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専門的職業に従事する障害者の労働支援
――車いす使用の学校教師を事例として――

中村雅也
(日本学術振興会・東京大学)


1 目的
 近年、産業構造の第三次産業への傾斜、障害者の就労が困難とされる職種に設定されてきた障害者雇用除外率の縮小、職業資格に対する障害者欠格条項の見直しなどにより、障害者の職域は変化、拡大しつつある。障害者が従事する職業が多様になれば、それに応じた多様な支援方策が必要となる。現在、障害者労働の公的な人的支援は、1人の支援人員が障害者を直接的に支援するシステムになっている。独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構は事業主が障害者に職場介助者の配置を行う場合、助成金を支給しているが、この支給対象となる措置は事業主が障害者ごとに1人の職場介助者の配置を行うものであり、また、支給対象となる職場介助業務は障害者に対する直接の介助業務である*1)。これまで障害者が従事することの多かった製造や事務といった職種(厚生労働省 2014)では、1人の支援人員が直接的にすべての支援業務を行うことで、障害者の職務上の困難を有効に解消できたかもしれない。しかし一方で、専門的職業では支援業務が複雑で多岐にわたることがあり、1人の支援人員だけですべての職務上の困難を解消することは難しい。
 そこで、報告者は職務遂行に必要な支援を個別の支援業務に切り分け、それぞれの支援業務ごとに別個の支援人員を配置する方策を障害者労働の業務支援理論として提示した(中村 2020 p183)。障害者の労働を支援する人員には重要な要件が2つある。1つはその職業についての知識や技術などの専門性、もう1つはその障害を支援するための専門性だ。前者を職業要件、後者を障害支援要件という。業務支援理論では多様な支援業務を職業要件と障害支援要件を観点として、4つに分類する。1つ目に職業要件と障害支援要件がともに求められる支援業務、2つ目に職業要件が求められるが障害支援要件は求められない支援業務、3つ目に職業要件は求められないが障害支援要件が求められる支援業務、4つ目に職業要件と障害支援要件がともに求められない支援業務である*2)。この4類型に支援業務を分類し、それぞれの類型に求められる要件を備えた人員を配置すれば、障害者の職務遂行に必要な支援が不足なく、有効に実施できる。また、障害者の労働支援の事例を業務支援理論で分析し、支援業務とそれを担う支援人員の適合性をみることで、支援が有効に実施されているかどうかを検証することもできる。そこで、本報告では障害者が従事する専門的職業として期待される学校教師(中村 2020 p1)に着目し、障害のある教師の支援が有効に実施されているかどうかを障害者労働の業務支援理論で検討する。

2 方法 ――調査協力者・調査方法・分析方法
 車いすを常用する学校教師4名に半構造化インタビューを行った。調査協力者には調査過程における人権保障、成果公表における個人情報保護などの研究倫理上の説明を十分に行い、同意を得た。4名の調査協力者のプロフィールは次のとおりだ。東山さんは30代、中学校の社会科教諭、手動車いす使用、西川さんは30代、中学校の数学科教諭、電動アシスト付き手動車いす使用、南野さんは40代、中学校の数学科教諭、電動車いす使用、北原さんは50代、高等学校の社会科教諭、電動車いす使用である(名前はすべて仮名)。インタビュー調査の時期は2019年11月から2020年5月の間で、それぞれ2回ずつ実施した。インタビューでは生い立ち、教師になる経緯、教育実践、労働環境などについてたずねた。発話は調査協力者の承諾を得てICレコーダーで録音し、トランスクリプトを作成した。本報告ではこのトランスクリプトから職務遂行に必要な支援とその支援を担う人的資源についての語りを抽出し、調査協力者の人的支援の実態を明らかにするとともに、その有効性を検討した。
 分析には障害者労働の業務支援理論を用いた。まず、それぞれの調査協力者について、実施された支援を個々の支援業務に切り分け、それらを職業要件と障害支援要件の要否によって4つの類型に分別した。次に、類型ごとに、それぞれの支援業務を要件を備えた人的資源が担っているかを検討した。最後に、支援業務とそれを担う人的資源の適合性から、それぞれの事例の支援の有効性と問題点について考察した。

