自由報告1-4

韓国の障害教師雇用の現状と課題
中村雅也*1・Yoo Jinkyung*2
*1 立命館大学
*2 立命館大学大学院先端総合学術研究科

インクルーシブ教育の実現に向けて障害のある教師の存在は重要だが、日本では障害教師の雇用が不十分で、教育委員会の障害者法定雇用率の達成が長年の課題となっている。一方、同じように障害教師の雇用が低迷している韓国では、近年、政府主導のもと、障害教師の雇用数を増やすために、さまざまな法律を定め、政策を実行している。報告者らは2023年7月29日・30日に韓国テジョンで開催された韓国視覚障害教師会のワークショップに参加し、同会会長のイ・ジュンホさんに韓国の障害教師の現状についてインタビュー調査を行った。イさんには口頭で研究の趣旨を説明し、答えたくない質問は答えなくてもよいこと、調査協力はいつでもやめてよいことなど、協力は任意であることを伝えた。また、調査結果は学会報告、論文などで公表すること、その際、イさんの実名を記すことの承諾を得た。なお、この研究倫理上の手続きは録音して報告者の中村が保管している。日本の障害教師雇用政策の参考にもなると思われるので、その調査概要を報告する。
まず障害教師の養成について述べる。韓国では障害教師を増やすためには、教員免許をもつ障害者を増やす必要があると考えている。教員免許をもつ障害者を増やすためには、障害者の大学入学を増加させることが必要だ。韓国では高等教育法により大学の障害者特別選考制度が定められており、一般とは別に障害者の定員を設けて、入学選考を実施できる。2010年度から2014年度の5年間を見ると、韓国の大学に在籍する障害学生の割合は0.2%〜0.3%である。一方、教員養成を目的とする教育大学では障害学生の割合は0.4%〜1.0%で、大学全体よりも高い比率になっている(シムほか 2015)。教育大学は10校あるが、そのすべてで障害者特別選考を実施しており、障害者特別選考が障害者の大学入学を増加させていることが示唆される。イさんによると、韓国視覚障害教師会の教師(会員数約150人)のほとんどは障害者特別選考で大学に入学しているという。
韓国では障害者等に対する特殊教育法で、大学は障害学生の支援等について必要な内容を学則で規定し、障害学生支援センターを設置・運営しなければならないと定めている。また、障害学生へのヘルパー支援事業が政府教育部の管掌で実施され、国庫予算が配分されている。イさんも大学生のときは障害学生ヘルパーというアルバイト学生の支援を受けていた。書類の読み上げ、移動時の手引き誘導、試験問題の読み上げや解答の代筆などの支援を受けたという。
つぎに障害教師の採用について述べる。韓国も日本も障害者雇用に割当雇用制度を取っており、教師も義務雇用の対象業種である。公立学校教師の任命権者に課せられている法定雇用率は韓国は3.0%、日本は2.5%だ。また、韓国では教員採用試験の実施にあたって、募集定員の6.0%を障害者定員とし、一般とは区分して募集を行っている。イさんによると、韓国視覚障害教師会の教師たちもほとんどがこの障害者区分で教員採用試験を受験している。視覚障害者は試験での情報保障(点字など)を依頼しなければならず、そのために必然的に障害者区分で応募することになるという。
韓国の教員採用試験の2011年度から2015年度の障害者区分を見ると、初等教育学校で障害者は合格者総数の0.4%〜1.1%、中等教育学校で1.7%〜3.2%である(シムほか 2015)。他方、日本では公立学校全体の2015年度から2019年度採用分の教員採用試験で、障害者の合格者は55人〜73人、障害者は採用者総数の0.2%と低い水準にとどまっている(中村 2020)。
最後に障害教師の職務支援について述べる。韓国では障害者差別禁止及び権利救済等に関する法律で正当な便宜(reasonable accommodation)の提供義務を定めており、障害教師は補助工学機器、補助員などの便宜提供を受ける権利がある。だが、かつては障害教師に対する物的・人的支援の財源を保障する根拠法令が明確でなく、支援が十分に実施されていなかった。2015年5月、国家公務員法が改正され、障害のある公務員に対する物的・人的支援の根拠が規定された。これにより、公立学校の障害教師に対しても、障害者雇用公団から補助工学機器や勤労支援者の支援が提供されるようになった。イさんによると、かつては地方自治体の教育庁が独自に補助工学機器や教務支援者を提供していたが、障害者雇用公団からの支援に移行しつつあるようだ。教育庁が配置する教務支援者は月給制のフルタイム雇用であることが多い。一方、障害者雇用公団から派遣される勤労支援者は時給制のアルバイト雇用で、限られた時間しか学校におらず、十分な支援が受けられないという。公団の勤労支援者の問題点については、韓国視覚障害教師会の数人の教師からも同様の指摘が聞かれた。
以上のとおり、韓国では障害教師に関わる施策を政府が主導し、根拠となる法令を整備している。韓国の諸施策も必ずしも功を奏しているとはいえないが、日韓に共通の課題は多く、日本の障害教師雇用政策に大いに示唆を与えるものである。

【文献】
中村雅也,2020,『障害教師論——インクルーシブ教育と教師支援の新たな射程』学文社.
シム・ジンエ/クァク・ジョンナン/ナム・ヨンヒョン/ユン・ギョンイン,2015,『政策研究2015-12 教育庁の障害者雇用率の向上策——障害者教師を中心に』韓国障害者雇用公団雇用開発院.