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就労継続支援A型事業所の理想と実態

山口 雄史(一般社団法人日本フレキシブルオペレーション)


目次
・はじめに
・政府の理想
・生産活動の実態
・障害の特性と生産性の相関関係
・販路確保と支援スタイル
・おわりに

はじめに
 筆者は、広島県広島市と大阪府摂津市にて就労継続支援A型事業所(以下、就A)を運営する法人の代表をしており、当法人は2019年9月11日設立、2020年2月1日にJAFLO西広島を開所、2021年1月1日にJAFLO大阪を開所した。2021年7月時点でJAFLO西広島の利用者32名、JAFLO大阪の利用者9名が在籍しており、多種多様な生産活動を行い、現在も新たな生産活動事業を企画し、より良い生産活動事業の創設に奮闘している。
 この度は就Aの現場での実態を、行政が掲げる就Aの概念に照らし合わせ、健全な運営を行うための生産活動事業を、企画し試行錯誤しながら色々と試してきた実体験を元に、多様かつ実践的、効果的な生産活動事業について報告する物である。

政府の理想
 2021年度より基本報酬の改定があり、スコア方式が採用されることとなった。以下個人的に解釈したものであり、政府が掲げる理想が示されていると私は思う。

① 平均労働時間に応じた点数。
② 生産活動収支による点数。
③ 多様な働き方に係る整備と実施状況による点数。
④ 支援力向上の取組みによる点数。
⑤ 地域連携活動の実施状況による点数。

① 利用者の平均労働時間が長ければ長いほど点数が高い。
平均労働時間が7時間以上で満点評価。

② 生産活動の粗利から利用者の賃金総額が支払えていれば点数が高い。
言い換えれば、利用者に行ってもらう作業で、利用者自身の給料分を稼ぎ出すという事。

③ 柔軟な対策が整備されていれば点数が高い。
在宅ワーク、短時間勤務、時差出勤、フレックスタイム、有給休暇、正社員登用などなど就業規則に手厚く盛り込み、実施している項目の数が多い程良い。

④ 職員向けの支援力向上研修など啓発に取り組んでいれば点数が高い。
先進的事業所への視察や、外部研修や内部研修の実施、人事評価制度など、支援力の高いプロフェッショナルな事業所が高評価。

⑤ 地域連携活動の取り組みをしていれば加点。
他社との連携をとり、施設外就労による働く場の確保と地域社会活動の機会創出がなされていると加点となる。

 就Aの利用者への給料は一部例外もあるが、最低賃金以上であることは必須要件である。すなわち、一般就労となんら変わらない待遇が求められている事がここで明らかになる。この政府が掲げてくれている理想がスコア方式によって明確になる事で、我々事業者が取り組むべき事柄が明確となり、「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するため」の道標となったと言える。次章ではこの理想と、現場での実態とのギャップについて見ていく。

生産活動の実態
 前提として現時点にて一般企業での就職が困難な障害者に対し、将来一般企業での就職に向けて、作業を通じて訓練を行うことが、就Aで提供しているサービスであり、様々な障害の特性に合わせて個別支援計画を作成し、その計画に合わせて訓練という名の作業を各利用者に行ってもらう。
 ただし、各々の計画が計画通りに遂行できる利用者は数少なく、精神障害が原因で毎日出勤する事がやっとの利用者や、職員との人間関係がうまくいかずに作業どころではない利用者、他の利用者とのコミュニケーションがうまく取れず一緒に働きたくないと言って計画を変更せざるを得ない利用者、数が数えることができない利用者などなど。一般就労となんら変わらない待遇が求められるが、実態は現実的ではない。
 健常者のみが働く一般企業ですら、黒字化出来ている企業は数%しかないにもかかわらず、一般企業での就職が困難な障害者に対して、その作業で利用者自身の給料分を稼ぎだすというのは、至難の技と言っても過言ではない程である。
⑴生産活動収支での賃金支払いを考え、⑵利用者の訓練になり、⑶障害の特性を考慮し、⑷なるべく全員ができる作業を確保する事。こんな業務が在り得るのだろうか?当事業所で色々と試してきた業務を以下に記載する。

