日本とザンビアの「アクセシビリティ」に関するオンライン会合について―DPI日本会議、ザンビア障害者機関、ザンビア障害者連盟の繋がり―

 日下部 美佳 
(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科、
アフリカ地域研究専攻一貫制博士課程)

未曽有の新型コロナウィルス感染症の拡大により、人の移動が制限される一方で、私たちはオンライン化が世界を繋ぐことを改めて認識した。今回のエッセイでは、2022年7月7日の七夕の日に「アクセシビリティ」という共通のテーマが架け橋となって、日本とザンビアの障害者関連団体との出会いの場となったオンライン会合について記録に残したいと思う。

1.「アクセシビリティ」をテーマに国を越えて
2020年3月末にコロナ禍のザンビアから筆者が日本に緊急一時退避した後、2022年3月に同国の首都ルサカに再渡航するまで、2年の歳月が過ぎた。再渡航後、ザンビアの障害者関連の政策立案や調整、そしてサービスの実施を担うザンビア障害者機関(Zambia Agency for Persons with Disabilities、以下ZAPD)に勤務するムレンガ・ジェーンさんと2年ぶりの再会を果たした。相変わらずの弾けるような笑顔だった。
ジェーンさんとは、コロナ禍であっても、WhatsApp(Lineに似たコミュニケーションアプリ)で連絡を取り合い、繋がりを深めてきた。WhatsAppを通した数多くのやり取りの中で、東京2020パラリンピックの話をきっかけに日本のアクセシビリティが話題になった際には、特定非営利活動法人DPI(障害者インターナショナル)日本会議のアクセシビリティ改善にかかる活動の写真や記事を英訳して情報を提供することもあった。2年ぶりの再会に喜んで一息ついたころ、アクセシビリティ監査員で障害当事者のジェーンさんから「日本の交通機関のアクセシビリティの改善に関する写真を共有してくれたのを覚えている?ザンビアの物理的アクセシビリティは、より一層の改善が必要な状況なの。日本のアクセシビリティがどのように改善したのか色々と学びたいのだけれど、オンラインで勉強会を開催できないかしら。」との相談があった。ジェーンさんに共有した記事は、「8月3日(月)第2回『新幹線実証実験報告』」(DPI日本会議, 2020)であったが、彼女はこの記事から日本の知見を学びたいと思い、彼女なりにザンビアにおいて日本の知見が活かせないかとアイディアを温めていたのだ。
早速、DPI日本会議で国際協力分野において長年ご活躍され、JICA課題別研修「アフリカ障害者リーダーの育成研修」の実施など、アフリカの障害と開発の実践に尽力されている中西由起子さんにメールを送ったところ、DPIの総会で忙しい時期にも関わらず好意的に受け止めていただき、オンライン会合の実施に向けた準備が始まった。

2.ザンビアの障害者を取り巻く概況
ザンビアはアフリカ南部の内陸国であり、熱帯性気候(涼しい乾季、暑い乾季、暑い雨季の季節)の国である。(写真1参照)

写真1: 涼しい乾季のルサカ市内の居住地の様子(撮影者:筆者)

(写真1の説明:コンパウンドと呼ばれる低所得者層の居住地の様子。道路は未舗装で、生活排水が道に流れ出ている。)

