タイトル:身障者短大構想とその反対運動
発表者氏名:山口和紀
1. 問題の所在
1970年代、障害者だけの高等教育機関を設置しようとする動きが生じた。その構想は「身体障害者高等教育機関設置構想」「身障者短大設置構想」などと呼ばれた。以下、構想と表記する。
構想はのちに筑波技術短期大学の設置に結実する。筑波技術短期大学とは、1987年に設置された国立の3年制短期大学で、その特徴は視覚障害者と聴覚障害者だけを教育の対象とした点にある。
構想に対する記述は、当時構想に関与した者たちによるものが複数残っている。のちに筑波技術短期大学の学長となる小畑修一(おばた しゅういち)は、小畑[1974]にその経緯を記述している。反対運動の中心人物の一人であった大橋義昌による大橋[1988]には、反対運動の始まりについて若干の記述がある。里内[1989](著者の里内龍司は茨城青い芝の会会長)には、構想に反対する現地闘争が記録されている。視覚障害者労働問題協議会[1982]には、反対運動の時系列的経緯が記されている。
2. 研究の目的
構想そのものがほとんど知られず、その反対運動に対する分析は皆無である。
そこで本報告では、反対派の主張、その立ち位置に着目し、その概要を整理する。なお、構想の経緯・その展開については別稿を準備中であるため、本報告では構想の展開については最低限の紹介に留める。
3. 反対運動の主体
3-1. 筑波短大問題研究会/筑波身障者短大構想に反対する連絡会
最初に反対の「烽火」をあげたのは1979年に発足した「筑波短大問題研究会」である。この設置の中心に居たのが、大橋由昌である。大橋は東京教育大学附属盲学校の卒業生で、1970年代初頭に三療問題への盲教育に対する糾弾を主眼とした「雑司ヶ谷闘争」を起こしている(山口[2023])。
大橋[1988:223]に述べられた構想への反対理由には、文部省の隔離教育政策の容認につながることや、一般大学の障害者受入れ拡大の弊害になることなどが指摘されている。
この筑波短大問題研究会の構成員は定かでないが、筑波身障者短大に反対する連絡会[1981:91]には「関東聴覚障害学生懇談会★01」「筑波大学教職員組合」が母体となったとされている。関東聴覚障害学生懇談会は、筑波大学附属聾学校(東京教育大学附属聾学校)の人脈を基盤として1970年代に形成されていった組織である。
また、後に視覚障害者労働問題協議会(視労協)も、筑波短大問題研究会の後継団体である「筑波身障者短大構想に反対する連絡会」と共闘する。視労協も筑波大学附属盲学校の出身者が中心メンバーである。
このようにしてみると、構想に対する反対派の中心は筑波大学附属聾/附属盲の卒業生らにあったと思われる。
3-2. 教職員組合
先に見たのは障害者本人たちが反対した部分であった。
それとは別に附属盲学校の教職員組合が構想に反対をしていた。その中心にいたのは、附属盲理療科の教員であった有宗義輝(ありむね よしてる)であった。
有宗[1986]は1986年に参議院に対して請願「筑波技術短期大学(仮称)の開学を延期し、盲学校高等部専攻科課程の短期大学昇格に関する請願」を出している。
そこには延期の請願にかかる5つの理由が述べられている。盲学校専攻科と短大が競合すること、それによって「一部のエリート」を除いて他の視覚障害者の切り捨てに繋がることが指摘される(有宗[1986])。この有宗は、大橋らと共闘関係にあった。
3-3. その他の闘争――和光大学/茨城青い芝
この他に和光大学の篠原睦治や、その学生ら――その一部分は関東聴懇や視労協とも重なる――による反対運動もあった。和光大学の設立自体が東京教育大学の移転闘争と大きな関連を、梅根悟を通して、持っている。篠原睦治は学生らに「巻き込まれて発言していったっけ」(天野・古賀・篠原[2019:21])と述べている。
里内[1989]に述べられている通り、1980年代には工事の実力阻止闘争も行われている。これは茨城青い芝の会を中心に行われたものである。里内[1989]を見る限り、里内の批判は隔離教育としての特殊教育そのものに向けられたものであったようだ。
4. 結語
本報告ではここまで身体障害者高等教育機関設置構想に対する反対派の立ち位置を概観し、東京教育大学/筑波大学に関連する者たちがその反対派の中心に居たことを指摘した。今後構想そのものや、その反対運動について、その経緯を詳細に見ていきたい。
天野誠一郎・古賀典夫・篠原睦治 2019 「<討論>私たちが直面している「障害者」問題」, 『社会臨床雑誌』26(3)
里内 龍司 1989 「障害者だけの大学「筑短」はいらない――筑波技術短期大学着工阻止闘争」,『季刊福祉労働』42:143-148
視覚障害者労働問題協議会事務局 1982「筑波身障者短大設立、なぜ反対なのか」,『福祉労働』14
大橋 由昌 1988 『盲学生憤闘記 キャンパスにオジサンは舞う』,彩流社
筑波身障者短大構想に反対する連絡会 1981 「養護学校義務化から身障者短大設立への危険な道」,『季刊福祉労働』13:091
山口 和紀 2023 「盲学校における学生運動の様相: 東京教育大学附属盲学校における事例の再検討」,『Core Ethics』19:177-190
有宗 義輝 1986 「筑波技術短期大学(仮称)の開学を延期し、盲学校高等部専攻科課程の短期大学昇格に関する請願」, 「文教委員会会議録第四号 昭和六十一年十二月十八日」:7
篠原睦治 2010 『関係の原像を描く――「障害」元学生との対話を重ねて』, 現代書館