①マスク製造販売
 JAFLO西広島開所まもなく新型コロナ感染拡大により、窮地に立たされ、思いつくままにマスクを製造してみた。当時マスクが品薄になり、需要が高まったため、そこそこの値段で販売できると考えた。開所当時は女性の方が多く、ミシンや縫製が出来る利用者が居たため、材料を仕入れて、ミシンを買って色々と試行錯誤し、限られた材料でマスク製造してみた。
 結果的に全員ではなかったが利用者の訓練にはなった。ミシンを使えなかった人が使えるようになり、縫製の基本を学ぶ事が出来たでのはないか。
 ただし、売れなかった。。毎日4、5人の利用者が4.5時間づつ作業し、2ヶ月間程かけて製造したマスクの売上は、1,000円程にしかならなかった。
 なぜなら製造し梱包して商品としてやっと販売できると思った頃には、世の中に輸入物のマスクが出回り、大手企業が着手し供給し始めていたため、我々数人が手作りで製造した割高のマスクなど誰も買わない。製造したマスクは事業所内で職員と利用者自らで使用して消費し、大失敗の結果に終わった。

②消毒液の転売
 マスク製造販売と同様に、新型コロナ感染対策商品として、消毒液の転売も開始。たまたま消毒液の製造工場と繋がりがあり、安く譲っていただき、スプレーボトルに詰め替えて転売。スプレーボトルに詰め替えるだけの作業なので、比較的簡単で誰にでも作業できる内容で、軽作業として訓練の一部にはなった。販売してみるとマスクよりかは反応がよく8万円程の売上になった。ただマスク同様に輸入品や大手企業が販売再開したため売れ行きが悪くなり、事業所内で使用及び職員と利用者に配布し、こちらも現在は行っていない。

③弁当製造販売
 日配弁当(広島市中区と南区の企業へ日替わり弁当400円と500円の2種を宅配)を関連企業から譲渡していただき、弁当の製造から宅配まで全て事業所内で行う。訓練作業、特性の配慮、生産性を総合的に考慮しても効果的であり実践的な生産活動事業といえる。
 作業内容としては、⑴仕込み、⑵製造、⑶盛付け、⑷仕分け、⑸配達(配達のみは職員が行い、時には利用者も同乗する)に細分化でき、さらにそれぞれの作業の中にも簡単な作業と少し技術がいる作業とに分類できる。その細分化された作業を障害の特性を見極めながら、個別支援計画に則って指導していく。受注は基本的に前日web予約で、当日の朝に追加注文を電話で受け付けるため、前日にほとんどの準備が可能となる。そのため時間に追われる事なく、自分の作業に集中しやすいといった印象で、生産性としては、譲渡当初は1日あたり100食程度だった販売個数も200食にまで伸ばす事ができ、売上も150万円/月となり、現在も進行中である。

④デザート製造販売
 日配弁当の付帯サービスとして、食後のデザートを1つ100円にて販売。③の弁当の受付システムを利用し、前日までに予約受付、前日仕込みをし、当日弁当と一緒に宅配する。デザート試作を何回も行い販売に至ったが、保管方法や保管期間、販売個数、作業工数を総合的に考慮すると、別の厨房スペースと工数を必要とし、継続に至らなかった。訓練作業としてだけ取り組むのであれば良いものの、生産性、特性の考慮を考えると、効果的、実践的な生産活動とは言えない。ただし、本格的にデザートの販路を確保し、厨房設備や工数を整備すると、日配弁当同様に、効果的、実践的な生産活動になり得ると言える。

⑤犬服製造販売
 犬の服のパターンオーダー、⑴デザイン、⑵製図、⑶縫製、⑷撮影、⑸出品、⑹梱包、⑺発送に細分化し、デザインが得意な利用者に下書きとデザインを、製図、縫製が得意な利用者が製造全般を担当、PC関係が得意な利用者にはネット販売の手続きから出品までを担当、梱包と発送は軽作業として誰もができるようにした。ネット販売はメルカリやミンネなど、CtoCのアプリを活用し、環境整備に費用をかけ過ぎないように行った。訓練作業としては、各々の得意分野を活かせる事から考えると非常に良く、新たな製品を1から作り上げることも楽しく出来、実践的であり、特性の考慮の部分にも効果的と言える。また、デザイン、縫製、PC作業に関しては、在宅ワークでも可能なため、コロナ禍で多様な働き方を推奨していくにあたり、ちょうど良いタイミングであった。
 ただ、生産性に関しては、まだ販売開始してから1ヶ月と浅く、データとしては信憑性がないが、2着販売し売上は6,000円程となった事から考えると、今後SNS等を活用し認知度をあげる事が出来れば、可能性はあると言える。

