予防接種ワクチンによる健康被害が発生する四つの過程と健康被害者の救済について
野口友康(特定非営利活動法人予防接種被害者をささえる会 代表理事
東京大学大学院総合文化研究科 学術研究員
立命館大学生存学研究所 客員研究員)
1. はじめに
2019年末に発生し、2021年9月現在も世界を震撼させているCOVID-19(新型コロナ感染症)の終息の目途は立っていない。ウイルスは度重なる変異を繰り返し、人間の防御の目をかいくぐり、ますます感染の拡大を謀っている。COVID-19(新型コロナ感染症)の決定的な治療方法が確立されていない中で、世界中で予防接種ワクチン接種が進み、予防接種ワクチンへの期待が高まっている。
予防接種ワクチンは、人間の感染症への免疫力を高めるために、あらかじめ体内に病原体のもつ毒性成分の一部や添加剤、情報(mRNAワクチンの場合)などを入れるため、その人の健康状態や体質によって、予測できない副反応がおこる可能性がある。ワクチン接種後の軽い体調不良、皮膚の腫れなどの比較的軽度なものだけでなく、アナフィラキシー、ギランバレー症候群、急性脳症、脳脊髄炎、肝機能障害などの影響で重度の身体・知的障害につながる事例もある。このような副反応が、なぜある人には発生し、ある人には発生しないのかという科学的因果関係の完全な解明には至っていない。
日本は、予防接種ワクチンにより副反応の健康被害を受けた人々を救済するために、1976年に予防接種健康被害救済制度を創設したが、それ以降の副反応被害者認定者数(勧奨接種のみ)は、約3400名以上にのぼっている(1)。これらの人々は、予防接種ワクチンという公衆衛生上の集団社会防衛システムの犠牲者であると言えるだろう。
本発表の目的は、予防接種ワクチンによる健康被害の原因を分析するために、ワクチンの製造から接種後に至るまでを四つの過程(製造・品質管理・接種時・接種後)に分類し、これまで日本で発生した予防接種禍や事故が主にどの過程に起因するものであるかを分析することである。そして、過去の事例の分析と、暫定的ではあるが、COVID-19(新型コロナ感染症)ワクチンの健康被害認定及び、副反応疑い報告(現時点において入手可能なデータ)を比較することを試みる。
なお、本発表は、予防接種ワクチンの必要性・有効性・安全性を否定する論考ではない。
2.予防接種健康被害をもたらす可能性のある四つの過程の分析
本章においては、予防接種健康被害をもたらす可能性のある四つの過程の分析を行う。それは、過去に発生した健康被害は、四つの過程に起因して発生しているためである。
2.1 製造創薬・プロセス開発と臨床試験過程について
最初の過程は、予防接種ワクチンを製造する過程である。この過程は、一般的には製薬会社などにより行われる。新しいワクチンの開発には、表1のように、創薬・プロセス開発・臨床開発・試験法開発などの開発段階に分かれており、各プロセスの開発には時間がかかり、通常ワクチンの認可取得までの期間は、創薬から平均10~15年を要するという(米国研究製薬工業協会2012,52‐56)。本節においては、健康被害の事例の分類がしやすいように、創薬・プロセス開発をまとめて製造・臨床品質管理過程として扱う。それは、製造および臨床・品質管理過程に起因する健康被害は、通常接種時/後の健康被害と区別されており、これらは、薬事法にもとづく薬害による健康被害である。
表1: ワクチンの開発段階(米国研究製薬工業協会の資料などを参考に筆者作成)
製造過程においては、製造設計としてニーズの設定、抗体になり得る病原体、化学物、化学物質などの選定を行い、この段階で非臨床試験を行うか、その後原液を製造し、そのまま製品化に移り、その過程で非臨床試験が行われる場合もある。原液製造では、病原体の培養に続き、求める抗原の分離と精製が行われる。製品化においては、アジュバント(免疫補助剤)や安定剤などとの調製などが行われる(米国研究製薬工業協会2012,52)。
臨床・品質管理過程においては、弱毒化や不活化が適切にできているか、 想定どおり抗体が獲得されるか等をロット毎に確認する必要があるため、動物を用いた試験を 製造工程において実施している。その後、ヒトを対象とする臨床試験に進むが、ヒトを対象とした臨床試験は、表1のようにⅣ相に分かれている。
Ⅰ~Ⅲ相の臨床試験において問題が発生した場合、問題の調査を行い、原因を特定したうえで、ワクチンの修正を行う。臨床試験を問題なく完了したワクチンは、その後、国に申請が行われ、問題がなければ承認される。国は、ワクチンの承認後、さらに第Ⅳ相の製造販売後の臨床試験を求める場合がある。
