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質疑応答は文章末です


障害者雇用・福祉施策の変化が職業リハビリテーション実践にもたらす影響について
~労働や能力、平等とは何かを考える視点から~

小川裕子(大阪府立大学 人間社会システム科学研究科 博士後期課程)


1.はじめに
 近年の雇用環境の変化の中で、障害を雇用者に対して開示して就労する障害者雇用は年々普及している現状にある。厚生労働者「令和3年 障害者雇用状況の集計結果」によると、同年の雇用障害者数は59万7、786.0人(対前年比3.4%上昇、対前年差1万9、494人増加)、実雇用率2.20%(対前年比0.05ポイント上昇)で、ともに過去最高を更新している。
 筆者は、生活保護施設職員として障害者を含む困窮者の自立支援・地域移行に携わったのちに、就労支援に関心を持ち、現在、障害者就業・生活支援センターで支援ワーカーとして勤務を始めて間もないが、障害者雇用に関して幾つか新たな発見があった。 
 障害者就業・生活支援センターは、同法に定められる職業リハビリテーションの実施機関の1つであるが、登録者の相当な割合が、精神・発達障害の診断を受け、それを開示した上での障害者雇用の就職を目指しており、そこでのキーワードはアセスメントと就労準備性の向上となり、何らかの就労支援サービス、支援機関を利用している人が多い状況にある。
 さらに先輩ワーカーの話によると、障害者自立支援法によって就労移行支援事業が始まって以降の変化として、2000年代初頭までの身体・知的障害の人たちが雇用促進の主対象であった時代よりも、就労支援が「訓練」的な要素が強くなってきている体感がある、ということ、そしてその結果、上述のように、障害者雇用は増えているが、その多くが能力的には一般就労をこなすことができる精神・発達障害の人たちであることも痛感している。
 特に後者は自分にとって意外な状況であり、他領域から来た私の感覚では、国連の障害者権利条約の批准の動きの中で2013年雇用促進法改正に盛り込まれた差別禁止・合理的配慮といった理念は障害の社会モデルに近いもので、障害当事者が自身の障害特性を踏まえた訓練をし、社会に適合していく支援をする、という方向性はとられていないと考えていたからである。

 そこで本研究では、そのような職業リハビリテーションの実践の矛盾あるいは変容がどのようにもたらされたのか、日本の障害者施策において大きな転換点となったと考えられる以下の2つの時期に焦点化してみていきたい。
①2005年 障害者自立支援法(現障害者総合支援法)が制定→就労移行支援事業の創設時期の議論
②2013年 雇用促進法改正の前後での実践と理論に関する議論

 その前に、職業リハビリテーションについて確認しておく。国際労働機関(ILO)の定義によると、「継続的かつ総合的リハビリテーション過程のうち、障害者が適当な職業の場を得、かつそれを継続できるようにすることが出来るようにするための職業サービス。例えば職業指導、職業訓練、および選択的職業紹介を提供する部分をいう」とあり、さらにILOは1983年に「障害者のリハビリテーションに関する条約」の第159号条約においてその目的を「障害者が適当な雇用につき、それを継続し、かつ、それにおいて向上することが出来るようにすること及びそれにより障害者の社会への統合または再統合を促進することにある」と規定した。
 日本では障害者雇用促進法の第8条において「職業リハビリテーションの措置は、障害者各人の障害の種類及び程度並びに希望、適性、職業訓練等の条件に応じ、総合的かつ効果的に実施されるものでなければならない」と定められている。

2.障害者自立支援法導入と職業リハビリテーション
 2005年公布、2006年施行の障害者自立支援法(現・障害者総合支援法)は、その法制定趣旨の「ポイント」5項目の一つに「障害者の就労支援の抜本的強化」を掲げ、
①福祉施設等の就労支援体系の再編
②福祉施設等から一般就労への移行等を推進  就労移行支援、就労継続支援事業A型・B型 の創設
を規定した。

 同法の職業リハビリテーション機関への影響を見るために、そうした機関で支援にあたる専門職や研究者で構成される職業リハビリテーション学会の学会誌・『職業リハビリテーションvol.20 No.1』2006にて「障害者自立支援法と職業リハビリテーション」という特集が組まれていたものを見ていきたい。

