障害者権利条約審査:中華民国(台湾)独自のモデル――新型コロナウイルス蔓延とペロシ訪台の下で

高 雅郁(Eunice Ya-Yu KAO)

2022年8月6日土曜日の午後、37℃という真夏の気温の下、台北市信義区の「台北世界貿易センター」のエアコンが効いた部屋に約60人が集まった。これは中華民国(台湾)政府(以下、台湾政府と表記する)が主催した、障害者権利条約(以下、CRPDとする)の2回目の審査の総括所見(勧告)を発表のための記者会見だった。林萬億氏(リン・ワンイー/行政院政務委員[注1])が政府の代表者として登壇した。他に、台湾政府の招聘を受けて、国際審査委員として長瀬修氏(国際審査委員会委員長/日本籍)、金亨植氏(キム・ヒュンシック/韓国出身・オーストラリア在住)、Janet Meagher A.M.氏(ジャネット・マアー・A.M./オーストラリア籍)の3人が現地で、また、Diane Richler C.M.氏(ダイアン・リッチラーC.M./カナダ籍)、Oliver Lewis氏(オリバー・ルイス/英国籍)の2人がリモートで登壇した。そのうち、長瀬氏とリッチラー氏は1回目の審査に引き続き、2回目の審査委員も引き受けてくださった。

【写真1:記者会見での、国際審査委員の3人と政府代表者の林氏との写真。左側からマアー氏、林氏、長瀬氏、金氏。手持ちの看板は総括所見をイメージしている。現地にいた3人の委員は、そこにサインを求められた。上には中文と英文で、総括所見と書いてある。(写真提供:E-think会社)】

台湾では、『身心障礙者権利公約施行法(障害者権利条約国内施行法)』が2014年8月1日に立法院(国会に相当)を通過した。その時、CRPDの本体は、同時に通過しなかった。その後、2016年4月22日にCRPDの本体が立法院で追加承認され、同年5月16日に馬英九総統(当時)が批准した。しかし、台湾は国際的に特殊な地位にあり、国連の会員としての加入に障壁があるため、批准書を国連事務総長に受領されるには困難がある。そこで解決方法として、2017年5月17日に蔡英文総統が頒布し、台湾国内での効力発生日は2014年12月3日に遡って定められた。台湾にとっては、施行法が条約本体より先に通過した異例ともなった(廖 2017)。
CRPD第35条により、国が自国内で効力を生じてから2年以内に国連に履行報告書を提出し、その後、4年ごとに履行報告と審査を受ける義務がある。しかし、台湾の場合は、国連報告ができないため、国際審査委員を招聘し、独自の審査体制を作った。2017年10月末には、1回目の審査のために5人の国際委員[注2]が台湾まで足を運んでくださった。2回目の審査は2021年に行う予定だったが、新型コロナウイルス蔓延により延期された。その後もコロナ終息の兆しが見えないため、2回目の審査は「外交的バブル」の下で行うことになった。「外交的バブル」とは、特別な理由で台湾政府の中央流行疫情指揮センター(CDC)の承認をもらい台湾に入国する人は、隔離や自粛の期間をおかずに、滞在期間中2日間ごとにPCR検査を受けて、会場と宿泊地に同伴されて移動する、予定地以外のところに自由に移動できない制限である。そして、会場にいる間も、バブル以外の人と一定の距離を保持する規定がある。台湾現地の3人の委員とLeanne Craze A.M.氏(マアー氏のアシスタント)、私(長瀬委員長のアシスタント)の5人は、審査期間中、「外交的バブル」の規定に沿って動いていた。

◆審査の前
審査の対象となるのは国である。審査前の2020年12月に、台湾政府は国家報告を公布した。審査延期の影響もあり、その後国家報告の英訳を2021年8月に公布した。国家報告に対して、市民社会(障害者団体を含め)のパラレルレポートが出され、2021年6月に掲載された。委員たちは国家報告とパラレルレポートの英訳版を読んで、2022年3月に事前質問事項(list of issues)[注3]を提出し、同年6月末に政府と市民社会から回答をもらった。委員は、審査前に、合わせて17部の報告と事前質問事項の回答を読んだことになる。

◆建設的対話
審査のスケジュールは、三日間の公開の建設的対話の後、二日間で総括所見を作成し、最後に記者会見をおこなうというものであった。
審査委員会と市民社会、政府との建設的対話は、2022年8月1-3日に条文ごとに分けて、ハイブリット方式で行われた。初日は第1条から第11条、2日目は第12条から22条、3日目は第23条から33条と条文の順に沿って進めた。毎日、市民社会との対話を先に行い、その後政府との質疑応答をした。今回は、新型コロナ対策の配慮等により、入場者数が前回より厳しく、市民社会はパラレルレポート或いは事前質問事項に回答した団体に限り、一団体から3名まで(介助者を含まない)、事前の申し込みの上で参加できるという入場制限があった。会場は、普段は展覧会場として使われている「TaiNEX台北南港展覧館」であった。
今回の審査に参加した市民社会の中には、老舗の障害関連の団体や人権に関する団体もあったが新設の当事者団体もあり、参加団体の多様性が増したように見えた。さらに、建設的対話で発言した代表者は、障害のある当事者が前回より増えていた。その中には、身体不自由者や聾者、脳性麻痺者のほか、社会心理的に配慮が必要な方、知的のある青年、そして、障害のある児童の発言もあった。

