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質疑応答は文章末です


映画に見られる発達障害の人々の多様性

三浦美恵子(国際医療福祉大学)


【目的】
 映画を通して、発達障害(特に、自閉症とアスペルガー症候群)の人々について理解を深める。発達障害の人々は、幾つかの代表的な特性で一括りにされる傾向がある。しかし、自閉症やアスペルガー症候群など、同じ障害であっても一人一人は異なる存在である。映画の登場人物から、発達障害を持つ人々の多様性について示唆を得る。

【方法】
 1988-2021年(過去33年間)に制作された映画18作品を鑑賞し、計10ヵ国(アメリカ、日本、フランス、スウェーデン、イギリス、イスラエル、韓国、イタリア、インド、シエラレオネ)で暮らす自閉症・アスペルガー症候群の人々の様子を知る手立てとする。制作年が古いものから新しい順に整理し、映画のタイトル(原題)、制作年・制作国・登場人物の性別・障害種・登場人物の特徴について要約する。

【結果】

1. レインマン (Rain man)・1988年・アメリカ・男・自閉症

・床に落ちたマッチを見ただけで246本と瞬時に言い当てる。
・電話帳の内容を全て記憶する。
・数字に強く、複雑な計算が得意である。
・キャンディーと車の値段の違いが分からず、どちらも100ドル程度だと思っている。
・横断歩道を渡っている途中に、信号が赤になり“Don’t walk”と表示されると、文字通り解釈して道路の真ん中で立ち止まってしまう。

2. エイブル(able)・2002年・日本・男・自閉症

・17歳、問いかけには応えるが、自ら言葉を発しない。言語に頼らず、人の動きを見て察する。
・人を守ろうとする気持ちがあり、特に年下の人には兄のように接する。
・パズルを完成させる速度が驚くほど速い。
・食べ物がとても好きで、料理の本に強い関心を示す。写真も好きである。また、洗面所が好きで、1時間以上とどまることがある。
・アリゾナ州でホームステイをする。ギルバートハイスクールに入り、皆で食事をする、バスケットをするなど現地の生活を楽しむ。

3. モーツアルトとクジラ (mozart and the whale)・2004年・アメリカ・男:自閉症、女:アスペルガー症候群

・動物に対して異常なほどの愛着がある。数字や音楽に強い興味を示す。
・言葉を文字通り解釈する。例えば男性は、就職の面接で今後のプランについて尋ねられた時、「ハンバーガーを買って洗濯に行く」と答えた。女性は幼い頃、世界記録(World Record)が破られたことを喜ぶ両親の姿を見て、自宅にあった「レコード」を破る(割る)という行動に出て、周囲から呆れられた。

4. マラソン・2005年・韓国・男・自閉症

・動物、特にシマウマが好きで、走ることが得意。
・記憶力が良い。買い物リストのメモがなくても全て覚えており、大好きな動物の生態についても優れた記憶力を発揮する。
・この映画のモデルとなった自閉症の人物は、19歳の時、42.195㎞を2時間57分7秒で完走。2002年にはトライアスロンで、226.195kmを15時間6分で完走し、国内で最年少記録だった。

5. 彼女の名はサビーヌ(ドキュメンタリー)・2007年・フランス・女・自閉症

・陽気で美しく芸術的才能が豊かだったが、独特な言動ゆえに同級生からは「バカ・サビーヌ」とからかわれる日々を過ごした。
・自閉症と適切な診断を受けることなく、28歳から5年間精神病院に入院。入院直後から状態は急激に悪化し、以前とは変わり果ててしまった。

6. ぼくはうみがみたくなりました・2009年・日本・男・自閉症

・ミニカーを一定の間隔で並べる。
・車が好きであり、古い車種を発見するとノートを取り出し記録する。
・掃除機の音を嫌い、耳をふさぐ。上下に飛び跳ねる。
・幼稚園の頃、グラウンドででんぐり返しを儀式のように
繰り返し、雨や雪が降っても関係なくやり続けた。

7. シンプル・シモン(SIMPLE SIMON)・2010年・スウェーデン・男・アスペルガー症候群

・宇宙と物理、丸い形が好きである。
・曜日によって食事内容が決まっている(例えば、月曜日はソーセージとマカロニ、火曜日はパンケーキなど。パンなどの食材を好きな円形にカットする)。
・朝は7時起床、トイレは7時05分など、行動の時間が決まっている。
・シャンプーは軽量スプーンで15ml測って使用する。