3 結果 ――実施された支援業務とそれを担う人的資源
 本節では4名の調査協力者について、実施された支援業務とそれを担った人的資源を記す。支援業務は、職業要件と障害支援要件がともに求められるもの、職業要件のみが求められるもの、障害支援要件のみが求められるもの、職業要件と障害支援要件がともに求められないものの4類型に分けて提示した。以下では、職業要件と障害支援要件がともに求められる支援業務を「職業要件かつ障害支援要件」、職業要件のみが求められる支援業務を「職業要件のみ」、障害支援要件のみが求められる支援業務を「障害支援要件のみ」、職業要件と障害支援要件がともに求められない支援業務を「要件なし」と略記する。

3-1 東山さんの事例
 東山さんには「職業要件かつ障害支援要件」はなかった。「職業要件のみ」は次の4つがあった。1つ目に、①板書の代行である。東山さんは車いすに座ったままで黒板にチョークで板書するのが困難だ。そのため、通常はパソコン画面をプロジェクターでスクリーンに投影して板書の代わりにしている。だが、定期試験の解説時に解答を黒板に書く場合など、板書の内容をチーム・ティーチングの教師に指示して、代わりに板書してもらうことがある。2つ目に、②机間巡視の分担である。東山さんは生徒に机を寄せさせるなどして、車いすで机間巡視できるようにしているが、教室の後ろの方で通行しにくい場所は、チーム・ティーチングの教師が代わりに巡視することがある。3つ目に、③授業に取り組んでいない生徒の発見、指導である。めったにないことだが、他の勉強をしていたり、居眠りをしていたりする生徒がいた場合、チーム・ティーチングの教師が発見して、指導することがある。4つ目に、④知的障害のある生徒への個別対応である。特別支援学級での授業では、生徒が立ち歩いたり、トイレを訴えたりすることがある。その際に授業を進めている東山さんに代わって、チーム・ティーチングの教師が生徒の個別対応を行う。①から④の4つの支援業務は、チーム・ティーチングとして授業に加わる教師が担っていた。年度により、同じ社会科担当の場合と他教科担当の場合があった。「障害支援要件のみ」はなかった。「要件なし」は次の6つが挙げられた。1つ目に、⑤教室へのパソコン、プロジェクターの運搬である。板書代わりに使うパソコンやプロジェクターなどの機材は授業を行う教室に運ばなければならないが、東山さんが自力で運ぶのは困難だ。そのため、生徒たちが自主的に手伝いを申し出、機材の運搬を行った。2つ目に、⑥パソコン、プロジェクターのセッティングである。板書の代わりにパソコン画面を提示するには、教室でパソコン、プロジェクター、スクリーンなどの機材をセッティングする必要がある。東山さんが自力で行うのは困難なので、運搬とともにセッティングも生徒たちが行った。3つ目に⑦教材プリントの印刷、4つ目に⑧教材プリントの配布といった授業に関わるこまごまとした支援があった。また、5つ目に⑨体調不良の生徒への対応、6つ目に⑩授業途中での健康診断の引率といった授業中の不規則な事態への対応に関わる支援があった。⑦から⑩の4つの支援業務は、チーム・ティーチングの中でもう1人の教師によって行われた。