⑥飲食店(廣島まぜそばメンノモリタカ)の運営
 関連企業より飲食店(廣島まぜそばメンノモリタカ)の運営を業務請負し、⑴仕込み、⑵調理、⑶配膳、⑷会計と細分化し、調理に関しては、簡単な作業とメインの麺茹での重要な作業に分類できる。
 細かい作業や、事業所内でキャップを被ったりエプロンをして弁当盛付けをする事が息苦しくて出来ないという利用者も結構多い。そういった利用者は飲食店などの人前に出る配膳や、調理補助などにはストレスを感じずに出来るという方も比較的多いため、作業訓練、特性の考慮には効果的と言える。また生産性については、開店から約1年で、常連客もついてきて、売上も約20万円/月程度となるため、生産性を考えると比較的良い方だと言える。
 ただ、販管費は水道光熱費も嵩み、原価も30%ほどかかるため、売上50万円/月をボトムラインに出来れば、③の弁当製造と同様に総合的に良い生産活動事業と言える。
 ただしもう一点注意ポイントがあり、精神障害者でうつ状態に入ってしまう季節には利用者が休みがちになるため、通常営業をする事自体が危ぶまれる。その点を未然に防ぐための対策を講じたい。具体的には、人員の配置(補填)となるが、季節的に出る症状なので、精神障害者は同じ症状を抱える事が多いため、職員が補填する事になる。

⑦紙袋、弁当箱製造
 関連企業より紙袋製造、弁当箱製造の業務請負をし、⑴紙断裁、⑵袋組み立て、⑶取手紐とおし、⑷弁当箱組立てに細分化し、それぞれ軽作業として、作業訓練としては成り立つが、紙袋は1つ30円、弁当箱は1つ50円の請負金額となるため、生産性としては低く、手が空いた時にやる作業の一つとしての位置付けになる。

⑧餃子製造販売
 2021年8月に広島市佐伯区にて無人餃子販売所をオープン予定(福祉課には出張所として登録)。⑴皮製造、⑵餡製造、⑶包み作業、⑷パック詰め作業に細分化し、包む作業以外は、比較的簡単な作業で、障害の特性問わず誰にでも出来る作業訓練となり得る。生産性については、これから販売開始となるため今後認知度をどう高めていくかが決め手となる。

⑨プラスチック製品の組み立て作業
 障害者職業センターからの紹介で、プラスチック製品の組み立て作業(内職のようなもの)を請負い、一つ組み立てれば、1円〜5円程の手数料を受け取る事ができる。といった内容である。手先が器用な方への作業訓練には最適かもしれないが、生産性があまりに低く、この手の業務を請け負って最低賃金を支払う事は100%無理である。そのため、今後は一切請け負わない。

⑩テレホンアポイント
 弁当製造などの作業は全くできず、試しにやってもらうと心筋症が発症し、立つこともままならない。といった利用者がいた。その利用者は以前テレホンアポイントの会社に勤めており、テレホンアポイントならストレス無く作業できる。という。試しに関連企業よりテレホンアポイントの業務を請け負い、行ってみた。椅子に座ったまま作業ができるため心筋症も発症せず、成果をあげる事ができた。その利用者のために環境、機材を整備し、本格的にテレホンアポイントを行い、3ヶ月で30万円ほどの売上となった。時折心筋症が発症するが、比較的少なく作業もできているため唯一無二の作業ではあるが、訓練、特性の考慮、生産性についても、その利用者の諸事情を総合的に勘案して産まれた、優れた生産活動事業と言える。