【写真2:審査のときの檀上の様子。左側からはマアー氏、Craze氏、長瀬委員長、筆者、金氏。新型コロナ対策として、席の間にクリア板が設置された。全員が掛けている黒いマスクは、主催者が配布した今回のCRPD審査のシンボルマークが付いている不織布マスクである。(写真提供:E-think会社)】

また、リモート参加の審査委員がいるため、ネットの安定性に加えて、時差も今回の審査で直面しなければならない挑戦であった。台湾時間で午前9時にスタートの時間は、カナダにいるリッチラー氏にとっては夜中9時であり、英国にいるルイス氏にとっては午前2時であった。二人の委員には、昼夜転倒とともにでもありながら、会場の状況を把握しにくいという苦労も多少あった。そして、委員の間での即時の議論や意見交換をするツールも極めて重要になった。
さらに、建設的対話は、三日間では時間が足りず、市民社会や政府側が委員の質問に即時に回答できない場合は、翌日、書面回答の英訳を審査委員会に送る方法で回答した。

【写真3:審査委員の目線から見た会場の様子。前にスクリーンがあって、リモート参加のリッチラー氏(左側)とルイス氏(右側)が写されていた。そして、「外交的バブル」の規定で、審査委員と会場の参加者との間が赤線で仕切られ、距離が置かれた。写真の左側は市民社会の席で、真ん中と右側は政府各部門の代表者の席である。写真を撮ったときは、委員と政府との質疑応答のセッションであったが、一部の市民社会の代表者も会場に残っていた。(撮影:高雅郁)】

◆新設された国家人権委員会(NHRC)
 CRPDの第33条では、批准国に独立の機関を設置し、自国にCRPDの履行状況について監視することを規定している。1991年「バリ原則」の後、多くの国が国家レベルの独立人権監視機関を設置している。台湾では、「国家人権委員会(National Human Rights Commission, Taiwan)」[注4]を設置する提議が1997年から始まり、2020年8月にようやく設置された。これは、他の人権条約だけでなく、1回目のCRPD審査後に、当時の総括所見の勧告の産物とも言えるだろう。現在は委員長と副委員長と、8名の人権委員の10人体制で構成されている。副委員長の王榮璋氏(ワン・ジョンザン)[注5]は、ポリオの人で、障害者運動と長期に渡る関わりを持ち、立法委員の経歴もあった。今回の審査で、NHRCは独自の報告書と事前質問事項への回答を提出した。
しかし、この新設された機関は、「独立」と自称してはいるものの、監察院に所属していて、委員長は監察院長が兼任し、委員も監察委員が兼任している。監察院とは、最高の国家監察機関である。主な役割は公務員や国家機関の不正行為や怠慢行為などを調査し、糾正や弾劾、糾挙を行う。そして、各国家機関の財政状況と年度予算などの会計監査し、審議権を行使する。監察委員は総統が立候補者を提案し、立法院の同意を得た上で、総統が任命する。6年間の任期で再任が可能である。最初の国家人権委員は、第6期の監察委員とともに就任した。国家人権委員と監察委員の役割をどのように分けていくか、それとも補完的な役割を持つのか、曖昧な状態である。
また、NHRCはCRPDの国の履行状況の監視機関を目指しているが、CRPD国内施行法ができた時点でNHRCはまだ設立されておらず、NHRCは法的にはこの権限がない。そして現時点で、NHRCには、CRPDに関する専任職員がいない。NHRCは、どの程度の組織の機能を発揮できるか、障害者人権に関する支援や救済措置にどのように貢献するか、これから注目すべきだろう。 

