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障害者のきょうだいの出生前診断への調査結果から
藤木和子・山本勝美


第1 発表要旨

【本発表の概要】
 本発表は、全国障害者とともに歩む兄弟姉妹の会(略称 全国きょうだいの会)が実施した「障害のある人のきょうだいに関するアンケート調査報告書」(2021年9月頃に同会HPに掲載予定、筆者藤木和子はアンケート調査プロジェクトのメンバー)の「(P)出生前検診について」の結果を紹介するとともに考察する。考察は、2018年に始まった優生保護法裁判を機に出会った筆者ら2名がそれぞれの立場で対話形式で行ったものをまとめた。

【筆者らの背景】
 藤木和子は、障害のある弟と育った、障害者のきょうだい当事者。現在、30代後半、既婚。数年前から「自分は出産するのか、しないのか」、「自分は子育てがしたいのか、したくないのか」という問題に向き合う。2018年からは弁護士兼きょうだい・家族当事者の立場で、全国優生保護法弁護団で活動。
 山本勝美は保健所の心理相談員として50年以上障害児の子育て相談を担当してきた。現在、80代前半、連れ合いとは別姓同居である。親として3人の子どもを育て、孫がいる立場である。1970年代から、男性の立場で優生保護法の問題に関わり、1997年から優生手術に謝罪を求める会のメンバーである。

第2「障害のある人のきょうだいに関するアンケート調査報告書」概要
 全国きょうだいの会の正会員、賛助会員、機関誌購読者とともに、座談会などにアンケート用紙と返信用封筒を郵送して依頼。調査期間は2019年6月に発送、9月までに回答。なお、本発表における調査結果の紹介については、同会から承認を得ている。

調査票配布数336通、回収数165通、回収率 49%
配布先:正会員201名、賛助会員11名、機関誌購読者 44名
その他 80名:座談会などに参加した会員ではない人
性別:女性が約70%、男性が約30%
年齢層:20代17%、30代21%、40代25%、50代12%、60代12%、70代7%

第3 同アンケート「(P)出生前検診について」(引用紹介)

1、出生前検診を受診するか
受診するか %
①受ける 25
②受けない 33
③わからない 33
無回答 10

2、陽性の時の対応 *陽性だったらどうするか
出産するか %
①出産する 10
②出産しない 16
③分からない 24
無回答 49

(自由記述から、原文ママ)
(「受ける」と回答した人で、陽性でも出産すると答えた人)
・今はサポートが増えつつあると思うので、どうなるかは不明ではあるが、受け入れ産むと思う。
・自分は、障がいじゃない子の育ちをよくわからないところがあり、たぶん、どちらでも出産すると思いますが、パートナーもいる話なので、どうするかその場面にならないと分かりません。

(「受ける」と回答した人で、陽性なら出産しないと答えた人)
・障がいのある子供が生まれて、家族が病む現実を身をもって知っているから。
・もう出産できる年齢を超えましたが、自分だったら…という気持ちで記入しました。
・経験がある分、自身がその苦しみを追体験したくないという自己中心的な思考が想起されそう…。

(「受ける」と回答した人で、陽性の場合に出産するかに触れなかった人)
・準備ができるならいいと思う。
・実際に出産するかどうかわからなくても、自身の子について知る義務があると考える。
・正直、兄弟に障がいを抱えているとウンザリするもので、親をみて大変な事も解っている。が、良心にとがめるものがある。可能であれば、産む方向で考えたいが、現実は難しい。
・若い時は悩んだと思いますが、今なら産みません。人生は大変です。きれいごとではありません。ただ、人にまで強制はしません。
・障がいの現実、知り過ぎている。

