医療的ケアニーズのある子どもと保護者の在宅生活における、保護者同士の繋がりがもたらす影響の分析
鈴木悠平
在宅生活を送る医療的ケアニーズのある子どもの保護者が、子どもと自身のニーズに合った情報や支援にアクセスする上で、保護者同士のインフォーマルな繋がりがどのように寄与しているかを調査・分析した。学齢期(6歳前後)~30歳前後の年齢の医療的ケアニーズのある子どもの主たる養育者として、在宅生活を5年以上共に過ごしてきた者を調査対象とし、ウェブでの事前アンケートと半構造化面接でのインタビューを合計14名に実施した。インタビュー参加者の年代は、30代2名、40代9名、50代3名、立場は全員が母親であった。在住都道府県は、東京都5名、神奈川県2名、茨城県2名、栃木県1名、大阪府1名、滋賀県1名、広島県1名、佐賀県1名、就労状況は、「就労している」が9名、「休職中」が2名、「就労していない」3名であった。子どもの年齢は、10歳未満が6名、10代が6名、20代が2名、在宅生活の長さは、10年未満が7名、10~19年が6名、20年以上が2名であった。半構造化面接では、自分にとって「ロールモデル」と思えるような先輩保護者との出会いのきっかけや時期、その保護者との出会いを通してどのような変化があったか等を質問した。ロールモデルとの出会いの経路は、親の会・家族会での紹介が最も多く5名、次いでインターネット検索でブログやSNSを見つけてのコンタクトが4名、その他、医師や看護師などの支援職からの紹介、勉強会や講演会への参加、同じ通所事業所の利用者等が挙げられた。出会いの時期は、子どもの退院・在宅生活移行の前後、療育センター等の通所開始後、就学準備・就学相談期であった。ロールモデルとの出会いを通して、1)安心した、ホッとした、孤独・孤立感が解消・緩和した、2)自分の子どもと似た障害やニーズがあり、年齢や学年が上の子どもと保護者との交流を通して、前向きな展望や将来への備えを持てるようになった、3)保護者として、子どもの権利を尊重・擁護するために学校や行政と主体的に交渉しようという、権利擁護の視点や市民意識の醸成、4)自分たちが利用できる支援の選択肢や、利用するための具体的な相談先や交渉ノウハウの伝達、5)自分以外の家族(配偶者やきょうだい)と積極的に情報共有や話し合いをするようになるといったチーム意識の醸成、といった影響があることがわかった。特に、子どもの退院・在宅生活移行の前後に自宅訪問をしたことが良かったと答えた参加者が多く、医療的ケアのための機器やコミュニケーションツールといった道具の選定や細かな配置、使い方などといった在宅生活の細かなノウハウは、病院の医師や看護師からは得られない、実際に在宅生活を経験する保護者同士の繋がりならではの情報伝達と言える。また、居宅介護や移動支援といった福祉サービスの情報自体は、病院のソーシャルワーカーや自治体からも受け取っていたが、制度名を見聞きするだけでは、どれが自分や子どもに適用されるサービスなのかイメージが湧きにくかったり、申請方法や支給を得るための申請のコツが分からなかったりしたところ、日頃の保護者同士の情報伝達を通して制度の利用に繋がったケースが多く見られた。De Poli et al [2020]が提示した、認知症の人のケアニーズの満足度のばらつきを説明するための、ニーズベースのマルチレベル・クロスセクターのフレームワークを本研究に適用すると、医療的ケアニーズのある子どもの保護者同士の繋がりは、個人レベルにおける「ニーズの特定」「サービスの利用可能性」「サービスへのアクセス」それぞれを促進する働きをしていると言える。本研究は、特定非営利活動法人ALS/MNDサポートセンター さくら会の2023年度助成事業「医療的ケア児者と家族の自立生活への情報支援事業」の一環として、アステラス スターライトパートナー患者会および公益財団法人倶進会から研究費の助成を受けて実施した。研究計画書を同事業のアドバイザー委員会に提出し、倫理審査の承認を受けた。研究参加者には研究目的や方法、個人情報の管理などの詳細を説明し、同意を得た上でアンケートおよびインタビューを実施した。