自由報告1-2

オンライン上での手話がよりよく「見える」服と背景の色の組み合わせ
-アンケート調査とカラーユニバーサルデザインに基づく分析-
長谷川由美(近畿大学)・片山一郎(近畿大学)

1.はじめに
新型コロナウイルス感染症をきっかけに、モニター越しのコミュニケーションをする機会が増えた。遠隔手話通訳や2021年7月から始まった公共インフラとしての電話リレーサービスもタブレットや携帯電話などを利用するモニター越しのコミュニケーションである。今後、コロナ収束後も、利便性が高いオンラインの活用は続くと考えられ、手話が適切に「見える」環境を作る必要性が高まっている。
ZOOMの利用が拡大する中、ZOOMを使って開催された手話関連の学会で、色弱と聴覚障害を併せ持つ会員から、手話がうまく読み取れないと意見が出された。手話でコミュニケーションを行う場合、聴覚障害に対する配慮は考えるが、その他の障害や多様性にまで考えが及びにくいのが現状である。画面に映る手話がうまく見えないということは、情報保障の問題にも直結するため、できるだけ多くの人が見えるように心がける必要がある。

2.調査目的
本調査の目的は、オンライン上で手話を見るときに、より多くの人が手話を読み取りやすいと感じられる手話話者の服と背景の色の組み合わせを明らかにすることである。

3.調査方法
和歌山県紀北地域の手話サークルと和歌山県聴覚障害者協会の会員を対象にオンラインアンケートを実施した。実施に際して、各サークルと会の長から承認を得て、該当団体のグループラインにアンケートに関する掲示をお願いし、アンケート内容に同意した人だけが無記名で回答をしていただけるようにした。
アンケートでは、手話話者(日本人女性)が、灰色、黒、赤、黄色、青、緑のいずれかの長袖のTシャツを着て、Tシャツと同じ生地を利用した灰色、黒、赤、黄色、青、緑のいずれかの色の背景の前で手話している短い動画を見てもらった。服と背景色の組み合わせは、36パターンである。
服と背景色の各組み合わせについて、手話の見え方を「非常に見やすい」から「非常に見にくい」まで5段階で回答してもらった。初めに呈示した服と背景色の組み合わせは、本アンケートの回答方法の習熟を目的としたため、回答結果は集計せず、最後に再度呈示した際の回等を分析対象とした。なお、このことは動画の評価者には秘匿した。

4.調査結果
アンケートを依頼した結果、計32名(聴覚障害者:13名<うち2名は色弱、聴者:19名)から回答を得ることができた。
アンケート結果を分析したところ、一般色覚者(C型)<以後、一般色覚者と記す>が最も見やすいと回答した黒い服と青い背景の組み合わせ(写真1)は,色弱者にとっては、全36パターンのうちの14番目の見やすさであった。一方、色弱者(D・P型)<以後、色弱者と記す>が最も見やすいと回答した赤い服と青い背景の組み合わせ(写真2)は、一般色覚者にとっては、全36パターン中の18番目の見やすさであった。また、色覚特性に関わらず見やすいと評価された色の組み合わせは,青い服と灰色の背景(写真3)および黒い服と灰色の背景(写真4)であった。

写真1 一般色覚者が最も見やすいと答えた黒い服と青い背景の組み合わせ
写真2 色弱者が最も見やすいと答えた赤い服と青い背景の組み合わせ
写真3 色覚特性に関わらず見やすいと答えた青い服と灰色の背景の組み合わせ
写真4 色覚特性に関わらず見やすいと答えた黒い服と灰色の背景の組み合わせ

5.考察
赤い服と青い風景の組み合わせ(写真2)は、一般色覚者には、色コントラストが非常に強く感じられ、手話を読み取るには適さない色の組み合わせであると感じるだろう。しかし、赤が暗く見える色弱者にとっては、適度な色コントラストであったため見やすいと判断されたと考えられる。赤い服と青い風景の組み合わせ(写真2)は、緑の光を主に感じる錐体がない、あるいは分光感度がずれているD型の人には写真5のように、赤い色を主に感じる錐体がない、もしくは分光感度がずれているP型の人には写真6のように見えている。

写真5 赤い服と青い背景の組み合わせ <D型の見え方>
写真6 赤い服と青い背景の組み合わせ <P型の見え方>

6.おわりに
手話について語るとき、手話表現などの言語学的要素が中心になることが多い。独立言語・手話としての特性を明らかにすることはもちろん重要であるが、視覚言語であるからこそ、よく見える、はっきり見えることも大切である。重複障害者や高齢者への配慮も考えると、なおさらよく「見える」環境作りを考える必要があるだろう。

発表者
長谷川由美(准教授)hasegawa@waka.kindai.ac.jp
近畿大学生物理工学部 教養・基礎養育部門
片山一郎(教授)katayama@waka.kindai.ac.jp
近畿大学生物理工学部 人間環境デザイン工学科