障害の特性と生産性の相関関係
 前章で記したとおり、生産活動収支粗利から利用者の賃金をまかなう事は、とても現実的ではなく、日本の就Aの約7割が未達成でいる。(参考:人間と科学 県立広島大学保健福祉学部誌 21 (1) 7 – 17 2021 :江本 純子)
当法人でも様々な角度から創意工夫し試行錯誤してきたが、中々思うように利益を出せる生産活動事業というものは産み出せないのが実情だ。訓練という名の作業で利益を上げ、しかもそれらの粗利から利用者全員の最低賃金を捻出するには、どうすれば良いのか?
 前章に記したとおり色々と生産活動を試した結果、障害の特性と生産性は相関関係にあるのではないか。という理論に行き着いた。
・仕事ありきで利用者を当て込むと、生産性も下がり、利用者の訓練にもならない事が多い。
・利用者の特性(特技など)に仕事を当て込むと、生産性は上り、利用者の訓練としても実践的、効果的な事が多い。
・障害の特性は、表裏一体であり、マイナス面とプラス面が共存し、一見マイナス面に感じる障害の特性をも活かす事ができる事がある。
・特性を無視するという事は、生産性を無視するという事。
・生産性の向上は、個人の向上(活かす)となる。
・個人の向上(活かす)は、生産性の向上となる。

 前章の⑤⑥⑩は特に相関性があり、生産活動粗利から利用者の賃金総額を支払うという理想に近づけるのではないか。
 多種多様な特性(特技)を活かす事が出来る、多種多様な働く場を提供する事は、健全な事業所運営にもつながり、利用者の自信やキャリアアップに導く要素である事は間違いないと言える。

 訓練とは、もちろん与えられた仕事をこなせるように練習を積み重ねることでもある。しかしながら、自分の特性を見極める事も訓練であり、その利用者自身の特性を活かす事、活かせるスキルをとことん磨きあげる事も訓練ではないか。そして、自分自身の特性を活かし、世の中に発信し、自信を持てるようになり、社会生活を充実させ、日常生活を安定させ、障害を持っていながらでも、自分自身の人生をより良く、自分でコントロールできるようにしていく訓練につながっていくのではないか。

販路確保と柔軟な支援スタイル
 なにかを製造する利用者はたくさんいて、たくさんの物を作る事は出来るが、売る事が非常に難しい。特性を活かすことによって産まれた多種多様な生産活動は、生産するものの、お金に替えなければならない。実際に「売る」というところまでがパッケージである。したがって、多種多様な販路が必要不可欠となる。

 前章③の弁当製造は元々関連企業の事業を譲渡してもらったため、販路は確保できており、販路拡大するために、賃金向上達成指導員を配置して、さらなる売上倍増へと導けた。
したがって、関連企業の協力が得られる事業所や、母体の企業がたまたま利用者にもできそうな生産活動の事業をしていた場合には、生産活動事業を新たに構築しなくて済む。
就Aを新規開所する場合には、このような粗利と販路が盤石であり、利用者の人数が最大定員になった場合でも、それなりの作業が確保できる生産活動事業を持ち込みできる事が、健全な就A運営の成功の鍵と言えるのかもしれない。
 この③の弁当製造に必要な支援員の柔軟性は、いかに締め切りの時間を守りながら、各利用者の特性に合わせた作業を、状況判断しながら、振り分けていくか。また障害の特性によっては、その日のコンディション次第で出来栄えが変わるため、そういった面も、事細かく感じながら、支援していく必要がある。

 前章⑤のような服飾関係や小物の販売は、生産した商品をwebやSNSなどで発信、または雑誌などに掲載する方法と、実店舗を構えて販売、もしくは展示会やフリーマケットのような催事での販売が、すぐに想像出来る販路と言える。
 ただ、そこまで売れるものではない。有名な作家や、ブランドがついているならまだしも、無名でどこの誰が作ったか分からない物には、無情にもそこまで振り向くエンドユーザーは居ない。
したがって、せっかく作った商品は在庫として、事業所の倉庫に眠ってしまう事が多い。こういう類の商品は、製造する時間と労力に見合った売上を稼ぎ出す事は困難である事は言うまでもない。
 ただ、機能性やデザイン性など、何かに特化して、他には真似できないような独創的な物を産み出せたとすれば、話は変わる可能性もある。当事業所でも現在、職員・利用者で案を出し合い、最善の方法を模索している。
 こういった専門職関係の支援員の柔軟性は、作業面以外のことに対する支援を要する事が多い。タスク管理に、コンディションコントロール、短期目標を見返したり、情緒を安定させ作業に集中できる環境作りが必要だ。そのためには常日頃から傾聴を心がけ、ちょっとした変化にも気づき、信頼関係も構築しないといけない。気持ちよく作業できる時間を増やす事が出来れば、生産性も上がる事は間違いない。作業内容に関しては専門的な事なので、支援や指導などできる事が少なく、むしろ学ぶ事の方が多いぐらいだ。