(「受けない」と回答した人)
・今年出産したが、検査は受けなかった。主人とも話し合ったが、結局生まれてからも心配事は尽きないと感じたので。
・障がいがあろうとなかろうと大切な命であり自分の子供です。どんな子が生まれようと育てていくつもりなので、検査は受けません。
・私自身、高齢出産だったので、心配でしたが、夫と相談し、もし障がいがあっても育てようと決めていたので、検査はうけませんでした。
・今後、子どもを望んでいるので迷いはあります。ただ、障がいがあると分かっても、「出産しない」という選択肢はないので、結果、検査をしないような気もします。
・私の場合、約50年前、まだ遺伝学研究所のような所で検査出来ると聞いて、関心はあったが、やはり生むしか選択出来なかったので、受けないことにした。
・もし自分が若かったら、「受けない」と答えたかもしれないが、何とも言いようがない。
・障がい児の家族として苦労もしたが、障がい児のきょうだいでなければと思ったことはない。だけれど検査を受けたとして、陽性であったら、中絶を考えてしまうかもとも思うし、中絶をする人の気持ちもわかるし…。とても複雑な気持ちです。
・わかる障害がいが限られており、無意味で非人道的な検査。何の備えができるのか全くわからず検査会社の金儲けとしか思えない。
・私はうけません。上記でも書きましたが自然淘汰だと思っています。これをしたら、そして生まないなら、前のしたことを全て否定してしまうから。私は受けません。というか受けず3人子どもを産みました。
・もし受けて陽性だったときに、中絶するということをしたら一生罪悪感を感じそう。
・出生前検査を簡単に受けるべきではないと思う。
・もし受けて陽性だったら出産する勇気が出ないと思うので、初めから受けないでおこうと思う。
・検査がわかることなんてほんのわずかなことで、他にも沢山障がいはあるので。障がい児を産んでも大丈夫と思える社会にならないと困る。
・障がい児が産まれたとしても、それは意味があってのことだと思うから。(産まれるべくして産まれてきていると思うから)
・今後、子どもを望んでいるので迷いはあります。ただ、障がいがあると分かっても、「出産しない」という選択肢はないので、結果、検査をしないような気もします。

(分からない、と回答した人)
・出生前検査で分かるのは染色体異常だけで、自閉症や聴覚、視覚障害などは生まれて来るまで分からない。私はダウン症などの障がいが出生前に分かるのはラッキーだと思う。産む前提の話になるが、生まれる前に障がいの勉強や制度などを知る期間があるため、不安が解消できるのではないかと思っているが、世間では“命の選別”と呼ばれている。

(配偶者と相談する、と回答した人)
・妻と、とことん話し合って結論を出すことになると思う。
・相談する。
・障がいのある人が生まれると負担が多いこと、一般的と呼ばれる生活とはかけ離れる可能性があることは確かであると思います。家族や自分自身のためにもまずはしっかりと夫婦で話し合うことが必要で、その中で後悔しない結果を出すことが大切だと思います。
・旦那に相談すると思います(一人の意思では決められないことと感じてしまうと思います)。検査するメリットとしては、準備する時間が取れることだと思います。気持ちの面でも生活面でも…だから健診について反対の気持ちはありません。異常なしでも障がいがある子が生まれますし、…結局授かってみないと分からないですが、覚悟出来る時間がある方がいいかなと…。
・私がこうすべきという意見はありません。相手があって話し合って決めることだと思います。

(その他)
・検査でわかる障がいはほんの一部です。生まれてきてから判明する障がいも多い。厳しい言い方かもしれませんが、どんな子供でも受け入れる覚悟がないなら子供をもたないほうがいいというのが個人的な考えです。
・年齢的に出産はないが、若い頃には、子供が生まれるまでは不安があった。
・障がいがあるから中絶するというのは親のエゴだと思う。親だからといって命を奪う権利はない。
・難しい問題。自分のこととなると障がいある子を育てられるか、経済的、体力的に自信がない。社会にもそれを支える仕組みが充分ないと思う。
・種類や程度によっても違うが、障がいがあっても支援が十分であれば、出世以前検査をしなくてよいかもしれない。また、高齢妊娠などで、もうチャンスがないかもしれないなら慎重になると思う。
・そもそも子どもを望まない。障がいがあるきょうだいと育ち、この世が生きにくいものと悟ったので、自分の子孫を残したいとはとても思えない。
・私はすでに子どもが大きいので…。でも経済的理由等で妊娠中絶は多い。今の社会では、中絶するのがふつうの感覚だろう。たとえば、予期しない妊娠で中絶する人も多いように
・もっと低額であれば検査を受ける。陽性でも相手の理解があれば出産してもらう。

第4 筆者2名による考察(対談)
【概要】
1、障害を経験してきた、きょうだいの真剣さ、鋭敏な感性、大きな開きと揺れ
2、きょうだいの大変さ、子どもである、自分の意思ではない、支援もつながりもない
3、きょうだいだって愛されたい
4、そもそもなぜ人は子どもを産みたい、育てたいと思うのか

