まちづくりにおける参加の場のリデザインに関する考察
―知的障害のある職員との多様な活動経験から―
東北福祉大学 石塚裕子
1. 取り組みの背景と経緯
80年代の住民参加のまちづくりと併走して、日本のユニバーサルデザインのまちづくりは、当事者参加を原則としてきた。しかし住民とは、地域において積極的に活動できる強い市民が前提となっていたように、ユニバーサルデザインのまちづくりにおいても、身体障害者団体の長など強い障害者の参加が主流であった。このため、見えにくい障害の人や、難病者、医的ケアを必要とする人など、マイノリティの多様性を担保した参加には至っていない。また、参加の場そのものが障壁となることもあり、多様な市民の参加を実現するには、参加の場のリデザインが必要となっている。
そこで、見えにくい障害のある人たちと協働した活動や研究の方法を探求することを目的に、前職の大阪大学おいて主に知的障害、精神障害のある職員との協働活動を試みることにした。国立大学法人の多くは、障害者雇用率を達成するために知的障害者を中心に計画雇用を行っている。大阪大学では2008年から雇用が始まり、2020年現在で49名が在籍し、障害のある職員の約半数を占めている。計画雇用された知的障害のある職員(以下、スタッフとする)の主な業務は、キャンパスの清掃活動である。スタッフ3,4名に対して1名の指導役(リーダー)を担う職員(主に健常者)が雇用されており、スタッフとリーダーがチームになって作業を行う。今回、協働活動を行ったのは吹田キャンパスで勤務するスタッフであり、現在28名在籍している。年齢は20歳代が約6割と比較的若い人が多く、障害の程度は中度、軽度が多数を占める。
筆者は2020年9月から不定期でこの業務に参加し、参与観察を行ってきた。そして、協働活動として学生との交流活動、キャンパス調査、エコガーデンプロジェクトを実施し、2022年10月28日に活動報告会を開催した。本稿では各活動への参加形態と参加率、スタッフの変化を通じて、参加の場のリデザインについて考察する。
なお、本研究は大阪大学大学院人間科学研究科附属未来共創センター研究倫理委員会の承認(CCFC202003R)を経て実施している。
2. 協働活動の内容
(1)学生との交流活動
授業として行っているキャンパス内の花壇づくりに参加するという形態で、学生との交流の機会を設けた。自己紹介、花植作業、看板づくりなど約2時間のプログラムを毎年12月中旬に実施している。2020年度はリーダーから推薦のあった5名が参加した。2021年、22年度は公募で参加者を募り、9名、13名が参加、年々参加者が増えた。
(2)キャンパス調査
キャンパス内を清掃しているスタッフの知見を活用する試みとして、キャンパスの危険なところと、気持ちの良いところを調査し、キャンパスマップを制作した。公募により参加者を募った。調査は筆者が同行して、2人1組となりキャンパス内を自由に廻り、インスタントカメラで撮影した。そして撮影した写真についてコメントを記入し、事務所内の大きな地図に写真を貼っていった。28名中、1回目は9名参加、2回目は5名参加(リピート率44%)であった。
(3)エコガーデンプロジェクト
人間科学研究科内にフラワーコンテナを設置し、花植、維持管理作業を2022年2月~2023年3月の約1年間行った。これまでの協働活動では、どの活動にも全く参加を希望しないスタッフがいた。このため、他者とのコミュニケーションが苦手なスタッフも参加しやすいように、学生や教職員との積極的な交流は行わず半分開いて、半分閉じたセーフティな作業の場とすることで28名全員が参加した。学生や教職員からは、QRコードを用いて感想を送付してもらい、スタッフに共有し間接的な交流を図った。
(4)活動報告会
公募による7名の有志が、1ケ月かけて準備を行い、活動報告会を開催した。学生、教職員、総勢35名の参加者の前で、通常業務のこと、協働活動のことを役割分担して発表した。
3. 考察
本活動を通じて、多様な人が参加できる場のリデザインへの知見は主に3点ある。一つは、多様な場を提供する必要性である。(1),(2),(4)のすべての活動に参加したスタッフは4人いたが、その他は活動によって参加者は変化した。(1)にだけ毎年参加するスタッフがいたり、(2)だけに参加したスタッフもいた。多様な場を提供することで多様な人が参加可能となる。二つ目は、複数回実施することである。(1)の活動のように毎年実施することで、参加者が増えていったり、(2)に参加したことで(4)に参加するなど、複数回の参加の場を用意することが、参加を躊躇している人へ参加の場を届けることとなる。三つめは、セーフティな参加の場を用意することである。今回は研究科内にスタッフの業務の場(エコガーデン)を設けたように、主催者側に参加の場を設けるだけでなく、参加者側に参加の場を用意する必要性が確認された。
さらに付け加えるならば、一連の取り組みを通じて「媒介者」の役割が示唆された。本活動は約3年間かけて進めてきた。筆者が不定期ではあるがスタッフと共に時間を過ごす中で、信頼関係を構築し協働してきた。当事者と介助者(今回はリーダー)に加えて、媒介者(筆者)、そして他の他者(今回は学生、教員)という4層体制で実施した。多様な市民の参加を実現する上で、この媒介者がもつ役割を明らかにすることは今後の課題である。