 前章⑥の飲食店運営などは、③と同様に他業者からの譲渡や、のれん分けなど、既存顧客が確保できるいるのに越した事はない。知名度があり、販路を確保されている状態で始められるような、フランチャイズを活用するのも良いかもしれない。加盟金やロイヤルティを支払ってでも、そのほうが得策の場合が多い。
 なぜなら、1から店を創り始めて店内を常連客で一杯にするには、うまくいっても5年ほどかかる。(関連企業の肉弁専門店トビノモリタカの例)
 また、飲食店での作業は、大きく分けると、調理とホールの作業に分かれる。
調理の場合、レシピ通りにできる事、時間通りにできる事、状況判断しながら周りを見て動き方を変えていく。といったような臨機応変な対応が求められる。ホールの場合、注文取り、配膳、バッシング、会計、状況判断しながら来店誘導するなど、調理同様に臨機応変な対応が求められる。
 利用者の中で以上のようなスキルがある人は少なく(スキルがある人は一般就労しているため)スキルがあって就Aを利用している利用者は精神障害者が比較的多いと言える。障害の特性にもよるが、情緒が日々変化する方も少なくはない。しかも接客業であるため、当日になって欠勤するという事がなるべく無いようにしないと、通常通りに営業する事もままならなくなる。利用者が日々楽しく有意義な勤務時間になるように、明日も出勤したいと思えるような配慮と支援が必要となる。コミュニケーションを頻繁にとり、プライベートでの悩みなどにも耳をかし、信頼関係の構築と、程よい師弟関係を築き、仕事を学べる楽しさも見出す必要がある。

 前章⑩のテレホンアポイントは、アポイントを獲得する事で報酬を得られ、1件獲得あたり5,000円〜30,000円に及ぶ。他業者からテレホンアポイントを業務請負し、アポイントの件数×報酬単価を受け取る。したがって、アポイントが取りやすいジャンルや内容の案件を確保する事と、いかに利用者がテレホンアポイントの作業をしやすい環境を作るかが生産性向上の分かれ目となる。ただし、営業の経験がある利用者やテレホンアポイントの経験者以外はこの作業は難しい。当事業所においても該当するケースの利用者が居て、他の作業を色々と体験してもらったが、どれも出来なかった。経歴を確認するとテレホンアポイントの経験があり、その経験を活かせるなら、その作業以外の部分は支援してサービス利用してもらうことになったのが始まりだ。
 すなわち、トークスクリプトを一緒に考え、トライ&エラーと改善を繰り返し行い、その「スクリプト通りに作業する」という事だけに専念してもらえるように準備を整える支援が必要となる。

 健全な生産活動の鍵は、それぞれの生産活動事業に対して「売る」という部分までをパッケージとして考え、それぞれの生産活動事業の「販路確保」と、一辺倒な支援を遂行するだけではなく、それぞれの利用者の障害の特性、特技やコンディションなど総合的に考慮し、それぞれの生産活動事業の作業に集中できるように、作業面での支援が必要なのか、精神面での支援が必要なのか、環境面なのかを見極め、多様な支援スタイルを用いる事が重要と言える。

おわりに
 当事業所での取り組みは、約1年半の間での取り組みであり、現在も新たな生産活動事業を模索し、全ての利用者にとって最高の環境を整える事を目的とし、日々トライ&エラーを繰り返し行っている。勿論日々問題が起こり、それらの対処に追われる日もあるが、就Aの事業所を健全に運営していくためには、より分かりやすく、より導入しやすく、より継続しやすく、より生産性が高い、生産活動事業を盤石な状態にする事は、必要不可欠であり、それらは全て「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するため」である。

 管理者も支援員・指導員、利用者も人間であるため、計画通りに進む事は非常に稀であり、1割に満たないかもしれない。ただ、それぞれの特性を活かせる場所やツール、環境、仕組み、支援が用意されれば、そのハンデは逆のユニークポイントになり得る。それが就Aでは個別支援計画書と呼ばれ、その計画に則り作業を遂行する事で、利用者の自信につながり、一般就労への移行というシナリオが現実となる利用者もいる。