3-2 西川さんの事例
 西川さんには「職業要件かつ障害支援要件」はなかった。「職業要件のみ」は次の2つがあった。1つ目に、①チーム・ティーチングでの授業の補助である。授業に慣れていない新任時はチーム・ティーチングで授業を担当した。当初はもう1人の教師が授業を進行するT1を務め、西川さんが補助としてT2を務めた。次第に西川さんがT1となり、もう1人の教師がT2に移行した。T2として支援を担ったのは同じ数学担当の教師だった。後には授業の支援は不要となり、西川さんが単独で授業を行うようになった。2つ目に、②修学旅行の引率の補助である。まだ計画段階だが、西川さんが修学旅行の引率メンバーに入る場合は、引率教師が1名増員される。それは西川さんを直接支援するためではなく、西川さんの引率業務の一部を代行するためだ。支援を担うのは教科を問わない教師である。「障害支援要件のみ」には、③修学旅行での入浴があった。まだ計画段階だが、西川さんが修学旅行の引率を行う場合は、現地のホームヘルパーを手配し、宿泊先での入浴介助を受けるつもりだ。「要件なし」は、④学校での更衣と⑤修学旅行での更衣の2つが挙げられた。入学式、卒業式はスーツや礼服で参列することになる。西川さんはホームヘルパーの介助により、自宅でスーツや礼服を着用して出勤する。式典終了後は通常勤務にあたるために平服に着替えるが、自力では困難だ。そのため、勤務の休憩時間に学校までホームヘルパーに来てもらい、短時間で更衣の介助を受けている。また、西川さんが修学旅行の引率を行う場合は、現地のホームヘルパーを手配し、宿泊先での更衣の介助を受けるつもりだ。④、⑤の支援者は障害支援要件を満たすホームヘルパーだが、更衣の支援は特に障害支援要件を求めるものではない。

3-3 南野さんの事例
 南野さんには「職業要件かつ障害支援要件」はなかった。「職業要件のみ」は、①チーム・ティーチングでの授業の補助があった。支援を担うのはチーム・ティーチングとして授業に加わる教師で、年度により同じ数学担当の場合と他教科担当の場合があった。また、生徒の学習支援員が南野さんの支援の役割を兼ねることがあった。「障害支援要件のみ」には、次の2つが挙げられた。1つ目に、②通勤である。南野さんは勤務校の地域になじもうと思い、転任時には地域で借家を探して転居していた。電動車いすで通勤できる距離に住居が見つからない場合が多く、転任のたびに通勤の困難に直面した。教育委員会の斡旋で自治体の移動支援事業を利用し、介護タクシーで通勤したこともあった。乗務員はヘルパー資格をもっていた。また、別の自治体では障害福祉課に相談したところ、福祉施設の送迎車両を利用することができた。ただ、帰宅する時間には送迎車両は出してもらえなかったので、福祉車両があり、ヘルパー資格をもつ乗務員がいるタクシー会社を利用した。また、勤務校が実家の近くになったときは、往復ともにタクシーを利用した。タクシー代は安くはなかったが、初乗り程度の距離だったので、自己負担していた。実家からも距離があり、近くに借家も見つからず、車いすで乗車できるバスもない学校に転任になったときは、通勤手段がなくなってしまった。通勤手段が確保できない学校への転任を強行した教育委員会は、学校管理職に南野さんの送迎をさせた。転任から6カ月間、主に教頭が自家用車で南野さんの通勤の送迎をした。その後、タクシーが通勤手段として認められ、南野さんはタクシーで通勤するようになった。ただし、通勤手当として支給されるのは月額55000円が上限で、毎月超過分の数万円を南野さんは自己負担している。2つ目に、③部活動引率での移動である。部活動の指導で試合会場などに出向くときには、部員とともに生徒の保護者が自家用車で送迎してくれた。「要件なし」は、次の2つが挙げられた。1つ目に、④教材作成である。これは紙をハサミで切るなどの作業で、教科内容に関わるものではない。支援を担っていたのはチーム・ティーチングに入る教師や学習支援員だ。2つ目に、⑤自宅での更衣である。南野さんは通常スーツにネクタイ着用で勤務しているが、独力で着替えるのは困難だ。そのため、出勤前と帰宅後に更衣の介助を受けている。支援を担っていたのは、単身生活のときにはホームヘルパー、実家にいるときには母親だった。