人口は約1,892万人で(The World Bank, 2021)、73の民族がいる。言語は英語が公用語であるが、その他に主要民族の言語(ベンバ語、ニャンジャ語、トンガ語など)がある。1964年の独立以来、民族間の対立による内戦もなく、“One Zambia One Nation (一つのザンビア、一つの国家)”というスローガンのもと、政治的な安定を維持していることが特徴的である。ザンビアの経済は、主に鉱業、農業、建設業部門によって牽引されており、2021年の一人当たり国民総所得(GNI)1,040米ドルである (ibid.)。
「ザンビア共和国の憲法第266条」及び「障害者法」おいて、障害の定義とは「恒常的な身体的、精神的、知的、または感覚的な機能障害の単独、または社会的もしくは環境的な障壁と相まって、他者と対等で完全かつ効果的に社会に参加する能力を妨げる」ことを意味する。2010年に実施された国勢調査では、障害者は全人口の2%であり、機能障害種別で見ると肢体不自由者が32.7%と最も多く、次いで視覚障害者(弱視)が24.8%と続いている(CSO, 2012, p71, p72)。しかし、ザンビアの障害当事者団体の関係者から聞き取りをした際に、国勢調査の調査票は世帯主が記入するため、世帯主が障害者を家庭内に隠し、障害者を報告しないケースがあるという指摘があった。障害者個人への調査を実施した2015年の「ザンビア全国障害者調査」(標本調査)では、ザンビアの障害者は人口の7.7%と推定している(CSO&MCDSS, 2018, p39)。
ザンビアは2010年に障害者権利条約に批准し、2012年には障害者権利条約の国内化を目指す「障害者法」を制定した。障害者法第5条「障害者の権利の保護と促進」第5項「アクセシビリティとモビリティ」の第40号「アクセシビリティ」には、省庁は公共設備や公共交通機関のアクセシビリティ確保、また情報アクセシビリティの確保等について適切な措置を講じることが記載されている。また、2015年には「障害に関する国家政策」を制定し、「2030年までに障害者が生活の基盤となる機会均等を享受する」というビジョンを掲げ、政策目標と措置が示されている。
先行研究では、ザンビアでの障害は、伝統的に親族からの妬みや怒りから発生する呪いや魔術等と障害が結び付けられており(Mwale & Chita, 2016, p60)、障害者は地域の人々から差別を受ける傾向がある(UN, 2016, p8)。加えて物理的・情報アクセシビリティなどの課題に直面している。国連が2016年に作成したザンビアの障害者の権利に関する特別報告者レポートによると、物理的アクセシビリティに関しては、ザンビア基準局(Zambia Bureau of Standards: ZABS) (注1)による国家アクセシビリティ基準(注2)が設定されているにもかかわらず、多くの公共及び民間の建築物はバリアフリー化されていないことが言及されている(ibid., p10)。また、ZAPDによるアクセシビリティ・ニーズ・アセスメントの実施や、アクセシビリティ監査員の訓練の必要性が強調されている(ibid.)。首都ルサカの公共建築物における障害者のアクセシビリティとモビリティの調査を行ったChiluba&Njapawu(2019, p60, p61)は、アクセシビリティに関する法律を実施する際の課題として、政府の計画や予算配分における優先順位の低さやコスト上の問題、また障害に対する否定的な認識と障害者代表者の不在、とりわけ政策立案者と実施者を含む関係者間で障害者のアクセシビリティとモビリティに関する理解度にギャップがあることを指摘している。

3.オンライン会合の内容
このように、ザンビアの文化や障害者を取り巻く生活環境は、日本と異なるものの、日本社会での事例やDPI日本会議で国際協力分野の活動から学ぶために、「アクセシビリティの改善」を共通テーマとして、第一回目のオンライン会合が始まった。以下が議事次第である。

日時:2022年7月7日(木)日本時間:17:00-18:00 (ザンビア時間:10:00-11:00)

    • 紹介 中西由起子(DPI日本会議 副議長)
    • 開会挨拶 ニコラス・ゴマ(ZAPD 局長)
    • 日本の発表「日本におけるアクセス:日本における障害者運動によるアクセシビリティの改善」 報告者:宮本泰輔(DPIアジア太平洋事務局、 (株)ディーディーコンサルティング会社 代表)
    • ザンビアの発表「ザンビアにおけるアクセシビリティ」
    • 報告者:ジャスティン・バカリ (ザンビア障害者連盟 会長)、カトンゴ・ムタンバ(ザンビア障害
      者連盟 プログラムマネージャー)
    • 南アフリカの発表「南アフリカにおけるアクセシビリティの改善」
    • 報告者:降幡博亮(DPI日本会議 プロジェクトオフィサー)
    • 閉会挨拶 ニコラス・ゴマ(ZAPD 局長)
  • まず初めに、中西氏によるDPI日本会議の概要説明と発表者の紹介等も含む開会の言葉の後、ZAPD局長のゴマ氏からは、ZAPDの概要と併せてザンビア側関係者の紹介や、会合開催への感謝の辞が述べられるなど、参加者の間で笑顔が生まれる温かい雰囲気の中で会合が始まった。その後、日本の障害者運動に長年参画しているDPIアジア太平洋事務局の宮本氏からは、日本の障害者運動を通じた公共交通機関や建物のバリアフリー化の実践や、当事者参画による法整備について発表があった。宮本氏は35年前の日本の写真を提示しながら、当時は日本の経済が発展していた時期にもかかわらず、公共交通機関の改札口からプラットフォームまでの間にエレベーターがなく、人々が車椅子を担いで階段を昇降しており、障害者などの人々への国や政府の対応は遅れていたことを指摘した。その後の日本では、全国的な障害者運動を通して当事者たちが声を上げ、またマスメディアや政治家も巻き込んだ戦略的な政策立案や活動によって、日本のアクセシビリティの現状や活動の成果があったことが言及された。ザンビアからの参加者は、このプレゼンテーションに刺激を受け、「アクセシビリティ改善に向けた全国的な規模の障害者運動をやってみよう」との発言もあった。
    ザンビア側からの発表では、ザンビア障害者連盟(Zambia Federation of Disability Organisations、以下ZAFOD)の会長のバカリ氏が冒頭の挨拶をした後、プログラムマネージャーのムタンバ氏から、ZAFODの紹介とザンビアのアクセシビリティの現状と成果について報告があった。(写真2参照)
  • 写真2. オンライン会合の様子(撮影者:筆者)
    (写真2の説明:ZAPDの会議室を使用したオンライン会合の様子)