 就Aは福祉サービスの中で唯一、福祉と雇用が共存し、矛盾する点が顕在する事業ではあるが、「働く」と、「福祉サービス」の両方を受けられる、他にはない場所と言える。政府が理想としている就Aの概念を深く理解し、具現化するための事業計画と柔軟なスタンスを持ち、理想に近づけるための企業努力を行う事は、社会的にも非常に存在意義が高い。
 また、「働く」と「福祉」の両立は、表面だけを見ると矛盾点が際立つが、深く理解し、多角的に利点を考えると、矛盾ではなく、理想のビジネスモデルと言えるかもしれない。一見、現実的ではないと思える事の中にヒントがあり、チームみんなで案を出し合い試行錯誤する事で、利用者、職員、顧客のみんなが幸せで住み良い環境を創出できると信じて止まない。

 我々の検証結果・報告は全て当事業所内のみでの事柄に過ぎず、主観も多々存在する。したがって、ここに自由報告させていただき、あらゆる専門家や同業の方々から意見をいただければ幸いであると同時に、今後も、上記のロジックが正攻法と仮説し、理想の具現化に向けて追求していく所存である。


■質疑応答
※報告掲載次第、9月25日まで、本報告に対する質疑応答をここで行ないます。質問・意見ある人は2021jsds@gmail.comまでメールしてください。

①どの報告に対する質問か。
②氏名。所属等をここに記す場合はそちらも。
を記載してください。

報告者に知らせます→報告者は応答してください。いただいたものをここに貼りつけていきます(ただしハラスメントに相当すると判断される意見や質問は掲載しないことがあります)。
※質疑は基本障害学会の会員によるものとします。学会入会手続き中の人は可能です。

〈2021.9.8. 会員から〉
鶴田雅英(東京都大田福祉工場)

私は1984年から大田福祉工場で働いています。大田福祉工場は「身体障害者福祉工場」という制度で1975年に東京都立の福祉工場として設立され、その制度の下で運営されてきましたが、自立支援法制定に伴って、その制度がなくなり、2012年に多機能型として、福祉工場は継続就労A型事業所になり、その時同時に、就労継続B型と就労移行を併設する多機能型の就労支援事業所となました。私はいまでもこの工場で働いています。

 そんな環境の中で「障害者と呼ばれる人と非障害者と呼ばれる人がともに働く場」について、わりと長い間、考えてきました。そういう背景から質問させてもらいます。

(20世紀の間に書いたものは、ほとんど残っていないのですが、21世紀になってから書いたものは、ブログに残っているものも少なくないです。最後にいくつかURLを掲載します)

ここから質問に入ります。

「ともに働く」という視点について、どう考えますか?

 報告では「障害者と非障害者がともに働く」という視点については触れられていませんでした。しかし、私はA型就労においても、この視点がとても重要だと考えています。確かに、「就労支援」という形でできた仕組みなので、支援する人と支援される人という区別がきっちりつけられる制度となっており、この制度の下でだけ考えると、「ともに働く」という発想は生まれにくいものになります。しかし、ほとんどの生産現場では、実際に共に働いているわけです。生産の過程で障害の有無が気にならなくなることは少なくないのではないでしょうか?

 しかし、残念ながら、現状の制度の中で「共に働く」とう仕組みが十分に整備されているとは思えません。(多数雇用事業所への補助などの仕組みはあり、いくつかの成功事例は報告されていますが、私はその実態についてほとんど知りません。)そんな中ではありますが、就労継続支援の場を「ともに働く場」として意識し、そこに向けた努力を行うことはとても重要なことだと考えています。