次にワクチンの品質管理に関しては、品質管理基準を保つために、国は医薬品製造業者に対し 「製造管理・品質管理基準」:GMP(Good Manufacturing Practice)の遵守を求めている。GMPは、製品の製造から出荷に至るまでのすべての過程において、製品が適切で安全に製造され、品質が保証されるように、製造者が遵守する必要のある基準である。日本は、1976年よりGMP に基づいた行政指導を開始し、1980年に厚生省令として公布、1994年には 省令改正に伴い医薬品製造の許可要件(GMPに適合していない医薬品等は製造できない)となり、2005年には製造販売(GMPに適合していない医薬品等は製造・販売できない)の承認要件となった。
ワクチンの製造・品質管理過程と関連した有害事例は、1948年に発生した京都・島根ジフテリア事件が該当し、ワクチンの弱毒化工程に問題があった。また、国の検定においては、検定の実施方法に問題があったため弱毒化されていないワクチンを発見できなかった。この事件は、製造から品質管理工程の一連の工程に問題があったと言える。
1990年代に発生したMMRによる健康被害では、国内の占部株おたふくかぜワクチンや海外での占部株を使ったMMRワクチンによる副反応の報告がされていたが、製造承認申請にあたり、充分な臨床試験が行なわれなかった。また、検定においてもワクチンの培養方法を無断で変更した原液を提出するなど製造者による品質管理過程での過失があった。この事件も製造から品質管理工程の一連の工程に問題があったと言えるだろう。
子宮頸がんワクチン訴訟は、2021年9月現在も裁判が進行中であるが、原告は、HPVワクチンの主成分であるL1タンパク(免疫を強力かつ持続的に刺激し、免疫系の異常をひき起こす危険のある)に、添加分であるアルミニウムアジュバントが含まれていることが副反応を起こす要因である可能性について言及している(2)。 なお、COVID-19(新型コロナ感染症)のmRNAワクチンは、原液を製造しないため、今後、従来の製造・臨床・品質管理過程が見直されることになるだろう。
2.2 予防接種実施時に起因する健康被害
ワクチン接種は、医師によりなされるが、接種時にミスが発生した場合、医師は予防接種実施要項により「予防接種による間違い報告」を通して国に報告することになっている。また、法定化された副反応疑い報告の義務化により、接種の間違いにより予防接種事故が発生した場合、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)のアプリケーションなどを利用して報告するシステムになっている。
医師による接種のミスに関して、厚生労働省の報告によると、2017年4月1日から2018年3月31日までに発生した予防接種時の事故の総数は、表2のとおり、7,787件であった。このうち、「接種間隔を間違えてしまった」というミスは、全体の51.69%、次に多いミスは、「その他(対象年齢外の接種、溶解液のみの接種など)」のミスで全体の23.05%、三番目に多いミスは、不必要な接種(12.55%)、その他に接種対象者の誤認(4.19%)、期限切れワクチンの使用(3.49%)、接種量のミス(2.31%)、ワクチンの種類のミス(2.18%)などであった。この報告においては、接種ミスに起因した健康被害は発生していないとしている。過去の接種時のミスとしての最大の予防接種禍は、注射器の連続使用によるB型肝炎ワクチン禍である。
表2: 予防接種実施時の間違い報告(筆者作成)(3)
2.3 通常接種後の健康被害
これまで述べてきた副反応による健康被害は、製造・品質過程と医師の接種時の事故により発生するものであった。本節で述べる通常接種後の健康被害者とは、製造・品質管理過程で問題がなく、医師により適正に接種されたにもかかわらず、不可避な副反応が発生した場合と定義する。通常接種後の副反応の原因の全容は明らかではないが、人によっては、卵、抗生物質、あるいはゼラチン、チメサロールといった、ワクチンに含まれる成分や微量元素に敏感に反応する可能性が考えられる。それ以外の稀な有害事象の原因は大抵が不明で、稀な有害事象は、免疫 応答の個人差に関連していると考えられている(米国研究製薬工業協会2012,22)。
そして、通常接種後の副反応は、ごく稀に起こるものであるとされている。しかし、社会が稀と判断できないような多くの副反応が発生すれば、それは、接種前(時)の過程のどこかに問題があるのではないかと考えられるだろう。当初、通常接種後に副反応が発生したと考えられていたものが、後の医学的進歩や知見の集積により、その前の過程のどこかの問題として明らかになる場合もあるだろう。過去の事例をみると、化学添加物による副反応の可能性の知見は充分ではなかった。あるいは弱毒性生ワクチンの接種によるポリオ感染症の発症の危険性から不活化ワクチンに変更されたことは、後の知見によるものである。通常の接種後の副反応の中には、現在の知見では明らかになっていない接種前までの因果関係が存在する可能性はあるが、因果関係の特定は容易ではない。