3-4 北原さんの事例
 北原さんには「職業要件かつ障害支援要件」はなかった。「職業要件のみ」は次の3つがあった。1つ目に、①チーム・ティーチングでの授業の補助である。北原さんの支援のため、チーム・ティーチングの体制が取られたことがあった。だが、北原さんは授業を独力で行えるため、もう1人の教師は教室の後方で見守りをする程度で、特定の支援業務があるわけではなかった。2つ目に、②授業時数軽減のための授業代行である。北原さんの人的支援として同じ社会科の教師が配置されていたが、授業中には特に支援の必要がなかったので、当初のチーム・ティーチングを解消し、2人で別々に授業を担当することにした。そうすることで、北原さんの担当授業時数を軽減した。3つ目に、③成績の記帳である。人的支援として配置された教師は、授業時間以外にも授業準備や事務作業の支援をした。「障害支援要件のみ」はなかった。要件なし」は、次の4つが挙げられた。1つ目に、④教室へのパソコンの運搬である。北原さんは黒板にチョークで板書するのが困難なので、パソコンのプレゼンテーションソフトで板書事項を作成し、プロジェクターでスクリーンに投影して生徒に提示していた。そのため、機材が備えられた社会科教室で授業を行っていた。その際、パソコンだけは社会科教室まで持参する必要があったが、自力で運搬するのは困難だった。そのため、パソコンの運搬は教師に支援を受けていた。2つ目に、⑤パソコン、プロジェクターのセッティングである。社会科教室でパソコン、プロジェクターなどの機材をセットするのにも困難があった。そのため、機材のセッティングに生徒の支援を受けた。3つ目に、⑥教材プリントの配布、回収である。教室での教材プリントの配布、回収を手伝ってもらうこともあった。チーム・ティーチングのときにはもう1人の教師が、単独の授業のときには生徒が支援した。4つ目に、⑦教材プリントの印刷などこまごまとした授業準備は教師が支援した。

4 考察 ――支援業務と人的資源の適合性
4-1 障害者労働の業務支援理論
 障害者労働の業務支援理論では、支援システムを支援業務の数と支援を担う人的資源の数によって四つに分類する。すなわち、支援業務が1つでそれを単一の人的資源で担う支援システムを単業務一元支援、支援業務が1つでそれを複数の人的資源で担う支援システムを単業務多元支援、支援業務が複数でそれを単一の人的資源で担う支援システムを複業務一元支援、支援業務が複数でそれを複数の人的資源で担う支援システムを複業務多元支援という。これに従い、4名の事例を分類すると次のようになる。東山さんには10個の支援業務があった。それらの支援を担う人的資源は、同教科担当の教師、他教科担当の教師、生徒の3つだった。西川さんには5つの支援業務があり、支援を担う人的資源は、同教科担当の教師、他教科担当の教師、ホームヘルパーの3つだった。南野さんには5つの支援業務があり、支援を担う人的資源は、同教科担当の教師、他教科担当の教師、学習支援員、介護タクシーの乗務員、福祉施設の送迎車両の乗務員、教頭、保護者、ホームヘルパー、母親の9つだった。北原さんには7つの支援業務があり、支援を担う人的資源は同教科担当の教師、生徒の2つだった。このように、4名の事例はすべて支援業務が複数で、それを複数の人的資源で担っている。つまり、複業務多元支援である。
 複業務多元支援という支援システムには2つの効果がある。1つは量的効果、もう1つは質的効果だ。量的効果とは、支援を担う人的資源が量的に増加することで、支援の時間数、スケジュール、分担などをより柔軟に設定できるというものである。他方、質的効果とは、支援業務を適格性のある人的資源に配分することで、支援業務がより効果的に遂行されるというものである。多元支援の量的効果は支援を担う人的資源の数が増えることで自動的に発生する。一方、多元支援の質的効果はそれぞれの支援業務に適格性のある人的資源を配置しなければ全く発生しない(中村 2020 p178)。つまり、複業務多元支援を有効に機能させるには、それぞれの支援業務に対して、適格性のある人的資源を配置することが決定的に重要なのである。そこで、4名の事例について、個々の支援業務に適格性のある人的資源が配置されているかを検討し、多元支援の質的効果が十分に得られているかを検証する。
 その際、人的資源の適格性を検討する有力な観点となるのが、前述したとおり、職業要件と障害支援要件だ。前節では、職業要件、および障害支援要件の要否により、支援業務を4つに分類して提示した。そこで、以下では各事例について、類型ごとに、支援を担っているのがそれぞれの要件を備えた人的資源であるかどうかを検討する。また、「要件なし」の支援業務については、どのような人的資源が支援を担っているのかを確認し、その有効性について考える。ただし、4名の事例すべてで「職業要件かつ障害支援要件」の類型は報告されなかったので、ここでは他の3つの類型について検討する。