 その冒頭、朝日雅也は「もっと働ける社会を」の本質を問う、の中で、この新法が、障害者の就労ニーズを再確認し、全体として、一般就労への道を広げる機会を提供することになる点を評価しつつ、世界規模のワークフェア的政策志向の中で、「障害者も納税者へ」という基調のスローガンに代表されるように、「仕事をすることで社会貢献すべし」(賃金労働万能主義的)という論理に変容する危険性を常にはらんでいることを関係者は自覚しなければならない、と述べている。その現象として、就労移行支援事業における一般就労への移行実績や定着実績の事業報酬の評価導入など、一般就労へ向けた支援の強化を制度的に動機付けていることを指摘している。
 そしてその歴史的文脈として、障害者の自立支援、社会参加のための具体策として、既に2004年あたりから厚生労働省「障害者の就労支援に関する厚生労働省内検討会議」、「障害者の保健福祉に関する今後の施策の方向性(グランドデザイン)」「障害のある人の『働きたい』を応援する共働宣言」など、雇用と福祉の統合をめざした動きがあったことを見ている。

 同じ特集内で、峰島厚は、さらにマクロな歴史的伏線として1980年代後半からの社会福祉基礎構造改革、1990年代後半から財政構造改革の具体化、国の社会保障財源の縮小や恒常的な制度の構築があることにも言及している。
 その結果、峰島および特集内のパネルディスカッションで指摘されているような、応益(定率1割)負担制度導入によるサービス利用の辞退・抑制が生じているという事態が見られる。
 これは、朝日が懸念していた、多様な就労支援が強調される一方で、新たな労働能力による選別が起きないのかという課題であるとともに、職業リハビリテーションの理念とサービスとの関係を明らかにした一元的な政策提言にもつながる。
 そこで、求められるのが雇用と福祉の統合だが、ネットワークの構築など新たな課題が予想されるなか連携が進んでいるが、それは、福祉や教育の場が単純に就労に向けた訓練の場として強化されることではない、と朝日は指摘している。それぞれの役割を認識しつつ、障害のある人を中心にした本当の意味でのケアマネジメントを展開できるかが、各分野に問われているのである。

 この点について、峰島は、障害者の福祉拡大要求あるいは福祉的就労要求と、一般就労移行要求あるいは福祉施設での雇用要求を対立した関係にして分断させようとするものでしかない、と悲観的な分析を行っているが、それに対し、横浜市総合リハビリテーションセンターの松田啓一は、別稿で、この新法により、従来の、身体、知的、精神という3障害の障害問格差が是正され、障害者の納税者化促進という国家的要請が、国民や企業人の理解を得て、福祉的就労から労働市場へ押し出す力としての「就労移行」と、労働市場へ引き込む力としての「雇用促進」という一対の力となりうることを肯定的に評価している。
 そこでは支援法と雇用促進法の対象者の整合性や移行システムの連動性が重要となると指摘されているが、対象者の整合性は3障害の一元化によって実現され、雇用促進法ではあらたに精神障害者を雇用率算定可能とし、また移行システムの連動性については障害者就業・生活支援センター事業など、職業リハビリテーション機関と福祉サービスをつなぐ機関の存在意義が重視されている。
 その上で、福祉的就労から雇用へ、という一方通行ではなく、就労継続支援を工賃向上などの努力によって雇用に代わる労働保障、雇用に対するセイフティーネットとして機能させる双方向性を提言している。

3.2013年「障害者の雇用の促進等に関する法律」の改正をめぐって
 次に、2006年に国連で採択された障害者権利条約の批准に向けた動きの中で議論が重ねられた結果、2013年公布、2016年に施行された「障害者の雇用の促進等に関する法律」の改正をめぐる議論と職業リハビリテーションの関係を見ていく。

まず、厚生労働省ホームページから、この改正内容を押さえておく。
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障害者の雇用の促進等に関する法律の一部を改正する法律の概要
1.障害者の権利に関する条約の批准に向けた対応
(1)障害者に対する差別の禁止  雇用の分野における障害を理由とする差別的取扱いを禁止する。
(2)合理的配慮の提供義務   
(3)苦情処理・紛争解決援助
① 事業主に対して、(1)(2)に係るその雇用する障害者からの苦情を自主的に解決することを努力義務化。
② (1)(2)に係る紛争について、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律の特例(紛争調整委員会による調停や都道府県労働局長による勧告等)を整備。