 その「ともに働く」という視点について、どのように考えるか、お聞きしたいと考えました。

以下、参考URL

大田福祉工場ホームページ
https://ootafukushikojo.org/
このホームページのほとんどの文章の起草もしました。宣伝用なので、美化しすぎかという感じもあります。トップページには以下のように書いています。
~~~
ともに働く社会を目指して
障害のあるなしにかかわらず、人には本来持っているすばらしさがあります。
一人ひとりがそれに気づく過程が、エンパワメントだと思うのです。
その過程を実現することをめざします。
障害者の障害は、社会の側が作り出しているという考え方のもと、
行政や企業、社会が変わることで、社会的経済的自立の実現をめざします。
みなさまの発注(印刷・軽作業・清掃など)が働く障害者を支えます。
~~~
また、以下に特徴があります。
~~~
大田福祉工場は前の制度(福祉工場制度)の頃から障害のあるなしにかかわらず、「ともに働く工場」として運営してきました。法律が変わり、福祉工場という制度が廃止され、雇用されている障害者は就労継続支援A型の利用者になりましたが、「ともに働く」という大田福祉工場のスタンスは変わりません。
 上記の経過があり、A型利用という形であっても、一般の正規従業員と給与や処遇での違いはありません。A型従業員の平均年収は2018年度340万円でした(賞与込み)。A型利用の方の中には管理職の方もいます。
そのような意味で、通常のA型とは異なります。職業的な経験やスキルも加味されます。

また、A型という制度の枠組みの中で、障害者雇用の新しい形を模索しています。
~~~
https://ootafukushikojo.org/?page_id=16 から

以下、関連すると思われる古い文章から最近の文章まで

グローバリゼーションの話から福祉工場の話へ
https://tu-ta.at.webry.info/200512/article_12.html
2003年の8月に労働組合の新聞に書いた原稿

被支援者がいてくれないと食べていけない福祉の話から自立支援法案の話へ
https://tu-ta.at.webry.info/200509/article_17.html
(当時、障害学のMLに書いたものから)

**福祉工場の強みと弱み

「福祉工場制度から就労継続A型への転換、そしてソーシャルファームについて」

〈2021.9.9.報告者から〉
鶴田雅英様

ご質問誠にありがとうございます。
参考資料等拝読させていただきました。
日本フレキシブルオペレーションの山口雄史と申します。

ご質問の「ともに働く」についてですが、単刀直入に申し上げますと、私が求めている答えになります。
言い換えるなら「ともに働いている」というのが現実です。
現在、当事業所に来てくれている利用者さんの中に、そう思ってくれている人も居ます。
無論、中には自分は利用者だから手厚く支援してくれないと困る。という意識の方も居ます。

私が思う就労継続支援A型事業所の理想は、「助け合いながら働く」です。
少し言葉が違いますが、同じような意味合いだと思います。
お互いの欠点をお互いが認識し合い、カバーしあいながら成し遂げていく。
これは組織の理想だと思います。企業のあるべき姿ではないかと。
今まで私が経営してきた普通企業では、利益重視の事が多いため、それが分かっていても、助け合うために何が出来るかといった話し合いや、施作に辿り着く事がなかったと思います。
それが、就労継続支援事業を始めてから、この「助け合いながら働く」が毎日違う形で、如実に現れています。
むしろ、助け合いながら働くためにどうするかを毎日毎日考えています。

私の中には、障害者と非障害者の垣根はありません。
言い方が悪いかもしれませんが、非障害者の方でも、障害者の方のある部分には劣ることも多々あります。
個人差があることなので、一概には言えないこともしばしばですが、その個人のユニークポイントを掛け算できる職場環境が必須だと考えています。
冒頭にも書いたように、現実には、ともに働いてもらっています。
その個人のスキルを最大限引き出してもらうために、共に居て、掛け算になるように環境整備しています。
もちろん処遇面でも、昇給や時間延長などを随時行っています。

ただ、今回の自由報告は、理想と実態というテーマで書いているため、
福祉課が掲げるA型の概念=「利用者を戦力とみなしてはいけない」という部分が
際立ったのではないかと思います。
また、テーマ自体が、理想と実態なので、「ともに働く」という視点には触れる事はありません。

おっしゃる通り、残念ながら「ともに働く」という仕組み、概念は、タブーとされています。
私はむしろ、戦力とみなすべきだと考えています。
なぜならば、就労継続支援A型事業所は、一般就労に移行するためのステップアップの場所とされているからです。
もちろん全員に当てはまりはしないです。が、一般企業に就職してから、初めて戦力としてみなされて働くのと、一般企業に入る前段階で、戦力としてみなされているのとでは、免疫力が変わってくると思います。
精神的かつ意識的に訓練になると考えています。

一般企業に就職する方もいれば、そのまま事業所で働き続ける方もいますが、
いずれにしても、「ともに働く」または「助け合いながら働く」というチームワークは、今後の本人にとっても、
我々にとってもかけがえのない、尊い時間と経験になることは間違いないと思っています。

以上、
ご質問の回答とさせていただきます。


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