介助における「時間の難民」
――台湾における外国籍介護労働者を利用した重度障害当事者の一事例
高雅郁(立命館大学大学院先端総合学術研究科)
【報告要旨】
一、はじめに
障害者権利条約第19条では、パーソナル・アシスタンスは地域生活に欠かせない支援であることが明示されている。山下幸子は、パーソナル・アシスタンスを「(1)利用者の主導(支援を受けての主導を含め)による、(2)個別の関係性の下での、(3)包括性と継続性を備えた生活支援である」との三つの要素で形成されると指摘している(山下 2017:20-21)。障害者自らが生活全般に必要な支援を把握して、介助者と一対一の関係で、長期的に自分らしい生活を営むことである。
1997年以降、台湾の重度障害者は外国籍介護労働者と継続的で専属的な一対一の介助関係の構築を実践してきた。そのうち、住み込みで働く外国籍介護労働者は、障害者の自立生活など様々な面で必要不可欠である一方で、過労などの諸問題を抱えている(高 2013, 鄭 2021)。そこで台湾では、外国籍介護労働者の長期間労働を改善するために、雇用主に対して外国籍介護労働者に適切な休暇を取らせるよう定められている。そのため、外国籍介護労働者の休暇の際、障害者や高齢者は代わりの介助者を手配しなければならない。本研究は、台湾のある事例を通して、こうした代わりの介助者の段取りをするなかで障害当事者が抱える介助をめぐる「時間」の問題を検討する。
二、研究方法
研究手法はデータ及び資料分析を行う。本研究で使用するデータや資料は、研究協力者のP氏(女性、30代後半、脊髄性筋萎縮症=SMA患者、電動車いすユーザー)の日誌、介助記録、研修資料や動画、P氏のFacebookアカウントに公開された関連投稿及び筆者との文字対話の記録などであり、P氏の同意を得たうえで分析した。
P氏は、24時間に介助や付き添いが必要である。1997年から今まで8名の外国籍介護労働者が主な介助者となっている。制度上、契約期間内に1名の外国籍介護労働者しか雇えないため、当該外国籍介護労働者の休暇中には、自費で台湾籍の介助者を利用するほか、家族(主に母親)が暫定的な介助者になっている。
三、研究結果
〇代わりの介助者の手配する過程
2023年3-5月の2ヶ月間に、外国籍介護労働者が一時帰省のため、P氏は2022年10月より、代わりの介助者を手配するべく動き始めた。まず、外国籍介護労働者とすでに契約中であるなど、当該期間は他の外国籍介護労働者の代替ができない。
そこで、P氏は短期ケアサービスのうちの短期入所の利用を考えたが、P氏の望む形にはならず、短期入所を選択肢から外した。一方、居宅介護サービスや自立生活支援サービスの運営団体にも相談や交渉し、利用することとなった。もっとも、2ヶ月間休暇をとっている外国籍介護労働者に代わる介助者を、約半年の時間をかけて、代わりの介助者の派遣が可能なスケジュールの範囲で埋めていったが、それでも、空いてしまう時間には自費で介助者を雇う、及び友人や家族に介助を頼まなければならなかった。
〇外国籍介護労働者が不在期間の介助及び突発的な状況
利用できるサービス内容によって、P氏は起床や就寝などの生活介助を居宅介護サービスで利用し、日中活動は自立生活支援サービスや自費で雇う介助者か友人・家族に頼んだ。しかし、居宅介護サービスも自立生活支援サービスも、外国籍介護労働者が実際に働いている期間の派遣はできず、事前の研修や引継などはできなかった。そのため、P氏は代わりの介助者に一から教えなくてはならず、様々な生活介助に2~3倍の時間がかかってしまった。
また、友人に突然用事が入り手伝いに来られなくなったり、COVID-19に介助者やP氏が感染し、介助者の臨時的な手配が突如必要となることなどもあった。
四、小結
台湾では、外国籍介護労働者の導入で、パーソナル・アシスタンスのように、長期間で専属的な一対一の介助関係がある。しかし、外国籍介護労働者を利用する障害者に制度内の介助サービスが制限されていたため、諸問題が生じている。特に外国籍介護労働者の一時帰国の短期間に代わりの介助者を手配するため行政・運営団体との交渉や、その後の介助者とのすり合わせや突発状況の対応について、何倍も時間がかかり、障害者にとっては時間を奪われている。それにもかかわらず、外国籍介護労働者の休暇に伴う介助の「空白」期間は埋まらなかった。まさに介助難民であり、介助における「時間の難民」であることを示唆される。
【キーワード】外国籍介護労働者、介助、パーソナル・アシスタンス、台湾
【参考文献】
高雅郁(2013)「障礙者的獨立生活:個人助理服務、 外籍看護工服務、 與居家服務使用比較」國立陽明大學衛生福利研究所2012年度修士論文.
鄭安君(2021)『台湾の外国人介護労働者――雇用主・仲介業者・労働者による選択とその課題』明石書店.
山下幸子(2017)「序章 パーソナル・アシスタンス制度創設のための論点整理――障害者権利条約の視点から」岡部耕典編『パーソナルアシスタンス――障害者権利条約時代の新・支援システム』,生活書院:15‐42.