第18回障害学会大会(2021年9月25日13時00分~16時00分、オンライン開催)
 シンポジウム企画趣旨

「パンデミックにおける障害者の生」

 本シンポジウムは、新型コロナウィルス感染症のパンデミックの状態のなかで、介助がなければ生きられない人たちの生活において、どのようなことが起きていて、それをどのように乗り越えればよいのか、その方途を当事者の視点から考えるために企画された。
 障害や病を持つ人たちが、地域で生活することは簡単ではない。そのことは、これまでの本学会の報告や企画の中でも明らかにされてきたことである。2020年の障害学会大会シンポジウムでは、国立病院機構病院(旧国立療養所)にいる筋ジストロフィーの人たちが地域に出て暮らすことが、そう簡単にはいかないことが当事者やその支援者たちから明らかにされた。確かにそこには、様々な要因がある。たとえば、介助者が確保できないことや医療者側の理解が得られないことなどがある。そして、それ以外の面からも、障害や病を持つ人たちの地域生活が簡単ではないことを、私たちは知っている。そうした人たちの生活からは、「自立生活」や「自己決定」と言っても、ひとりの人生が、その人にすべて委ねられているわけではないことを思い知らされる。だから、なんだか、とても難しい。
 いずれにしても、ここに共通しているのは、障害や病を持つ人たちは「介助」という他者の支援を必要とすることである。これまでも、介助のあいだの距離――本人と介助者の関係や本人と家族の関係――については、たくさん考えられてきた。だが、今、目の前で起こっているのは、感染症のパンデミックにおいて身体的距離の確保が公共化されてしまったことで、他者の支援を必要とする人たちの生活に生じている問題が覆い隠されてしまい、見えなくされてしまっているということだ。
 他者との身体的距離をとれない支援を必要とする人たちに、そしてその本人たちを支援する人たちに、何が起こっているのか。私たちは素朴に知りたいと思った。知らなければならないと思った。なぜなら、これまで障害や病を持つ本人たちが自分たちの存在を根拠にして顕わにしてきた問題が、マジョリティ中心の公共性によって見逃されてしまっているからだ。たとえば、身体的距離の確保が必要だから、あらゆるところで本来は自由であるはずの面会があたりまえに制限されてしまっている。身体的距離の確保が必要だということと、それでよいとしてしまうことには距離があることに、この社会は鈍感だ。そこで何が起きているのか、知らないことを知らないままにしておくことは、障害や病を持つ本人たちにすべてを委ねることにしかならない。社会が、私たちが、こうした態度をとり続ける限りは、どうすればいいのかは見えてこない。
 確かなことは、感染症のパンデミックの状況に、真っ向から向き合っている障害や病のある本人と支援者たちが存在することである。これはとても大切なことだと思う。その日常や取り組みを聞くことで、そこで起こっていることを知ることができるし、問題に近づくことができる。本シンポジウムでは、できるかぎりいろいろな立場の人たちから、そこでの経験を聞きたいと思う。本人たちの日常に接近しながら、例えば医療のあり方や障害者の自己決定等といった古くて新しい諸論点を鍛え直すと同時に、これまで見えていなかった現実を掬いだすことを試みたいと思う。問題を共有し、互いに向き合い、この状況を乗り越える方途を考える時間にしたい。