ポスター01

総括所見(2022年)にみられた「合理的配慮」の分析
合理的配慮の「一般援助化」なのか?
中山忠政(弘前大学 教育学部)

2022年9月、わが国の障害者権利条約の履行に関する締約国報告(2016年6月)に対する総括所見が示された。52パラグラフの(c)において、「Guarantee reasonable accommodation for all children with disabilities to meet their individual educational requirements and to ensure inclusive education」(外務省仮訳:全ての障害のある児童に対して、個別の教育要件を満たし、障害者を包容する教育(インクルーシブ教育)を確保するために合理的配慮を保障すること)が勧告された。その保証が求められた「合理的配慮」であるが、合理的配慮は、「個別の教育要件を満た」すものとの説明がなされていた。これについて、大谷(2023,p.54)は、「『個々の教育的要求を満たすための合理的配慮』の保証を要請している」とし、第24条に関してのみであるが、「総括所見は合理的配慮を拡大したように思われる」との懸念を示していた。
総括所見全体では、どのようであっただろうか。
総括所見(英語正文)において、「reasonable accommodation」(合理的配慮)の指摘がなされた箇所は21カ所であり、その内訳は、Ⅱ(Positive aspects)に3カ所、Ⅲ(Principal areas of concern and recommendations)に18カ所(第1-4条(1)、第5条(3)、第7条(1)、第11・16・18条(各2)、第24条(3)、第25条(2)、第27・30条(各1))であった。
第24条以外で、合理的配慮とともに一般的援助や支援の記述がなされていた箇所についてである。18パラグラフの(a)において、「一般の保育制度を完全に享受することを確保するため、ユニバーサルデザイン及び合理的配慮(特に、代替的及び補助的な意思疎通の手段)を含む、全ての必要な措置を実施すること」、35・36パラフラフのそれぞれ(c)において、「利用の容易さ(アクセシビリティ)及び合理的配慮」、58パラフラフの(c)において、「個別の支援及び合理的配慮を尊重し適用すること」がみられた。
これらにおいては、合理的配慮と一般的な援助や支援が並列されて記述されていたものの、52パラグラフの(c)のように、合理的配慮が一般的な援助や支援を包含するような記載はなされていなかった。つまり、合理的配慮が、一般的援助や支援を包含するような記載がなされたのは、52パラグラフの(c)についてのみにみられたものであった。なぜ、このような記載がなされたのであろうか。関係団体から提出されたパラレルレポートにおける記載について、検討したい。
例えば、日本障害フォーラムが、2019年6月に提出したパラレルレポートにおいては、「小中学校の障害児童生徒の受け入れにおける課題」として、「必要な支援と合理的配慮の提供については、どこの学校、どの学級に籍を置くかによって大きな差が出てしまう仕組みとなって」おり、「何かの支援・配慮を受けるのであれば支援学級や支援学校へ、という『圧力』が保護者・本人にかか」るとし、最終的に「合理的配慮の提供体制について(中略)法令上の裏付けを整備すべき」としている(p.81)。合理的配慮を、一般的な援助や支援と併記・併用しながらも、実際は、一体的なものとして(または、その延長上に)扱い、最終的には、合理的配慮のみの提供を求めるものであった。このような合理的配慮と一般的な援助や支援を混在させた主張が、関係団体の意見として総括所見に取り込まれ、「個別の教育要件を満たし(た)合理的配慮を保障すること」の勧告になったと考えられないこともないのである。
52パラグラフ(c)でみられた、「個別の教育要件を満た」す「ために合理的配慮を保障すること」との表現は、合理的配慮の「一般援助化」とも言えるものであった。合理的配慮が、一般的な支援や援助とは「異なるものである」との理解は、わが国ではほとんどみられず、合理的配慮を、「障害に応じた援助」と同一視し、障害に応じた援助として、その充実が求められるきらいがある。このような合理的配慮の一般援助化とも言える国内での理解が、今回の総括所見の52パラグラフ(c)にも反映され、合理的配慮の「変質」につながったとするのであれば、合理的配慮の本質的な意味合いを希釈し、本来、合理的配慮が必要な際に、その効果を発揮することできなくする事態を招く恐れがある。今回の事象は、その「危うさ」を強く感じさせるものであり、その「変質」が現実のものとならないように、私たち自身がその理解を深めていく必要性があった。

文献
1)大谷恭子(2023)「インクルーシブ教育を受ける権利を実現するために」『賃金と社会保障』1817・1818,49-57.
2)日本障害フォーラム(2019)「日本障害フォーラムのパラレルレポート」https://www.normanet.ne.jp/~jdf/data/pr/jdf_report_for_lois_jp_r9d.pdf(2023年7月15日最終閲覧)