2025年10月1日
障害学会理事会
2023年10月7日に、パレスチナ自治区ガザを実効支配する武装組織ハマスによるイスラエル攻撃を端緒として、イスラエル軍のガザ侵攻が続き、とりわけ障害者に深刻な影響が生じています。しかし、問題の根底には、長年にわたる占領に起因する構造的暴力があり、これはパレスチナ人、とりわけ障害者の生活に継続的・系統的な被害をもたらしてきました。現在のガザ侵攻はこの状況をさらに悪化させ、危機的段階に至らせています。
障害者権利条約は前文(u)において、「国際連合憲章に定める目的及び原則の十分な尊重並びに人権に関する適用可能な文書の遵守に基づく平和で安全な状況が、特に武力紛争及び外国による占領の期間中における障害者の十分な保護に不可欠であることに留意し」とするとともに、 危険な状況及び人道上の緊急事態に関する第11条において、「締約国は、国際法(国際人道法及び国際人権法を含む。)に基づく自国の義務に従い、危険な状況(武力紛争、人道上の緊急事態及び自然災害の発生を含む。)において障害者の保護及び安全を確保するための全ての必要な措置をとる」と規定しています。
同条約の国際的モニタリング機関である障害者権利委員会は、その報告において、現在の戦闘下における障害者の尊厳、個人をそのままの状態で保護すること、生存に対する深刻な危険と危害に関する情報に懸念を示しました。また、占領下パレスチナ地域における人道危機への締約国の取り組みにおいて、障害者の状況が依然として軽視されていることにも懸念を示しました。
具体的には、①暴力と死亡のリスク増大(A.障害者の死亡、飢餓、急性栄養失調、水へのアクセス剥奪、それに続く脱水症状および疾病、B.学校、病院を含む、障害者が居住または国内避難している民間地域、住宅、避難所に対する無差別攻撃を含む、C.車いす・補装具などの入手困難、D. 入植者やイスラエル治安部隊による直接的暴力を含む)、②視覚障害者と聴覚障害者を含む、障害者に対する早期警報及び避難措置の不備(障害児者を支える介護者や家族の安全確保の欠如を含む)、③人道支援の著しい制限と封鎖による不均衡な影響と権利剥奪(障害者への差別行為を含む)、④国内避難民に対する悪化した交差的影響(強制避難によるアクセシビリティ欠如とリスク増大や、障害者向けシェルターやインフラの破壊を含む)、⑤障害女性・少女への暴力や衛生・医療アクセス上の深刻な障壁、⑥障害児の安全・教育・心理的支援の欠如(過酷な環境下での四肢切断やトラウマを含む)、⑦健康面をはじめとする高齢障害者のリスク(援助物資の限定的な配布に起因する高齢者の予防可能な死亡の増加を含む)、⑧難民・国外搬送を要する障害者への支援課題、⑨障害者組織及びその他の市民社会組織への悪影響、⑩データと統計の不足、⑪人権及び国際人道法違反に対する説明責任の欠如、について取り上げています。
この報告が示しているガザ及びヨルダン川西岸地区(東エルサレムを含む)のパレスチナの障害者の深刻な状況に鑑み、すべての紛争当事者と日本政府を含む国際社会に以下を強く要請します。
●戦闘を即時停止すること。
●人質を即時解放すること。
●民間人に対する攻撃・暴力・敵対行為を停止すること。
●障害者権利条約前文(u)及び第11条「危険な状況及び人道上の緊急事態」に基づき、障害者の保護及び安全を確保するための全ての必要な措置をとること(援助物資の障害者への滞りない提供を含む)。