4-2 支援業務と人的資源の適合性
 東山さんの「職業要件のみ」の支援業務は次の4つだった。①板書の代行。②机間巡視の分担。③授業に取り組んでいない生徒の発見、指導。④知的障害のある生徒への個別対応だ。そして、これらの4つの支援業務を担うのは、チーム・ティーチングの同教科担当の教師、もしくは他教科担当の教師だった。教師の職業要件が求められる支援業務を教師が担っているのだから、ひとまず支援業務と支援を担う人的資源は適合しているといえる。ただし、①と②については、教師であっても同教科か、他教科かで適格性に差異がある。東山さんは自分の支援のためだけなら、他教科の教師でも差し支えないが、チーム・ティーチングの利点を活かして教科指導の効果を上げるのなら、同じ社会科の教師のほうが適しているという。東山さんには「障害支援要件のみ」の支援業務はなかった。「要件なし」の支援業務は次の6つだった。⑤教室へのパソコン、プロジェクターの運搬。⑥パソコン、プロジェクターのセッティング。⑦教材プリントの印刷、⑧教材プリントの配布といった授業に関わるこまごまとした支援、⑨体調不良の生徒への対応、⑩授業途中での健康診断の引率だ。⑤と⑥の支援は生徒たちが行った。だが、生徒を単に教師支援のための労働力とすることはできない。東山さんは生徒が教師を自主的に手伝い、自分たちの授業の準備は自分たちで行うという授業の在り方を教育的意義があることとして実践している。生徒による支援はあくまで障害教師と生徒との教育的関わりが第一義であって、支援を保障する人的資源として生徒を位置づけることはできないのである。⑦から⑩の支援はチーム・ティーチングの中で教師が行った。だが、「要件なし」の支援業務まで教師に担わせることの問題点として、自身も授業や校務で多忙な教師に支援業務を集中させると、支援の時間が十分に確保できないことが明らかにされている(中村 2020 p151)。⑦や⑧は事務的アシスタントで十分担えるし、⑨や⑩はその都度養護教員を呼び出すことでも対応できるだろう。
 西川さんの「職業要件のみ」の支援業務は次の2つだった。①チーム・ティーチングでの授業の補助、②修学旅行の引率の補助だ。①の支援業務を担うのは同教科担当の教師、②の支援業務を担うのは担当教科を問わない教師である。教師の職業要件が求められる支援業務を教師が担うのだから、支援業務と支援を担う人的資源は適合している。「障害支援要件のみ」の支援業務は③修学旅行での入浴である。支援を行うのはホームヘルパーだ。障害支援要件が求められる支援業務を、資格を有するホームヘルパーが担うのだから、支援業務と支援を担う人的資源は適合している。ただし、ホームヘルパーの利用料は自己負担することになる。「要件なし」の支援業務は、④学校での更衣と⑤修学旅行での更衣の2つだった。④と⑤の支援を担うのは障害支援要件を満たすホームヘルパーだが、更衣の支援は特に障害支援要件を求めるものではないという。だとすれば、更衣のためだけにホームヘルパーを学校に呼んだり、旅先で手配したりすることの妥当性に疑問がわく。利用料の負担も考えれば、もっと身近にいる人的資源で支援するほうが効率的だろう。
 南野さんの「職業要件のみ」の支援業務は①チーム・ティーチングでの授業の補助である。支援業務を担うのは同教科担当の教師、もしくは他教科担当の教師、あるいは学習支援員だった。同教科担当の教師については、支援業務と支援を担う人的資源は適合している。他教科担当の教師については、数学の専門的指導を求めないのであれば、支援業務と支援を担う人的資源は適合していると考えられる。学習支援員については、数学の知識があり、生徒に教えることもてきるので、職業要件は備えているとみてよい。だが、本来生徒の支援のために配置されている職員なので、教師の支援を十分に行うには問題がある。「障害支援要件のみ」の支援業務は、②通勤。③部活動引率での移動の2つだった。②の支援業務を担うのは介護タクシーの乗務員、福祉施設の送迎車両の乗務員、教頭であった。介護タクシーや送迎車両の乗務員はヘルパー資格を有していたり、車いすの扱いに慣れているなど、障害支援要件を備えていた。また、自動車も福祉車両で肢体障害者の乗車に適していた。支援業務と支援を担う人的資源は適合している。ただし、利用料は南野さんが自己負担していた。一方、教頭は肢体障害者介助の専門性はなく、自動車もステップの高いワゴン車だった。支援業務と支援を担う人的資源は適合していない。③の支援は生徒の保護者が行った。保護者は特に障害支援要件は備えておらず、支援業務と支援を担う人的資源は適合していない。ただ、南野さんは生徒と同地域に居住していたため、ついでに同乗させてもらうといったナチュラル・サポートであり、保護者との交流を深めるよい機会ともなったので、南野さんは肯定的に評価している。「要件なし」の支援業務は④教材作成、⑤自宅での更衣の2つだった。④の支援は同教科の教師、もしくは他教科の教師、あるいは学習支援員が行った。支援業務と支援を担う人的資源の不適合はないが、職業要件が不要な支援業務まで教師に担わせることの問題は前述のとおりだ。⑤の支援はホームヘルパー、もしくは母親が行った。西川さんのように勤務中に必要な更衣なら、職務に対する支援と捉えられる。だが、出勤準備としての自宅での更衣は職務の支援なのか、生活の支援なのか、議論の余地がある。そもそも生活という基盤に立って仕事が行われているのだから、本人にとって職務の支援と生活の支援は地続きだ。現行の職務支援と生活支援を分離した支援システムでは、支援の保障をどこに求めるかが論点として浮上する。
 北原さんの「職業要件のみ」の支援業務は次の3つだった。①チーム・ティーチングでの授業の補助。②授業時数軽減のための授業代行。③成績の記帳だ。①、②、③の支援を行ったのは同教科担当の教師で、支援業務と支援を担う人的資源は適合している。「障害支援要件のみ」の支援業務はなかった。「要件なし」の支援業務は次の4つだった。④教室へのパソコンの運搬⑤パソコン、プロジェクターのセッティング。⑥教材プリントの配布、回収。⑦教材プリントの印刷などこまごまとした授業準備だ。④と⑦の支援は同教科担当の教師、⑤の支援は生徒、⑥の支援は同教科担当の教師、もしくは生徒が行った。支援業務と支援を担う人的資源の不適合はないが、職業要件が不要な支援業務まで教師に担わせること、また、生徒に支援を担わせることの問題点は前に指摘したとおりだ。