8. マイネームイズハーン(MY NAME IS KHAN)・2010年・アメリカ・男・アスペルガー症候群

・インド人のイスラム教徒である。
・幼い頃、医師は彼が人と違う理由が分からなかった。母は彼のことをよく理解し、愛情深く育てた。母は、「この世にいる人間は2種類だけ、よいことをするいい人と、悪いことをする悪い人。人間の違いはそれだけ。他は何も違わない」と幼い息子に教えた。
・学校では同級生にからかわれ、いじめられた。
・金属音が苦手で、耳をふさぐ。新しい人や場所を怖がる。
・大人になってから障害が分かった。後にアメリカに渡り、同じくインド人でヒンドゥー教徒の女性と結婚した。

9. ちづる(ドキュメンタリー)・2011年・日本・女・自閉症

・1歳11か月で自閉症、3歳で知的障害と診断された。
・中学2年生の頃から、学校に行けなくなった(撮影時は19歳)。
・鏡を見ながら食事をすることがあり、100円玉を製造年ごとに整理する。
・母親は、本人が「自閉症嫌だ、障害者が怖い」と1年ほど前から言うようになり、周囲から自分が区別されていることに気付いていると述べる。

10. ものすごくうるさくてありえないほど近い(EXTREMELY LOUD & INCREDIBLY CLOSE)・2011年・アメリリカ・男・アスペルガー症候群(未確定)

・10歳の少年。アスペルガー症候群不確定という診断を受けた。
・「変な感じの人」とよく言われる。同級生からからかわれる。
・苦手なことは色々あるが、例えば公共交通機関が苦手でエレベーターの使用も避ける。大好きな父親を同時多発テロで失ってから、その気持ちは一層強くなった。
・パニックを抑えるために、タンバリンを使う。橋を渡ることも苦手だが、タンバリンを鳴らしながら一人で渡り切った。
・亡くなった父親を思い出しながら、自傷行為をする。

11. 僕と世界の方程式(X+Y)(実話に基づく)・2014年・イギリス・男・自閉症

・幼い頃、医師から好きなものを聞かれ「図形」と答えた。光や形の変化に敏感であり、特別な才能がある一方で、社会的、感情的な困難と一生つきあうことになると宣告された。
・9歳で代数の勉強を開始。ノートにはぎっしりと数式を書く。
・数字と図形に対する興味が深すぎて通常の小学校では対応できないため、国際数学オリンピック(世界中の高校生を対象とした数学大会の最高峰)に出場した経験がある教師から個人指導を受けることになった。その後、国際数学オリンピック(イギリス選抜チーム)の一員に選出される。

12. 500ページの夢の束 (Please Stand By)・2016年・アメリカ・女・自閉症

・「スター・トレック(宇宙大作戦)」という作品が大好きで、その知識では誰にも負けない。編み物も好きである。
・午後3時:勉強、4時:犬の散歩、6時:テレビでスター・トレックを見るなど、一日の日課が決まっている。
・曜日によって着る服の色や模様が決まっている(月曜はオレンジ色、火曜はラベンダー色、水曜は青色、木曜は水玉、金曜は黄色、土曜は紫色、日曜は赤色)。
・名前と場所を覚えることが苦手であり、それらを覚えるように言われた時には怒りを表した。
・人の顔や目を見ずに話す。指導員から「3秒だけ顔を見て」と言われ、何とか見ることができる。

13. ぼくと魔法の言葉たち(LIFE, ANIMATED)(ドキュメンタリー)・2016年・ アメリカ男・自閉症

・順調に成長していたが、3歳の時に突然変わってしまい、夜中に目を覚ましたままずっと起きている、運動スキルの低下、言葉の能力が損なわれ意味不明のことを言う、周囲の言葉を音としてしか理解できない状態になった。
・ディズニーアニメが大好きで、ディズニー映画の台詞をすべて暗記している。家族はディズニー作品の台詞を使って、本人に話しかけ続け、会話ができるようになった。
・数々の困難と努力を経て成長し、学校ではディズニークラブ(ディズニーのアニメを同級生たちと鑑賞し、語り合うサークル)でリーダー的な存在となり、積極的に活動した。
・23歳で学校を卒業してからは親元を離れ、介護支援付き住宅で独り暮らしを開始、学生時代から3年間付き合った恋人にふられるという悲しみを何とか克服し、好きな場所である映画館で働く。
・フランスで開催された自閉症の会議に招待され、大勢の聴衆の前で以下のようなスピーチをした:「自閉症の人というのは、他人との関わりを嫌うと思われますが間違いです。自閉症の人もみんなが望むことを望んでいます。でも間違った導き方をされ、他の人との関わり方を知らずにいます。僕は学校でいじめにあい、未来が不安で恐ろしく成長したくなくなりました。鐘楼に閉じこもり世界を眺めるだけでした。(中略)今鏡を見ると、誇り高い自閉症の男が映ります。強く勇敢で、驚きに満ちた未来に立ち向かう僕の姿です。」