◆ペロシ・ATM・入所施設・双子
 世界にも注目された、米国下院議長Nancy Patricia Pelosi氏(ナンシー・パトリシア・ペロシ)の台湾訪問は、CRPD審査の2日目の深夜であった。今回のCRPD審査の数日前の7月下旬には、攻撃された場合に備えた軍事演習が、国民を巻き込んで例年通り行われた。ペロシ氏訪台の噂が広まってから、極短期間の台湾滞在とその後、中華人民共和国は、いつもより反発を強めて、台湾を封じ込める軍事的な演習が強化した。台湾海峡の情勢は、緊張が高まり、戦争が「一触即発」の状態の下で審査が続けられた。初日の建設的対話であったCRPD第11条の、リスク状況及び人道上の緊急事態に関する措置については、戦争の人為災害を身近にリアルに感じられた。
マスメディアがペロシブームやそれに伴う多くの国内のサイバー攻撃(幸い、審査中のインターネットと中継は安定していた)を報道していた中に、私は特にある報道が気になった。それは、ある人が目の不自由な人を偽装し、保険金詐欺事件を見破られたことである。それが発見された理由は、なぜ視覚障害者なのにATMを使えたのか、なぜ視覚障害者なのに一人で買い物ができたのか、というものである。詐欺事件が見破られたことは良いことである。しかし、CRPD審査での政府の答弁を聞きながら、特にこの事件と報道に関して、審査チームの一員でも台湾国民でもある私は、台湾社会、特に警察とマスメディアに、障害の認識がまだまだ足りておらず、環境の整備もまだ十分でないと示されたことを皮肉に感じた。
また、皮肉にも驚いたことがあった。前回の審査の総括所見でも勧告を受けた、第19条の「地域移行」に関して、台湾は逆方向に進んでいるように見えた。台湾の入所施設の発展の歴史において欧米のような千人程度の大型施設が作られておらず、政府が地域移行に向けて努力していると政府は主張したが、市民社会からは新設の入所施設が増えているし、今後も増えていくだろうという情報があった。さらに、地域での自立生活を支える予算は、主に宝くじの利益から出ていて、財源が不安定であることも、今回の審査で委員たちが懸念した点であった。
ところで、今回の審査で、市民社会の多様性が増えたことを前述した。その理由の一つは、双子や多胎児・者家庭を支える団体が加わったことである。多胎児・者の一人、或いは複数名ともに障害をもつ場合について、現在、多胎児・者に関する統計データがなく、その家庭に対するサポートが足りないとの訴えがあった。この団体の問題提起に応じて、審査委員は、総括所見で特にこの点に言及した。

◆死刑、「善終」と介護殺人事件への特赦請願運動
もう一つ新たに参加した団体は、社会心理的に配慮が必要な人たちの当事者団体である。「社会心理的に配慮が必要」という言い方は、(精神や知的)障害手帳を持っていないけれど、支援や配慮が必要である人を広汎に含むための表現である。台湾では、支援やサービスを利用するために、障害手帳の有無が基本的な判断基準となる。しかし、グレーゾーンの人や、障害のアセスメントを受けなかった人は支援が必要だとしても、利用できない。この当事者団体が特に気にしていることは、精神療養施設と矯正機関では、社会心理的に配慮が必要な人にあまり配慮をしてないことである。この点について、『精神衛生法』の改正に向けて深刻な問題点を訴えた。知的障害のある青年の発言でも、矯正機関内にいる知的障害のある人への対応に懸念が表明された。また、初回の審査後に、社会心理的に配慮が必要な人の二人の死刑が執行されたこと(2018年と2020年に各1件)も、今回の審査で市民社会が強く訴えたことであった。
生命権に関する第10条に関して、死刑の懸念以外に、長瀬委員長は、特に「善終(良い死)」に言及した。台湾では、『病人自主権利法』[注6]が、難病にかかっていた当時の立法委員の推進で、2015年12月に立法院を通過し、2019年1月に実施、2021年1月に修正された。これは、患者中心の死における医療的治療に関する自己決定についてのアジアで初めての法律だと主張された。第1条の目的には、「患者の医療的な自己決定権を尊重し、良い死の権利を守り、医療関係者と患者との良い関係を推進するために、本法を制定した」と書かれている。「安楽死」と「緩和医療」とは違い、患者の「自己決定」だと推進者たちと台湾政府は、強調した。しかし、医療的治療の終止の理由の中には、重い障害や難病にかかっていることも含まれている。社会的制限が多く遭遇されている障害者にとって真の「自己決定」と言えるのかを、審査委員会では強く懸念した。また、事前の医療的計画を患者が撤回、変更できると法に書かれてはいるが、撤回、変更についての詳細には不明である。審査委員会は、このことも憂慮していた。

【写真4:初日の審査をハイブリットで視聴した画面である。画面は、4つの部分に分けられ、左上には会場の壇上の様子が映されている。真中の長瀬委員長は、第10条生命権についての政府との質疑応答の際に、「善終」(good death)と書いてある紙を挙げた。右上には、リモート参加のリッチラー氏とルイス氏、右下には手話通訳者の画面が映されていた。左側は中文の文字通訳が出ている(スクリーンショット:高雅郁)】
 