5 結論 ――現行の支援の問題点と改善策
 最後に、4名の事例について、支援業務と支援を担う人的資源の適合性、および問題点を改めて確認し、多元支援の質的効果が得られているかどうかを検証する。さらに、現行の支援をより有効にするための改善策について考える。
 東山さんの事例において支援業務と人的資源が適合していたのは次の4つだ。①板書の代行→同教科の教師、②机間巡視の分担→同教科の教師、③授業に取り組んでいない生徒の発見、指導→同教科の教師、他教科の教師、④知的障害のある生徒への個別対応→同教科の教師、他教科の教師である。支援業務と人的資源は適合しているが、問題があったのは次の8つだ。①板書の代行。→他教科の教師、②机間巡視の分担→他教科の教師。この2つには、T2に教科の専門性がないので、チーム・ティーチングの利点が十分に活かされないという問題があった。⑤教室へのパソコン、プロジェクターの運搬→生徒、⑥パソコン、プロジェクターのセッティング→生徒。この2つには、生徒を単に支援の労働力にはできないという問題があった。⑦教材プリントの印刷→同教科の教師、他教科の教師、⑧教材プリントの配布など→同教科の教師、他教科の教師、⑨体調不良の生徒への対応→同教科の教師、他教科の教師、⑩授業途中での健康診断への引率→同教科の教師、他教科の教師。この4つには、職業要件が不要な支援業務まで教師が担っているという問題があった。支援業務と人的資源が適合していないものはなかった。このように、東山さんの事例ではおおむね支援業務に適格性のある人的資源が配置されており、多元支援の質的効果が得られていると考えられた。
 西川さんの事例において支援業務と人的資源が適合していたのは次の2つだ。①チーム・ティーチングでの授業の補助→同教科の教師、②修学旅行の引率の補助→教科を問わない教師である。支援業務と人的資源は適合しているが、問題があったのは次の3つだ。③修学旅行での入浴→ホームヘルパー、④学校での更衣→ホームヘルパー、⑤修学旅行での更衣→ホームヘルパーである。この3つは、利用料の負担とホームヘルパーでなくてもできる支援にホームヘルパーを派遣してもらうことの非効率性に問題があった。支援業務と人的資源が適合していないものはなかった。このように、西川さんの事例では支援業務に適格性のある人的資源が配置されており、多元支援の質的効果が得られていると考えられた。
 南野さんの事例において支援業務と人的資源が適合していたのは、①チーム・ティーチングでの授業の補助→同教科の教師である。支援業務と人的資源は適合しているが、問題があったのは次の4つだ。①チーム・ティーチングでの授業の補助→他教科の教師、学習支援員、②通勤→介護タクシーの乗務員、福祉施設の送迎車両の乗務員、④教材作成→同教科の教師、他教科の教師、学習支援員、⑤自宅での更衣→ホームヘルパー、母親である。前述と同様に、①はチーム・ティーチングの利点が十分に活かされないこと、④は職業要件が不要な支援業務まで教師が担うことに問題があった。また、②と⑤は利用料の負担、および職務の支援と生活の支援との分離に問題があった。支援業務と人的資源が適合していないのは次の2つだ。②通勤。→教頭、③部活動引率での移動→保護者である。南野さんの事例では通勤、および部活動引率の移動において、適格性のある人的資源が配置されていないことがあった。だが、後に通勤にタクシー利用が認められ、不適合は解消されたので、おおむね多元支援の質的効果が得られていると考えられた。