1、障害を経験してきた、きょうだいの真剣さ、鋭敏な感性、大きな開きと揺れ
藤木:今回は、今の私の関心事でもある「自分は出産するのか、しないのか」「自分は子育てがしたいのか、したくないのか」から「出生前診断」テーマを選択しました。

山本:きょうだいが社会的に焦点化するにふさわしいテーマ。独自の真剣な突き詰めた意見ですね。何か一石を投じたい気持ちです。
きょうだいの方々の鋭敏な感性は並ではありません。皆さん、産む、産まないを真剣に、突き詰めておられるのには心を打たれました。障害ということを、きょうだいとして現実の出来事として体験しておられることは、通常のカップルとはその立場性において、同時に障害のある子を受け止めるのか、避けるのか?大きな開きがあります。

藤木:大きな開き、正にですね。障害を経験した上で産む産まないを考えている点は、親よりも障害当事者に近いのかなと思いました。事実、私自身は、障害当事者による出産・育児体験記なども参考に拝読しています。
 アンケートの自由記述の「障がいの現実、知り過ぎている」「経験がある分、自身がその苦しみを追体験したくない」「障害があるきょうだいと育ち、この世が生きにくいものと悟ったので、自分の子孫を残したいとは思えない」「ウンザリ」、「大切な命」「産まれるべくして産まれてきていると思う」、「サポートは増えつつあると思うので」は、どちらの考えにも共感します。良いこともそうでないことも身近でした。どちらかに振り切れていれば揺れませんし。
 命や障害に関する真摯に向き合わなければならない課題ですが、どこかで自分の悩みや様々な意見が興味深い、また、語弊がありますが、楽しいと感じる自分もいます。

山本:うん、それくらいのゆとりがあった方が実際に即していますね。

藤木:特に、私が生まれる以前から活動されている人生の先輩である優生保護法弁護団の支援者(障害当事者、家族、支援者)の方々が、言えない、言ってはいけないとされてきた私の話を、ユニークで大切な発信等と適切に受け止めてくださった上で、感想や意見、自分の体験談を率直に話してくださるのがありがたいです。
10年前、20代後半で初めてきょうだいの会に参加した時は泣きながら話していましたが、今は、メディアや講演等で人前で平気で話しています。複雑な気持ちを持ちながら応援してくれるパートナーと家族には、私も複雑な思いで感謝しています。きょうだい会の運営側でもあるので、良くも悪くも、事例として対象化する視点や自分の心のコントロールにも慣れました。最初は清水の舞台から飛び降りる覚悟でしたが…。アンケート調査を読み、初心に返りました。

2、きょうだいの大変さ、子どもである、自分の意思ではない、支援もつながりもない
山本:親の子育てを見ているきょうだいの方が大変に見えるのでは?親は必死。自分が産んだかわいさもある。きょうだいは親から指示され、手伝って。子どもだし。嫌になる。きょうだいが一番大変なんじゃないでしょうか。一人だと、どうしてこんな家に生まれただと逃げたくなる。こういう親になりたくないと思う場合もあるのではないでしょうか。

藤木:そうですね。母は明るい部分と悲しそうに私に話す部分がありましたが、今話すと、「やればできたからね」と意外と強気で前向きな発言なんですよ。また、障害のある子や親には支援があります。病院、療育、特別支援学校、親の会があります。ひとまず、大変な状況にあるということが認識され、支援や助言を受けることができる。それがきょうだいには、ありません。

山本:やはり、きょうだい支援について、障害児に関わる人たちへの啓発が必要ですね。

3、きょうだいだって愛されたい
藤木:親や周囲の大人は、善意だったので申し訳ないのですが、振り返ると、きょうだいの対応について知識不足でした。私は、①障害がないことへの感謝や懺悔、②弟の代わりに頑張ること、③ニコニコ笑顔で可愛らしくいることを当然のように無意識に求められました。特に①、②は弟に対しても不本意でしたが、③を含めてそうすれば愛されました。「魔法」であり「呪い」でした。その結果、親から、愛され、大事にされ、教育を惜しみなく受けさせてもらったことは恵まれていましたが、常にサービスやケアをしてあげているような醒めた感覚でした。そんな自分自身を全肯定して認め、選んでもらえるような恋愛や結婚に強く憧れていました。他方で、恋愛や結婚に夢を持てないというきょうだいも少なくありません。そして、私の場合、将来、子どもがほしいという夢はあまり育ちませんでした。大きな開きの中に存在する、私の一例です。
 自由記述でも少なかったですが、きょうだい会でも出産・育児をしている参加者は少ない印象です。運営しているきょうだい会での「ママになったきょうだいから話を聴く」という企画は非常に関心が高かったです。