14. 靴ひも(LACES)・2018年・イスラエル・男・発達障害(詳細不明)

・母が突然亡くなり、息子の障害を理解できず、一度は家族を捨てた父親と暮らすことになった。
・綺麗好き、掃除好き。
・料理(主食とおかずなど)が接することを嫌がるので、各々が接しないように盛り付ける必要がある。
・定時に食事をするため、仕事の途中でも自分の日課を優先する。仕事の途中で「ランチの時間だ」と言ってその場からいなくなり、客を置き去りにする。

15. それだけが、僕の世界・2018年・韓国・男・自閉症(サヴァン症候群)

・26歳、身の回りのことなど自分でできないことが多く、母親や兄に助けてもらいながら生活している。
・質問に対しては主に「はい」とだけ答える。食事中におもらしをしても、自分で洗濯することができない。
・特技はピアノである。ピアノの教育を受けたことはなく、楽譜を読むことはできないが、難解な曲であっても一度聴いた曲を真似て完璧に演奏することができる。ピアノを弾く時、譜面台にはスマホだけを置き、ゲームの画面を出して演奏する。初めて演奏を聴いた兄は、その素晴らしさに衝撃を受け言葉を失った。

16. トスカーナの幸せレシピ・2018年・イタリア・男・アスペルガー症候群

・幼い頃、父親からいつも怒られ、バカだと言われていた。父親は息子の障害について知らなかった。
・人と握手することを拒む、軽く肩を叩かれることも嫌うなど、人との接触を苦手とする。
・料理に使われている材料を細部に渡り、全て正確に言い当てることができる「絶対味覚」 を持つ。その味覚の鋭さには、プロの料理人たちも驚くほどであり、料理に強い興味関心を示す。
・若手料理人コンテストに出場した際には、周囲の人々の距離が近いことを嫌がり、一人で離れた場所へ移動して作業を行うなど独特の行動を取り、審査員たちから嫌がられた。しかし、当初の予想に反して決勝まで進み、準優勝となった。

17. 僕が飛び跳ねる理由 (THE REASON I JUMP)(ドキュメンタリー)・2021年・イギリス・インド、イギリス、アメリカ、シエラレオネに住む若者計5人(男:2人、女:3人)・自閉症

①インドの少女
・帰宅するなり、絵を描く。
・母親は、娘は学校でいじめられていたと思うと述べ、当時は一か所を塗りたくり、紙が破れるほど強く力を入れて絵を描いていた。彼女にとって絵は、日常を伝える手段である。
・書き溜めた絵を展示し、個展を開催した。

②イギリスの少年
・幼い頃は、特に水と光に興味を示した。音にも敏感である。
・撮影時は10代後半だが、2歳の誕生日直前の出来事、3-4歳頃の庭での体験など、過去の出来事をとても具体的に語る。父親曰く、本人には30分前の出来事と変わらないようだと述べる。
・思春期に入り、大声で叫び、暴れるなど暴力的な行動が現れ、両親は大変な思いをしている。昔のように感覚の世界を楽しめなくなり、不安が大きくなっているようである。

③アメリカの男性
・23歳。7-8歳の頃、集中力は2分と持たなかった。
・言語療法を始めたが、16歳の時に合わないと判断。その後、アルファベットの文字盤を指さす方法に切り替えたところ、うまくいき、自身の気持ちを表現することができるようになった。本人は、指差しで“I never dreamed this was possible.”(こんなことが可能とは思わなかった)と喜びを表している。さらに、“I think we can change the conversation around autism by being part of the conversation.”(僕らが加われば、自閉症をめぐる対話は変えられる)と述べる。指差しで気持ちを表現できるようになったため、母親が本人の気持ちを代弁する必要がなくなった。

④アメリカの女性
・③の男性とは幼稚園時代からの幼馴染である。男性と同様に、文字盤の指差しやキーボードを使って気持ちを表現する。女性曰く、幼馴染の男性③は「初めてできた友達」である。また「以前、私には何もなかった。仲間に出会った今、私にはすべてがある」と述べている。③と④は互いの友情を楽しみ、他の人々との関係も含めて、充実した学校生活を過ごしている。