ある父親が2020年に50年間に介護していた脳性麻痺の娘を殺した。その後、父親は、自殺したが、未遂に終わった。家族の証言によると、この父親は娘をとても愛していた。しかし、脳性麻痺の娘は生きているのが辛そうに見えたし、母親も病気にかかっているし、父親もうつ病に罹患している。二審の裁判長は、この事例に「社会から忘れられた人」とコメント付けた。今回のCRPD審査の数日後に、最高裁判所でこの79歳の父親に刑期2年6ヶ月間の判決が言い渡された。判決後の8月16日から、父親への特赦請願運動が行われた。主催者は立法委員のオフィスで勤めている脳性麻痺の女性とその立法委員だった。二日間で千人以上の賛同者がいた。賛同する団体の多くは、脳性麻痺に関する団体であった。賛同の意見の中には、CRPDを実現しようという提唱があった一方で、この父親は可哀そう、脳性麻痺患者の家庭は可哀そう、政府は脳性麻痺患者に支援サービスをもっと作ろうといったものや、脳性麻痺患者が安置される入所施設をもっと作ろうといったものがあった。基本にあるはずの脳性麻痺患者の生命権は一切言及されなかった。この請願運動に出席・賛同した脳性麻痺の当事者は本当に賛同したのか、私は大いに疑問を持っている。
こういう社会的な雰囲気の下に、『病人自主権利法』の実施においては、多数者の「善終」を守るか、少数者の「(良い?)死」を推進するか、どちらになるだろう。

◆118点の総括所見:CRPDは「障害者の権利」ではなく「人権」についてである
  台湾における第2回CRPDの審査は、8月6日の記者会見で終わった。審査委員会が118点の総括所見を提出した。各条文に関する勧告を含めて、全体として次の6つの課題を取り上げた。

① 人権視点に切り替えること
② 平等と差別しないための努力向上
③ 障害のある当事者の参画のための柔軟性
④ 地域で暮らす政策と支援の完備
⑤ 社会心理的に配慮が必要な方への対策改善
⑥ 政府各部門の間の協調と連携の必要

 「台湾は人権立国だ」とよく言われる。ペロシ氏とその後訪台した米国や日本の議員たちも台湾の民主化と人権立国としての台湾を支えるために訪台したという。確かに台湾は、アジアや世界の他の地域と比較して先進している部分もある。しかし台湾が「人権観点」という点で進んでいるか、今回のCRPDの審査は、鏡のようによく映し出しただろう。審査委員のマアー氏[注7]が今回の審査で台湾社会に贈った言葉は、「これは障害者の権利ではなく、『人権』に関することだ」というものだ。
ペロシ氏訪台の夜、この世界的な影響力を持つ人物と最も近い距離にいたとき、審査委員会がペロシ氏とともに蔡英文総統とCRPDや人権について対談する夢を見た。
審査は終わったが、118点の総括所見への実践はこれからだ。4年後、台湾独自のモデルは台湾社会にどのように変えていくのか。障害者である前に、一人ひとりが「人間」として扱われることを期待している。
最後にこのエッセイの場を借りて、新型コロナウイルスにかかるリスクと強権の威迫している時勢に、審査任務を引受けた5人の審査委員に最高の敬意を払う。

(日本語の校正をしてくださった伊東香純氏に感謝する。)

[注]
1、中華民国(台湾)の中央政府機関は孫文の「五権分立」思想に沿って、行政院、立法院、司法院、考試院、監察院の五つに分かれている。行政院は国の最高行政機関であり、日本の内閣と各省庁を併せたものに相当する。院に行政院長(首相に相当)と副院長、現在は8名の政務委員(無任所大臣に相当)、正副秘書長、各部会の部長(大臣に相当)により構成される。林氏の専門は社会福祉、元は国立台湾大学の教授である。2006年5月からの一年間、1回目の政務委員に務め、2016年5月から2回目を務め今に至る。
2、1回目の審査は2017年10月30日-11月3日に行った。国際審査委員会は長瀬修氏(委員長)、ダイアン・リッチラー氏、Adolf Ratzka氏(アドルフ・ラツカ/ドイツ出身・スウェーデン在住)、Michael Ashley Stein氏(マイケル・スタイン/米国籍)とDiane Kingston氏(ダイアン・キングストン/英國籍)の5人で構成された。筆者は、当時も長瀬委員長のアシスタントとして審査チームの一員になった。
3、中華民国(台湾)第2回報告に関する事前質問事項は以下のリンクを参照
 http://www.arsvi.com/2020/20220323crpd.htm 
4、NHRCの詳細はこちらを参照 https://nhrc.cy.gov.tw/en-US 
5、王榮璋氏のプロフィールhttps://nhrc.cy.gov.tw/en-US/about/member/detail?id=7b169946-634a-4159-9d24-35501c1ac5c0 
6、『病人自主権利法』の英訳版は以下のリンクを参照 
https://law.moj.gov.tw/ENG/LawClass/LawAll.aspx?pcode=L0020189 
7、マアー氏の個人紹介は下記のリンクを参照
  https://finalreport.rcvmhs.vic.gov.au/personal-stories-and-case-studies/janet-meagher-am/ 
  マアー氏の著書は日本語に訳されており、書名は『コンシューマーの視点による本物のパートナーシップとは何か?――精神保健福祉のキーコンセプト』である。
http://www.arsvi.com/b2010/1512mj.htm  
  