2.法定雇用率の算定基礎の見直し 精神障害者を加える。

3.障害者の範囲の明確化、その他の所要の措置を講ずる。
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※厚生労働省の下記サイトより抜粋。
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/0000121387.pdf

この改正を受け、前述の学会誌・「職業リハビリテーション」vol.29 No.2、2016において、「差別禁止と合理的配慮の提供義務に向けて」という特集が組まれている。同時期、労働法の研究者を中心に議論が重ねられているため、それらを合わせて検討する。

 まず、この改正の中心となる柱である差別禁止、合理的配慮をめぐっての議論を概観する。
 差別禁止については、朝日雅也はじめ多くの論者は、障害者であることを理由とする差別(直接差別)のみ禁止し、合理的配慮により解消できるとされた間接差別は禁じていないこと、積極的差別是正措置の枠組みとして、あるいは合理的配慮を提供した上で、労働能力等を適正に評価した結果、障害者でない者と異なる取扱いをすることは差別に該当しないとしていることに着目している。
 そのうえで永野仁美は、改正雇用促進法は「不当な」差別的取扱いを禁止していることから、何が「不当な」に該当するかに関して問題が生じることを懸念している。「不当な」差別的取扱いを禁止する趣旨は、障害者に対する積極的差別是正措置、労働能力に差が生じている場合に異なる取扱いをすることは、「不当な」差別的取扱いとは言えないとすることにある。
 また、遠山昌世はその延長上で、雇用率制度と差別禁止の併存問題に関する論者の見解をまとめ、長谷川珠子の「改正雇用促進法によって、障害者を特別に扱うことを求める雇用率制度と、障害者を等しく扱うことを求める差別禁止という異質な規定が併存することになり、それぞれが役割を十分に果たすためには、それぞれが対象とする障害者像が再検討されるべき」との見方を示した。
 永野[2014]もまた、改正雇用促進法は障害者雇用の「量的改善」を図ってきた政策に「質的改善」の視点を組み込んだ重要な改正であると評価する一方、差別禁止と雇用率制度をどのように位置づけるのかという理論的な問題が生じていると分析する。しかし、雇用率制度は障害者に対する積極的差別是正措置と位置づけられることから、雇用率制度と差別禁止は両立不可能ではなく、今後は2 つの並存によって、障害者雇用の「量的」「質的」改善が図られることに期待するとしている。また、労働・雇用分野における障害者権利条約への対応の在り方に関する研究会[厚生労働省、2012] は.差別禁止法と障害者雇用促進法が相互に補完し合い整合性のとれたものとなるよう、十分な調整を図るべきとしている。

 次に、合理的配慮について、まずその定義として、上記の厚生労働省のサイトでは「障害者が職場で働くに当たっての支障を改善するための措置」と記されており、事業主には、「当該措置が事業主に対して過重な負担を及ぼすこととなる場合を除き」、それを講ずることを義務付けている。
 多くの論者が指摘していることに、このような措置は従来から雇用管理としてなされていたが、雇用管理は集団的対応の側面があったのに対して、合理的配慮は個別性と合意が基盤となっていることがある。そのため、本来的には障害者本人が事業主に申し出る性質のものとされ、小川浩が論じるように、障害者と事業主の関係を調整する立場にある職業リハビリテーション機関が役割を果たせる可能性が大きい。
 また、合理的配慮の意義や位置づけに関する研究を吟味し、「非障害者中心の基準やルールを個々の障害者の状況に応じて変えるもの」[岩村、長谷川2014]や「障害者を取り巻く社会構造が差別的であるために、労働能力の評価を正確に行うことが不可能な場面で適用されるもの」[杉山、2011]といった理解を示している。

 上記のように、改正雇用促進法を理論的に検討していくと、遠山が指摘するように、差別禁止や合理的配慮によって保障されるのは労働能力をもつ障害者にとっての「平等」であり、必要な労働能力をもつことの難しい障害者の「平等」は保障されないことが露呈する。一方、雇用率制度のもとでは、労働能力が低い場合であっても、一定の範囲で雇用が確保され、そうした意味では両制度は、理論的に矛盾していても、併存されていることが望ましいというのが概ねの共通見解であるとまとめられる。