⑤シエラレオネの少女
・言葉を発する様子はないが、感覚を刺激するものが好きで、海に入る、両親とゲームをすることなどを楽しむ。
・父親は「娘が僕を真の父親にした。この子がくれた愛は、我々の人生観をも変えた」と言う。また、母親は「自閉症の子は多くの文化で恥とされる。子育て中感じたのは、愛情や共感よりも嫌悪や蔑みの目だった」と述べる。
・母親は、自閉症の子をもつ親が集まるグループに参加したが、自閉症を恥とする根強い文化のせいで、集まる家族は限られていた。自閉症の子は、急に叫んだり飛び跳ねたりするため、悪魔と結び付けられやすいということである。以下は、グループの母親たちの言葉である:「近所の皆が、この子をイカれてると。つらく当たられて引っ越すしかなかった。」「娘はいつも差別される。悪魔だとか魔女だとか。生んだ私も魔女扱い。皆が娘を手放せと言うの。どんなに努力しても誰も助けてくれない。この子を川に捨てて、楽になれと言うだけ。これが現実よ。」

18. 梅切らぬバカ・2021年・日本・自閉症

・50歳の男性。6:45起床、6:56トイレ、7:10朝食など定時に行動する。他の人と食事をする時も、合わせることなく、時間になったら食べ始める。
・お菓子を入れる白い紙の箱を作ることが仕事である。
・50歳を迎えた時、母親が準備した誕生日ケーキのろうそくが49本しかないことを瞬時に判断し、母親は1本追加する。
・馬が好きで、馬のぬいぐるみを抱っこする、キーホルダーをカバンにつけている。
・お嫁さんが欲しいと言う。

【考察】
 本研究では、1988-2021年(過去33年間)に国内外で公開された映画18作品を通して、発達障害の人々について理解を深めた。計10ヵ国で生活する登場人物の姿から、自閉症やアスペルガー症候群など同じ障害でも一人一人は異なる存在であることを最認識した。世の中には、障害を持つ人に関する固定観念、例えば、自閉症の人はコミュニケーションが苦手で、人と関わることを嫌うなどがある。しかし、映画で登場する人々の姿は実に多様であり、人との交流を求め、楽しみ、両親、家族、教師、友人、恋人、ホームステイ先の家族、学校関係者など多くの仲間と良好な関係を築き、可愛がられ、愛される人々であった。また、登場人物が示した特徴(数字に強い、驚くべき記憶力、時間通りに行動するなど)や得意・好きなこと(数学、音楽、動物、料理、ディズニー・マラソン・アート、車、宇宙、物理、丸い形、光、水など)も個人差があり、多岐に渡る。障害の有無を超えて、人間とは多様な存在であるという当たり前の事実を美しく描写した作品であった。
 また、さまざまな国々で、時代を超えて、障害に対する根強い偏見・差別があることも伝えていた。例えば、作品17「僕が飛び跳ねる理由」(ドキュメンタリー)で登場したシエラレオネの人々の言葉は、自閉症が悪魔や呪いと結び付けられ、共同体における圧力がいかに強いものかを示している。その一方で、シエラレオネの人々に限らず、全ての作品に通じることとして、どんな困難があっても発達障害のある息子・娘・孫を愛し抜く両親や家族、大切に向き合う教師、指導者、支援者、友人、恋人など、周囲の人々の存在も際立っており、温かく見守り応援し続ける人々が不可欠であることを示していた。時代や国などさまざまな違いを超えて、大切なことを教えてくれる作品であった。

【映画発売・販売元】
1.「レインマン」(1988)発売元:フォックスエンターテイメントジャパン
2.「エイブル」(2002)発売元:ableの会
3.「モーツァルトとクジラ」(2004)発売元:ポニーキャニオン
4.「マラソン」(2005)発売元:アミューズソフトエンターテイメント
5.「彼女の名はサビーヌ」(2007)発売元:アップリンク
6.「ぼくはうみがみたくなりました」(2009)発売元:日本コロムビア
7.「シンプル・シモン」(2010)発売元:TCエンタテイメント
8.「マイネームイズハーン」(2010)発売元:20世紀フォックスホームエンターテイメン
トジャパン
9.「ちづる」(2011)発売元:紀伊国屋書店
10. ものすごくうるさくてありえないほど近い(2011)ワーナー・ブラザース
11.「僕と世界の方程式」(2014)発売元:レスぺ
12.「500ページの夢の束」(2016)発売元:キノフィルムズ/木下グループ
13.「ぼくと魔法の言葉たち」(2016)発売元:トランスフォーマー
14.「靴ひも」(2018)発売元:マジックアワー
15.「それだけが、僕の世界」(2018)発売元:ツイン
16.「トスカーナの幸せレシピ」(2018)発売元:ハーク
17.「僕が飛び跳ねる理由」(2020)発売元:KAD
18.「梅切らぬバカ」(2021)発売元:ハピネットファントム・スタジオ