[参考文献]
廖福特,2017,「第一章 歷史發展及權利內涵」孫迺翊・廖福特(編)『身心障礙者權利公約』台北:台灣新世紀文教基金會。

[関連リンク]
・中華民国(台湾)と障害者権利条約 http://www.arsvi.com/d/undc-twn.htm 
・中華民国(台湾)2回目の障害者権利条約審査の総括所見(英語原文と中文仮訳)
https://crpd.sfaa.gov.tw/BulletinCtrl?func=getBulletin&p=b_2&c=D&bulletinId=1696

日本とザンビアの「アクセシビリティ」に関するオンライン会合について―DPI日本会議、ザンビア障害者機関、ザンビア障害者連盟の繋がり―

 日下部 美佳 
(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科、
アフリカ地域研究専攻一貫制博士課程)

未曽有の新型コロナウィルス感染症の拡大により、人の移動が制限される一方で、私たちはオンライン化が世界を繋ぐことを改めて認識した。今回のエッセイでは、2022年7月7日の七夕の日に「アクセシビリティ」という共通のテーマが架け橋となって、日本とザンビアの障害者関連団体との出会いの場となったオンライン会合について記録に残したいと思う。

1.「アクセシビリティ」をテーマに国を越えて
2020年3月末にコロナ禍のザンビアから筆者が日本に緊急一時退避した後、2022年3月に同国の首都ルサカに再渡航するまで、2年の歳月が過ぎた。再渡航後、ザンビアの障害者関連の政策立案や調整、そしてサービスの実施を担うザンビア障害者機関(Zambia Agency for Persons with Disabilities、以下ZAPD)に勤務するムレンガ・ジェーンさんと2年ぶりの再会を果たした。相変わらずの弾けるような笑顔だった。
ジェーンさんとは、コロナ禍であっても、WhatsApp(Lineに似たコミュニケーションアプリ)で連絡を取り合い、繋がりを深めてきた。WhatsAppを通した数多くのやり取りの中で、東京2020パラリンピックの話をきっかけに日本のアクセシビリティが話題になった際には、特定非営利活動法人DPI(障害者インターナショナル)日本会議のアクセシビリティ改善にかかる活動の写真や記事を英訳して情報を提供することもあった。2年ぶりの再会に喜んで一息ついたころ、アクセシビリティ監査員で障害当事者のジェーンさんから「日本の交通機関のアクセシビリティの改善に関する写真を共有してくれたのを覚えている?ザンビアの物理的アクセシビリティは、より一層の改善が必要な状況なの。日本のアクセシビリティがどのように改善したのか色々と学びたいのだけれど、オンラインで勉強会を開催できないかしら。」との相談があった。ジェーンさんに共有した記事は、「8月3日(月)第2回『新幹線実証実験報告』」(DPI日本会議, 2020)であったが、彼女はこの記事から日本の知見を学びたいと思い、彼女なりにザンビアにおいて日本の知見が活かせないかとアイディアを温めていたのだ。
早速、DPI日本会議で国際協力分野において長年ご活躍され、JICA課題別研修「アフリカ障害者リーダーの育成研修」の実施など、アフリカの障害と開発の実践に尽力されている中西由起子さんにメールを送ったところ、DPIの総会で忙しい時期にも関わらず好意的に受け止めていただき、オンライン会合の実施に向けた準備が始まった。

2.ザンビアの障害者を取り巻く概況
ザンビアはアフリカ南部の内陸国であり、熱帯性気候(涼しい乾季、暑い乾季、暑い雨季の季節)の国である。(写真1参照)

写真1: 涼しい乾季のルサカ市内の居住地の様子(撮影者:筆者)

(写真1の説明:コンパウンドと呼ばれる低所得者層の居住地の様子。道路は未舗装で、生活排水が道に流れ出ている。)

