進展」しているのか?
~建設的対話における、わが国の回答の検討~
中山忠政 (弘前大学 教育学部)
KEY WORDS:障害者権利条約 インクルーシブ教育システム 総括所見
(はじめに)
建設的対話(2022年8月)において、「インクルーシブ教育も大きく進展した」などの発言がなされた。この発言は、何を根拠とし、また、どのようなやりとりの中で生じたものなのか、明らかにしていく。
(建設的対話(22年8月)における質疑応答)
フェトゥッシ委員(イスラエル):「文部科学省に対してですが、一般の普通教育の学校教育か、特別な教育を選べるということだが、合理的配慮を通常の学校で行うことができれば、特別支援学校に行く必要はなくなるのではないか」
文部科学省:「日本では、(中略)基本的に本人と保護者の意思にもとづいて通う学校が決められることとなった。その結果、健常児と同じ場で学ぶ障害児が大きく増え、インクルーシブ教育も大きく進展した」
ドンドフドルジェ委員(モンゴル):「分離された環境で教育を受ける子どもたちの数がかなり増えているようにみえます。少し例を言います」として、学校教育法施行令第22条3の「障害の程度」に該当する、小学校に在学する児童数の減少を指摘した。
文部科学省:「通常学級において在籍しながらサポートを受ける障害のある児童生徒は、この10年間で倍増していて、インクルーシブ教育は一定程度進展をしている」
(何を「根拠」とするものか?)
一木(2022)によれば、その根拠を問う開示請求において、示されたのは、「通級指導を受ける児童生徒数の増加を示すデータであった」とされる。
(まとめ)
委員からの質問は、「特別支援学校」や「分離教育」に関するものであった。これについて、文部科学省は、特別支援学校を「選ぶ」当事者が多くなっているとの回答を行い、インクルーシブ教育が「大きく進展した」「進展をしている」との主張をなした。その根拠は、「通級指導を受ける児童生徒数の増加」を根拠にするものであった。インクルーシブ教育について、「分離された」教育や「学校」を問題とする委員からの質問を回避できたように思われたが、総括所見(2022年9月)では、「ceasing segregated special education」と勧告されたのであった。