予防接種健康被害救済制度の課題と実効性
―新型コロナ感染症(COVID-19)ワクチン禍に注目して―
発表者:野口友康
予防接種健康被害救済制度(以下同制度と略す)は、1976年に予防接種による健康被害に対する法的救済制度として創設された。しかし、発表者が行った予防接種による健康被害者や支援者からの聞き取り調査(新型コロナ感染症ワクチン接種による副反応顕在化以前)によると、同制度には7つの課題があることが明らかになった。本発表では、新型コロナ感染症(COVID-19)ワクチン接種による健康被害に注目し、同制度の実効性を検討する。
はじめに、聞き取り調査から明らかになった同制度の課題は次の7点である。それらは、①国民に対する予防接種健康被害救済制度の周知、②勧奨接種と任意接種の二つの異なる健康被害申請、救済の請求・給付プロセスなどの一元化と充実化、③健康被害申請と認定に関するプロセスと高いハードルの改善、④自治体による予防接種健康被害救済の制度化、⑤迅速な健康被害認定、⑥治療法の確立と医療費負担の軽減、⑦迅速な予防接種死亡一時金の支給である(野口,2022,pp.174-187)。
つぎに、新型コロナ感染症(COVID-19)ワクチン接種による健康被害状況を確認する。新型コロナ感染症COVID-19)ワクチン接種においては、2023年4月30日時点で、日本全国で37,210件の副反応疑い報告(医療機関報告)があり、そのうち8,948件が重篤な報告であった。ワクチン接種による死亡が疑われる事例は2,071件だった。一方、2023年8月4日時点の同制度による健康被害の申請受理件数は、8,455件で、4,414件が審査され、そのうち3,772件が認定、549件が否認、93件が保留であった。これまで約2,000件以上がワクチン接種による死亡疑いとして報告されているが、ワクチン接種による死亡が認定されたのは148件のみである。同制度は、創設時から2021年末までの約45年間で合計3,522件(うち死亡151件)を健康被害として認定したが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチン接種による健康被害の認定は現時点で、すでにその合計を上回る3,772件に達している(1)。さらに健康被害の認定審査は、申請数の約半数しか終了しておらず、死亡認定数も過去最大となるだろう。したがって、新型コロナ感染症(COVID-19)ワクチン接種による健康被害は、これまでのワクチン禍のなかでも最大規模である。多くの副反応・死亡疑い報告がなされているのに、なぜ迅速に救済されないのだろうか。実は、このような状況は、今に始まったことではなく、過去にも繰り返し発生してきた。それらは、1970年代の集団予防接種禍、1980年代のMMRワクチン禍、2000年代の注射器の連続使用によるB型肝炎禍、そして2010年代のHPV(子宮頸がん)ワクチン禍(現在係争中)の四つの市民運動である。聞き取り調査やこれまでの健康被害者への実態調査から明らかになったことは、国はこれまでワクチン接種による多大な犠牲が発生していたにもかかわらず、健康被害者を積極的に救済してこなかったという実態である。市民運動により訴訟が提起され、国の責任が追及され、たとえ敗訴や和解が成立しても、国はワクチン接種の推進を継続し、健康被害者の救済には積極的ではないのである。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチン接種による健康被害で、特に問題となっているのは、7つの課題のうち③健康被害申請と認定に関するプロセスと高いハードル、④自治体による予防接種健康被害救済の制度化、⑤迅速な健康被害認定、⑥治療法の確立などの4点である。これらの課題は、新型コロナ感染症(COVID-19 )ワクチン接種による甚大な健康被害により、改めて大きく浮き彫りにされた。
健康被害者は、日本全国9ブロックで「新型コロナワクチン後遺症」患者の会を結成し、国に対して、ワクチン後遺症患者の実態調査を行うとともに、後遺症への補償、治療費・生活費の援助、医療機関による受け入れ体制の充実、治療法の研究・開発を進めるよう強く求めている(2)。さらに接種後に死亡した男性の遺族は、「国はワクチンの安全性について検証をしないまま特例承認を行った。また、市民病院では十分な措置がとられなかった。解剖検査をせず、遺族にも知らせずに火葬が行われた」として、国・自治体と製薬会社を提訴した(3)。
本発表では、国は、同制度の実効性を高めるために全面的な制度の見直しを行うべきであり、現行の救済制度は、機能していない「救済されない救済制度」と評価せざるを得ないと結論づける。
参考文献
野口 友康(2022)「犠牲のシステム」としての予防接種施策――日本における予防接種・ワクチン禍の歴史的変遷、明石書店
注
(1) 厚生労働省疾病・障害認定審査会資料より、https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-shippei_127696_00001.html(閲覧:8月8日)。
(2) 「新型コロナワクチン後遺症」患者の会ホームページより(閲覧:2023年8月8日)。
(3) NHKニュースより、https://www3.nhk.or.jp/lnews/kitakyushu/20230523/5020013417.html(閲覧:2023年8月8日)。
【倫理的配慮】
本研究で行った聞き取り調査では、対象者に事前に本研究の目的・方法・公表等を書面(メール)及び口頭で説明した。その後聞き取り調査をまとめた原稿を対象者に送付し、原稿の記述の正確性の確認を行った。また氏名・年齢等の公表・原稿利用承諾を書面(メール)及び口頭により得た。ただし今回の報告では考察のみを発表し、対象者の氏名・年齢等の個人情報は報告には含まれていない。
【研究代表者:野口友康。研究課題/領域番号23K16251、日本の予防接種健康被害救済制度と諸外国の救済制度の比較】