    ZAFODは15の障害者団体が加盟する全国的な連合体であり、アドボカシー活動を通じて、ザンビアの障害者の権利を促進している。ZAFODの活動としては、障害の啓発、また障害者団体の組織力の強化を行っている。また様々な障害者を取り巻く課題に関する調査や研究を行っている。アクセシビリティに関する発表では、事例に沿って、ザンビアの官公庁はエレベーターの設置が少なく、トイレもバリアフリー仕様でないことが指摘された。(写真3,4参照)。

    写真3:ルサカ市内にある官公庁のトイレの写真(撮影者:カトンゴ・ムタンバ、ZAFOD)
    (写真3の説明:女性用トイレの入口までには6段の段差がある)

    写真4:ルサカ市内にある官公庁のトイレ内の写真(撮影者:カトンゴ・ムタンバ、ZAFOD)
    (写真4の説明: トイレの出入口が狭く、トイレ内に手すりはない)

    またZAFODからは、ルサカ市内の道路は排水溝に蓋がないため視覚障害者が転落する危険性や、アクセシブルでない公共交通機関に加えて、バス等の交通機関職員に対する障害啓発が不足しているため、スタッフによる障害者の乗車介助のない状況が報告された(写真5と6参照)。

    写真5:ルサカ市内の道路の状況 (撮影者:カトンゴ・ムタンバ、ZAFOD)
    (写真5の説明:道路脇の排水溝に蓋はなく、誘導用ブロックや柵は設置されていない)

    写真6:公共交通機関のバスの乗降口 (撮影者:カトンゴ・ムタンバ、ZAFOD)
    (写真6の説明:ザンビアの公共交通機関の事例として、バスの乗車口には4段の段差があり、バリアフリー対応にはなっていない)

    ZAFODの関わったアクセシビリティ改善に関する成果の一例として、障害当事者の呼びかけによる物理アクセシビリティの改善の事例も報告された。ZAFODは、ルサカ市内のホテルで「パブリック・ダイアローグ・フォーラム」を開催した際に、フォーラムの開催前にはホテルの会場やトイレに段差があったが、障害当事者たちが働きかけた結果、24時間以内に会場やトイレ前にスロープが整備されるなど、当事者の声によってアクセシビリティの改善がなされ、バリアフリーでフォーラムが開催されたことが報告された。(写真7参照)

    写真7:ホテル内のトイレ入口前に整備されたスロープ (撮影者:カトンゴ・ムタンバ、ZAFOD)
    (写真7の説明:トイレ入口に整備されたスロープを使用する車いす利用の参加者と介助者)

    その後、降幡氏からは、南アフリカのハウテン州でDPI日本会議が実施中のJICA草の根パートナー型プロジェクト「障害者自立生活センターの拡大と持続的発展」(注3)の事業概要の説明と、アクセシビリティに関連する活動の成果報告があった。プロジェクトでは、日本から障害当事者のアクセシビリティ専門家の派遣や、ピアエデュケーターの育成により、住宅を改修して当事者の住居環境が改善された事例が共有された。また南アフリカでは、バスは人々の移動にとって重要であるが、アクセシブルなバスがないため人々の移動は制限されていた。そのため、車いすで乗車可能なリフト付きバンを日本から輸入し、地域のバス循環移送サービスの運用開始を目指すなど、当事者の参画や行政関係者との協働によって、アクセシビリティが改善している事例が紹介された。
    本会合の最後には、ZAFOD会長のバカリ氏から、DPI日本会議関係者に対して、「日本や南アフリカの成功事例をもとに、ザンビアにおいてもアクセシビリティ改善に関する活動を展開してほしい」との要望があった。またZAPD局長のゴマ氏からは、閉会の辞とともに、本オンライン会合は双方にとって大変実りが多く、障害者分野の知見やノウハウを共有できる貴重な機会であるため、今後も障害を取り巻く多様なテーマにてオンライン会合の継続を希望するとのコメントがあった。ゴマ氏の言葉通り、日本とザンビアのアクセシビリティ促進に関わる関係者が共鳴しあうなか、今後の更なる連携を確認し、会合は締め括られた(写真8参照)。

