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「見た目問題」の分類と口唇口蓋裂―「生きるための戦略」の観点から―
松浦考佑

1、「見た目問題」とは
「見た目問題」とは「生まれつきの痣や事故や病気による傷、火傷痕、脱毛など『見た目』に障害のある人々が、差別や偏見のためにぶつかる問題」を指す。容貌障害という言葉もあるが、生きづらさは見た目そのものではなく、「世間」によっても生じるという意味を込め、当事者の多くはこの言葉を用いている(熊澤 2018)。
西倉(2011)は、「見た目問題」を社会モデルで捉えた際、病気自体ではなく社会の規範が問題であること、他者の否定的な反応を通じて「顔の異形」も「障害」となりうるが、「見た目問題」自体まだ範囲が曖昧であり、そこに色々な障害や考え方が混在していると指摘する。外川・粕谷(2013)も、「見た目問題」の当事者の多くは機能的な障害は殆どなく、治療の緊急性・必要性もなく、そのままでも機能的には何の問題もないため、今まで福祉的・医療的・行政的なケアの対象になり難かった。
この問題を解決すべく、NPO法人マイフェイス・マイスタイルはネットワーク作りと情報発信の2つに力を入れていると語っており、当事者の魅力を発信し、患者会や当事者団体だけでなく、医療機関・教育機関・行政・メディア等、様々なネットワークを繋いでいき、大きなムーブメントを起こそうと日々活動している。

2、「見た目問題」を分類する
「見た目問題」の範囲が曖昧であるため、本研究では「生きるための戦略」という観点からこれを分類してみる。この分類に関して、同じ疾患名であったとしても、個人差が生じるため、一概にこの分類通りではないことを留意したい。その上で、まず手術等の治療によって「健常者化」が可能かどうかという点である。ここでいう「健常者化」とは、「見た目問題」によって差別や偏見を受けない状態になることを指している。具体的には、手術や投薬治療を行うことで「見た目問題」自体を無かったことにしようとする戦略である。健常者化が可能な代表例として、口唇口蓋裂(Cleft Lip and/or Palate:以下CLP)が挙げられる。約500人~600人に1人の割合で出生しており、長期にわたって、定期的で継続的な通院や手術が必要だが、機能面とともに顔面の傷は一見して判断できなくなると言われている(中新ら 2019)。
次に手術等の治療でも「健常者化」が困難な場合は、「見た目問題」で差別や偏見を受けないように隠す戦略と、「見た目問題」に対する社会の認識自体を変革していく戦略が考えられる。前者はマスクや化粧、帽子、ウィッグ等を用いて、差別や偏見を回避するために隠す戦略であり、後者はセルフヘルプグループを立ち上げて、当事者同士が連携して「見た目問題」自体を解決しようとする戦略がその例になる。これら2つの戦略の中で揺れ動く部分も多いが、アルビノや痣、円形脱毛症、その他の人々の多くはいずれかに当てはまるだろう。

3、 口唇口蓋裂のジレンマ
CLPについては、「健常者化」により「見た目問題」が解消されるのであれば問題ないのかもしれない。しかし、誕生早々に顔の治療を行うことが決まっており、医者・家族・社会的規範によって、医学モデルのレールから降りることが難しく、またどこまで治療すればいいのか明確な基準が存在しないため、治療は長きにわたる。「健常者化」のレールは、こうして永遠に続くことになる。
一方、「健常者化」戦略から降りたとしても、CLPのセルフヘルプグループは少なく、世間に発信できるようなモデル・ストーリーも少ないため、社会モデルのレールに切り替えることも容易ではない。油田(2022)は、障害当事者が、治療を選んでも選ばなくてもよいという状況の中で主体的に選択できるような治療観を述べているが、CLP当事者は主体的に「生きるための戦略」のどれを選ぶにしても、その先の成功例が見通せないというジレンマに直面することになる。

4、おわりに
これまで、CLPの問題について障害学で十分検討されてきたとは言い難い。「個人のインペアメント(損傷)の治療を至上命題とする医療の枠組みからの脱却(長瀬 1999)」を目指すのであれば、CLP特有の事情(ジレンマ)を検討することによって、医学モデルが主流のてんかんや難病等に関しても、そのための新たな示唆が得られるかもしれない。今後は、CLP当事者へのインタビュー調査も視野に入れて「見た目問題」分類の妥当性、その障害学的意義について考察を深めていきたい。

文献
熊澤志保(2018)「時代を読む 社会『見た目問題』は当事者の発信から『その先』へ ありのままに生きられるか」 Aera 31(48), 27-29
中新美保子・井上清香・松田美鈴・高尾佳代・三村邦子(2019)「保護者が実施している口唇裂・口蓋裂児への病気説明」川崎医療福祉学会誌 28(2), 379-387
長瀬修(1999)「障害学に向けて」石川准・長瀬修編『障害学への招待――社会、文化、ディスアビリティ』明石書店 11-39
西倉実季(2011)「顔の異形は『障害』である」障害を問い直す 25-54
外川浩子・粕谷幸司(2013)「『見た目問題』ってどんな問題? : 顔の差別と向き合う人びと」部落解放編 (672), 204-215
油田優衣(2022)『先天性の障害当事者が語る「治療」に対する両義的な意味づけと葛藤:SMA当事者へのインタビューを通じて』 障害学研究編集委員会 編 (18), 88-114