山本:本音を話してくれてありがとう。あなたの話の核は「愛されていた、大事にされていた」と「愛されていなかった、ほっとかれた」の両面性があることだと以前から思っています。どこまで学会報告に文章で載せられるかはわからないけれど…。

藤木:全国きょうだいの会が「きょうだいだって愛されたい」というタイトルの書籍を出しています。愛着の課題ですね。保護者の方からは、「障害児もきょうだいも大事な子どもとして愛しているのに難しい…」というご相談をよく受けます。お互い不幸なズレは、こんがらかり過ぎていない段階であれば、気付ければほぐせると思います。基本的には、比較をせず、それぞれを「一人の子ども」「一人の人間」として見ることが大事だと考えています。障害児ときょうだいに関わらず、ですが。
きょうだいの会に関心を持ってくださる親の方は、基本的に、情報のアンテナが高く、行動力があり、子育ても上手かつ楽しまれている素敵な方々が多くて(楽しいと上手は順番が逆かもしれませんが)、それは私にとって良い影響でした。

④そもそもなぜ人は子どもを産みたい、育てたいと思うのか
藤木:そもそも、世の中一般の子どもがほしいって感覚がよくわからないです。
きょうだいとのとしての経験からは、どんな子どもでも受け入れる覚悟がないなら、最初から子どもは作らない方がいいと、そこまで突き詰めて考えてしまいますが…。

山本:子どもはかわいいし、自分もそう育てられてきたし。公園にいるお母さんと子どもを見ると楽しそう。最近は父子も増えてきたと思いますが。

藤木:そうなのですね。私は、これ以上何かを背負いたくない。自分の人生を謳歌したいと考えてきました。ヤングケアラーで共通する悩みかもしれません。山本さんはなぜお子さんを?

山本:僕は子どもが3人いて、40代と30代です。孫が小学生です。僕は心理相談員として障害児に長年関わってきて、連れ合いは障害児の入所施設に務めています。連れ合いの施設では、妊娠すると、胎児の安全面からハードな現場から異動する流れがあったのですが、妻は異動を拒みました。どんな子どもでも、自分たちの子どもとして受け入れることは、二人ともすっきりしていました。障害者の仲間を支援していくのだという決意でした。子育てはいろいろなことがありましたが、そのような生き方をしてきました。
あなたは、いろいろあっての今という戸惑い、今の自分を自覚して、どこまでさっぱりして割り切れるのかだと思いますよ。

藤木:家族ではない立場で、障害を経験された方々の固い決意ですね。また、お二人の決意が合致したことが大切ですね。これまで、進路や就職、実家や地元を出るかどうかなどは自分ひとりで悩み決めてきました。今回の出産の件は、結婚と同様、パートナーと一緒にふたりの人生の課題として考えていきたいと思います。時間の制限があることには救われていると思います。どの選択が良い悪いではなく、どの選択をするのか。そして、結果は誰にもわかりませんが、悩み過ぎずに、人生経験として楽しみたいという気持ちがあります。不完全な思いや悔いが残らないようにしたいですね。

山本:あなたには、きょうだいとしての人生を体現、発信し続けていただきたいです。


■質疑応答
※報告掲載次第、9月25日まで、本報告に対する質疑応答をここで行ないます。質問・意見ある人は2021jsds@gmail.comまでメールしてください。

①どの報告に対する質問か。
②氏名。所属等をここに記す場合はそちらも。
を記載してください。

報告者に知らせます→報告者は応答してください。いただいたものをここに貼りつけていきます(ただしハラスメントに相当すると判断される意見や質問は掲載しないことがあります)。
※質疑は基本障害学会の会員によるものとします。学会入会手続き中の人は可能です。


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