 北原さんの事例において支援業務と人的資源が適合していたのは次の3つだ。①チーム・ティーチングでの授業の補助→同教科の教師、②授業時数軽減のための授業代行→同教科の教師、③成績の記帳→同教科の教師である。支援業務と人的資源は適合しているが、問題があったのは次の4つだ。④教室へのパソコンの運搬→同教科の教師、⑤パソコン、プロジェクターのセッティング→生徒、⑥教材プリントの配布、回収→同教科の教師、生徒、⑦教材プリントの印刷など→同教科の教師である。これらの4つは前述と同様に、職業要件が不要な支援業務まで教師が担うこと、生徒を単に支援の労働力にはできないことが問題であった。支援業務と人的資源が適合していないものはなかった。このように、北原さんの事例では支援業務に適格性のある人的資源が配置されており、多元支援の質的効果が得られていると考えられた。
 4名の調査協力者の支援システムはすべて複業務多元支援であり、おおむね支援業務と支援の人的資源は適合していた。すなわち、多元支援の利点である質的効果が発生しており、支援の有効性が認められた。だが一方で、支援業務と人的資源の適合性だけではすくい上げられない課題も浮き彫りにされた。適格性のある人的資源を配置するために、別の代償を支払うことになってしまっているのだ。
 4名の支援システムは一往は多元支援だといえた。だが、内実を見ると、任命権者である教育委員会が提供している人的支援はほとんどが教師で、それだけでは複業務一元支援の支援システムしか構築できない。そこで、教師には適格性がない支援業務、たとえば障害支援要件が求められる修学旅行での入浴や通勤については、ホームヘルパー、介助ができる乗務員などを手配し、障害教師本人が適格性のある人的資源を調達しているのだ。また、特に要件は求められない支援業務でも、同僚教師には依頼しにくい更衣や授業の手伝いなどはホームヘルパーを利用したり、生徒や家族といった身近な人的資源を取り込んで、支援を担う人的資源を増やしているのである。教育委員会から提供される教師による一元支援では困難のすべては解消されないので、障害教師本人が自ら適格性のある人的資源を調達し、有効な多元支援のシステムを構築しているのだ。そのために、障害教師本人が労力、時間、費用などの少なくないコストを引き受けているのである。これらは本来教育委員会が保障すべきものだろう。
 南野さんは通勤支援の人的資源を教頭からタクシーにすることを要望した。それに対して、教育委員会はタクシー通勤に通勤手当を支給することにし、それによって有効な多元支援の構築を進めた。従来、教育委員会は障害教師の支援を担う人的資源としてもっぱら教師を配置してきた。それは職業要件が求められる支援業務には有効であったが、障害支援要件が求められる支援業務には有効でなかった。また、職業要件を求められない支援業務まで教師が担うことの非効率もあった。障害教師の支援業務は多種多様であり、支援を担う人的資源を学校内だけに求めるのは無理がある。たとえば、障害支援要件が求められる支援業務を、ホームヘルパーや介護タクシーの乗務員が行っていたように、社会にあるさまざまな資源を障害教師の支援のために導入することを考えるべきだ。教育委員会が費用を負担し、外部の多方面から適格性のある人的資源を調達して、総合的に有効な多元支援のシステムを構築することが必要なのである。

