ポスター03

当事者を支える人を、当事者が育てる
――NPO法人ゆにでのガイドヘルパー養成研修の記録――
青木慎太朗(大阪公立大学都市科学・防災研究センター客員研究員)
安田真之(特定非営利活動法人ゆに理事・事務局)

はじめに
障害者介助の仕事をする上では資格の取得が必要であるが、養成研修の多くは、当事者不在である。
特定非営利活動法人ゆに(京都市北区、以下「ゆに」)では、国連の「障害者の権利に関する条約」の理念「Nothing about us without us!」に基づき、当事者自らが介助者を養成するための研修を企画し、既に6回を数えている。ここでは、その経過と記録を紹介する。

1.準備段階
ゆには、大学等で学ぶ障害のある学生の学業や生活の支援を活動の中核とするNPO法人であり、主な活動は、居宅介護、重度訪問介護、文字情報保障(「パソコンテイク」、「パソコン要約筆記」等)である。
視覚障害者を対象とした活動は実施していなかったが、法人職員である安田真之(全盲)と、同行援護制度創設時から養成研修の講師として携わってきた青木慎太朗(弱視)が、「当事者主体の養成研修を実施することはできないか?」という問題意識を共有し、取り組みを始めた。
発表者は、ともに、視覚障害や福祉関係の講師経験を有し、安田は、社会福祉法人日本視覚障害者団体連合(以下「日視連」)が主催する「視覚障害者移動支援従事者(同行援護従業者)資質向上研修」の修了者であり、青木は、資質向上研修の講師でもある。資質向上研修は、養成研修の講師を主な受講対象とし、指導技術を学び、より質の高いヘルパー養成に役立ててもらうことを目的としている。

2.研修の実施
(1)同行援護
同行援護は、障害者総合支援法第5条第4項に定められた福祉制度で、①対象を視覚障害者に限定していること、②外出時の支援であること、③視覚的情報提供を主な支援内容としていること(他の障害者支援にはない独自の支援内容)などの特徴があることから、介護福祉士等の介護系資格を有する者であっても、同行援護従業者養成研修を修了しなければ従事できない(一部例外、経過措置あり)。
養成研修の実施については、各都道府県の実施要綱に従い、養成研修事業者としての指定を受けた上で研修を実施することとされている。

(2)我々の問いかけ/取り組み
都道府県によって講師要件は異なるが、概して、制度部分は行政関係者、障害の理解にかかる部分は医療関係者を講師要件としている。京都府でも、「障害疾病の理解」については眼科に勤務する医師・看護師を、制度関係の科目については、行政職員や視覚障害者施設の施設長や指導員を講師要件として明記している。その結果、必ずしも、視覚障害者の生活実態が教えられないまま、あくまで視覚障害者については教科書的理解にとどまり、当事者と接点を持たないまま、現場で働いていることに疑問を持った。
そこで、我々が開催する研修では、以下の点を重視することとした。
①研修事業の企画や運営事務等を視覚障害当事者が中心となって進める。
②全科目の講師を当事者が担当する。
③独自科目「障害者福祉の理念」を設定する。
このうち、①については、発表者2人を中心に、研修会場の手配から実技場所の選定を行い、養成研修の指定にかかる事務作業は、主に安田が行った。
②については、講義科目を両名で分担し、演習は晴眼者を助手として協力を求めた。助手についても、日視連が実施する資質向上研修の修了者が中心となっている。
③については、「障害平等研修」の内容と手法(久野 2018)を取り入れた。イラストやビデオ等の視覚教材を用いて、「障害とは何か」についてグループワークによる議論を重ね、受講者自身による気づきを積み重ねることにより、障害の社会モデルの視点の獲得を指向する内容とした。

3.評価
研修の開始前と修了後に、受講者に対してアンケートを実施している。
受講後調査の回答を見ると、当事者講師から、教科書に載っていない話をたくさん聞けたこと、また研修期間中当事者と過ごしたことそれ自体を好意的に評価するコメントが多かった。
独自科目である「障害者福祉の理念」については、同科目の開始直後と終了直前には、受講生に「障害とは何か?」という質問を投げかけている。その回答を見ると、開始直後には個人の心身機能に着目したものが目立つのに対して、終了直前では社会・環境の様々な要素に着目したものが多くなっていることから、同科目は受講者が障害の社会モデルの視点を獲得することに一定の効果を上げていると考えられる。また、同科目の実施後には、受講生相互のコミュニケーションがより活発になる傾向が見られ、このことが、その後の実技を交えた演習をより効果的なものにしているとも考えられる。

文献
久野研二編,2018,『社会の障害をみつけよう――一人ひとりが主役の障害平等研修』現代書館.
同行援護従業者養成研修テキスト編集委員会編,2021,『同行援護従業者養成研修テキスト 第4版』中央法規.
日視連ホームページ
令和5年度 視覚障害者移動支援従事者(同行援護従業者)資質向上研修の案内

令和5年度 視覚障害者移動支援従事者(同行援護従業者)資質向上研修の案内

※研修で実施したアンケート結果は、事業報告や実践報告で個人が特定できない形で公表する旨予め受講生に示し、同意を得ています。