下記の表3は、これまで述べた予防接種健康被害をもたらす過程をそれぞれの過程ごとに事由、被害状況、事例をまとめたものである。
これによると、約4千人以上(任意接種も含む)の人が健康被害者として認定されている。戦後発生した京都・島根のジフテリア事件の約千人の被害者は、救済制度が始まる以前の出来事であったため、認定健康被害者の累計数に含まれていない。
さらにワクチン接種時の事故により、訴訟を提起し和解したB型肝炎禍の被害者は、累計で6万7千人にのぼり、その数を含めると予防接種による健康被害者の認定総数は約7万千人以上である。
表3:日本における予防接種と関係した健康被害の全体像(筆者作成)
3. COVID-19(新型コロナ感染症)ワクチンによる認定被害状況及び副反応疑い報告
本章においては、これまで分析した予防接種ワクチンによる健康被害が発生する可能性のある四つの過程を、現時点において入手可能なデータをもとに、COVID-19(新型コロナ感染症)ワクチンの健康被害にあてはめる。
予防接種ワクチンによる健康被害の認定は、予防接種健康被害認定制度により、被害者当事者による疾病・障害認定審査会 感染症・予防接種審査分科会への申請(市町村・都道府県経由)をもとに行われる。
2021年8月19日の時点で、41件の健康被害の申請が疾病・障害認定審査会 感染症・予防接種審査分科会審議対象となった。このうち、認定が29件、保留が12件、否認が0件という結果であった。申請のあった41件は、すべてアナフィラキシーやアレルギーによる医療費・医療手当に関するもので、死亡一時金に関する健康被害申請は含まれていない。
次に、医療機関による副反応疑い報告の情報によると、接種が開始された2021年2月17日から8月8日までに、ファイザー社ワクチン、武田/モデルナ社ワクチンについて副反応疑い報告数は、合計22,056件であった。このうち重篤報告数は3,876件で、ワクチン接種による死亡例と疑いがある報告は、合計1,002件であるが、厚生科学審議会 (予防接種・ワクチン分科会 副反応検討部会)により、死亡例がワクチンとの因果関係が認められたものはない。
ワクチン接種により死亡したと疑われる事例については、被害者の家族等が健康被害救済制度の申請を行うことになるが、被害に関する書類の準備は、すべて被害者側の負担であるため、所定の書類を準備する際には、接種をした医師や行政の協力が欠かせない。ワクチン接種との因果関係が認められていない状況で(判断が保留されている)、申請に際し、医師や行政の協力が迅速に得られるか否かは重要なポイントになるだろう。
これまでの副反応疑い報告は、すべて、四つの過程のうち通常接種後の副反応(実施後)の事例である。ワクチンの品質管理や接種ミスの問題が多数報道されているが、現時点においては、行政の報告等からは、製造・品質・接種ミスによる健康被害は発生していないことになる(6)。
4.まとめ
これまで発生した予防接種健康被害の事例を分析すると、ワクチンの製造・設計、品質管理、接種時、接種後の四つの過程において、重篤な健康被害が発生していることが明らかになった。薬害を含めた認定健康被害の累計総数は、と約4千人以上に、B型肝炎禍も含めると約7万千人以上となる。また、接種ミスでは、接種ワクチンの種類・量や対象者の誤認など重篤な健康被害につながる可能性がある事例が少なからず発生している。
現在、積極的に接種が進められているCOVID-19(新型コロナ感染症)ワクチンについて、本発表は、予備的なものにとどまるが、これまでのワクチン接種による副反応疑い報告数(過去10年間で約1万件)と比較すると、すでに2倍以上の報告があがっている。mRNAという全く新しい手法のワクチン接種による副反応の知見が限られている中で、健康被害者認定がどの程度認定されるかを注視する必要があるだろう(7)。また、現時点においては、製造・品質管理・接種ミスなどによる被害は発生していないとされているが、この点も目を離すことができない。
予防接種ワクチンには、接種をすれば不可避な副反応が発生する矛盾が存在するが、行政がワクチンによる健康被害を認めると、自ら安全性を否定するという矛盾も存在している。しかし、COVID-19(新型コロナ感染症)ワクチンは、これまでよりも副反応が発生する割合が高く、もし、国が重篤な副反応疑いに関して、幅広く救済をしなければ、国民は安心をしてワクチン接種を受けることができないだろう。
注
(1) 厚生労働省ホームページより。予防接種健康被害制度認定者数、https://www.mhlw.go.jp /topics/bcg/other/6.html (閲覧:2021年8月23日)。
