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ネパールにおける障害者女性の自立支援の実態と課題-ネパール南東部パルサ地区ジラバワニ市のNGOの活動事例から
南山大学人類学研究所プロジェクト研究員 竹内愛

はじめに
ネパールでは、2018年に社会保障法が成立し、社会保障手当を申請すると、地方自治体委員会で、4つに障害レベルが分類され、程度に応じて障害者手当が支給される。現状ネパール全体で約20万人の受給に留まっており、とくに、農村部では社会保障制度が周知されていない。したがって、多くの障害者は自立した生活することは難しく、家族の支援の下、受動的な生き方をせざるを得ない。
本発表では、農村地域であるジラバワニに住む障害者女性たちの生活上の困難について明らかにし、NGOが障害者女性支援のためにどのような役割を果たしているのか、またNGOの抱える課題について一考察を行う。
なお、本研究は、ネパールの障害者女性の生き方に焦点を当てる文化人類学的研究であるので、調査地の方々からの聞き取り調査、参与観察は必要不可欠である。調査の前には調査者の立場、そして、研究目的、調査の利用方法について説明し、了承を得てから回答していただいた。また、インフォーマントの方の人権保護のため、個人を特定されないように個人情報の取り扱いには配慮している。

1 調査地概要 ジラバワニ第1区
ジラバワニは、ネパールの南東部にあるマデシ州パルサ地区にある。教育率は低く、30代以上の女性は一度も学校に通ったことがない人が多い。高校卒業者は、男女含めて人口の10%程度である。ジラバワニの人々の多くは小作人として生計を立てており、貧困地域である。重度の障害者は学校にも通えていない。ジラバワニでは公的支援がされておらず、家族が障害者の面倒をすべてみるしかない。
ジラバワニでは、一般に、男性が重視され、女性は劣位に置かれている。結婚後、嫁は舅・姑から家事、農作業について厳しくしつけられ、家族に献身的に尽くさねばならない。幼児婚も多い。

2 NGOの活動-ハミ・ディディ・バイニ・サムハ(女性自助組織)設立
(1)We Nepal(NGO)の活動
We Nepalとは障害者女性の経済的自立支援を目的に2016年に設立されたNGOである。We Nepalの代表は、ジラバワニの障害者女性と貧困女性の生活の実態を知り、自立支援のために2022年にジラバワニに女性自助組織を設立した。メンバーには、ジュエリーなどを手作業で製作してもらい、できた商品をWe Nepalが買い取ることで、彼女たちの所得向上を目的としている。

(2) 聞き取り調査から
●事例1 M・Cさん
脳性麻痺の彼女は、母子家庭に生まれ、母は小作人として働いて生計を立てており、貧困に陥っていた。We Nepalは最初に彼女の支援を始めた。まず、彼女に車いすと食料を提供し、彼女が持続的に自立できるようにと、彼女が座って店番できる小さな商店を始める資金を提供した。そのおかげで、彼女は現在、商店で店番をして以前よりエンパワメントできている。

●事例2 K・Cさん
彼女は生まれつき足が不自由で、学校に通ったことがなく、読み書きできない。一人で外出はしたこともない。幼い頃、お見合い結婚をして、息子と娘がいる。息子はカトマンズに出稼ぎに行き、娘は彼女の面倒をみるために家にいる。彼女は嫁として家事はやってきたが、体が不自由なために稼ぐことができず、嫁ぎ先でみじめな思いをしてきたという。女性自助組織に入って生まれて初めて収入を得ることができた。家族のためになり、仲間もでき、やりがいがあると話した。

3 NGO経営課題
(1) 人手不足
運営スタッフが交通事故で亡くなり、代表の家族が総出で運営に携わっている。早くスタッフを雇いたいが、給与が安く、見つからない。

(2) 販売網と需要
設立最初はWe Nepalの代表の親族や知人に商品を買ってもらっていたが、その販売ルートだけでは継続は難しいと考え、デパートで販売を始めた。しかし、デパートでもデザインが変わらなければ、売れなくなる。祭の時期には、ネパール各地で展示会が開催されるため、そのような展示会の機会を常に探し続けている。また、代表は売れるデザインを常に考案し続けなければならない。

(3)経営資金
メンバーの製作した製品を必ず買い取るが、商品が売れなければ、赤字となる。デパートでは商品が多く売れるのは結婚式シーズンで、それ以外はあまり売れない。そのため、TikTokを利用して商品販売を始めた。良質のビーズを使い、流行デザインも取り入れ、リピート客は多くなったが、最近、We Nepalのデザインをまねて質の悪いビーズを使ってTikTokでジュエリー販売をする会社が出てきた。TikTokでは質まではわからないことを利用して、安く販売している。そのため、価格が高いWe Nepalの商品は売れなくなっている。

むすび
ジラバワニでの調査では、社会的に女性の地位が低いことに加え、障害を負っていることで、障害者女性は、生活範囲も小さく、受動的に生きざるを得ない実態が明らかとなった。社会保障手当を受給している者はいなかった。現在、We Nepal(NGO)が、ジラバワニの障害者女性と貧困女性のために女性自助組織を設立し、ジュエリー販売によって女性たちの経済的自立、自尊心の向上、メンバー同士の絆づくりに大きく貢献している。
NGO運営の継続のためには色々な課題があることも明らかとなった。今後とも、商品の質の良さ、魅力ある商品の開発をして、販売網拡大努力が必要である。他のNGOや公的機関等との連携も必要であろう。