人口は約1,892万人で(The World Bank, 2021)、73の民族がいる。言語は英語が公用語であるが、その他に主要民族の言語(ベンバ語、ニャンジャ語、トンガ語など)がある。1964年の独立以来、民族間の対立による内戦もなく、“One Zambia One Nation (一つのザンビア、一つの国家)”というスローガンのもと、政治的な安定を維持していることが特徴的である。ザンビアの経済は、主に鉱業、農業、建設業部門によって牽引されており、2021年の一人当たり国民総所得(GNI)1,040米ドルである (ibid.)。
「ザンビア共和国の憲法第266条」及び「障害者法」おいて、障害の定義とは「恒常的な身体的、精神的、知的、または感覚的な機能障害の単独、または社会的もしくは環境的な障壁と相まって、他者と対等で完全かつ効果的に社会に参加する能力を妨げる」ことを意味する。2010年に実施された国勢調査では、障害者は全人口の2%であり、機能障害種別で見ると肢体不自由者が32.7%と最も多く、次いで視覚障害者(弱視)が24.8%と続いている(CSO, 2012, p71, p72)。しかし、ザンビアの障害当事者団体の関係者から聞き取りをした際に、国勢調査の調査票は世帯主が記入するため、世帯主が障害者を家庭内に隠し、障害者を報告しないケースがあるという指摘があった。障害者個人への調査を実施した2015年の「ザンビア全国障害者調査」(標本調査)では、ザンビアの障害者は人口の7.7%と推定している(CSO&MCDSS, 2018, p39)。
ザンビアは2010年に障害者権利条約に批准し、2012年には障害者権利条約の国内化を目指す「障害者法」を制定した。障害者法第5条「障害者の権利の保護と促進」第5項「アクセシビリティとモビリティ」の第40号「アクセシビリティ」には、省庁は公共設備や公共交通機関のアクセシビリティ確保、また情報アクセシビリティの確保等について適切な措置を講じることが記載されている。また、2015年には「障害に関する国家政策」を制定し、「2030年までに障害者が生活の基盤となる機会均等を享受する」というビジョンを掲げ、政策目標と措置が示されている。
先行研究では、ザンビアでの障害は、伝統的に親族からの妬みや怒りから発生する呪いや魔術等と障害が結び付けられており(Mwale & Chita, 2016, p60)、障害者は地域の人々から差別を受ける傾向がある(UN, 2016, p8)。加えて物理的・情報アクセシビリティなどの課題に直面している。国連が2016年に作成したザンビアの障害者の権利に関する特別報告者レポートによると、物理的アクセシビリティに関しては、ザンビア基準局(Zambia Bureau of Standards: ZABS) (注1)による国家アクセシビリティ基準(注2)が設定されているにもかかわらず、多くの公共及び民間の建築物はバリアフリー化されていないことが言及されている(ibid., p10)。また、ZAPDによるアクセシビリティ・ニーズ・アセスメントの実施や、アクセシビリティ監査員の訓練の必要性が強調されている(ibid.)。首都ルサカの公共建築物における障害者のアクセシビリティとモビリティの調査を行ったChiluba&Njapawu(2019, p60, p61)は、アクセシビリティに関する法律を実施する際の課題として、政府の計画や予算配分における優先順位の低さやコスト上の問題、また障害に対する否定的な認識と障害者代表者の不在、とりわけ政策立案者と実施者を含む関係者間で障害者のアクセシビリティとモビリティに関する理解度にギャップがあることを指摘している。

3.オンライン会合の内容
このように、ザンビアの文化や障害者を取り巻く生活環境は、日本と異なるものの、日本社会での事例やDPI日本会議で国際協力分野の活動から学ぶために、「アクセシビリティの改善」を共通テーマとして、第一回目のオンライン会合が始まった。以下が議事次第である。

日時:2022年7月7日(木)日本時間:17:00-18:00 (ザンビア時間:10:00-11:00)

    • 紹介 中西由起子(DPI日本会議 副議長)
    • 開会挨拶 ニコラス・ゴマ(ZAPD 局長)
    • 日本の発表「日本におけるアクセス:日本における障害者運動によるアクセシビリティの改善」 報告者:宮本泰輔(DPIアジア太平洋事務局、 (株)ディーディーコンサルティング会社 代表)
    • ザンビアの発表「ザンビアにおけるアクセシビリティ」
    • 報告者:ジャスティン・バカリ (ザンビア障害者連盟 会長)、カトンゴ・ムタンバ(ザンビア障害
      者連盟 プログラムマネージャー)
    • 南アフリカの発表「南アフリカにおけるアクセシビリティの改善」
    • 報告者:降幡博亮(DPI日本会議 プロジェクトオフィサー)
    • 閉会挨拶 ニコラス・ゴマ(ZAPD 局長)
  • まず初めに、中西氏によるDPI日本会議の概要説明と発表者の紹介等も含む開会の言葉の後、ZAPD局長のゴマ氏からは、ZAPDの概要と併せてザンビア側関係者の紹介や、会合開催への感謝の辞が述べられるなど、参加者の間で笑顔が生まれる温かい雰囲気の中で会合が始まった。その後、日本の障害者運動に長年参画しているDPIアジア太平洋事務局の宮本氏からは、日本の障害者運動を通じた公共交通機関や建物のバリアフリー化の実践や、当事者参画による法整備について発表があった。宮本氏は35年前の日本の写真を提示しながら、当時は日本の経済が発展していた時期にもかかわらず、公共交通機関の改札口からプラットフォームまでの間にエレベーターがなく、人々が車椅子を担いで階段を昇降しており、障害者などの人々への国や政府の対応は遅れていたことを指摘した。その後の日本では、全国的な障害者運動を通して当事者たちが声を上げ、またマスメディアや政治家も巻き込んだ戦略的な政策立案や活動によって、日本のアクセシビリティの現状や活動の成果があったことが言及された。ザンビアからの参加者は、このプレゼンテーションに刺激を受け、「アクセシビリティ改善に向けた全国的な規模の障害者運動をやってみよう」との発言もあった。
    ザンビア側からの発表では、ザンビア障害者連盟(Zambia Federation of Disability Organisations、以下ZAFOD)の会長のバカリ氏が冒頭の挨拶をした後、プログラムマネージャーのムタンバ氏から、ZAFODの紹介とザンビアのアクセシビリティの現状と成果について報告があった。(写真2参照)
  • 写真2. オンライン会合の様子(撮影者:筆者)
    (写真2の説明:ZAPDの会議室を使用したオンライン会合の様子)