【註】
1)同機構ホームページ「障害者介助等助成金」(https://www.jeed.or.jp/disability/subsidy/kaijo_joseikin/q2k4vk000001ywg5-att/q2k4vk000001z4vn.pdf, 2021年8月1日取得)参照。
2)全盲の数学教師の支援を例に取れば、職業要件と障害支援要件がともに求められる支援業務として数学教科書の点訳、職業要件が求められるが障害支援要件は求められない支援業務として数学の板書の代行、職業要件は求められないが障害支援要件が求められる支援業務として一般文書の点訳、職業要件と障害支援要件がともに求められない支援業務として書類の代筆のなどが考えられる。

【文献】
厚生労働省, 2014, 「平成25年度障害者雇用実態調査」, https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000068921.html, 2021年8月1日取得.
中村雅也, 2020, 『障害教師論――インクルーシブ教育と教師支援の新たな射程』学文社.


■質疑応答
※報告掲載次第、9月25日まで、本報告に対する質疑応答をここで行ないます。質問・意見ある人は2021jsds@gmail.comまでメールしてください。

①どの報告に対する質問か。
②氏名。所属等をここに記す場合はそちらも。
を記載してください。

報告者に知らせます→報告者は応答してください。いただいたものをここに貼りつけていきます(ただしハラスメントに相当すると判断される意見や質問は掲載しないことがあります)。
※質疑は基本障害学会の会員によるものとします。学会入会手続き中の人は可能です。


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