■さいごに
 以上、2つの時期の就労支援・職業リハビリテーションをめぐる議論から共通して見えてきたことに、日本の就労支援の現場には、労働能力が低くても障害者を雇用しなければならない施策(雇用率制度)と、労働能力が低いのであれば障害者を雇用しなくてもよい施策(差別禁止)という理論的に相反する施策が併存している、という現状がある。このことは、就労を希望する障害者に、労働能力が足りない分、劣位の条件で雇用されることを受け入れるか、もしくは差別禁止や合理的配慮を享受する分、非障害者と同等の労働能力を発揮できるよう「訓練」するかの選択を迫っている、と見ることができるのではないかと考える。
 そしてそのような大きな枠組みが固まっていく中で、精神障害や発達障害といった目に見えづらい障害のある人が就労支援・職業リハビリテーションの主な対象になっていっており、冒頭に記した職業リハビリテーションの実践における矛盾につながるのではないか、と考えた。
 先行研究からは、そこにはそもそも「労働能力」や「平等」の概念をどう見るのかなど、複数の理論的課題が根本にあることが伺われたため、さらに今後、厚生労働省の関連研究会の議事録なども含めて検討を進めていく予定である。

【文献】

朝日雅也,2006「もっと働ける社会を」の本質を問う–特集にあたって 『職業リハビリテーション』日本職業リハビリテーション学会誌編集委員会 編 20 (1) : 2−8

朝日雅也, 倉知延章,2006「緊急パネルディスカッション 障害者自立支援法と職業リハビリテーション」
『職業リハビリテーション』日本職業リハビリテーション学会誌編集委員会 編 20 (1) : 42−49

朝日雅也,2016「差別禁止指針と合理的配慮指針の解釈と対応」 『職業リハビリテーション』日本職業リハビリテーション学会誌編集委員会 編 29 (2), : 14-20

峰島 厚,2006「障害者自立支援法施策における障害者の雇用・就労」 『職業リハビリテーション』日本職業リハビリテーション学会誌編集委員会 編 20 (1), : 9−16

松田 啓一,2006「障害者自立支援法における就労支援の仕組みとその論点」 『職業リハビリテーション』日本職業リハビリテーション学会誌編集委員会 編 20 (1), : 17−22

永野仁美,2014,「障害者雇用政策の動向と課題」『日本労働研究雑誌』No.646:6−14

小川 浩,2016「差別禁止・合理的配慮の提供義務と職業リハビリテーション機関の役割」 『職業リハビリテーション』日本職業リハビリテーション学会誌編集委員会 編 29 (2), : 37−40

遠山真世,2015「「障害を理由とした差別」および「合理的配慮」をめぐる問題整理と論点抽出」『社会政策学会誌』7(1): 88-98


■質疑応答
※報告掲載次第、9月17日まで、本報告に対する質疑応答をここで行ないます。質問・意見ある人はjsds.19th@gmail.com までメールしてください。

①どの報告に対する質問か。
②氏名。所属等をここに記す場合はそちらも。
を記載してください。

報告者に知らせます→報告者は応答してください。いただいたものをここに貼りつけていきます(ただしハラスメントに相当すると判断される意見や質問は掲載しないことがあります)。
※質疑は基本障害学会の会員によるものとします。学会入会手続き中の人は可能です。

〈2022.9.22 会員から〉
大阪府立大学大学院人間社会システム科学研究科社会福祉学専攻博士後期課程
武子愛

 就労支援について丹念に調べられたご報告、ありがとうございました。
 私も知的障害のある人を対象に研究をしていますが、そのほとんどのフィールドが就労支援事業所で、そのなかでは障害者福祉の方向性として、生活を、仕事をするための「生活」として捉えた生活支援が行われているような印象があり、違和感を持っていました。
 小川さんは今回のご報告で、「就労を希望する障害者に、労働能力が足りない分、劣位の条件で雇用されることを受け入れるか、もしくは差別禁止や合理的配慮を享受する分、非障害者と同等の労働能力を発揮できるよう「訓練」するかの選択を迫っている、と見ることができる」と結論づけられておられます。このことは小川さんが発表のなかでご指摘なさっているように障害者が障害受容するのみならず、それを開示することが前提であり、障害のある人のニーズに合わせて社会の方を変えていくような社会モデルに近い考え方ではない、つまり、もともとソーシャルワークが持っていた社会統制機能の維持と何ら変わりはないというご指摘なのではないかと理解しましたが、あっていますでしょうか。


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