    ZAFODは15の障害者団体が加盟する全国的な連合体であり、アドボカシー活動を通じて、ザンビアの障害者の権利を促進している。ZAFODの活動としては、障害の啓発、また障害者団体の組織力の強化を行っている。また様々な障害者を取り巻く課題に関する調査や研究を行っている。アクセシビリティに関する発表では、事例に沿って、ザンビアの官公庁はエレベーターの設置が少なく、トイレもバリアフリー仕様でないことが指摘された。(写真3,4参照)。

    写真3:ルサカ市内にある官公庁のトイレの写真(撮影者:カトンゴ・ムタンバ、ZAFOD)
    (写真3の説明:女性用トイレの入口までには6段の段差がある)

    写真4:ルサカ市内にある官公庁のトイレ内の写真(撮影者:カトンゴ・ムタンバ、ZAFOD)
    (写真4の説明: トイレの出入口が狭く、トイレ内に手すりはない)

    またZAFODからは、ルサカ市内の道路は排水溝に蓋がないため視覚障害者が転落する危険性や、アクセシブルでない公共交通機関に加えて、バス等の交通機関職員に対する障害啓発が不足しているため、スタッフによる障害者の乗車介助のない状況が報告された(写真5と6参照)。

    写真5:ルサカ市内の道路の状況 (撮影者:カトンゴ・ムタンバ、ZAFOD)
    (写真5の説明:道路脇の排水溝に蓋はなく、誘導用ブロックや柵は設置されていない)

    写真6:公共交通機関のバスの乗降口 (撮影者:カトンゴ・ムタンバ、ZAFOD)
    (写真6の説明:ザンビアの公共交通機関の事例として、バスの乗車口には4段の段差があり、バリアフリー対応にはなっていない)

    ZAFODの関わったアクセシビリティ改善に関する成果の一例として、障害当事者の呼びかけによる物理アクセシビリティの改善の事例も報告された。ZAFODは、ルサカ市内のホテルで「パブリック・ダイアローグ・フォーラム」を開催した際に、フォーラムの開催前にはホテルの会場やトイレに段差があったが、障害当事者たちが働きかけた結果、24時間以内に会場やトイレ前にスロープが整備されるなど、当事者の声によってアクセシビリティの改善がなされ、バリアフリーでフォーラムが開催されたことが報告された。(写真7参照)

    写真7:ホテル内のトイレ入口前に整備されたスロープ (撮影者:カトンゴ・ムタンバ、ZAFOD)
    (写真7の説明:トイレ入口に整備されたスロープを使用する車いす利用の参加者と介助者)

    その後、降幡氏からは、南アフリカのハウテン州でDPI日本会議が実施中のJICA草の根パートナー型プロジェクト「障害者自立生活センターの拡大と持続的発展」(注3)の事業概要の説明と、アクセシビリティに関連する活動の成果報告があった。プロジェクトでは、日本から障害当事者のアクセシビリティ専門家の派遣や、ピアエデュケーターの育成により、住宅を改修して当事者の住居環境が改善された事例が共有された。また南アフリカでは、バスは人々の移動にとって重要であるが、アクセシブルなバスがないため人々の移動は制限されていた。そのため、車いすで乗車可能なリフト付きバンを日本から輸入し、地域のバス循環移送サービスの運用開始を目指すなど、当事者の参画や行政関係者との協働によって、アクセシビリティが改善している事例が紹介された。
    本会合の最後には、ZAFOD会長のバカリ氏から、DPI日本会議関係者に対して、「日本や南アフリカの成功事例をもとに、ザンビアにおいてもアクセシビリティ改善に関する活動を展開してほしい」との要望があった。またZAPD局長のゴマ氏からは、閉会の辞とともに、本オンライン会合は双方にとって大変実りが多く、障害者分野の知見やノウハウを共有できる貴重な機会であるため、今後も障害を取り巻く多様なテーマにてオンライン会合の継続を希望するとのコメントがあった。ゴマ氏の言葉通り、日本とザンビアのアクセシビリティ促進に関わる関係者が共鳴しあうなか、今後の更なる連携を確認し、会合は締め括られた(写真8参照)。