    写真8.オンラインでの集合写真(撮影者:DPI日本会議)

    4.今後の展望
    ザンビアなどアフリカの国々と日本は遠く離れているが、コロナ禍で促進されたオンラインでの繋がりにより、アフリカの人々の存在はより身近に感じることができるようになっている。国を越えた人との繋がりの中で、アフリカの貧困や経済の格差などの状況を知る一方で、私たちは障害を取り巻く社会的障壁や課題に共通点があることに気付くのである。
    2022年8月27日及び28日にチュニジアで開催される第8回アフリカ開発会議(The 8th Tokyo International Conference on African Development: TICAD8)では、 “Leave no one behind(誰一人取り残さない)”をスローガンとした持続可能な開発目標(SDGs)の実現を後押しすることが期待されている。 またその前後の期間には、オンライン上で「障害と開発」を含むサイドイベントが企画されている。SDGsの達成のために、日本とアフリカの国々の間を越境する障害者当事者団体間の更なる連携と、ドナーや政府の関与や支援が今まで以上に期待されているといえるのではないだろうか。

    (注1) ザンビア基準局(Zambia Bureau of Standards; ZABS)とは、商務貿易産業省傘下の法定機関であり、規格の開発や標準化・品質保証サービスを提供する役割を担っている。
    (注2) 2013年に策定された国家アクセシビリティ基準は、関連省庁や関係者内で周知されておらず、基準の検証もなされていない。ZAPDは、本基準に関するコンセプトペーパーを作成し、全国10州の障害当事者団体や自治体の担当課職員や建設業者等を対象としたアクセシビリティ監査員の育成と、国家アクセシビリティの基準の検証を行う迅速調査の実施に向けた企画書を作成したが、予算の不足により未実施となっている(日下部のフィールドワークでの聞き取りより)。
    (注3) DPI日本会議が実施している「障害者自立生活センターの拡大と持続的発展」プロジェクトの参照URL:https://www.dpi-japan.org/blog/tag/south-africa/

    <参考文献>
    Central Statistical Office, 2012, 2010 Census of Population and Housing: National Analytical Report.
    https://www.zamstats.gov.zm/download/5648/?v=5660
    (閲覧日:2022年7月12日)
    Central Statistical Office and Ministry of Community Development and Social Services, 2018, Zambia National Disability Survey 2015.
    https://www.unicef.org/zambia/media/1141/file/Zambia-disability-survey-2015.pdf
    (閲覧日:2022年7月12日)
    Chiluba, B, C., and Njapawu, W, G., 2019, Barriers of Persons with Physical Disability over Accessibility and Mobility to Public Buildings in Zambia. Indonesian Journal of Disability Studies (IJDS). 6(1): p53 – 63.
    href=”https://ijds.ub.ac.id/index.php/ijds/article/download/130/90/527″>https://ijds.ub.ac.id/index.php/ijds/article/download/130/90/527(閲覧日:2022年7月12日)
    DPI日本会議, 2020, 8月3日(月)第2回「新幹線実証実験報告」.
    https://www.dpi-japan.org/blog/workinggroup/traffic/%e7%ac%ac2%e5%9b%9e%e6%96%b0%e5%b9%b9%e7%b7%9a%e5%ae%9f%e8%a8%bc%e5%ae%9f%e9%a8%93%e5%a0%b1%e5%91%8a/
    (閲覧日:2022年7月20日)
    Mwale, N., and Chita, J., 2016. Religious pluralism and disability in Zambia: approaches and healing in selected Pentecostal churches. Studia Historiae Ecclesiasticae, 42(2), 53-71.
    The World Bank, 2021, DataBank, World Development Indicators.
    https://databank.worldbank.org/source/world-development-indicators
    (閲覧日:2022年7月31日)
    United Nations, 2016, Report of the Special Rapporteur on the rights of persons with disabilities on her visit to Zambia, A/HRC/34/58/Add.2.
    https://www.refworld.org/pdfid/58b00b5c21.pdf
    (閲覧日:2022年7月12日)

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 このエッセイコーナーでは、新たに設置された国際委員会のメンバーが障害学と国際的な交流や動きについて自由闊達に個人としての思いを学会員向けにつづります。

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