自由報告1-1

「早産児家族の抱く感情―在胎期間を考慮したインタビュー調査―」
羽布津碧・菊池春樹

【背景と目的】 近年,出生体重2,500g未満の低出生体重児数および在胎期間37週0日未満で出生した早産児数とも上昇傾向にある.しかし,出産直後から児との分離体験をする家族がどのような主題についてどのような感情を抱いているのかという実態は未だ明らかにされていない.本研究に先行して羽布津・菊池(2023投稿中)は,全国の早産児家族交流会を観察し,参加者の語りを「感情」及び語られた「主題」ごとに分類した.非言語を中心とした行動については,エスノグラフィーを応用し,整理した.結果,「感情」については,ネガティブ感情として「不満」「諦め」「不安・心配」「防衛」「自責」「怒り」「孤独」「遠慮」が,ポジティブ感情として「援助欲求」「感謝」「前を向く努力」「嬉しさ」「共感」が抽出された.表出された感情は多岐にわたったが,エスノグラフィーとして分析すると,複数の参加家族は,生の感情(real emotion)を抑制し,防衛を行いながら,家族交流会に沿った現在の感情(mind)を語っていると解釈できた.
本研究では,先行した観察研究の対象の半数以上が超早産児(在胎28週0日未満)の母親であったという課題を補い,さらに父親を含め,児の在胎期間が異なる様々な家族に対しインタビュー調査を行うことで,先行の観察研究から捉えきれなかった家族の感情を明らかにすることを目的とした.
【方法】 対象を,超早産児(在胎期間28週0日未満の児),極早産児(在胎期間28週0日~31週6日の児),中等度早産児(在胎期間32週0日~33週6日の児),後期早産児(在胎期間34週0日~36週6日の児)の家族の4カテゴリーに分け参加を依頼したところ,超早産児の両親,極早産児の母,中等度早産児の母,後期早産児の母の合計5名が調査参加者となった。それぞれに対し,研究内容および倫理的配慮について説明し,インフォームド・コンセントを行い,同意を得た上で概ね1時間程度のオンラインでの半構造化面接を実施し,録画した.なお,本研究は東京成徳大学大学院研究倫理委員会の承認を得ている(承認番号 22-1-21).インタビューの質問は,先行の研究(羽布津他,2023)で抽出された主題の中で,児の在胎期間によって違いがあると予想された6項目等とした.調査参加者の語りを先行研究において分類した家族の「感情」のカテゴリーを参考に,M-GTAを用いて分類した.
【結果と考察】 本調査では,先行した観察研究(羽布津他,2023)で目立った「防衛」に該当するような語りや態度の表出は少なかった.辛い思いを語りながら涙を流す家族も多く,先行研究(羽布津他,2023)よりも「生の感情」に近しい感情を捉えることができたと考える.
一方で,ある参加者は,多くの「怒り」「不満」を表出し,「怒り」感情を表面化することで自己を「防衛」し,自身の感情に直面しない,という新たな家族の心理面的側面も見られた.児の在胎期間にかかわらず,多くの母親が「自責」感情を語り,自分が早産で出産したために児に負担を強いていると捉えていた.さらに,「不満」「不安・心配」「孤独」等のネガティブ感情は,概ねどの母親にも共通する感情であった.他方,児の出生体重が1,500g以上の児や,後期早産児の家族からは,早産児の中でも,出生体重が少ない児や,在胎期間が短い児と比較し,支援が不足していることへの不満が語られた.
父親の受け止め方に関しては,辛い思いをした際にも気持ちは語らず,納得のいく解決策を自身で調べるなど,自己解決する傾向が見られた.妻も,早産児の父としての夫の感情を把握していなかったと語り,夫婦間で早産児の親になることへの葛藤を話し合う難しさが伺われた.
早産児家族交流会に積極的に参加した経験を語った2名にとっては,家族交流会が自身の居場所として機能している様子であった.一方で,現在は特別な障害を持たない児を育てる自身が医療的ケアなどを必要とする児を持つ家族から家族交流会で攻撃的な言葉をかけられないかと不安を語った参加者,後期早産児の親が参加しても話が合わないのではないかとの悩みを語った参加者もいた.早産児の家族同士の中でも,障害の有無や在胎期間による比較が生じ,自身が傷付けられるのではないかとの思いから,家族交流会から距離を置く家族の姿も明らかになった.
本研究においては,在胎期間にかかわらず早産児の母の多くが早産に伴う自責感情を抱いていることが明らかになった.出産から時間が経った現在においても,度々当時の感情が蘇り,涙を流す背景には,これまで他者に生の感情を吐き出し,感情を捉え直す機会が失われていたことの影響があると考える.今後は,安心して生の感情を表出し,トラウマ感情を再構成する場の構築が求められる.