    写真8.オンラインでの集合写真(撮影者:DPI日本会議)

    4.今後の展望
    ザンビアなどアフリカの国々と日本は遠く離れているが、コロナ禍で促進されたオンラインでの繋がりにより、アフリカの人々の存在はより身近に感じることができるようになっている。国を越えた人との繋がりの中で、アフリカの貧困や経済の格差などの状況を知る一方で、私たちは障害を取り巻く社会的障壁や課題に共通点があることに気付くのである。
    2022年8月27日及び28日にチュニジアで開催される第8回アフリカ開発会議(The 8th Tokyo International Conference on African Development: TICAD8)では、 “Leave no one behind(誰一人取り残さない)”をスローガンとした持続可能な開発目標(SDGs)の実現を後押しすることが期待されている。 またその前後の期間には、オンライン上で「障害と開発」を含むサイドイベントが企画されている。SDGsの達成のために、日本とアフリカの国々の間を越境する障害者当事者団体間の更なる連携と、ドナーや政府の関与や支援が今まで以上に期待されているといえるのではないだろうか。

    (注1) ザンビア基準局(Zambia Bureau of Standards; ZABS)とは、商務貿易産業省傘下の法定機関であり、規格の開発や標準化・品質保証サービスを提供する役割を担っている。
    (注2) 2013年に策定された国家アクセシビリティ基準は、関連省庁や関係者内で周知されておらず、基準の検証もなされていない。ZAPDは、本基準に関するコンセプトペーパーを作成し、全国10州の障害当事者団体や自治体の担当課職員や建設業者等を対象としたアクセシビリティ監査員の育成と、国家アクセシビリティの基準の検証を行う迅速調査の実施に向けた企画書を作成したが、予算の不足により未実施となっている(日下部のフィールドワークでの聞き取りより)。
    (注3) DPI日本会議が実施している「障害者自立生活センターの拡大と持続的発展」プロジェクトの参照URL:https://www.dpi-japan.org/blog/tag/south-africa/

    <参考文献>
    Central Statistical Office, 2012, 2010 Census of Population and Housing: National Analytical Report.
    https://www.zamstats.gov.zm/download/5648/?v=5660
    (閲覧日:2022年7月12日)
    Central Statistical Office and Ministry of Community Development and Social Services, 2018, Zambia National Disability Survey 2015.
    https://www.unicef.org/zambia/media/1141/file/Zambia-disability-survey-2015.pdf
    (閲覧日:2022年7月12日)
    Chiluba, B, C., and Njapawu, W, G., 2019, Barriers of Persons with Physical Disability over Accessibility and Mobility to Public Buildings in Zambia. Indonesian Journal of Disability Studies (IJDS). 6(1): p53 – 63.
    href=”https://ijds.ub.ac.id/index.php/ijds/article/download/130/90/527″>https://ijds.ub.ac.id/index.php/ijds/article/download/130/90/527(閲覧日:2022年7月12日)
    DPI日本会議, 2020, 8月3日(月)第2回「新幹線実証実験報告」.
    https://www.dpi-japan.org/blog/workinggroup/traffic/%e7%ac%ac2%e5%9b%9e%e6%96%b0%e5%b9%b9%e7%b7%9a%e5%ae%9f%e8%a8%bc%e5%ae%9f%e9%a8%93%e5%a0%b1%e5%91%8a/
    (閲覧日:2022年7月20日)
    Mwale, N., and Chita, J., 2016. Religious pluralism and disability in Zambia: approaches and healing in selected Pentecostal churches. Studia Historiae Ecclesiasticae, 42(2), 53-71.
    The World Bank, 2021, DataBank, World Development Indicators.
    https://databank.worldbank.org/source/world-development-indicators
    (閲覧日:2022年7月31日)
    United Nations, 2016, Report of the Special Rapporteur on the rights of persons with disabilities on her visit to Zambia, A/HRC/34/58/Add.2.
    https://www.refworld.org/pdfid/58b00b5c21.pdf
    (閲覧日:2022年7月12日)

障害学の風:国際委員会エッセイコーナー

 このエッセイコーナーでは、新たに設置された国際委員会のメンバーが障害学と国際的な交流や動きについて自由闊達に個人としての思いを学会員向けにつづります。

30年前に戻って
田中恵美子、2022年3月14日

中国と”Nothing About Us Without Us” ――障害学国際セミナーへ 
長瀬修、2022年1月20日