■質疑応答
※報告掲載次第、9月17日まで、本報告に対する質疑応答をここで行ないます。質問・意見ある人はjsds.19th@gmail.com までメールしてください。

①どの報告に対する質問か。
②氏名。所属等をここに記す場合はそちらも。
を記載してください。

報告者に知らせます→報告者は応答してください。いただいたものをここに貼りつけていきます(ただしハラスメントに相当すると判断される意見や質問は掲載しないことがあります)。
※質疑は基本障害学会の会員によるものとします。学会入会手続き中の人は可能です。

〈2022.9.11 会員から〉
宮崎康支(関西学院大学客員研究員)

様々な作品の内容を整理いただき、興味深く拝見しました。
以下3点につきお伺いします。

1.分析対象となった作品の選定根拠について、ご教示いただければ幸いです。
2.分析対象となった作品の多くは主人公が持つ特定の抜きんでた能力、ないし才能をあえて目立たせているように見えます。その背景要因についてご見解はありますでしょうか。
3.様々な国の作品を分析されていますが、それぞれの作品の舞台となっている国の文化によっての、発達障害の描かれ方の相違の詳細についてご見解はありますでしょうか。

以上、どうぞ宜しくお願い致します。

〈2021.9.11 報告者から〉
1.分析対象となった作品の選定根拠について、ご教示いただければ幸いです。
>今回は、発達障害の中でも特に自閉症の登場人物が登場する作品を探し、使用しました。入手できた作品を鑑賞し、1980~2021年まで、国内外の作品で自閉症の人々がどのように描かれているのか調査しました。作品は、ドキュメンタリー・フィクション・ノンフィクションが混ざっていますが、この度はいずれかにこだわらず、全体的な報告となりました。当たり前のことですが、人間は障害の有無を問わず、(同じ障害だとしても)皆全く違う存在なのだということを再認識しました。

2.分析対象となった作品の多くは主人公が持つ特定の抜きんでた能力、ないし才能をあえて目立たせているように見えます。その背景要因についてご見解はありますでしょうか。
>障害と才能を持ち合わせた人々(2E:Twice Exceptional)に興味があります。障害と何等かの能力・才能は共存しうるということを教えてくれた考え方で、私にとってはとても新鮮なものでした。人間は誰でも得意&不得意があります。障害があっても、個々の強み、好きなこと、得意なことなどがあります。2Eの概念を知るまでは、障害のある人の障害自体やその特性、それゆえに苦手なことなどに注目しがちだったように思います。今後は、本人の好きなこと、興味のあること、得意なことなどにもっと目を向けたい!と思うがゆえに、ご指摘頂いたような結果になったと思います。実際に、抜きん出た才能があるかどうかということよりも、本人の強み(小さなものでも軽んじることなく)を大切にして、さらに伸ばすような、そんな姿勢が周囲の人々に求められると感じています。

3.様々な国の作品を分析されていますが、それぞれの作品の舞台となっている国の文化によっての、発達障害の描かれ方の相違の詳細についてご見解はありますでしょうか。
>10か国で生活する人々とその家族の様子を概観しました。特に、シエラレオネでは、自閉症が悪魔と関係づけられるという点に驚きました。2021年の「梅切らぬバカ」(日本)では、自閉症の人々が近所で生活することに対して、強い不安や嫌悪の気持ちをもつ近隣住民の姿が描かれており、シエラレオネとは異なるかもしれませんが、障害に対して近からず遠からずな感情を持っているようにも思いました。

また、映画の作品を通して相違よりも「共通する事柄」に気持ちが向くようになりました。アメリカだから○○、シエラレオネだから△△、1980年代だから~で、2021年は…..。という見方よりも、国や時代を超えて通底する人々の想いがあると感じました。例えば、いつの時代・どこの国でも、障害に対する偏見や差別がある一方で、どんな時も支える家族&仲間の存在が大切であること、自閉症の人は人間関係が苦手など、一括りに扱われがちだが、実はそんなことはないなど。時代、国、障害云々を超えて、人間が持つ感情や願いには共通するところがあるのではないか。そんな気持ちになりました。結局は、障害のある人々をどのように捉えるか、周囲の人々の心が問われているように思います。映画の描写には、製作者たちの気持ち&主張が反映されているものなので。

〈2022.9.19 会員から〉
宮崎康支(関西学院大学客員研究員)
三浦様
たいへん興味深いご返答を拝読しました。
「映画の作品を通して相違よりも『共通する事柄』に気持ちが向くようになりました。」とのコメントにハッとさせられた次第です。
国や年代に拘ると、むしろ見えづらくなるものもあるのかもしれませんね。
ありがとうございました。


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