ポスター15

神経難病の人びとの施設生活
――情報入手の手段に着目して――
坂野 久美(岐阜医療科学大学/立命館大学)

【背景】
国立病院機構の筋ジストロフィー病棟には,神経難病患者が長期入院している。近年地域での独居生活(以下,地域移行)を決断する患者が増えているが、決断し実行するためには正確な情報入手が重要である。しかし、筋ジス病棟で暮らすほとんどが、車いすやベッド上での生活者であり、自由に情報を入手することが困難である。これまで、地域移行への移行に際して、必要な情報を入所施設の職員からではなく、学生時代の友人や先輩などですでに地域での自立生活を送っている人たちから得ていた(麦倉 2019)や、地域移行に必要な情報をSNSを通じて得ていた(坂野 2019)との報告があるが、これらは一部の情報に過ぎずその実態は明らかにされていない。本調査の目的は、筋ジス病棟で暮らす人びとが、必要な情報をどのように入手していたのかを時代ごとに振り返り明らかにすることである。

【調査方法】
本調査では生活拠点を地域に移した神経難病患者(脊髄損傷1名含む)6名のインタビュー結果から,地域移行や決断至るまでの情報入手についての語りの部分を抽出し分析した。

① 調査対象者の背景
A氏:1964年生まれ 1977年地域生活に移行
B氏:1974年生まれ 2009年地域生活に移行
C氏:1976年生まれ 2022年地域生活に移行
D氏:1980年生まれ 2012年地域生活に移行
E氏:1980年生まれ 2005年地域生活に移行
F氏:1950年生まれ 2005年地域生活に移行

② 倫理的配慮
調査の実施前に,対象者に対して調査の趣旨,内容や目的について文書と口頭で説明した。また,調査のどの段階であっても協力を撤回し離脱することが可能であり,その場合においても不利益を被らないことを説明した。データの適正な扱いと厳重な保管・破棄の方法,公開予定の媒体等の明示,個人への調査結果のフィードバックについて説明した。インタビューの内容については,文字化後に対象者に内容を開示し確認を得るとともに,匿名表記についても本人の希望を確認し,同意書への記名により本研究協力の承諾を得た。

【結果】
A氏:(ボランティアの学生を通じて)地域生活者を知り、「そういう情報をもらえませんか?」みたいなことを調節電話で聞いたような気がします。
(現在は支援者側として、病棟生活者とは)メッセンジャーを送ったり、メールとかで連絡は取れています。
B氏:(先に地域生活を始めた人とのやりとりは)メールですね。
C氏:高校の時に(1993~1995)パソコン通信みたいな感じでやってて…担任の先生が病院に働きかけてインターネットを導入してもらいました。最初のころは通信はしてたけど文字ばっかりだったので全然おもしろくなかったです。でネット環境がよくなかったので外部とのつながりはなく、メールの相手は学校の先生でした。
D氏:高校時代(2007)にパソコンばっかり毎日やってました。インターネットも使えました。オンラインゲームも毎日やってました。相手がいるゲームです。
その当時、先輩で自立していた方が一人いて、もしかしたら自分も地域移行できないかなと思うようになりました。その人とはメールでやり取りをはじめて、実際に足も運びました。
(現在は支援者側として、病棟生活者とは)2017年からLINEグループを作っています。
E氏:パソコンを使って今日のニュースを調べたり、YouTubeやFacebookなどSNSを利用していました。
F氏:(2002年)先に自立していった先輩たちと入院していた僕とつながりがあったので、「こういうのあるよ」って教えてもらいました。
G氏:43歳(1993)のころ、当時はネットもなかったので、頚損ネットワークが立ち上がったのを新聞記事で見て、頚損の人の暮らしを知りました。それでその集まりに参加して、頚損の人の地域での暮らを知ることができたんです。

【考察】
筋ジス病棟から地域生活を選択し移行するまでの情報入手の方法は、個々によりさまざまである。G氏の場合、新聞記事で地域生活者のことを知り、そのネットワークに自ら出向いて情報を入手していた。A氏の場合、面会に来ていたボランティア学生を通じて地域生活者の情報を入手し、電話で問い合わせていた。C氏の場合、高校時代(1993~1995)はパソコンが導入され始めた時期であったため、メールのやり取りの相手は学校の先生であり、外部とはつながりはなかった。D氏やE氏、F氏の場合は、パソコンを日常的に利用し、インターネットで知りたい情報を調べたり、オンラインゲームで人とつながったり、YouTubeやFacebookで情報発信や情報入手を行っていた。以上のことから、時代により入手方法が異なっており、インターネットの普及との関連が深い。ソーシャルメディアには利用者同士のつながりを促進する様々なしかけが用意されており、互いの関係を視覚的に把握できることが特徴である。(大木ら)。また、インターネットの利用は、病棟生活にとって情報入手だけではなく、文字やオンライン上で直接会話を交わすことも可能となった。
これらのソーシャルメディアは、インターネットを利用して手軽に情報発信し、やり取りができるため、神経難病患者にとって機器の操作設定の介助さえ得られれば、とても便利なツールであるといえる。

【文献】
麦倉泰子,2009, 『施設とは何か―ライフストーリーから読み解く障害とケア』,生活書院
坂野久美,2019,『筋ジストロフィー患者の療養生活の場の選択―独居在宅に向けたネットワークの構築―』コア・エシックス,15,147-160
大木慎,乾貴史,坂部創一,『インターネット上の対人交流が孤独感とQOLに与える影響』