(2) HPVワクチン薬害訴訟全国弁護団のホームページより。https://www.hpv-yakugai.net/ 2020/06/19/silgard9-pubcom/ 、(閲覧:2021年8月23日)。
(3) 厚生労働省ホームページのデータをもとに筆者作成。厚生労働省、令和元年8月第32回予防接種基本方針部会資料、参考資料2予防接種に関する間違いについて、https://www.mhlw.go.jp/content/10601000/000553930.pdf、(閲覧:2021年8月23日)。
(4) 独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)令和元年度 第1回 健康被害救済制度の運用改善等に関する検討会参考資料4その他の制度統計資料(業務報告より)、https://www. pmda.go.jp/relief-services/unyokaizen/0003.html#order、(閲覧:2021年8月23日)。
(5) 法務省ホームページ「B型肝炎訴訟、訴訟の状況」より。https://www.moj.go.jp/shoumu/ shoumukouhou/shoumu01_00032.html、2020(閲覧:2021年8月23日)。
(6) メディアの報道によると、群馬県が設置する新型コロナのワクチン接種センターで、1日で同じ人に2回接種していた(https://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye4285680.html)。 また、兵庫県の尼崎市は、1日に高齢者施設で行った新型コロナワクチンの先行接種で、施設の職員ら6人に対しワクチンを希釈せずに原液のまま、通常の5倍の濃度で打った(https://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye4282791.html、いずれも2021年6月上旬発生)。また、モデルナ製のワクチン未使用の瓶内に異物が混入していたため製造番号や工程が同じワクチン約163万回分を破棄した(https://www.yomiuri.co.jp/national/20210826-OYT1T50122/、2021年8月下旬発生)。この他にも同じ人に3回接種、注射針の未交換、紛失、生理食塩水の注射、不適切な保管状態のワクチン接種などの重大な接種関連のミスが相次いでいる。
(7) mRNA(メッセンジャーRNA)ワクチンは、これまでのワクチンとは異なり、情報伝達物質を体の中に入れ たんぱく質が体内で作られると体の中で免疫が発動し、ウィルスに対する抗体が作られる。この方法により、ワクチンの原液を製造する必要がないため、これまでよりも短期間でワクチンの製造・開発ができる。一方で、mRNAワクチンのアナフィラキシーの発生率(医療機関報告)は、厚生労働省によると、2021年8月25日時点で、100万回接種あたり22件(ファイザ―)と100万回接種あたり13件(モデルナ)と報告されている。
参考文献
米国研究製薬工業協会、ワクチンファクトブック2012(日本語版)、http://www.phrma-jp.org
/library/vaccine-factbook_j/
第67回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会、令和3年度第16回薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会(合同開催) 資料
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000208910_00029.html(閲覧:2021年8月25日)。
厚生労働省 疾病・障害認定審査会 (感染症・予防接種審査分科会) 審議結果、https:// www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-shippei_127696_00001.html(閲覧:2021年8月23日)。
■質疑応答
※報告掲載次第、9月25日まで、本報告に対する質疑応答をここで行ないます。質問・意見ある人は2021jsds@gmail.comまでメールしてください。
①どの報告に対する質問か。
②氏名。所属等をここに記す場合はそちらも。
を記載してください。
報告者に知らせます→報告者は応答してください。いただいたものをここに貼りつけていきます(ただしハラスメントに相当すると判断される意見や質問は掲載しないことがあります)。
※質疑は基本障害学会の会員によるものとします。学会入会手続き中の人は可能です。